風祭文庫・華代ちゃんの館






「出直し」


作・風祭玲
(原案者・真城 悠)

Vol.040





こんにちは、初めまして。

私は真城華代と申します。

最近は本当に心の寂しい人ばかり。

そんな皆さんの為に、私は活動しています。

まだまだ未熟ですけれども、

たまたま私が通りかかりましたとき、

お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。

私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。

どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

報酬ですか?

いえ、お金は頂いておりません。

お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

さて、今回のお客様は――



ここはあるバレエ団のレッスン室

公演を間近に控え、団員達のレッスンは厳しさと緊張感が走っていた。

流れていた音楽に合わせていた手拍子が突然止まると

「違ぁ〜う、

 西脇クン、そこはこう」
 
っと演技を指示していた監督が大声を張り上げ、

自分の体を使って表現する。

そして西脇と呼ばれた男は、

担ぎ上げていたレオタード姿の女性団員を降ろすと

女性抜きで指示された演技をしてみせる。

しかし、

「違う違う…こう…」

と彼の演技は否定され、

監督が演技の手本を見せるが、

なかなか西脇の演技は彼を納得させることができなかった。

やがて、

「もぅいいっ

 西脇さん、外れて…
 
 じゃぁ友部さん替わりに入って」

と言われると、

西脇は不機嫌な顔をしてバーに掛けてあったタオルを取り、

レッスン室から出ていった。

そして替わりに友部と呼ばれた男性が女性のサポートを始める。

レッスン室から出た西脇は、廊下の壁にドンともたれ掛かると

「はぁ、疲れた…」

呟くが、

しかし、レッスン室から再び音楽が流れ始めると、

それに合わせるように人影が動き出した。

西脇はその影を見ながら

「やっぱ、バレエを始めるのが遅かったかなぁ

 せめて、学生の頃から始めていれば
 
 あの程度の振り付けはこなせただろうし」

と呟くと、

「はぁ…」

大きなため息を一つ吐いて更衣室へ向かって歩き出した。



西脇がバレエを始めたのは社会人になってしばらく経ってからのことで、

ここのバレエ団の水準についていくのは容易なことではなかった。

西脇は廊下を歩いてくと、程なくして、

レッスン室隣にあるバレエ教室用の小さ目のレッスン室が目に入り、

そこでは小学生くらいの少女達がバレエの基礎レッスンをしていた。

教師の手拍子に合わせて動くレオタード姿の少女達を西脇は横目で眺め

「俺もあれくらいからバレエを始めていれば少しは良かったかもなぁ」

そう呟いたとき、

「おにいちゃん」

と突然声を掛けられた。

「え?」

西脇が振り返ると、

そこには一人の少女が立っていた。

「どうしたの?

 あっそうか、入門希望か、
 
 ちょっと待って係りの人を呼んでくるから」

少女に向かってそう言って走り出そうとしたとき

ギュッ!!!

西脇の手を少女が握り締めた。

「?」

振り返ると少女は一枚の名刺を差し出す。

「ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代」

っとそれには書いてあった。

「悩みの相談?」

名刺を見ながら西脇が訊ねると、

少女・華代は「うん」と頷き、

そして、

「おにいちゃんの悩みってさっき言ってたこと?」

と訊ねた。

「え?

 あっ、さっきの聞かれちゃったのかな?

 …うん、まぁそうだな
 
 …バレエをもぅ少し早くから始めていれば、
 
 もっとうまく踊れたと思うけど…

 で、それがなに?」

と悩みの事を話した後、聞き返すと、

華代は笑みを浮かべながら、

「えへへへ、

 じゃぁ任せて、華代がおにいちゃんお願い、叶えてあげる」

と言うなり、

「それぇ〜〜」

と掛け声を発した。

すると、

「ふわぁ」

っと沸き起こった風が西脇のからだを吹き抜けて行く。

「なっ、なんだ?」

西脇は何が起きたのか飲み込めなかった。

しかし、風が吹きぬけるのと同時に彼の身体が変化し始め、

手が小さくなり始めるのと同時に、

腕が細くなって行く。

「え?

 え?
 
 え?」

しかも、細くなっていくのは腕だけではなく

同時に足も細くなって行った。

「おっおい」

変化していく手足に西脇は戸惑い始めるが、

しかし、股間のタイツの膨らみが徐々に小さくなって消えると、

厚手だったバレエタイツは薄手の物へと変わり、

腰に括れが現れると足もいつのまにか内股になっていた。

筋肉が隆起していた胸や肩から筋肉が萎むように消え、

彼の肩は女性のなで肩へと変化し、

胸には2つの膨らみが現れる。

そして、髪もいつのまにか伸びて小さくなった肩にかかっていた。

さらに、着ていたTシャツの裾が伸び始めると、

西脇の股の下で繋がり

程なくして彼が着ていたTシャツはピンク色の光沢を放つレオタードへと変化した。

「うそだろう…」

既にその時の西脇はレオタード姿の女性になっていたが、

彼(彼女)の変化は別の方向へと進み出した。

手足が徐々に縮まりだすと、みるみる彼の背丈が低くなり始めた。

「なっなっ」

西脇の身体が小さくなるにつれ、

膨らんだばかりの胸の膨らみや、

腰の括れはなくなり顔の表情も幼くなって行く。

大人の胸の高さまで背丈が小さくなると、

レオタードの腰のところから小さなスカートが現れ、

さらに伸びた髪が両耳のところでスッと括られると、

小さなリボンがちょこんとつく。

「どうなったんだ、俺は」

少女化していく自分の姿に西脇は驚愕していると、

「なにごとです?」

廊下での物音に気づいた教師が廊下を覗くと

そこには10才くらいの少女の姿になった西脇が見つめ返す。

「あら、

 あなた何をしているんですか、
 
 そんなところで」

と少女に向かって教師が声を掛け、

そして、

「もぅレッスンは始まっていますよ、

 早くレッスン室に入りなさい」

と促しながら西脇の手を引くと、

空いているバーに捉まらせレッスンを再開した。

アン・ドゥ・トワァ

アン・ドゥ・トワァ

少女になってしまった西脇は再び基礎からバレエを始めだす。

彼がバレリーナとして活躍するのはそれから10年後の事であった。



こんにちわ真城華代です。

西脇さん、いかがでしたか?

その年からバレエに打ち込めば、

きっと大きくなった頃には一流のバレリーナになれますよ。

さて、何か困ったことがありましたら何なりとお申しつけ下さい。

今度はあなたの街にお邪魔するかも知れません。

それではまた。



おわり