風祭文庫・華代ちゃんの館






「舞台」


作・風祭玲
(原案者・真城 悠)

Vol.002





こんにちは、初めまして。

私は真城華代と申します。

最近は本当に心の寂しい人ばかり。

そんな皆さんの為に、私は活動しています。

まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、

お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。

私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。

どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

報酬ですか?

いえ、お金は頂いておりません。

お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

さて、今回のお客様は――



「えぇっ、見に来てくれるって約束だったでしょう…」

「悪りい、どうしても急に外せない用事が出来たんだ」

「だってぇ…約束はどうするの」

夕方の公園、

向かい合って立つ男に向かって女はそう言うとプッと膨れてみせると、

「約束って言ってももぅ昔の話だし

 それに、どうせその他大勢の一人なんだろう…」

と宥めるようにして男が言ったところで、

パァ〜ン!!

その男の頬に平手打ちが飛んだ。

「悪かったわねっ、

 どうせ私はその他大勢ですよ。

 もぅ、敏夫のバカァ…」

頬を叩いた男に向かって女はそう言い残すと走り去って行くが、

「ってぇなもぅ…」

頬を叩かれた男はさすりつつ、

去っていく女の後姿を見送っていのであった。



「バカバカバカ…敏夫のバカ…」

涙を流しつつ女は勢いに任せて走るが、

しかしそれは長続きせず程なくしてトボトボと歩き出す。

っとその時、

「おねぇ〜ちゃん」

後ろから彼女を呼ぶ声が響いた。

「えっ」

突然響いた声に呼び止められた女が振り向くと、

彼女の背後に一人の少女が立っていたのであった。

「誰?」

「はいコレ」

女の問いかけに少女はそう返事をすると名刺のような紙を差し出して見せる。

「ココロとカラダの悩み、お受けいたします真城華代」

名刺に書かれた文面を女が読み上げると、

「何かお悩みがあるみたいですが、

 良ければ話を聞かせてくれませんか?」

と少女・華代は問い尋ねる。

「……………」

「ねっ」

「そうねぇ…」

華代に促されながら女は近くの公園のベンチに腰掛けると事情を話し始めた。

「あたしねぇ…、

 小学校の頃からずっとバレエをやってきたの」

「うわぁ〜、

 バレエですかぁ…憧れちゃいますぅ」

「ありがとう。

 きれいな衣装を着て舞台に立つのが夢だったわ」

「それで、それで?」

「やっとね、やっと…舞台に立てるチャンスがきたの」

「おめでとうございます」

「まぁ…その他大勢の一人だけどね」

と藤田美保と名乗る女は片目を瞑ってみせる。

「それで、あの男の人とは?」

「あら、見られちゃったのね」

「えぇ…」

「あいつ…柴崎敏夫って言うんだけど

 実はあたしがバレエを始める切っ掛けになったのが、あいつなんだ」

「?」

「子供の頃、あいつとあたしの家って隣同士でね、

 あいつとよく遊んだわ…」

「それで?」

思い出に浸る美保に華代が催促すると、

「うん、ただ、週3日はあいつとは遊ぶことが出来なかったの」

「え?」

「あいつの母親って”子供が出来たら絶対にバレエを習わせる。”と言って、

 あいつが3つの頃からバレエを習わせていたんだ。

 つまり、あいつの方があたしよりも先にバレエを習っていたと言うわけよ」

「へぇ」

「で、その3日間というのはあいつのバレエのレッスン日。と言うことだけど、

 そんなある日、

 あたしはあいつの母親に誘われてあいつと一緒にバレエ教室に行ったの」

「それで?」

「丁度、発表会の衣装合わせだったらしくてね。

 綺麗だったわ……

 そして、その中で元気よく踊るあいつの姿を見ていたら、

 ”あたしもあぁして踊ってみたいなぁ”と思うようになってね。

 それがあたしがバレエを始める切っ掛けとなったワケ。

 でも、あたしがバレエを習い始めた頃なんか

 ”お前のようなヤツが、舞台に立てるわけがない”

 なぁんてエラソウに言ってねぇ…

 で、”もしも、舞台に出ることになったらどうぅするの?”って聞いたら、

 ”よぉし、そうしたらお前と一緒に踊ってやる。”なんて言ってたっけなぁ」

「ふ〜ん」

美保の話を聞いた華代は感心しながら、

「それで、今度の公演には敏夫さんも出るのですか?」

と尋ねた。

「ううん、あいつ…中学の頃にバレエを止めたから…」

「えぇ?」

「ホラ、バレエって”女の子のお稽古事”ってイメージあるでしょう。

 それで中学の頃…友達にバレエを習っていることを

 バカにされたのが切っ掛けであいつ止めっちゃったわ」

「こりゃまた」

「一緒に踊ることは出来なくなったけど、

 でも、”あたしが舞台に立つ日が来たら見に行く”って約束してくれたのになぁ」

そんな美保の横顔を見ながら華代は、

「ふぅ〜ん」

と頷いてみせると、

「つまり、敏夫さんがあなたの舞台を見に来てくれればいいんですね」

と聞き返した。

「え?

 それはそうだけど」

華代の言葉に美保は呆気にとられていると、

「じゃっ、あたしに任せて」

と華代は胸を叩いてみせる。

「そんなこと出来るの?」

「へへへ」

美保の問いかけに華代は笑顔を見せながら彼女の前から姿を消したのであった。



ココは美保が所属するバレエ団のレッスン室…

だが、レオタード姿の女性が長椅子に寝かされ、

そのそばで不安げに眺めている女性の姿があった。

「宮沢さん、足の具合どう?」

50代半ばと思われる女性は心配そうに訊ねると、

「あっ京塚センセ、大丈夫です。

 コレくらい何ともありません。」

女性はそう言ってトゥシューズをつけポアントで立ち上がろうとしたが

スグに、

「痛ぅ〜」

痛むのか足をかばいながらその場にうずくまってしまった。

「あっ、無理しちゃダメよ。

 横山君、ちょっと」

それを見た京塚恵子は男性の団員を呼び止めると、

「悪いけど宮沢さんに病院まで付き添ってくれない」

「判りました。

 宮沢さん、大丈夫ですか?」

「あっありがとう…」

そう返事をしながら宮沢由美子は横山達也に抱きかかえられるようにしてレッスン室から出ていった。



「…センセ、明日の公演はどうなります?」

不安そうな顔をしたバレエ団員が恵子に詰め寄ると、

「安心して…なんとか宮沢さんの替わりのヒトを探すから…」

とその場を納めたモノの恵子自身心当たりはなかった。

しかし、明日の公演は京塚がバレエ団を旗揚げして初めての大公演だけに、

絶対に成功させなくてはならなかった。



「それでは、明日ホールで…」

と言う声を残して最後の団員が帰宅すると。

「困ったわねぇ…」

一人残った京塚がぼやいて見せる。

病院からの知らせでは由美子はとても舞台に立てる状況ではなかったのである。

「どうしたんですか?」

「え?」

突然響いた声に恵子が振り向くと、

ひとりの少女が立っていた。

「あなたは?」

「はいこれ」

と言って少女は恵子に向かって名刺のような紙を渡す、内容はすでにご存じの通り。

「悩みといわれてもねぇ

 今は一刻早くも宮沢さんの替わりのヒトが欲しいとこかしら…」

と少女に向かって言うと、

「あの女の人の替わりですか?、

 わかりました。

 あたしに心当たりがありますので明日ホールに連れてきます」

少女はそういうと恵子の前から姿を消した。



翌日

「ったくぅ、どーなってんだ?、

 今日の予定が全部パーになっちまうなんて…」

柴崎敏夫は文句を言いながら歩いていた。

別に向かうところなんてあるわけでもなく、

ただ街中を敏夫が歩いていくと、

やがて美保のバレエ団が「白鳥の湖」を公演するホールにたどり着いてしまった。

「昨日、美保にあんなコトを言っちまったからなぁ…

 いまさら行くのもなぁ…

 えぇい、帰ろう」

頭を掻きながら言ったその時。

「おにぃ〜ちゃん」

敏夫に向かって少女の声が響いた。

「あん?」

振り返るといつの間にか敏夫の後ろに一人の少女が立っていて、

ニコニコと笑みを見せていた。

「だれ?

 キミは?」

「えへへ…

 ちょっとあたしにつき合って」

少女は敏夫に向かってそう言うと手を引いて見せる。

「おっおいっ、何処に行くんだ?」

華代に手を引っ張られて敏夫が連れてこられたのは、

ホールのリハーサル室だった。

「誰もいませんね…」

華代がリハーサル室に誰もいないのを確認すると、

「あのね、美保おねぇちゃんから頼まれたんだけどね。」

「美保おねぇちゃん?、

 あっ、美保のヤツこんな子を使って…」

と敏夫が言ったとたん、

「そぉ〜れっ」

っと華代のかけ声が響いた。

と同時に”ふわっ”と敏夫の身体を風が吹き抜ける…

「うわっ、なっなんだ?」

敏夫は一瞬何が起きたのか判らなかったが、

スグに乳首のあたりが痛痒くなりはじめるとムクムクと胸が膨らみ始めた。

「なっ、なんだ?」

膨らみ始めた胸はまるで風船を膨らませるように膨らんでいき、

程なくして見事なバストとなってシャツを内側から押し上げて行く、

「こっこれは……」

ボリュームのある自分のバストを見て敏夫が驚いていると、

続いてヒップがググと大きく張り出し、

ウエストは絞るように括れてくると、

敏夫の身体は女性的なボディラインを美しく描き始めた。

っして短髪だった髪が徐々に伸び始め、

やがて肩に掛かるようになると、

肩幅もみるみる狭くなり、

2本の腕は細く白くなって行く。

「そんなぁぁ…」

甲高い声と共に足が内股になってしまった敏夫はすっかり女性化していたのである。



そして、肉体のの変化がほぼ終わると、

今度は服が空気が抜けるようにピッチリと身体に密着し、

シャツは袖と胸元から上の部分が肩紐の残して消えていき、

さらに素材が美しい真珠色の光沢放つものへと変わっていくと、

胸の部分に美しい刺繍と鳥の羽で出来た胸飾りが現れ、

膨らんだ敏夫の胸を美しく引き立たせる。

その一方でズボンは白くなりながら裾が脚を這い上がり、

腰まで上がって来るとさっきまでシャツだった部分と一体化して彼の身体を包み込むと、

腰の部分から真横に向かってスーっと1枚のスカートが生えだした。

最初の1枚目は腰からさほど離れていないところで止まったが、

1枚出来ると、

その上に2枚目、

3枚目と襞のように次々と生え、

下になったスカートよりも一回りずつ大きくなっていく。

そして最後の7枚目が広がるとその表面に羽根を模した刺繍が入ると、

靴下はズボンの裾追いかけるように足を這い上がり、

さっきまでジーンズだったチュチュの中に入り込むと、

白いバレエ・タイツとなり細くなった足を表現した。

また靴は淡いピンク色をしたサテン地の厚皮一枚となり足を包み込む。

そして、つま先が膠で固めらて厚く堅く締まると

”トウシューズ”になって敏夫の足下を飾る。

「あっ、ちゃんとメイクもしなくっちゃね」

華代がそう言うと、

敏夫の髪がスルスルとまとめられると”お団子”となって後頭部を飾り、

顔にはたちまち白粉が塗られたのちに

濃厚なアイラインとノーズシャドウ・頬紅が次々と施され、

深紅の口紅が塗られていく。

最後に羽毛を模した飾りとティアラが頭上に現れると、

そこには敏夫ではなく一人のバレリーナが恥ずかしげに立っていた。

「敏夫さん…綺麗よ…

 さぁ、あなたの姿をあの人に見てもらうわ」

すっかりバレリーナと化してしまった敏夫に向かって華代はそう言うと、

恵子の元へと向かって行く。

そして、

「京塚センセ、おまたせぇ、

 バレリーナを連れてきたわ」

の声と共に息を弾ませながら華代が事務室に駆け込んだのであった。

「えっ?

 ホント?」

半信半疑の京塚が華代に連れられてリハーサル室にはいると、

確かにそこには衣装とメイクを施していたバレリーナが立っていた。

『きっ、京塚センセ……』

敏夫はかつてバレエを教えて貰っていた恵子の姿を見て動揺をしてみせる。

「あれ?

 あなた…どこかでお会いしませんでしたっけ?」

バレリーナから微かに漂う敏夫の面影にどこかであっていたような錯覚を覚えた恵子は尋ねるものの、

「誰かに似ているんだけど…う〜ん、思い出せないわ…」

と呟くと、

「ところで、華代さん…この方、大丈夫なの?」

華代に訊ねる。

「うん、大丈夫よ。

 だって、この日は昔先生からバレエを教えて貰っていたんですもの」

その問いに華代はそう答えると、

「はい、アン・ドゥ・トワァ…」

と手拍子を打ちはじめた。

すると、バレリーナになった敏夫は手拍子に合わせるようにして、

恵子の目の前で見事なバレエを踊って見せる。

『そっ、そんなぁ……

 あぁ京塚先生の前で俺はバレエを……』

高く足を上げ、優雅に踊る敏夫の姿を見て、

「よし、この方なら、舞台が出来るわ…」

京塚はオデットの代役が何とか間に合ったことに自信を持つとスグに開演の準備に入った。

すると

「そうだわ…」

ふと何かを思いついた華代は王子役の控え室の中へと入って行き、

しばらくして華代が控え室から出て行くと、

その部屋の中にはトゥシューズにチュチュ姿のバレリーナが一人座り込んでいたが、

スグに立ち上がると、

「舞台に行かなきゃ…」

の声を残して部屋から消えていった。

「これで、美保さんの代わりは大丈夫ね。

 待ってて…美保さんが本当に望んでいる願いを叶えてあげるから…」



「間もなく開演ですので、みなさん準備してください。」

スタッフからの呼び声にチュチュ姿で待機していた美保達は舞台のそでへと向かう。

「そういえばオデット役の宮沢さんの怪我はもぅ大丈夫なのかな…」

「いや、替わりの人が見つかった。ってきいたわよ」

舞台に向かう女性達の口々から心配そうな会話が交わされる。

っとそのとき、

「おねぇちゃん」

美保を呼ぶ声がした。

「え?」

美保が振り向くとそこに華代がいた。

「あら、華代ちゃん。

 敏夫連れてきてくれた?」

華代に向かって美保が訊ねると、

「うん」

っと華代が頷く、

「ありがと、でも大したモノねぇ…

 そうだ、じゃぁお礼に舞台が終わったらなにが奢って上げるわ」

と言うと、

「ううん、そんなコトしてくれなくてもいいですよ、

 それよりもこっちに来て」

華代は美保を連れだした。

こうして美保が列から離れると、

一人のバレリーナの恥ずかしげに美保がいたところに入っいく。



「ちょっちょっと何処行くの」

華代に連れられて、美保が向かったのはあのリハーサル室だった。

「ちょっと華代ちゃん、あたし時間がないんだけど…」

と言ったとき、

「それぇ〜」

と華代のかけ声が響いた。

「えっ、なに?」

美保が戸惑う間もなく、

頭の飾りがフッ消えると後ろにまとめていた髪がバサッっと解ける。

「え?

 どうして?」

突然解けた髪に美保が驚いていると、

今度は彼女が着ているチュチュのスカートが萎むように消はじめ

程なくしてスカートは消えて無くなってしまった。

「そんなぁ」

さらに足下を飾っていたピンク色のトゥシューズは白い布地のバレエシューズへと替わり、

薄手のバレエタイツは厚手のものへと変化した。

「えぇぇぇぇ?」

美保は驚きのあまり声が出ない。

チュチュの色が黒くかわるとプツンと股下が切れ、

切れた下の裾は臍へと這い上がりだした。

肩紐のみで露わだった肩には胸元から上がって来た布が覆い隠し、

さらに、出てきた袖が両手先へと伸びはじめた。

胸元に金色の刺繍が施されるとチュチュは王子の衣装になった。

「なっ、なんで…」

衣装の変化が終わると、

美保の胸の膨らみが萎むようにして消え、

その後に筋肉がググググっと盛り上がり始めると、

股間にはもっこりと膨らみが現れる。

こうして華奢だった美保の身体は逞しい男の体へと変化し

美保は王子役のバレエダンサーへと変身したのである。

「さぁ敏夫さんが待っているわ、行きましょう」

「そんな…敏夫にこの姿を見せるなんて」

美保は戸惑いつつも華代に引っ張られて舞台に向かい、

舞台袖に来たとき音楽が鳴り始め幕が上がった。

「さぁ、憧れの舞台です。

 行ってらっしゃい」

と華代は言うと、

光り輝く舞台に向かって美保を押し出した。

美保はスポットライトを浴びるのと同時に王子役として華麗に舞い始めた。

やがて、舞台はオデットの登場そして王子との出会いとなり音楽が変わった。

華代は続いて敏夫の所に向かうと、

「さぁ、あなたの出番です。

 美保さんの勇姿を見て上げてください。」

「え?、

 アレが美保?」

舞台で華麗に舞うバレリーノを見て驚く敏夫の身体を舞台へと押した出した。

すると敏夫はつま先立ちのまま、

まるで白鳥が舞うように美保の所へと向かい、

そして、舞台の上で二人は出会った。

「敏夫さん?」

「美保…」

流れる音楽の中、敏夫と美保の演舞はいつまでも続いたのであった。



今回の依頼はちょっと疲れました。

でも、お望みの通り舞台の上で巡り会うことが出来た敏夫さんと美保さん、

これからもバレエ頑張ってくださいね。

それではまた。



おわり