風祭文庫・華代ちゃんの館






「運動会」


作・風祭玲
(原案者・真城 悠)

vol.050





こんにちは。初めまして。私は真城華代と申します。

最近は本当に心の寂しい人ばかり。

そんな皆さんの為に、私は活動しています。

まだまだ未熟ですけれども、

たまたま私が通りかかりましたとき、

お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。

私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。

どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

報酬ですか?

いえ、お金は頂いておりません。

お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

さて、今回のお客様は――



抜けるような秋空の元

「位置に着いて…よぉーぃ」

と言う掛け声がすると同時にラインに並んだ選手が両手を地面につける。

パンッ!!

空に向けて掲げたピストルから火薬が弾ける音が響いた途端、

ダッ!!

体操服姿の生徒が一斉に駆け出した…

盛り上がる声援!!

響く応援!!



しかし、駆け抜ける選手に声援を送る中に一人憂鬱そうな顔をした生徒がいた。

「はぁ〜っ」

目の前で繰り広げられる競争に生徒はため息を吐くと

のっそりと大柄な身体をゆすりながら、

声援を送る集団から抜け出そうとしていた。

「あっ、大野くん、

 どこ行くの?、
 
 もうすぐ出番よ」

ブルマ姿の体育委員が抜け出そうとしている彼を見つけ

すかさず注意をすると、

「ちょちょっとトイレ…

 スグに戻ってくるから」

と訳をいい彼はトイレへと歩いていった。

「もぅ

 早くしてよね」

去っていく彼に体育委員は両腰に手を宛ててそう注意すると、

「ったく体に似合わず鈍癖ぇ奴だなぁ…」

「大野っ、出番までにちゃんと戻ってくるんだぞ」

ハハハハハ

っとクラスの連中の笑い声が彼を後から追いかけてきた。

「運動会なんて嫌だ」

その言葉を背後で聞きながら彼の口からポツリと愚痴がこぼれる



やがて、彼は用を足してトイレから出てくると

「お兄ちゃんっ」

と突然声を掛けられた。

「えっ?」

呼びかけに思わず振り向くと、そこに一人の少女が立っていた。

「どうしたのきみ?

 迷子になったの?」

彼は尋ねながら周囲を伺うと、

「ううん、違うの」

と少女はその言葉を否定しながら一枚の名刺を取り出すと

「はい」

と言って彼に手渡した。

「ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代」

名刺の文面を彼は読み上げ、

「悩みの相談?」

っと訝しげに訊ねると、

「うん、まぁそんなところかな」

笑みを浮かべながら少女は頷く、

そして、

「こんなにいい天気なのに、

 お兄ちゃんなんだか元気がなさそうだから、

 華代が元気にしてあげようとと思ってね…」

と少女・華代は声をかけた理由を言が言うと、

「ふっ〜っ」

っと彼は大きなため息を吐き、

「お嬢ちゃんにぼくの悩みを話してもねぇ…」

と迷惑そうに華代を見ながら言う。

「あら、あたしを見くびらないで欲しいわ、

 華代にできないことはないんだから」

その言葉に華代はエッヘンと胸を張ると、

「そうか?」

「そうよ、

 何事も話さなくっちゃ判らないわよ」

と華代は返事をする。

すると、

「う〜ん、どうしようかなぁ〜」」

と言いながら彼は考え込みはじめた。

しかし、

「ねぇ、聞かせて、

 お兄ちゃんの悩みっ」

「う〜〜ん」

「さっ、

 早くぅ」

「う〜〜〜ん」

幾ら誘ってもなかなか煮え切らない彼の様子に

華代は次第にしびれを切らし始めてくると、

「あぁん

 もぅ、はっきりしなさいよ」

と怒鳴った。

ところが、

「う〜〜〜〜ん」

彼は尚も考え込んでしまう。

「う〜〜〜〜〜ん」

「う゛〜〜〜〜〜ん」


プツン

「あぁもぅじれったいわねぇっ」

ついにキレた華代はそう叫ぶと

「それぇ〜っ」

と掛け声を挙げると一陣の風が彼を襲った。

「うわっぷぷ

 なっなんだぁ」

突如吹き荒れた風に彼は呆気にとられていると、

すぐに、ドクンっ!と彼の身体を異変が襲う。

シュルシュルと長身の身体が見る見る縮だし

また、手足も短くなって行く。

「わわわわ」

彼は自分の身体で起きている変化に驚きの声を上げた。

上着が見る見るうちにタブついてくる…

そして頭二つ分身体が小さくなると、

手足が少女のように細く繊細になった。

さらに、短髪の髪が伸び始め、

肩胛骨付近まで伸びると、

スススと三つ編みに編まれていった。

また、ダブダブだった体操着が小さくなっていくと、

胸の所に小さな膨らみが表現し始めた。

短パンの裾が上がりピタリと肌に密着して紺色のブルマに変わったころ

「大野君、もぅ出番だよ

 なにしているの?」

体育委員がトイレ前まで迎えに来たが、

しかし、

「だっだれ?、あなた?」

彼女の前には「大野」と言う名前の入った体操着を着た

小柄な少女が座り込んでいると、委員を見上げ。

「あっあの…

 僕…女の子になっちゃった…」

と呟いた。



今回の依頼はちょっと大変でした。

なにしろ依頼人がなかなか依頼内容を言ってくれなかったので、

とりあえず私の方で見繕いました。

大野君もあの身体ならきっときびきびと動けるでしょう。

さて、何か困ったことがありましたら何なりとお申しつけ下さい。

今度はあなたの街にお邪魔するかも知れません。

それではまた。



おわり



−あとがき−
という訳で、風祭文庫・第50番目のストーリーは「華代ちゃん」が飾ってくれました。