風祭文庫・華代ちゃんの館






「映画館」


作・風祭玲
(原案者・真城 悠)

Vol.039





こんにちは。初めまして。私は真城華代と申します。

最近は本当に心の寂しい人ばかり。

そんな皆さんの為に、私は活動しています。

まだまだ未熟ですけれども、

たまたま私が通りかかりましたとき、

お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。

私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。

どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

報酬ですか?

いえ、お金は頂いておりません。

お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

 さて、今回のお客様は――



「ったくぅ…

 何が悲しゅーて俺がオトコと映画を見にゃぁらんのだ」

「うるさいっ、俺だってゴメン被りたいよ」

「大体だなぁ…

 お前が京子を連れてくる。ってゆーから来たんだぞ」

「お前こそ、聡美を連れてくると言ったじゃないか…」

映画館のまえでいがみ合う広一と雄一郎の二人…

「くそぉ、ココで帰りたいのはヤマヤマだけど、

 この映画は今日が最終日。

 はぁ聡美ちゃんと見ようと思ってずっとガマンしてきただけに、
 
 今更帰るわけんはいかないし…」

「さぁて、困ったなぁ…

 京子ちゃんと観るつもりで最終日までガマンしてきたから、
 
 今日逃すともぅ見られないし…」

しばらくの沈黙の後、二人は向き合うと

「いいか、お前と観るわけじゃないんからなっ、勘違いするなよ」

声をハモらせながらと言い合うと、

すごすごと映画館の中に入っていった。

館内はまだ前回の上映が終わっていないので、

とりあえず二人はロビーで待っていたが

しばらくして、雄一郎が立ち上がると自動販売機でジュース買って飲み始めた。

「ったくぅ…」

そんな雄一郎の姿を横目で見ながら広一がむくれていると

「おにいちゃん」

っと一人の少女が声をかけてきた。

「?」

広一は突然現れた少女に戸惑っていると、

「はい、コレ…」

と言って少女が一枚の名刺を差しだした。

「ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代」

と名刺には書いてあった。

「新手の勧誘?」

名刺を見ながら広一は思うと、

華代はそれを察してか

「お兄ちゃんがなんだか悩んでそうだから、

 もしも、あたしでお手伝いができることがあればってね
 
 さーさ、なんでも言って…」
 
と説明をする。

そんな華代を広一はしみじみと見ると

「はぁ〜っ、

 こんな女の子に同情をかけられるとは、
 
 この俺も地に落ちたものだなぁ」

っと呟きながら大きなため息をはいた。

「?」

広一のその行動に華代は首を傾げると、

「そうだなぁ…

 せめてあいつが女だったら、
 
 まだ救われたんだけどなぁ」

と広一が雄一郎を指差して言う。

すると、

華代は笑みを浮かべながら

「わかりました、それならお任せください」

と宣言をするなり広一の元を離れ、

雄一郎の方へと走っていった。

「あれ?

 なにをするつもりだ?」

広一は華代の行動を観察しはじめる。



「おにいちゃんっ」

ジュースを飲んでいた雄一郎は突然かけられた声に驚いた。

「うん?、

 なんだ?」

響いた声に雄一郎は周りを見回すと、

自分の足元に一人の少女が立っていた。

「どうしたの」

と雄一郎が少女に尋ねた時

「あのね…それぇ〜っ」

突然の掛け声とともに、一陣の風が雄一郎を吹きぬけていった。

「うわっ」

吹く風に雄一郎は驚いて身構えるが、

しかし、彼が本当の意味で驚くのはその後だった。

目の前に翳した手が、

スーっと細く小さくなっていくと程なくして女性の手へと変化する。

「なっなんだこれ?」

変化した手に雄一郎は驚くが、

しかし、それだけではなかった。

胸の先がくすぐったくなったと思った途端、

まるで風船を膨らませるように胸が膨らむと、

立派な乳房となって彼の胸を引き立たせる。

「あわわわ〜」

雄一郎の変化は更に続き、

ウェストが萎むように細くなると、

変わりにヒップが張り出して女性の優美な体型を描き出し、

また背丈が徐々に小さくなっていくと、

髪の毛が見る見る伸び始め、程なくして肩を覆うくらいの長さになってしまった。



「ぬぅわにぃ?」

広一は雄一郎の変化に驚き、そして腰を抜かした。



「おっおい…」

雄一郎は自分の体の変化が信じられなかった。

足が自然に内股になると、

体のサイズが合わなくなってダブダブになっていた服が変化し始め、

程なくしてそれは様々なリボンなどの装飾が施されたピンク色の少女風の服となっていく、

そして、さらに、

肩の先まで伸びた髪はスッと左右に分けられると、

スススと三つ編みに編まれていき、髪の先には赤いリボンが可愛く飾った。

「なっ、なんじゃぁこれは〜っ」

すっかりフリフリの衣装を着た女性になってしまった雄一郎は叫び声を上げていると、

「なにって、あのおにぃちゃんのご希望ですよ」

と呆気に取られている広一を指差して華代が言った途端、

ズカズカズカ

雄一郎は広一に向かうと

「おぃ、広一、これはどういうことだ」

と叫んだ。

「かわいい…」

「えっ?」

「かわいい…」

ところが広一の目は既に雄一郎を女性としてみていた。

「おっ、

 おい、
 
 広一っ、
 
 血迷うな…俺だぞ、雄一郎だ」

目がハートマークになっている広一に向かって雄一郎は後ずさり始めたが

さっと広一は雄一郎の手を取ると

「お嬢さん、ぼくと付き合ってください」

と誘いの声をあげた。

「うわぁぁぁぁぁぁ」

思いがけない広一の言葉に雄一郎は叫び声を上げると同時に手を振り解き、

一目散に逃げ出した。

「待ってください、お嬢さん」

逃げる雄一郎に向かって広一はそう言うと

どこまでも追いかけていった。



こんにちわ真城華代です。

どうやら、あの二人はうまく行きそうですね。

あっ、雄一郎さん、広一さんの行為は素直に受けたほうがいいですよ。

さて、何か困ったことがありましたら何なりとお申しつけ下さい。

今度はあなたの街にお邪魔するかも知れません。

それではまた。



おわり