風祭文庫・人形変身の館






「勇者の目覚め」



原作・あむぁい(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-115





「どうしても、勇者様の力が必要なんですっ。

 この通りお願いしますっ。

 あなたのお力を貸して下さいっ!」

ニーナと御付の侍女達は深々と頭を下げる。

「・・・・・・・・・・・・・」

なんだか日本語では無い言葉を彼女らはしゃべるが、

しかし、何故だかそれは翻訳されて俺の耳に聞こえる。

「あー」

そんな事言われてもな。

「この世界は魔王ネクロンの侵略に晒されているのですっ。

 勇者様の力が無いと太刀打ちできないのです…」

「それで、俺を召還…したと」

いい迷惑な話だ。

折角、剣道の全国大会に優勝し、さぁ祝賀会…

そして、美由紀と約束の…そのっ。

あー、それが召還とやらで無茶苦茶だ。

俺は汗だくの防具の中、身をよじる。

「勝手な話だな…」

「まあまあまあ。

 先ずは、お風呂にでも入って頂いてですねっ。

 話はそれから…」

ニーナの指示で、侍女たちがずずずいっと前に出る。

その時、俺は彼女らが相当レベルが高い美女ばかりなのに改めて気づく。

彼女らは尊敬と憧れの眼差しで俺を見る。



お風呂で美女達に囲まれて俺は隅々まで綺麗に洗われた。

どうもこの世界では男は威張るのが当たり前で。

女は従順なのが当たり前のようで。

俺はたちまちこの世界が好きになった。

彼女らは本当に素直で可愛い。

美由紀の奴は生意気だし。

ちょっと待たせといて、

先にこっちの世界を救うのもいいかもしんない。

俺はそう思い始めていた。

「ああ…

 そこそこ…、
 
 くぅぅ効くぅ」



浴室から出たあと、

俺は大理石のような色合いのベッドのようなものに載せられマッサージを受けていた。

試合の…

大会の疲れが取れて…

はぁ…

俺はすっかりいい気持ちになった。

「気持ち良いでしょ。

 この娘たちはみんな勇者様のサポート部隊なんですよぉ。
 
 なんせ勇者様に魔王ネクロンを倒してもらわないと、
 
 あたし達の世界は終わりなんですよぉ。
 
 ね、
 
 あたし達を助けると思って、
 
 あなたも協力して下さいな…」

ニーナが夢うつつの俺に甘く囁く。

やばい…

思わず”うん”と言ってしまいそうだ。

しかもニーナがまた結構俺の好みで…

お風呂での事を思い出して俺は紅くなる。

「でも…」

「超高校級の期待の新星。

 切れ味抜群の剣士、聖(ひじり)剣(けん)
 
 その切っ先を逃れられるものはいない…
 
 その才能、
 
 闘志…
 
 平和な日本で埋もれさすのは余りにも惜しいわ。
 
 それはこの剣と魔法の世界でこそ真価を発揮するもの。
 
 その力、是非、あたし達の為に…」

うわっ褒め殺しだ。

分かってはいるけど…

正直言って、ホンモノの剣で人…か

魔物かよく分からないけど、

それを斬ると言うのはなんだかすごく魅力的な選択肢に思えた。

今の日本で俺の敵になるほどの剣士がいないと言うのも多分事実…

強いものと戦いたい…

それは剣士のサガのようなもの…

俺は迷っていた。

「それに剣様の命に危険はありませんし…」

「へ…そうなの?」

「?

 はい?
 
 そうですけど」

「あは。

 あはははは」

なんだそうか。

命掛けじゃないんだ。

俺は安全なんだ。

それなら…キラーン☆

「お嬢さん、

 俺にすべてを任せて下さい。

 必ずやネクロンとやらの野望を粉砕し、
 
 あなた達を守って見せます」

試合でも見せたことのない素早さで俺はニーナの腰を抱き寄せると

キラリ☆

清潔そうな歯を輝かせながら笑顔で宣言した。

「きゃぁぁぁぁぁ!!!」

「ありがとうございますぅぅぅ」

忽ち俺は歓声につつまれ、飛び込んできた侍女達にもみくちゃにされる。

「うわはっはっはっ!!

 大丈夫大丈夫、
 
 大船に乗ったつもりでいなさい!!」

まさに両手に花!!

俺は思いっきり鼻の下を伸ばしながら声を上げた。

ふっ美由紀のやつを待たせるのは悪いけど。

まずはこの世界を救ってやるか。

それが勇者の役目!!!

この世界のヒーローになった自分の姿を妄想していると、

「えー、

 それでは先ず、勇者覚醒の儀式を行わなければなりません」

とニーナが俺に言った。

「ふむふむ

 そーだよなぁ
 
 儀式は大事だよなぁ…」

ニーナの言葉に俺は素直にうなづくいていると、

「まずはここに横になって下さい」

とニーナは自分の前に用意してある寝台を指差した。

「あっうん」

ニーナの指示に従い俺は頷いて横になる。

「剣様、ちょっとそこでブリッジして頂けませんか」

「(ブリッジ?)こ、こうか?」

何でブリッジ?

とか思うが、

俺は体の柔らかさを自慢するかのように、

素直にブリッジをしてみせた。

「ええっと、

 そうですね、
 
 足をもうちょっと、こう。
 
 そんで、手が…こんなもんかな。
 
 はい、フリーズ」

「え?」

ニーナは俺の姿勢を適当に微調整した後、

お腹をぽんと叩く。

たちまち俺の体は身じろぎできなくなる。

「あの…」

俺は混乱してニーナを問い詰めようとするが、

しかし、ニーナは紅い飲み物を口にすると口移しでそれを俺に飲ませようとする。

え?

それって…

ちょちょっと、

うわぁぁぁ

ゴクン!!

喉を通る甘い液体が俺の体を熱くする。

その一方で、

「あはん。

 あたしまで変な気持ちに…」

ニーナも顔を赤らめた。

なっなんだよ…

これぇぇ!!

姿勢を崩せないまま俺は心の中で叫んでいると、

はらりっ。

俺の下半身を覆っていたタオルが落ち。

屹立した俺のペニスが姿をあらわす。

やべぇぇぇ!!

ニーナを前にして素っ裸になってしまったことに俺は赤面すると、

「うふふ。

 ご協力感謝しますよ。
 
 剣さまっ。
 
 じゃあ、早速、勇者候補の方に入ってきてもらいましょう」

とニーナは俺に告げた。

「はあっ?」

いっいま、なんて言ったのですか?

確か”勇者候補”と…

ニーナが俺に告げた言葉に俺はキョトンとしていると、

ズシン!!!

最初にやってきた人物は筋骨隆々の巨人だった。

なっ

何だこれは!!

目を剥いておれは驚くと、

ムンズ!!

男は俺のペニスを掴むと乱暴にこすり上げる。

「ひぎぃ…」

「う〜ん、不合格ですね。

 はいっ次の方」

俺の惨状を横目に見ながらニーナは事務的に進めていく、

『うぃーす』

次に入ってきたのは背中に刺青の人相の悪い男だ。

乱暴に俺のペニスを掴むと、根元に爪を立てる。

「いてててて」

「あー、不合格ですぅ」

その後も俺はお尻に指を突っ込まれたり、

ペニスをしゃぶられたり、

ねじられたり、

ろうそくをたらされたり、

氷で冷やされたり、

さまざまな方法でペニスをいじられた。

その一方で、俺のペニスは暴発寸前なのだが、

何故だか一向に射精はできないのだった。

なんかズキズキするし、

痛いし。

「っかしーですねー。

 勇者様は聖剣を引き抜けるはずなんですけどねー。
 
 あー、次」

首を傾げながらニーナはそういうと、

「な?

 何だと…」

その言葉に俺は朦朧としながらも聞き返した。

しかし、ニーナはそれには答えず

いつの間にか用意していた帳面にチェックを入れる。

おっおいっ俺は…一体…

しかし、次の男も次の男も…

誰も俺のペニスを引き抜く事はできなかった。

って、抜くなーっ!

その時、どこから紛れ込んだのか、

どう考えても場違いな一人の少年が、

俺のそばにとことこ近寄った。

どくんっ。

「あら、なんでこんな子供が…」

どくんっ。

どくんっ。

「ああーっ、ああっ」

俺はその少年から目が離せなくなっていた。

心臓が高鳴り。

汗がだらだらと流れ出た。

ひょいっと、少年は俺のペニスを掴むと。

俺の体に電撃が走り。

あたり一面に光が走る。

俺のペニスが熱を帯び、細かく振動し始める。

「こ、この光はっ、

 まさかっ、この子なのっ!?」

ずるずるずるっ。

「ああああああああっ?」

俺の体からゆっくりと紅くて銀色がかかった不思議な棒状の物体が引き抜かれていく。

その棒に絡まった腸か内蔵か。

少年はそれを無造作に掴むと引きちぎって捨てる。

「くぅ…」

力とか、

神経とか、

闘志とか。

そんなものが俺のペニスと共に引き抜かれていく。

俺の全てが引き抜かれていく。

みるみるうちに、少年の筋肉は張り。

瞳には精悍さを湛え。

歴戦の勇者の雰囲気すら身にまとい始めた。

カリスマがまぶしい。

少年は俺の体から引き抜いたペニスを高らかに掲げる!

あたりに光が満ち、誰もが少年に傅く。

勇者の覚醒の瞬間だ。



一方俺の体からは。

筋肉がすっかり落ち。

勇気とか闘志とかそういった感情がみるみる萎えて。

この変化に恐怖し震えるしか無かった。

剣道やこれまでの経験がすっかり自分のものでなく,

彼のものになったのがわかった。

そして、二つの胸は少しずつ膨らみ始める。



俺は涙が止まらなかった。

俺のペニスは引き抜かれ。

体はすっかり女性化し。

隣では勇者覚醒おめでとうパーティーが大々的に開催されていると言うのに。

俺はすっかり忘れさられて、

台の上で動けないままだった。

ひどすぎる…

俺は勇者じゃなくって。

聖剣をその身に持っていただけだったんだ。

今じゃあ何もかも失って、ただの女の子…

くすんくすん。

とたとたとた。

「いやー、悪ィ悪ィ。

 サヤの事すっかり忘れてたわ」

どんちゃん騒ぎが終わって、ニーナが戻ってきた。

俺のお腹をぽんっと叩くと俺は動けるようになる…

「もう、盛り上がったのなんの!

 あ、サヤも何か食べる?」

体中が痛くて、

悔しくて。

お腹がすいてて。

俺はその場で崩れ、ゆっくりと四肢を伸ばす。

「あの…サヤって?」

「あー、もうずっと女の子だから。

 剣じゃ変でしょ。
 
 サヤ。
 
 可愛い名前でしょ」

「お、俺は…」

「しーっ!」

ニーナは慌てて俺の口を押さえる。

「駄目ですよ、女の子が「俺」なんて言っちゃ。

 うちの国では重罪です!」

「そ、そんな…」

「あらー、顔色悪いですね。

 って、内臓捨てちゃったからねー」

「ああっ!」

そうだった。

ペニスと共に俺の内臓の一部は腹から取り出され捨てられてしまったのだ。

俺のお腹は空っぽだ。

俺は抗議をしようと…しようと…

変だ…怒りとか…全然沸かなくて…。

争いごとは嫌い。

泣きそうなあたしにニーナは優しく声を掛ける。

「大丈夫。

 薬を塗ってあげるから」

ニーナは大きな甕を出し。

あたしの穴に手をつっこんでたっぷり薬を塗りこんでくれる。

ずきずきする痛みがすっかり引いて。

ニーナの手の感触が僕のお腹の中をまさぐり続ける。



なんとか動けるようになったあたしはご飯を食べに、

宴会場の隅っこに通される。

上座では聖剣をバックにした勇者様が談笑している。

勇者様の周りには手付かずのご馳走がたっぷりあるが。

あたしのご飯は明らかに誰かの食べ残しだ。

ちょっとニーナに文句を言いたくて。

ニーナを見るけど、彼女は無言で。

仕方無くあたしは残飯を食べ始める。

不味い。

不味いよう。

あたしの頬を涙が伝う。

涙が止まらなかった。

ほとんど、剣一筋だった。

それが、全部…人のものに…

あたしが勇者じゃなかったなんて。

あたしが女の子だったなんて。

…、

なっとくいかなーい!

あたしはすっくと立ち上がり、勇者様のいる上座へ向かう。



「あのっ、あのっ」

言葉が上手く出ない。

「返して下さいっ!

 それはあたしのなんですっ!」

あたしは聖剣を指差す。

あたしの。

あたしのものだったおちんちん。

あたしの全て。

勇者様は怪訝な顔をする。

「誰、君?」

衛兵が駆け寄り、あたしを押さえつける。

「は、離して…あたしは…」

「このモノはサヤ。

 聖剣様の覚醒時に脱ぎ捨てられた残りカスでございます」

ニーナが口をはさむ。

あたしは…残りカス…

「どうも…駄目みたいですね。

 覚醒時に内臓を捨ててしまいましたので
 
 放っておけば3日と持ちますまい」

そうなんだ…

あたしは…

涙が…

「なんせ、食べてもすぐ出てしまうようで」

ニーナの視線を追うと。

あたしの通って来た道に。

食べ物がこぼれている。

点々と。

そしてそれは

あたしに続いていた。

「勇者様、このモノに最後のお情けを賜りたく」

「どうする?」

「お任せ下さい。

 立ちなさい、サヤ」

あたしは左右から抱えられて立たされる。

「聖剣様が欲しいでしょう」

「欲しい…欲しいです」

あたしはうわ言のようにつぶやく。

「死ぬのは嫌でしょう?」

「いや…嫌です」

「大丈夫。

 何も心配しなくていいから」

「…はい…」

あたしは何杯もお酒を飲まされた。

飲んだ先から、あたしのお尻から漏れていった。

お腹の中が…綺麗に…

何杯も何杯も飲まされた。

あたしは裸になって。

お風呂で綺麗に洗われた。

あたしは全身にお薬を塗られて。

お化粧されて。

再び、勇者様の前に引き立てられた。

あたしの勇者様…

「ふむ。

 思ったより綺麗になった」

「ええ…気をつけの姿勢よ、サヤ」

あたしは気を付けの姿勢をする。

裸を勇者様に見られてとっても恥ずかしい。

「上を向いて口を開けなさい。サヤ」

あーん。

あたしは上を向いて。

大きな口を開ける。

勇者様が近づき、あたしの顔を覗き込む。

「これが欲しいか、サヤ」

勇者様の言葉にあたしはよだれをたらして頷く。

ゆっくりと。

聖剣の刃先が。

あたしの口から。

あたしを満たす。

ぐい。

ぐい。

ぐい。

あたしは思わず手を開いて。

指がパーの形に伸びる。

かちっ。

それはぴたりとあたしの体に嵌る。

あたしの目は目の前の聖剣の柄から離れない。

あたしのペニス。

お帰りなさい。

ぽんっとニーナに肩を叩かれ。

あたしの体は縮み始める。

硬く硬く

光沢を放って

心が落ち着いて

満たされて

満たされて

ひょいっとあたしは勇者様に掴まれて。

腰のベルトに結び付けられてしまう。

勇者様が歩くたびに。

動くたびに。

あたしは声をあげそうになって。

あげれなくって。

でも…

あたしはサヤ。

これからはいつも一緒です。

聖剣と。



おわり



この作品はあむぁいさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。