風祭文庫・華代ちゃんの館






「天罰」


作・風祭玲
(原案者・真城 悠)

Vol.004





こんにちは。初めまして。

私は真城華代と申します。

最近は本当に心の寂しい人ばかり。

そんな皆さんの為に私は活動しています。

まだまだ未熟ですけれども、

たまたま私が通りかかりましたとき、

お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。

私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。

どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

報酬ですか?

いえ、お金は頂いておりません。

お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

さて、今回のお客様は――



――朝靄がかかるとある神社の境内。

チチチチ…

鳥のさえずりをバックコーラスにして、

ザーッ、

ザーッ、

ザーッ…

一人の少年が竹箒を動かしていた。

早朝のためか境内には人影は無く、

少年の動く姿のみが墨絵の様にみえる。

「あ〜ぁ

 ったくぅよぉ、

 折角の日曜だって言うのに、

 こんな朝早くから掃除とは…

 神社の息子というのも考えものだよなぁ」

竹箒を黙々と動かしていた少年の口からそんな言葉が漏れ出すと、

やがて、

カラン!!

「あ〜っ、

 もぅ、

 ヤメだヤメだ、

 休憩、

 休憩っ」

突然、叫ぶように少年は声をあげ竹箒を放り出してしまった。

そして、ジッと睨みを利かせている狛犬のところへと向かうと、

そこに置いてあったペットボトルをとり、

神社の拝殿へと向かうと、

「はい、

 はい、

 ちょっとゴメンね」

と言いながら拝殿前に置いてある賽銭箱の上に腰を掛けた。

傍目で見ると実に罰当たりな行為だが、

しかし、ココに座って境内を眺めてみると

なんだか自分が神様になったような気分になる。

そんな優越感に浸りながら少年は持ってきたペットボトルを口にすると、

「それにしても、こんなもん拝んで御利益があるのかねぇ…」

と振り返って本殿を眺めながら再びペットボトルを口にした。

チチチチ…

再び鳥の鳴き声が境内に響き渡り、

それを聞きながら少年はしばらく考えた後、

本殿の方を眺めると、

「ねぇ神様、

 毎朝こうして掃除をしているんだから、

 可愛い巫女さんを紹介してくれないかな?」

と話しかけた。

そして、

「いいかげん一人での掃除も飽きてきたし、

 結構ポイントがたまっていると思うんだけど…

 ダメ?」

とねだる様にしていったとき、

「………カサ」

榊の葉が静かに揺れた…

「え?」

その音に少年が周囲を見渡すが

しかし風が吹いた形跡も、

ネコなどの動物が通った形跡も無かった。

「地震かなぁ?」

さっきまで鳴いていた鳥の鳴き声も消え、

言い様も無い気配があたりを支配したとき、

「…それが、おにいちゃんの悩みですか?」

という少女の声が響き渡った。

「えっ

 だっ誰?」

突然響いた声に少年は飛び上がってあたりを見回すが、

しかし、彼がいくら目を皿の様にしても人影すら見えなかった。

「まさか…神…」

一瞬、そんな考えが彼の脳裏を横切ると、

「こっちよ、こっち」

と再び声が響いた。

「はい?」

その声のした方へと少年は視線を動かしていくと

本殿の横から一人の女の子が出てきた。

「おっ女の子?」

白のワンピースに三つ編みの髪、

そして重たそうなカバンを持ったその少女の姿を見た少年は賽銭箱から降りると、

「キミは?」

と少女に訪ねた。

すると、少女は少年のそばに寄って来るなり、

「はい、これ」

と言って1枚の名刺のような紙を差し出した。

「ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代」

とそれには書いてあった。

「なんだ、神様じゃないのか」

「え?」

「いやいや、こっちのハナシ

 で、僕の悩みを解決してくれるってここに書いてあるけど、

 きみ、お姉さんでも紹介してくれるの?」

名刺を片手に少年は華代に尋ねると、

「ううん」

華代はそう返事をして静かに首を横に振る。

「なぁんだ」

華代のその仕草に少年は期待を裏切られたような声を上げると、

「でも、おにいちゃんの悩みは簡単に解決できるよ」

と華代は言う。

「え、どうやって?」

「つまり、巫女さんがいればいいんだよね」

「まぁね」

「それじゃぁ…行きますよぉ、

 そぉ〜れっと」

華代は腕を掲げながら掛け声と共に一気にその腕を振り下ろした。

ブワッ…

その瞬間、少年の身体を一陣の風が吹き抜けていく、

「うわっ」

突然の出来事に少年は身構えるが、

しかし、

「あっれ?」

風が通り過ぎたものの、何も起きなかった。

「なっなんだ?」

まつで狐につままれたようにキョロキョロと少年はあたりを見回していると、

ムズッ

すると、急に彼の胸がくすぐったくなった。

「?」

その感覚に少年は両手を胸に持っていくと、

なんと、2つの膨らみがムクムクと成長していたのであった。

「!!」

身体の変化は胸だけではなかった、

目の前の手が細く小さく白くなっていく

「あわわ…」

シュルリ…

いつの間にか伸びた髪の毛が首もとを覆うち、

腰がくびれ、

肩幅も狭くなって行った。

「なっなにこれぇぇ!!」

悲鳴をあげながらも内股になってしまった少年はその場に座り込んだが、

しかし、彼の変化はさらに進んで行く、

ズボンが大きく広がると、朱染めの緋袴になり、

Tシャツは白衣になって、胸の膨らみを引き立たせる。

そして、足下の靴は草履にかわり、白い足袋が足を飾った。

その一方で髪の毛はさら腰あたりまで伸びたところで、

彼いや、彼女の変身は終わりを告げた。



チチチ…

再び小鳥の声が響きはじめた境内に一人の巫女が座り込んでいた。

「神様…これって天罰…ですか?」

呆気にとられていた彼女の口からようやく言葉が出るが、

しかし、それに答えるものは無く、

「…………カサ」

再び榊の葉が小さく揺れた。




おはようございます。真城華代です。

たまたま寄った神社で依頼人に会えるなんて、やっぱり早起きはするものですね。

さて、何か困ったことがありましたら何なりとお申しつけ下さい。

今度はあなたの街にお邪魔するかも知れません。

それではまた。



おわり