風祭文庫・華代ちゃんの館






「人魚姫」


作・風祭玲
(原案者・真城 悠)

Vol.020





こんにちは。初めまして。私は真城華代と申します。

最近は本当に心の寂しい人ばかり。

そんな皆さんの為に、私は活動しています。

まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、

お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。

私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。

どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

報酬ですか?

いえ、お金は頂いておりません。

お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

さて、今回のお客様は――



――ココは郊外に立地する遊園地。

「おい、まだ直らないのか…」

主任の名札をつけた男が怒鳴る。

「すみません、もうぅしばらく時間をください。」

その声にアトラクションのロボットを点検しているメカニックの西山が状況を説明すると、

「開園時間にまでには間に合うんだろうなっ」

強い調子で主任は訊ねた。

すると、

カチャカチャ…

「ん?」

ロボットを点検した西山の表情が曇り、

「主任…

 これは…部品を取り寄せて、
 
 交換した方がいいかも知れませんよ」

と故障状況を把握できた西山はそういうと、

主任は顔を真っ赤にするなり、

「馬鹿者!!、

 いまから部品を取り寄せていたのでは、
 
 開園時間に間に合わないではないか」
 
と怒鳴り声を挙げ、

「いいか、

 その人魚姫はこのアトラクションの中でもっとも重要なキャラなんだぞ」

「それをいまさら『故障』です。

 なんて言い訳が通じるかっ」
 
と息巻き、

「どんなことをしても開園時間までには動くようにしておくんだぞ」

と厳命なるや、その場を立ち去っていった。

「るせーわ、バカ主任。

 機械の使いすぎなんだよっ」

主任の後姿に向かって西山はそう文句を言うと、

「はぁ」

大きくため息を吐き、

「とにかく、コイツを動かせるようにしなくっちゃなぁ…」

と言いながら、再び作業を始めた。

その時、

「おにぃ〜ちゃん、なにしてるの?」

突然少女の声が響き渡った。

「うわっ」

その声に西山は驚いて周囲を見回すと、

「うわぁ〜っ、

 人魚姫ですねぇ…これ」

いつの間にか西山の脇に一人の少女が屈み込むと、

人魚姫の姿をしたロボットを珍しそうに眺めていた。

「キミ、どこから来たの?

 まだ開園時間じゃないぞ」

突然姿を見せた少女に向かって西山は注意をすると、

「はい、コレ」

その言葉に返事をするかのように少女は一枚の名刺を見せた。

「ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代」

名刺に書かれている文面を西山は読み上げると。

「悩みの相談?」

と怪訝そうに訊ねる。

すると、

「うん」

華代元気よくは頷いて見せる。

「はぁ…

 悩みと言ってもねぇ…

 今の俺にはコイツをなんとかして欲しい。
 
 ってことくらいかなぁ」

と西山は答えながら人魚姫のロボットの肩の部分を軽く叩いて見せる。

「えっ、人魚姫さんどうかしたんですか?」

西山の返事に華代は驚きながら訊ねると、

「ん?、

 いや壊れてしまっねぇ…
 
 動かないんだよ…
 
 開園時間まで残り少ないし、
 
 あ〜っ、もぅ泣きたいくらいだよ」

と自嘲気味に笑った。

「ふ〜ん、

 じゃぁ、動く人魚姫さんがいればいいんですね。」

「まぁ、そういうことだけど」

「じゃぁ、まかせて」

「えっ?」

華代の返事に西山が驚くと、

「いきますよぉ

 そぉれっ」
 
と華代は両手を掲げ上げた後に

かけ声と共に一気に振り下ろした。

すると、


ゴワッ!!


巻き起こった突風が一気に吹き抜け、

「うわっ」

吹き荒れる突風に西山は思わず目を瞑った。

そして、風が止んだあと、瞑った目を再び開けて見ると、

さっきまで居たはずの華代の姿は消えていた。

「なっなんだ?」

何が起きたのか飲み込めなかった西山だったが、

急に胸がムズ痒くなると、胸が膨らみだす。

「!!」

ビックリした西山は胸に手を当てたが、

膨らんでいく胸に腕はすぐに押し返された。

それだけではなかった、

胸に当てた手が白く細くなると、肩幅が小さくなで肩へと変わり。

さらに、ウエストが細く括れてヒップが張り出してくると、

彼の身体は女性へと変化していった。

西山の変化はさらに続き、

作業着が縮むように消えると貝殻のブラジャーが豊満になったバストを飾り、

ズボンが消え姿を見せていた左右の足がまるで糊で貼り付けるように1つになると、

足先に大きなヒレが姿を現れた。

緑色に変わった髪がみるみる伸びてきて彼の肩に掛かり始めると、

一本になった足にピンク色の鱗がわき上がるように生えてきた。

そして全てが終わった頃、そこには一人の人魚姫が座り込んでいた。



「おいっ、すごかったなぁ…

 あのアトラクション」

「特に最後に出てきた、

 あの人魚姫の生々しさって…
 
 本当にロボットなのかな?」

「まるで生きているみたいだったね」

「俺も思わずじっと眺めてしまったよ」

「そしたら、ぽっと赤くなっちゃって…」

「う〜ん、日本の技術力はやっぱり侮られないなぁ」



こんにちわ。真城華代です。

西山さん演じる人魚姫が噂を呼んで、このアトラクションは大盛況。

主任さんもきっと大喜びのことだと思います。

さて、何か困ったことがありましたら何なりとお申しつけ下さい。

今度はあなたの街にお邪魔するかも知れません。

それではまた。



おわり