風祭文庫・華代ちゃんの館






「桜…華代の大冒険」



作・風祭玲


Vol.115





こんにちは、初めまして。

私は真城華代と申します。

最近は本当に心の寂しい人ばかり。

そんな皆さんの為に、私は活動しています。

まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、

お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。

私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。

どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

報酬ですか?いえ、お金は頂いておりません。

お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

さて、今回のお客様は――



春爛漫……

満開の桜が織りなすトンネルの下を一人の少女が走り抜けていった。

「お〜ぃ、お嬢ちゃんっ、こっち来て一緒に飲まないか」

桜の木の下から少女にお呼びがかかるが、

「ごめ〜ん、いま急いでいるんだ!!」

彼女はその言葉を残して走り去っていった。

やがて、桜のトンネルから抜け出たとたん、



シュバ、シュバ、シュバ

キュルキュルキュル……

「わっ来たぁ…」

ちゅど〜ん!!

ちゅど〜〜ん!!


「きゃぁぁぁぁぁぁぁ

  もぅ…エッチ!!」

爆風で捲り上げられたスカートを押さえながら、

少女は上空を旋回している武装ヘリに

アッカンベー

をすると再び走り出した。



バババババババババ

その彼女を武装ヘリが追いかけながら帝都上空をゆっくりと飛行する。

Pi

「こちら、ゴンギツネ1。

  中央管制室聞こえるかっ」

「…こちら狐川中央管制室、感度良好、

  目標は発見できたか」

「こちらゴンギツネ1、

  ”K”を発見。

  威嚇射撃を行ったところ、

  目標は現在帝劇方面へと逃走中。

  増援を頼む」

「…こちら中央管制室、

  増援要請を確認した。

  引き続き”K”の行動を監視されたし」

「了解!!」

ブォォォォォォン

武装ヘリは帝劇上空を大きく舞う。



デモクラッシーの風が吹く太正に生まれ、

米国とナチスを相手に2次・3次の大戦を経験した激動の照和、

そして21世紀を目前に控えた平誠…

この3つの時代を駆け抜け、

竣功から80年を近くを経ったいまでも

未だ竣功時の威厳を放つ帝国劇場の正面玄関前を

さっきの少女が歩いていた。

彼女の名は真城華代、

人は彼女の名を親しみを込めて華代ちゃんと呼んでいる。


「と言うことで、

  は〜〜ぃ、華代でぇ〜す

  皆さん元気にしてたかな?

  えっ、あたしに相談ですか?

  う〜ん、実はいまちょょょっと手が離せなくて、

  っというのも、華代はいま追われている身なんです。

  あっそうそう、いまあたしはここにいることは秘密ですよ

  で、なんで追われているかと言うと、

  この間、深刻そうに悩んでいる一人の青年を見掛けたんです。

  確か…狐川隼人君って言ったっけかな?

  悩みを聞いてみると、

  なんでも新体操部の先輩にあこがれてしまったとか、

  そこで華代が一肌脱いであげたんだけど、

  そしたら、そこの執事さんと言う人が

  ”お坊ちゃまになんていうことをしてくれたんだ!!”

  って怒っちゃってね。

  それ以来華代はお尋ね者になってしまったんです。

  う〜っ、困ったなぁ…

  まっ、悩んでいても仕方が無いので

  とりあえず、ここで一休みしよっと」

そう言いながら華代は帝劇の隣に併設してある博物館のドアを開いた。




ババババババババ

Pi

「こちら、ゴンギツネ1、

  ”K”は帝劇博物館に入った模様、

  繰り返す、

  ”K”は現在帝劇博物館内に潜伏している模様」



ゴォォォン…

ゴォォォン…

そのとき太平洋上空を飛行する黒い影があった。

狐川・太平洋方面基幹艦隊所属・空中戦艦ヤマトだ。

その第1艦橋にある艦長席でふんぞり返っている艦長代理のもとに

副長が駆け込んできた。

「艦長代理!!」

「どうした」

「さきほど、中央管制室に入った連絡によりますと、

  帝都にて”K”の探索を行っていたゴンギツネ1が

  帝劇付近で”K”を発見。

  ”K”を帝劇博物館内に追いつめたそうです。」

「なに?、それは本当か?」

「はい」

「ようし…、ついに見つけたぞぉ…」

艦長代理は舌なめずりをすると。

「まずはこのことを東大寺様に連絡だ、

 そして、ヤマトの進路をすぐに帝劇に向けろ!!

  狐川・レイバー部隊発進準備!!」

そう声を上げると、

艦橋内はたちまち喧燥に包まれた。

「縮退炉出力上昇!!」

「ホールドシステム、稼働開始!!」

「デ・ホールドポイントは帝都っ」

「ヤマト発進!!」

ゴォォォォォン

ヤマトはゆっくりとその進路を帝劇へと向けると、

キュォォォォォン!!

たちまちヤマトは光に包まれ、

シュオン!!

っと姿を消した。



コツーン

コツーン

博物館の中に足音が響く、

「へぇぇぇぇぇ…

  ココに来たのは初めてだけど、

  すごいですわねぇ…

  80年もの昔でこれだけのを作るなんて…」

華代は感心しながら陳列ケースに収められている

光武や神武を眺めていた。

「うわぁぁぁぁぁ…、

  これ綺麗だなぁ…」

華代は薄いピンク色の桜色の塗装が施されていた

1台の光武をじっと見詰めていた。

『乗ってみます?』

「え?」

振り向くと何時の間にか華代の後ろに

桜の柄をあしらった着物姿の少女が立っていた。

「あなたは?」

『うふ、誰だって良いじゃないですか』

彼女はそういうと華代の横に並ぶと、

『光武もずっとのこの中にいて退屈しているんです。

  一緒に散歩しませんか?』

彼女のこの言葉と共に、

スッ

ガラスケースが開いた。

そして、

チ・チ・チ・チ

グォォォォォォォン

シュー

乗り手が去ってすでに半世紀以上が過ぎた光武は静かに蒸気を上げ起動した。

『さっ、行きましょう…』

「えぇ」

華代は少女に誘われるように光武の操縦席に座ろうとしたとき

「あのぅ〜っ」

一人の少女が華代に声を掛けた。

「はい」

長い髪を靡かせた少女は華代と同じくらいの年に見えたが、

どことなく大人びた印象を感じた。

「失礼ですが、あなた…

 これから特別なことをなさろうとしていますね」

「はぁ…」

「特別なことをするときには、特別な格好をしないといけませんわ」

そう言いながら彼女は一着の衣装を取り出した。

「これは?」

華代の質問に、

「約80年前の帝国華撃団の衣装をほぼ忠実に再現した物ですの」

『うわぁぁぁぁ、懐かしいわね』

着物姿の少女が見入る。

「そうですか…」

「そこで、ぜひ、コレをお召しになって下さいな

 そして、それをお召しになったあなたの姿を
 
 ぜひ、このビデオカメラで撮らせてください」

そう言うと彼女は最新鋭のデジタルビデオカメラを華代に見せた。

「はっはぁ…」



ほぼ同刻

シュボン!!

空中戦艦ヤマトは東京港上空にデ・フォールドした。

ゴォォォォォン

ヤマトの黒い影が臨海副都心やビッグサイトを横切っていく、

「おぃ、なんだあれは…」

「狐川のヤマトだぁ」

「おぉ、あれがヤマトかぁ」

折りしもビッグサイトにて開催されていた同人誌即売会に参加していた人たちが

上空を飛行する巨大戦艦を指差し噂する。


「艦長代理!!、まもなく帝都です」

「ようし、判ったっ

  レイバー部隊発進!!」


艦長の命令と同時に

ヤマトの格納庫内で待機していたレイバーがいっせいに起動する。

……説明しよう!!レイバーとは…
  狐川家とライバル関係にある狸小路家が
  外資系企業アナハイム・エレクトロニクス社との共同開発によって
  モビルスーツの実用化に成功したことに危機感を募らせたのを発端に
  篠原重工と手を組んで開発した人造人型決戦兵器でのことある。
  なお、その動力源であるS2機関は狐川家の支援を受けた
  葛城調査隊が南極大陸で発見した未知の動力源ということだが
  その詳しい内容は特務機関NERVによって極秘にされている。

「HOS起動確認!!」

「S2機関正常!!」

「活動限界は無制限!!」

「了解!!」

ガコン!!

ヤマト後方の格納庫の扉が開くと、

発進準備が終わったレイバーから次々と降下を始め出した。

目的地は帝劇博物館…


シュバババババ

降下したレイバーが次々と白い羽を広げると、

グライダーのようにゆっくりを飛行を始める。

「”K”は未だ博物館の中にいる模様、

  なお、場所は市街地のため、

  各自発砲は控えること」

「了解!!」

シュゥゥゥン

レイバー部隊は風を切って飛行する。



「蒸気回路正常…」

「霊子水晶とのシンクロ率異常無し…」

提供された衣装に着替えた華代は

着物姿の少女に手助けされながら次々と光武を操作をしていく。

そして、その姿を熱心にビデオカメラに納めていくもぅ一人の少女。

やがて、最後の操作が終わると、

「ようし…光武発進!!」

華代がレバーを引いた途端、

ガコン!!

ついに光武は長い眠りから覚め動き出した。

「やった!!、動いた」

華代の歓声が博物館内に響いた。



ブワッ

ヤマトより発進したレイバー部隊が帝劇に迫る。

「帝劇を目視で確認!!」

「隊長!!、まもなく帝劇です」

「ようし、各自”K”に最大の注意を払いつつ配置に就け」

「了解!!」

ごふぁっ!!

ギュン!!ギュン!!

次々とレイバーが帝劇周辺に着陸した。

と同時に周囲の交通が部隊員の手によって遮断された。


「帝劇周辺は完全に封鎖しました」

「よし、ではこれより”K”の捕獲に移る」

隊長がそう叫んだとき、


ゴゴゴゴゴゴゴゴ…

ドバァァァァン

帝劇博物館から1台の光武が飛び出すと、

待機しているレイバーの足元をすり抜け、

白昼の帝都へと躍り出ていった。

「あっ」

レイバーのモニターに光武を操縦する華代の姿が映し出される。

「馬鹿者!!

  何をボケっとしている」

ハッ

隊長の怒鳴り声で隊員達は我に返ると、

大慌てで光武を追いかけ始めた。


ガシュ、ガシュ、ガシュ

「いやっほー」

『気持ちいいわね』

「うん」

半世紀ぶりに目覚めた光武だが、

まるで太正の頃と変わらない動きをしていた。

「凄いですわっ」

もぅ一人の少女も黒眼鏡のお姉さん達に警護されつつ熱心に撮影をする。


「待てぇ〜〜」

ガチョン、ガチョン、ガチョン

レイバー部隊は全力で後を追うが、

小回りが利く光武を捕まえることが容易ではなかった。

「あはは…鬼さんこちら…」

まったく余裕の華代、

「おのれっ」

カシャン

シュバッ

業を煮やした隊長機が小型ミサイルを発射した。

「おっと…」

巧みによける華代、

シュルルルルルル

ちゅどぉぉぉぉん!!

狙いを外れた数発のミサイルはそのまま帝都高速の橋桁に命中した。

ガラガラガラ

高度成長期の手抜き工事によってコンクリートの強度が落ちていた橋桁は

爆発の衝撃でたちまち全壊する。

「たっ、隊長!!」

「やかましいっ、偶発的な事故だ!!」


その後、華代と狐川レイバー部隊との鬼ごっこは

新橋より霞ヶ関・半蔵門を経て

さらに九段から市ヶ谷に抜け、

そして靖国通りを新宿方面へと向かっていた。


「いいんですか?

  連中を取り締まらなくて…

「よいか、我々は何も見ていない…

 そして、道路上には何も居ない…だ」

「はぁ?」

「わからんのかっ

 さっき、上の方から一切無い物として扱え。
 
 という指示が出た」

警察はこの件に関して一切知らんぷりを決め込んでいた。


ゴォォォォォォン

新宿中央公園上空で待機していた空中戦艦ヤマトの艦橋で

艦長代理はパネルスクリーンに映し出された

レイバー部隊と光武との鬼ごっこに苛々を募らせていた。

「待ったく…たるんでおる」

そう叫んだとき

「不吉じゃっ!!」

突如謎の坊主がドアップで艦長代理に迫った。

「なっ」

「お主っ、女難の相が出ておるぞ、

 よろしければ拙僧が払って進ぜるが…」

そう言いながら、

艦長代理の席の横に置いてあった愛妻弁当をパクつきだした。

「あっ、貴様っ、俺の弁当を!!」

「うむ、このタコさんウインナーな美味じゃ…

 むっ、この米は極上のササニシキを竈で炊いたな

 しかも、この鳥の唐揚げの旨さと言ったら…

 これだけの弁当を作れるとは…
 
 お主の女房は何者じゃっ」

謎の僧が艦長代理に迫ると、

「いっ、いや、某新聞社で”究極のメニュー”とか言うのを作っているが」

艦長代理がそう答えると、

「ぬわにぃっ、あの究極のメニューを…だとぉ!!!」

ご飯をまき散らしながら、

さらにアップになったとき、

「コレっ、叔父上っ、そんなところで何をしておる」

一人の巫女が艦橋内にズカズカと入ってくると

まるで、ノラネコを捕まえるようにして

謎の僧を首根っこを押さえた。

そしてひょいと持ち上げると、

「失礼つかまつった」

とひとこと言うと艦橋から姿を消した。

「あぁ…俺の弁当が…俺の愛妻弁当が…」

空になった弁当箱を見て艦長代理はガックリと膝を落としていた。

「あのぅ…」

どうしたらいいものかと、

思案に暮れた表情で副長が声をかけた。

「なんだ…」

艦長代理が涙目で見上げると、

「あのう…狐川統合参謀本部の名でこのFAXが送られてきましたが」

そう言いながら副長は一枚の紙を差し出した。

「いまは忙しい、この場で読めっ」

「よろしいのですか」

「構わんっ」

艦長代理は力無く応えた。

「では、

  ”ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代”

 と言う呪文に注意せよ。と書いてありますが」

サァァァッ

副長のこの台詞を聞いた艦長代理の顔から一気に血の気が引いた。

「バッ馬鹿者!!」

艦長代理は副長からFAXを奪い取るなりビリビリに破くと

「貴様っ、なんて呪文を言ってくれたんだ!!」

と怒鳴り声を上げた。

「はぁ?」

副長が要点がつかめないでいると

「今の呪文を読み上げてはならんのだ!!

 えぇぇぇぇぇいっ、コイツをつまみ出せ!!」

弁当が奪われた恨みも重なって艦長代理が烈火のごとき怒りを露にすると、

ザッザッザッ

副長は憲兵隊によって連行されていった。




「ハッ………」

狐川レイバー部隊と鬼ごっこをしていた華代はその瞬間何かを悟ると、

払い串を取り出した。

サワサワサワ

串の先が上に向いてなびく


華代は静かに目を閉じると

「聞こえます、体の叫びが…

  聞こえます、心の葛藤が…」
  
そう呟くとカッと目を見開き、
  
「判りましたわっ、

 ただいまより華代がそちらに伺いま〜〜すぅ」

彼女はそう叫ぶと

ゴソゴソ…

胸元から小さな鍵を取り出し、

「闇の力を秘めし鍵よ、

  真の力を我の前に示せっ、

  契約のもと、華代が命じる!!

  レリィィーズッ(封印解除)!!」

と唱えると、華代の掌に乗っていた鍵が光に包まれ、

見る見る大きな杖へと成長する。


「何をしておるっ、あんな大昔の人形などサッサと捕らえんか!!」

「しかし、隊長、あぁ見えても結構すばしっこいです」

「俺が遣る、どけっ」

ガチョン、ガチョン

一台のレイバーが隊列から離れると、

猛然と光武に向かって突進してきた。

「ふっふっふっ、”K”を捕らえれば2階級特進だ!!」


「よしっ、行くわよ」

華代は熊の縫いぐるみを抱きかかえながら、

「えっと、ジャンポール…じゃなかったケロちゃん

  ちゃんと華代を見守ってね」

と言うと

ポケットから1枚のカードを取り出し

そして、それを手前に投げると、

「フライ!!」

ピキィィィン

と叫びながら杖でカードを叩いた。


フワサッ

光武の背中に純白の羽が生えると、

ドン!!

光武は突進してくるレイバーの頭を踏みつけ、

空中高く舞い上がった。


「俺を踏み台にしたあっ!?」

踏みつけられたレイバーのパイロットが叫んだとき、

キィィィィィン…

光武より発振した強烈な共振現象がレイバー部隊を襲った。

「!!?」

「あれ?」

「おいっ」

たちまち、各レイバーを次々と異変が襲う。

「どうした」

「たっ、隊長!!、

 モニター一杯に”BABEL”の文字が…」

「きっ機体の制御が出来ません!!」

隊員達の悲鳴が上がる。

「ぬわにぃ!!」


ごっわふぁぁぁぁぁぁ…

そのとき、レイバーのOS・HOSは暴走をはじめていた。



「緊急事態発生!!」

「緊急事態発生!!」

「”K”は新宿3丁目付近より飛行開始っ、

 当艦に向けて急速接近中!!」

「なんだと」

艦長代理はパネルスクリーンを食い入るように眺める。

「えぇぇぇぃ

  何をしておるっ

  打ち落とさんかっ」

艦長代理の命令に、戦闘班が、

「発砲は控えるのでは?」

と確認をすると、

「つべこべ抜かすなっ、”K”をこの艦に近づけてはならん」

と怒鳴った。

シュババババババ

ヤマト側面に据え付けてあるパルス・レザー砲が一斉に火を噴く、

「シールド!!」

すかさず華代が別のカードを使うと、

光武の周囲に球状のバリアが張られ、

レーザー砲の攻撃から光武を守る。

「駄目です、パルス・レーザー砲の効き目がありません」


「おのれっ

 主砲・ショックカノン発射!!」

ガコン!!

ドシューーーーン

すでにヤマトの上空に回り込んだ華代に向けて、

青白い螺旋状の光の束が襲い掛かる。


「フリーズ!!・ミラー!!」

華代はカードを3枚同時使用した。

ピキピキピキ

たちまち光武は氷結し、そして鏡のように輝き出した。

そして、まもなく

シュォォォォォン

光りの束が襲いかかった。

が、しかし

ギィィィィーン

光の束が光武に届いた瞬間、

その向きを変えると東京港へと向かっていく、



スドォォォォン!!

程なくして巨大な水柱が上がると、

レインボーブリッジを大きく揺さぶり、

それによって発生した大津波が臨海副都心を洗った。



「おのれっ!!

艦長代理はそう吐きすてると、

「煙突ミサイル発射と同時に

 バリア展開!!、急げ!!」

とすかさず指示をだした。


シュバシュバシュバ

光武に向け一斉にミサイルが放たれると

シュゥゥゥゥゥゥゥン!!

キシキシキシっ

たちまちのうちに”ヤマト”の周囲に殻のようなバリアーが張られた。


「ウィンディーーーっ」

”風”のカードでミサイルをやり過ごした華代の眼下に

バリアーに守られたヤマトは見える。

「いけないわっ、自分の殻に閉じこもっては…

  ソード!!」

華代が”剣”のカードを使うと、

光武の手に剣が握られた。



「待ってて、いま行くからね

  であぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

シュッパーーーン

華代の一降りでヤマトのバリアが真っ二つに切られると

そのまま艦橋へと突っ込む。

「なにっ?」

見る見る、ピンク色の物体が迫ってくると、

バッシャーン!!

「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

ヤマトの艦橋に光武が飛び込んできた。

吹き飛ぶメーター、

崩れ落ちるパネルスクリーン、

たちまち艦橋は大混乱に陥った。

「えぇい、狼狽えるなっ」

艦長代理は大声を張り上げる。

カンカラカラカラ…

もうもうと立ち込めた煙が収まると、

ガコン!!

光武のハッチが開くと、

華代が光武の傍らに立った。



「うぐぐぐっ」

一度は圧倒されたモノの艦長代理は冷静さを保つと、

「これはこれは、ようこそ、ヤマトへ…」

敵意を隠し笑みをながら華代へと近づいて行く、

「はじめまして、ヤマトの諸君…じゃなかった、みなさん」

華代はペコンと頭を下げると、

艦橋内をキョロキョロと見回した後、

「なるほど…いっぱいいらっしゃいますねぇ」

と呟いた。

「え?」

「いいんですよ、無理をなさらなくて…

  さぁ…

  心と体の悩みからの開放を…

  華代がお手伝いしてあげますわ」

「なにっ」

華代が一瞬微笑むと



「そぉぉぉぉぉれっ!!!!!」



っと両手を大きく挙げ叫んだ。

すると、



ぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜っ



閃光が艦橋を、いや、ヤマト全体を覆い尽くした。



「ぷろとかるちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜っ」



閃光に埋もれていく艦長代理の叫び声が上がると、

彼の制服は見る見る純白のクラシックチュチュへと変わり、

腕は白く細くなり、

胸は膨らみ、

腰はくびれ、

バレエタイツに覆われた脚は美しい曲線を描き出す。

そうまるで、悪魔ロッドバルトによって

白鳥に姿を変えられたオデットのように…

そして、それは艦長代理だけではなかった。

ヤマトもその姿を徐々に変え

やがて一羽の白鳥となって羽ばたいたとき、



ちゅどぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!!



強力な衝撃波が、新宿一円を舐めるようにして襲った。



…………………………………………………

…………………………それから1ヶ月後…


壊滅した都庁の上に巨大なスワンが1羽鎮座していた。

かつての空中戦艦ヤマトである。

ヤマトはあの日以降、

「バレエ専用劇場やまと」

「劇場所属やまと・バレエ団」

に姿を変え、

乗組員達はみなチュチュが似合う美しいバレリーナになっていた。

そして


ハイ

アン・ドゥ・トワァ…

アン・ドゥ・トワァ…

旧艦内に作られた大きなレッスン室で、

モノトーンのレオタードとトゥシューズ姿でバレリーナ達が、

来月に迫った”白鳥の湖”初公演に向けてレッスンに明け暮れていた。


「え?、レッスンがきついかですって?

  ううん、

  あたし…気づいたんです、

  あたしの本当にやりたかったことって…

  こうして、踊ることだったってこと…

  あたし…いまとっても幸せです」

そう言いながら、この少女はトゥシューズの音を立てながら

レッスン室へ戻っていった。

そう、彼女こそ、

ここがかつて艦だったころに艦長代理だった人物である。



それからしばらくして、

このときの模様を細かく撮影した一本のビデオが巷の人気を独占した。



いやぁ〜

今回の任務じゃなかった仕事は実に楽しかったです。

あの、和服の少女も博物館に戻ったとき、

久しぶりに外に出られて楽しかった。と言っていました。

さて、何か困ったことがありましたら何なりとお申しつけ下さい。

ありとあらゆる手段を使ってあなたの街にお邪魔します。

それではまた。

(あれ?、こんなところに桜の花びらが…)



おわり