風祭文庫・華代ちゃんの館






「先輩」


作・風祭玲
(原案者・真城 悠)

Vol.001





こんにちは、初めまして。

私は真城華代と申します。

最近は本当に心の寂しい人ばかり。

そんな皆さんの為に、私は活動しています。

まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、

お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。

私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。

どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

報酬ですか?

いえ、お金は頂いておりません。

お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

さて、今回のお客様は――



――シュッ、タン!!

巧みに手具を操り、本番同様真剣な眼差しで新体操の練習に汗を流す一人の少女。

僕はそんな彼女の姿に惹かれてココから見守るのが日課になっていた。

「あっ、また来てる!!」

声がした方を見ると、レオタード姿の一団が僕に向かってきた。

「ちっ違います。僕はただ…」

「何が違うのよ、このスケベ!!」

「どうせ、藤原先輩見当てでしょう」

「さっさとここから出ていってちょうだい」

詰め寄られた末に体育館から追い出されると、

バタンと渡り廊下に面するドアが閉められてしまった。

その様子を見ていた連中が僕の周りに寄ってきて、

「八神、また藤原先輩を見てたのかぁ」

「顔に似合わず、大胆なことをするなお前」

そう言って絡んでくる。

「違うよ、僕は…」

と言いかけたところで、

「もぅ、いい」

と言うと周囲を押しのけ校舎に向かう。

「僕は下心があって藤原先輩を見ていたわけではない。」

そう心の中で叫んでいた。


「おにぃ〜ちゃんっ」

「ぅわぁっ」

突然の呼びかけに思わず声を上げて振り向くと、

そこに一人の少女が立っていた。

「あっ、驚かしちゃった?ゴメンね」

少女は軽く謝ると、1枚の名刺のような紙を差し出した。

「ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代」

とそれには書いてあった。

「悩みの相談?」

僕が訝しげに訊ねると、

「うん」

笑みを浮かべながら少女は頷く、

「悩みねぇ…」

ため息をつきながら体育館の方をながめた。

「ふ〜ん、おにーちゃんの悩みって、さっきの女の人?」

少女はいきなり核心をつく。

「まっ、まぁね、別に藤原先輩に悪さをしようと言うわけではない」

「ただ、あぁやって頑張っている先輩の手助けが出来たらなぁ…ってね」

「お嬢ちゃんに言ったところで仕方がないことだけど」

と言うと、少女は少し考える顔をしたのち、

「なんだ、簡単じゃない」

っとあっさり答えた。

「えっ、出来るの?」 

「まかせて」

「じゃ、あたしと一緒に来て」

と言うなり華代は僕の手を握ると引っ張だした。

「ちょっちょっと、何処に行くの?」

「いいから、いいから、」

華代に手を引かれて着いたところはさっきの体育館だった。

閉められたドアのそばまで引っ張られて来ると、

「まずいよ、こんなところ見つかったら、新体操部の連中になにされるか…」

僕は周囲を気にしていると、

「もぅ、お兄ちゃんったら心配性ねぇ…」

「大丈夫!!、あたしがお兄ちゃんをこの中に入れるようにしてあげるから」

っと華代は言うと

「それじゃぁ始めますよ」 

「そーれっ」 

かけ声がするのと同時にフワッと風が吹き抜けた感じがした。

「えっ?」

と思う間もなく僕の身体は変化し始めた。

 見る見る細くなっていく腕… 

 風船が膨らむように2つの膨らみが盛り上がっていく胸…

 細く括れていく腰… 

 大きく張り出すお尻…

 そして、小さくなっていく身体…

 髪が首筋にまとわりつく、

「か、華代ちゃん…」 

ようやく発した僕の声は少女の声になっていた。


「よぉし、次はその格好ね」

と少女が言うと、

「それっ」

再びかけ声をかけた。 

すると身体が縮んでダブダブになっていたYシャツからボタンが消え、

生地が縮んで肌に密着すると、袖口が手首までスルスルと伸びた。

一方、ズボンからはベルトが消えると足を這い上がるように、

裾が足を駆け上がり、腰まで短くなるとピタリと密着した。

やがてシャツとズボンは混ざり合って1つになると、

黒地に赤のストライプが入った、新体操部のレオタードへと変化した。


さらに華代は、

「あとは、その髪っ」

と言うと、

肩まで伸びていた僕の髪は運動してもバラけないようにきれいにまとまり、

「うん、これなら大丈夫ね」

そう言って華代は満足そうな顔をすると、体育館の扉を開けると、

「じゃぁ、がんばってね」

っと僕の背中をドンと押した。

トット……

押された勢いで体育館の中に入ると、

新体操部の女の子達は練習を中断して一斉に僕を見る。

「誰?」

「新入部員かしら…」 


「…あっ、あのぅ」

レオタード姿の僕はそこまで言うとその場に立ちつくしていた…




今回の依頼も実に簡単でした。

新体操部員になってしまえば彼を悩ませている障害は見事解決、

これからは誰に遠慮することなく先輩のために尽くしてくださいな。

さて、何か困ったことがありましたら何なりとお申しつけ下さい。

今度はあなたの街にお邪魔するかも知れません。

それではまた。



おわり