風祭文庫・華代ちゃんの館






「スランプ」


作・風祭玲
(原案者・真城 悠)

Vol.100





こんにちは、初めまして。

私は真城華代と申します。

最近は本当に心の寂しい人ばかり。

そんな皆さんの為に、私は活動しています。

まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、

お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。

私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。

どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

報酬ですか?

いえ、お金は頂いておりません。

お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

さて、今回のお客様は――



――ピッ

笛の音がなるとスタート台で構えていた競泳パンツ姿の選手が

横一直線で一斉にプールに飛び込む。

プールを右へ左へと数往復するウチに線形はばらけ、

やがて、数個の山がゴールにタッチした。

「なにやってんだ、野崎は…」

彼のタイムを見た水泳部顧問の西崎は3コースで泳いでいた、

野崎智哉の数字が気に入らなかった。

「おいっ、なんだこの数字は…

 この程度では優勝は出来ないぞ」
 
彼は野崎を自分の所に呼ぶとそう注意を始めた。

「はい…はい…」

智哉は西崎の注意を時折そう答えながら黙って聞く、



「まただよ、西崎先生の長いお説教」

「あぁ、アレさえなければ、立派なコーチなんだけどなぁ」

「まぁ、その野崎が怒られているおかげで俺達は楽できるけどな」

「おい、声が大きいぞ」



しばらくして、ようやく解放された智也は、

”気分が優れない”

と言う理由でその日の練習をうち切ると、

そのまま更衣室へと向かっていった。

がちゃっ

更衣室を開けると、部屋の中には智哉の他には誰もいなかった。

グラウンドで練習をしている他の部のかけ声が部屋に響いていた。

「ふぅ〜っ」

彼は大きくため息をつくと、

「こんな調子じゃぁ、今度の大会は無理かな…」

そう呟いたとき、

「おにぃ〜ちゃんっ」

「ぅわぁっ」

突然の呼びかけに思わず声を上げて振り向くと、

そこには一人の少女が立っていた。

「あっ、驚かしちゃった?、

 ゴメンね。

 あたし、こういう者なんですが」

少女は軽く謝ると、1枚の名刺のような紙を彼に差し出した。

「ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代」

と名刺に書いてあった名前を読み上げ、

「悩みの相談?」

と智哉が訝しげに訊ねる。

「うん」

智哉の言葉に華代は笑みを浮かべながら頷く、

「悩みかぁ…

 そうねぇ」

華代を横目に見ながら智哉はため息をつき

そして天井を眺めると、

「あると言えばあるんだけどね……」

と呟いた。

するとその瞬間。

キラッ☆

華代の目が光り、

「じゃぁ、その悩みをきかせてよ」

と詰め寄った。

「ひゅーっ

 地獄耳だね」

小さく呟いたはずの言葉が華代に届いた事に智哉は軽く笑うと、

自分の悩みを華代に話し始めた。



「スランプ?」

「そう、どうもここんところ調子が悪く手ねぇ

 …思うように記録が上がらないんだ」

「へぇ…そうなんだ?」

今ひとつ理解が出来ていない華代に智哉はとある用紙を手渡した。

「これは?」

華代の質問に

「コレまでの僕のタイムさ、

 ほらっ、徐々に落ちているだろう。

 これじゃぁ、駄目なんだよ」
 
と説明をする。

「でも、お兄ちゃん、

 こっち人のタイムで見るとお兄ちゃんの数字って凄いよ」

と言って華代は別のページに記載されている人の数字を指さして指摘すると、

「ん?、

 あぁ、それは女子のタイムだよ、

 僕は男だからこっちを見なくっちゃいけないんだよ」

と言って華代に元のページを見るように告げる。

「そうなの?」

「まぁ、確かに僕が女だったら凄いだろうけどね」

そんな華代に向かって智哉がそう言うと、

華代はぱっと明るい顔をするなり、

「なんだ、簡単じゃない」

と声をあげた。

「え?」

その声に智哉が驚くと、

「うふふ…任せて…」

華代はポンと自分の胸を叩き、

智哉の前に立つ。

そして、

「ちょっと、目を瞑って…」

と指示をすると、

「え?」

智哉はいきなり指示された事に戸惑った。

「いいから…

 いいから…
 
 あたしを信じなさい」

そんな智哉に向かって華代は言うと、

「あっうん」

智哉は華代に言われたように目を瞑る。

すると、

「せぇのっ、それぇ〜〜っ」

更衣室に華代の声が鳴り響いた。

その瞬間、

ぶわっ

っと一陣の風が智哉の身体の中を吹き抜けていく。

『?』

吹き抜ける風に智哉が目を開けようとすると、

「あっ、目を開けちゃぁ駄目よ」

と華代は注意をした。

再び強く目を閉じた彼の身体に変化が現れだした。

胸の乳首のあたりがムズムズと動き出すと、

ムクっ…ムクっ…

と胸が膨らみだし、

また、トレーニングで鍛え上げ、筋肉が盛り上がっていた身体にも、

じわっ

っと脂肪が沸き出す様につきはじめると筋肉を覆い隠し始めだした。

その一方で彼の身体は徐々に小さくなり、

手足もそれに合わせる様に細く華奢な感じへと変化し、

脚は美しい曲線を表現し始める。

やがて、肩から厳つさが若干消えると、

彼の顔も丸く穏和な感じへと変化し始めた。



『なっ…なんだ…この感触は』

智哉は体中が不思議な感覚に包まれていく様子に戸惑う一方で

「おっとっと、

 あんまり筋肉を消しては行けないんだっけ、それっ」

華代は”力”の加減を細かく変えながら、

まるで粘土で作品を作る陶芸作家のごとく、

彼の身体を理想のスタイルへと変化させていく。



胸の膨らみはすでに乳房と言えるほど膨らみ、

そしてその先には乳首が成長を始めていた。

やがて身体の変化は、競泳パンツの中へと進み

競泳パンツをしたから盛り上げていた肉棒を退化させ、

やがて、それは新たに股間に現れた縦溝の中へと収まっていった。



そして、智哉の体毛が薄い産毛に変わると、

スススス…

髪の毛が伸び始め、瞬く間に肩へと達した。

『あれ?

 髪…が伸びたのか?』

「もぅちょっと待ってて…」

首を振って肩に掛かる髪を左右に振り始めた智哉に華代は注意すると、

最後の仕上げに掛かっていた。

すでに、華代の前にいる智哉の身体はすっかり女性へと変化し、

男物の競パンが不釣り合いな姿になっていた。

「まぁ、こんなものかな」

少し離れて、出来映えを確認すると、

「じゃぁ、次は着る物だね」

と呟くと、

彼(彼女)の股間だけを覆っていた紺色の布が

するする

と上へと伸び始め、美しく膨らんだ胸を覆い隠すと、

2本の肩ひもが智哉の肩に掛かる。

さらに、髪の毛がアップにまとまると、

頭の上にキャップが被さった。

『なっなんなんだ、どうしたんだ?』

智哉が、瞑ったまま身につけている物の変化に驚いていると、

「さっ、いいわよ、目を開けて…」

と言う華代の声がするのと同時に

ぱっ

と目を開けた、

「ねぇ、きみっ、

 僕に何を…ってえ?」

華代に向かって声を出した瞬間、

智哉は自分の声がハイトーンに変化していることに気付いた。

それどころか、胸には2つの膨らみと、それを覆う紺色の水着…

「お兄ちゃん、

 いえ、お姉ちゃんと言った方がいいかな…

 その姿なら女子の部門に出られるでしょう?

 筋力はそれほど落ちていないから、
 
 お姉ちゃんなら優勝、間違い無しよ」

「なっ、これは…」

笑みを浮かべる華代に対して、

智哉はすっかり女性化してしまった自分の姿に驚いていた。

すると、

「ふぅキツかったなぁ…」

と言いながら練習を上がった他の部員達が更衣室に入ってきた。

そして、更衣室に居る智哉を見るなり、

「わっ、なんだ〜っ」

「女が男の更衣室に居るぞ!!」

「きゃぁエッチ」

と騒ぎ始めた。

「ちっ違う、

 よく見ろ俺だ、野崎だ…

 こっ、これは…
 
 そうだ、華代とか言う女の子に女にされたんだ!!」

騒ぐ男子部員に向かって弁明するが、

しかし、騒ぎは収まることなく、

駆けつけた顧問の西岡によって更衣室からつまみ出されてしまった。



それから、しばらく経って競技大会が開かれ、

その女子の自由形で優勝したのは「野崎智子」と言う女子選手だった。



今回の依頼も実に簡単でした。

スランプで悩んでいた智哉さんも、

女子選手ならその上位間違いなし、

これからもどんどんと記録を塗り替えてくださいな、

さて、何か困ったことがありましたら何なりとお申しつけ下さい。

今度はあなたの街にお邪魔するかも知れません。

それではまた。



おわり