風祭文庫・華代ちゃんの館






「覗き」


作・風祭玲
(原案者・真城 悠)

Vol.003





こんにちは、初めまして。

私は真城華代と申します。

最近は本当に心の寂しい人ばかり。

そんな皆さんの為に、私は活動しています。

まだまだ未熟ですけれども、

たまたま私が通りかかりましたとき、

お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。

私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。

どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

報酬ですか?

いえ、お金は頂いておりません。

お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

 さて、今回のお客様は――



「おいっ、知っているか?」 

キツかったラグビー部の合宿も残すところあとわずかとなり、

緊張感が和らいだ練習後、中野は俺に突然言ってきた。

「何が?」

「ほら…あの山の真ん中にお寺があるだろう」

そう言って中野が指した山の中腹にお寺のような建物があることは

以前から気がついていた。

『あぁ、あれってやっぱりお寺なんだ…』

「で、あれがどうした?」 

「尼寺なんだってよ…」 

「おぃ、それって本当か?」

横で聞いていた小金井が割り込んでくる。

「あぁ間違いないそうだ」

「そういえば、俺、数人の尼さんが歩いているところ見たことあるよ」

いつの間にか湧いて出た三鷹が言う。

「で、それがどうしたんだ?」

「日野クン、キミと言うヤツは…」

中野があきれ顔で言う。

「覗きに行くに決まっているだろう…」

「尼寺だよあ・ま・で・ら」

「男を絶ち俗世を棄てたうる若き乙女達が、 

 悶々とした日々を過ごしているんだよ」

「これを覗き行かなくては失礼であろう」


『中野…お前、溜まってねぇーか?』

『それに、どぅすればそういう理屈が成り立つんだ?』


そして、スッと中野は寺を指さすと

「っと言うわけで、我々はこれからあの尼寺へ慰問に向かう、では出発っ」

「はいはい、行ってらっしゃいっ」

そう言って俺は手を振っていると、

「ひぃ〜のぉ〜くん」

中野が思いっきりドアップになる、あと少しで額がくっつく(離れろ!!)

「このプロジェクトに関わった以上、

 キミは自動的に我々の仲間だ、抜け駆けは一切ゆるさん。」

「抜けがけぇ?」 

あきれ顔の俺のそばにそっと近づいた中野は

「それに、マネージャの国分寺さんとデキていること、

 先輩達にバラしていいのかなぁ…」

と小声で囁く、

「きったねぇぞ」

俺は中野を睨むが、

「協力してくれるよね」

にっこりと中野が微笑んだ。

結局、中野に引きずられるように

合宿所を抜け出された俺は渋々と山道を登って行った。

ややキツメの山道を登ること30分、

やがて目の前に大きな山門が姿を現した。

「なかなか見事な門ですね、こりゃぁ徳川時代のものかなぁ…」

歴史が好きな小金井がしげしげと眺める。

「さぁ…行くぞ」

と中野が言う。

「じゃぁ、俺はここで…」 

そう言って引き返そうとしたとたん、

小金井と三鷹に両腕をがっしりと握られた。

そして、俺の側に立った中野は、

「抜け駆けは揺るさん!!といったろぅ」

「誰が抜け駆けをするかっ、俺は帰るっ」

「日野君、先輩達のお仕置きって凄惨を極めるって聞いているけど…」

「我々につき合ってくれるよね。」

そう言ってウインクする中野。

「わかったよ、行けばいいんでしょう、行けば」

「物わかりがいい日野君って好き」 

「勝手にしろ」 

俺たち4人は山門を抜け境内へ入った。

中に入ったとたんフッっと空気が変わった…

なんて言うか、清々しいと言うか清楚と言うかそんな感じだ。

「きれいに手入れしてますねぇ…」

三鷹が盛んに感心する。

『そぅいや、三鷹って園芸が趣味だって聞いてたなぁ…』

確かに、境内は隙がないくらい美しく整備してあり、

歩くのがもったいないくらいだ。

しばらく進むと本堂が見えてきた、山門に負けないくらい立派な建物だ。

が、本堂に近づくに連れ動く人影が見えてきた。

「隠れろ!!」

中野の指示で俺たちは取りあえず近くの木の陰に隠れる。

木陰からそっと覗くと、

黒衣に白頭巾と言う出で立ちの3人の尼僧が、何か作業をしている様子だった。

「尼さん、いましたね」

と小金井が言うと、中野は周囲を見回し、

「よし、こっちだ」

そう言って庭木の間を這うように移動する。

「なぁ」

「しっ、黙ってろ」 

しばらくつき合ってみたものの、だんだん馬鹿馬鹿しくなってきた。

そしてついに「これ以上つき合ってられない」と立ち上がったとき、

フワっと黒い陰が視界を遮り、そして、人の顔がアップになった。 

「えっ?」

俺は何が起きたか判らなかった。 

「キャァ−ッ」

目の前の人物が驚き大声を出した。

そう、尼僧の一人が、ごそごそと動く木を不審に思って見に来たところだった。

ヤバイッ!!、

俺たちは本能的に逃げ出す。

「何事ですか?」

尼僧の悲鳴を聞いた他の尼僧達が集まって来た。

腰を抜かした尼僧が指を指した先に一目散にかけていく俺たちの姿が…

たちまち境内はハチの巣を突っついた様な騒ぎになった。


「う〜ん、これでは脱出は困難か…」

何とか納屋の陰に隠れるコトが出来た俺達は、

周囲の状況を観察していたが、状況は悪くなる一方だった。

っとそのとき、何か考えが思いついた中野は急にまじめ顔になると、

俺の両肩に手をおくと

「日野君、これからキミに使命を与えよう!!」

「はぁ?」

何かいやな予感がする。

「キミのすばらしい運動神経で、彼女たちの注意を引きつておいてくれたまえ。」

「ちょっと、ちょっと、それって…」 

「それでは健闘を祈る!!、ぐっどらっく」

そう言ったとたん、俺は思いっきり突き飛ばされ、中庭に飛び出してしまった。

「あっ、居ました!!、あそこです!!」 

俺の姿を見つけた尼僧が大声で叫ぶ、ワラワラと集まてくる尼僧達。

その場から逃げ出す俺、とにかく山門まで行くしかない。

しかし、苔むした庭を走っていると

「ズルッ」と足を滑らせ俺は思いっきりスッ転んだ。

イテテ…

立ち上がると、足をひねっただろうか思うように走れない。

「こっちに行ったようです」

尼僧達は集まり周囲を探しだした。

万事休す。 


「お困りですか?」 

「うわっ」

突然の声に、声がした方を見ると一人の少女が立っていた。

「あちゃぁ〜見つかった!!」

そう思って観念したところ 一枚の紙が差し出された。

「ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代」

とそれには書いてあった。


「居ましたか?」

「いえ居ません」

尼僧の声が近づいてくる。

「どぅやら、あの方達に見つかると困ることになるようですね。」

少女の言葉に俺は無言で頷いた。

「判りました、では早速」 

「それ…」 

少女の声がしたとたん、急に胸がくすぐったくなってきた…

「どうしたんだ?」 

胸に手を持っていく、小さな膨らみを手のひらに感じる。

「なっ、何だコレ?…」

俺が困惑していると、それはムクムクと成長しそして立派な乳房になった。

さらに、手が細く白く、肩は徐々に狭くなり…

鍛えてきた筋肉が見る見る削ぎ落ちると、腰が括れ自然と内股になった。

ふと頭に風を感じたので手を頭上に持っていくと、

やや長髪だった髪はすっかり無くなっていて、ツルツルの坊主頭になっていた。

「こっこれは…」

自分の変化に驚いてる間にも身体の変化はさらに続き、

着ていたジャージはいつの間にか白衣と黒衣に替り、

そして、坊主頭に白頭巾が被さると、手に数珠が…

こうして俺は瞬く間に黒衣に白頭巾姿の尼僧になってしまった。


ガサッっ

追ってきた尼僧が顔を出した、そして俺の姿を見るなり

「怪しい者は、何処へ行きました?」

と俺に訪ねた、俺は意味もなく手を本堂の方へ差し出すと、

尼僧は本堂を振り返ると、

「あっちに行きましたか…」

そう言って、

「本堂の方に逃げたようです」

と他の尼僧に指示をした。

たちまち尼僧達は俺の周囲から姿を消した。

周囲に誰もいなくなったコトを確かめると俺はその場にへたり込んだ。

そして、さっきの少女のコトを思いだすと、少女の姿を探した。

「華代ちゃん?」

「華代ちゃん…何処行ったの…」

「ねぇ…俺を…あたしを元に戻して…よ」

尼僧の呼ぶ声が山の中へと消えていく…





今回の依頼は実に簡単でした。

私の機転で無事事なきを得た日野クン、

これからは俗世を忘れた生活をエンジョイしてくださいな。

さて、何か困ったことがありましたら何なりとお申しつけ下さい。

今度はあなたの街にお邪魔するかも知れません。

それではまた。



おわり