風祭文庫・華代ちゃんの館






「学園祭の華」



作・風祭玲


Vol.105





こんにちは、初めまして。

私は真城華代と申します。

最近は本当に心の寂しい人ばかり。

そんな皆さんの為に、私は活動しています。

まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、

お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。

私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。

どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

報酬ですか?いえ、お金は頂いておりません。

お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

さて、今回のお客様は――



「ぬわにぃ〜〜っ……”友部弘子”が急病だとぉ」

学園祭の前日

クラスメイトの友部弘子が食中毒で病院に担ぎ込まれたことを知って、

我が2年4組の学園祭対策委員会は騒然としていた。

「おい、篠山っ、明日のクラス対抗のミスコンはどうするんだ」

「くっそう、折角、明日を目指して鍛えてきたのに…」

僕たちは明日のための特訓に使ってきたカラオケセットをむなしく見つめた。

「とにかくだ、すぐに替わりの者を鍛えよう」

「無理だ、今からでは遅すぎる…」

重苦しい雰囲気が流れた。

「じゃぁどうするんだ」

「仕方がない、明日のミスコンは棄権するしかない」

「そんなぁ…」

「あぁ、”ウルトラ・スーパー・デリシャス弁当”が…」

「泣くなっ、来年がある」

僕はそう言って他の仲間を励ますが、僕自身が泣きたい思いだった。


ウチの学校では、年に一度の学園祭の最大の催し物で、

クラス対抗ミス・コンテストなるものが開かれる。

で、そこで優勝したクラスには、

1年間、学食でどんな食通でも唸らせる先着10名様限りの

ウルトラ・スーパー・デリシャス弁当(略して”USD弁当”)

の優先購入権が付与されるコトになっていた。

故にどのクラスも必死になっているのだが、

よりによって、その前日に手塩に掛けた子が寝込むとは…

僕は2年4組に降って湧いた不幸を呪った。


「おにぃ〜ちゃんっ」

みんなが帰った後、僕は一人で善後策を練っていると、

突然声を掛けられた。

「ぅわぁっ」

思わず声を上げて振り向くと、

そこに一人の少女が立っていた。

「あっ、驚かしちゃった?ゴメンね」

少女は軽く謝ると、1枚の名刺のような紙を差し出した。

「ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代」

とそれには書いてあった。

「………電話番号は書いてないんですね」

僕が渡された名刺をしげしげと眺めてそう言うと、

華代という少女はちょっと驚いた顔をした後、

「えぇ、まぁ……こういう仕事なモノですから……」

華代は作り笑いをしながらそう答えた。そして、

「あっ、でも…メールアドレスなら、ほら、ココに書いてありますよ」

と言って名刺の一点を指さした。

「あっ、ホントだ…」


それにしても、こんな少女が名刺を…

しかもマイ・アドレス入りの名刺を持っているとは…

う〜む、世の中侮れないな…

僕はそう思いながら彼女をじっと見つめていると、

「で、おにぃちゃんの悩みってなんなの?」

と尋ねてきた。

「悩みか……そーだなぁ…」

急にポッと言われたので僕はしばし考え込んでいると、


「あっ、カラオケ…」

っと華代はそう声を上げると、

教室に持ち込んでいたカラオケセットの所へ走っていった。

そして、パチンとスイッチを入れると、音楽が流れ始めた。

いま流行のモームスの曲だ。

「歌うの?」

僕が聞くと、

「じゃ一曲だけ」

と言って歌い始めものの、

彼女は1曲どころか5曲歌ってようやく

「はぁ、すっきりした」

と息を弾ませながら戻ってきた。

「そうそう、お仕事お仕事」

彼女はそう言って僕の前にちょこんと座ると、

「で、おにぃちゃんの悩みは判った?」

と尋ねてきた。

「うん、そうだなぁ…

 実は明日ウチの学園祭があるんだけど」

「まぁ、それは楽しみですね」

「確かに、何もなければ僕も気楽なんだけど…」

「トラブルが起きたんだ」

「あぁ…」

「で、トラブルって」

「…学園祭の出し物でクラス対抗のミス・コンがあるんだけど、

 ウチのクラスの代表の娘が急病で出られなくなっちゃたんだ」

「それは大変ですね」

僕は無言で頷くと、

「このままだと、明日のミスコンは棄権しなくてはならないし…

 あぁ、いっそ僕が女の子だったならなぁ…なんて考え込んだわけだよ」

と言ったとき、

彼女の目がキラリと光った。

「へぇ…で、どんな人だったんですか、このクラスの代表の女の子って」

そう言う華代の質問に、

「この娘だけど」

と言って僕が友部弘子の写真を手渡すと、

「うわぁぁぁ、可愛い人ですねぇ」

と華代は声を上げた。

「そうなんだ、彼女が出場できればウチのクラスは間違いなく優勝できるんだ…

 しかし…」

僕がそう言って視線を床に向けると、

「判りました、私が何とかしましょう」

と華代が言うと、

「え?、彼女の病気直せるの?」

僕が聞き返すと、

「いえ、彼女の代りを立てますわ」

「じゃぁ、あたしの前に立ってください」

「え?僕が?」

「そう、アナタです」

「立ってどうするの?」

「いいから…いいから…」

僕は彼女に言われるまま彼女の前に立つと、

「いいですかぁ…行きますよぉ…

 そうれっ」

と言うかけ声と共に、一陣の風が僕の周りを吹き抜けていった。

「うわっ、なっなんだ」

突然吹いた風に驚いていると、


ビクン…

僕の体の中で何かが飛び跳ねた。

「なんだ?」

ビクン…ビクン…

数回飛び跳ねたと思ったら突如

ググン

っと僕の身体が小さくなり始めた。

「ええっ?」

学生服がゆるみ出す。

変化はそれだけではなかった。

ふぁさっ

短く刈り上げていた髪が急に伸び出すと、

たちまちのウチに少女の様な栗毛色の髪が腰のあたりまで伸びていった。

「う…そ…」

さらに、手が小さく細くなると、

女性のような体つきになり、

そして、胸には二つの小さな膨らみが現れシャツを押し上げた。

「そんな…」

余りにものとこにただ驚いていると、

すっかりゆるんだ学生服が徐々にセーラー服へと変わり始めた。

「なっなに?」

見る見るうちにセーラー服へと変化して行く学生服を慌てて左手で押さえたが、

しかし、1分もしないウチに僕はすっかり女子生徒の姿になっていた。

「お兄ちゃん…じゃなかったお姉ちゃん、

 その姿なら審査員の方々のハートはばっちりよ、

 じゃっ、明日の学園祭、頑張ってね」

華代はその言葉を残すと、どこかえと消えていった。

人気の無くなった教室に呆然と立ちつくす僕の姿があった。

「あのぅ…華代ちゃん、

 僕が女の子だったら…

 と言うのは”例えば”の話なんだけど…」



今回の依頼も実に簡単でした。

いやぁ、カラオケって気持ちの良いものなんですね。

新発見です。

さて、何か困ったことがありましたら何なりとお申しつけ下さい。

今度はあなたの街にお邪魔するかも知れません。

それではまた。

では



おわり