風祭文庫・人形変身の館






「オイルバス」



原作・あむぁい(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-106





「それじゃあ、後はよろしく頼むわね」

その声を残してあたしは仕事を切り上げ帰る事にする。

仕事は大変だがやりがいがある。

とは言え、金曜日の夜は早く帰る事にしている。

エリート官僚とは言えリフレッシュもたまには必要だ。

職場を後にしたクルマは夜の街を駆け抜け

いつもは右に曲がる交差点を今日は直進し、

暗い路地へとクルマを進めていく。

ザザザザ…

キッ!

砂利道の果てに姿を見せた駐車場にあたしはクルマを止めると、

目の前に姿を見せた何も看板が掛かっていないビルへとあたしは入る。

エレベーターすらない、暗いビル。

コンコン!

躊躇いも無くあたしはドアをノックし、

「玲子です」

と名前を告げた。

すると、ドアチェーンをつけた扉から鋭い眼が覗き、

あたしを見る。

外人だ。

眼はあたしを確認すると、無言でドアを開ける。

「……」

すると、あたしは良く知っているかのように部屋へと入り、荷物を置き、

動作を止めずに服を脱いで全裸になる。

身に着けていたものを全て取り、

そのまま部屋の隅にある白いベッドのそばに行くと、

そのまま仰向けに寝転がる。

すると、外人があたしのそばに立ち

そして、あたしの顔に手を触れると、何かを探すかのように顔をまさぐりはじめた。

頬と鼻の間を強く押されると、何かが凹むような感触。

なんだか、全身に違和感が起こる。

…あたしは何をしているのだろう。

ふと疑問がわき上がる。

ここはどこで、彼は何者なんだろう。

しかし、体を動かす事はできない。

あたしは只、天井を見つめいる。

鼻の上に何か銀色のものが浮き上がってくる。

…一体何?

眼の焦点が合わず、判別できない。

「ジャオロンガレル」

良くわからない言葉をつぶやき外人がその銀色のものを掴むと、

一気に引っ張った!

チーッ。

軽い音共にそれは振動をしながらあたしの顔の上を一気に下へと降りていく。

そう、チャックだ、

あたしの顔はファスナーになっているのだ…

チャックはあたしの胸の谷間、

おへそ、

お腹、

そして肛門まで一気にフ引き下げられる。

…あん。

刺激にあたしは身をよじろうとするが動けない。

ファスナーの間からは黒い体が見える。

目の前の外人と同じ色の肌。

あたしは何が何だかわからない。

なんであたしにチャックがついているの?

外人はあたしの足を持ち上げると、右足指の先をマッサージする。

足指の先が気持ちよくなると、何だか違和感が走る。

皮が…あたしの皮が浮いている。

空隙ができるとあっと言う間だった。

男が皮を引っ張ると、あたしの皮がびろんと伸びる。

男はあたしの下腹部に手をやると、ファスナーと体の間から手を入れる。

…あん、くすぐったい。

 おちんちんが見える。

 なんで?

 なんであたしに?

男は空気を皮と体の間にどんどん入れる。

…あ…、変な気持ち。

毛の感触が気持ち悪い。

男が力を入れると、びよんとあたしの足の皮は伸びて。

まるで男のような筋肉質の足が中から現れる。

びよよん。

…い、痛い。

 あんまり引っ張らないで。

しかし、あたしは口を開く事ができなかった。

あたしの皮の下の足はあたしの意思に関わらず勝手に動き。

あたしの足は脱がれてしまった。

まるで、脱ぎ捨てられたタイツのようになってしまったあたしの足の上に。

あたしの中に入っていた男の足がのせられる。

重い…

今度は男の手はあたしのお腹や胸に向かうと。

中の体とあたしの皮の間に手をつっこみ、

あたしの皮を剥がして行く。

…くすぐったい…

やがて、あたしの手も、脱ぎ捨てられてしまった。

…ど、どうなってんの。

あたしは泣きたくなってきた。

なんで、あたしの中から外人が出てくるのよ…

「ふいいいい」

あたしの顔のすぐそばで、ため息が聞こえる。

「べてんれつるんぱ」

そばに立つ男がなにやらしゃべる。

あたしの意思とは全く関係無く。

視線が上がる。

中の体が上体を起こしたのだ。

あたしの顔と中の顔の間に指が突っ込まれると、

空気が入ってきて視界が逆転する。

あたしの頭はぺしゃんこになって。

左の手も、足も、中の体から引き剥がされて。

あたしはベッドの上にパジャマのように脱ぎ捨てられてしまった。

…ど、どうなってんの?

泣きたくなったが、泣く事もできなくなっていた。

自分の皮が邪魔で片目でしか見れなかったが。

男たちはなにやらわけのわからない言葉をしゃべって会話している。

なにやら難しい表情。

まずい。

なんだか指の先が乾いて来た。

水分を失っているみたいだ。

…た、たすけて…

あたしは乾燥の恐怖に襲われた。

しかし、勿論、口は動かせない。

「でれるりばんぱ!」

男の一人が気付いてくれたのか、

あたしを掴むと、持ち上げる。

あたしはすごく軽くて。

くしゃくしゃにされて、視界が真っ暗になる。



あたしはなんだか温い液に浸される。

黄色い液だ。

どろりとした感触。

オイルだろうか。

なんだか、気持ちよくなって。

少し眠たくなってくる。

あたしの皮と皮の間にオイルが入ってきて。

体がじんわりとほぐされる。

あたしの目の前にあったあたしの皮が移動して。

あたしの視界が広がる。

黄色い液を通して天井。

どうやら、風呂場のようだ。

あたしは風呂場でオイルにつけられているのだ。

何で体がこんなんで生きているんだろう。

チャックが下ろされるまでのあたしは一体なんだったんだろう。

あんまり難しい事が考えられない。

あたしはエリートだったのに。

でも駄目ね。

どう考えても脳が足りない。

だって、こんなに軽くて、ぺらぺら…



どの位放って置かれたのだろう。

あたしはぼんやりたゆたっていた。

裸の男が入ってくる。

見覚えのある方だ。

あたしを脱がせた男。

男はあたしを掴むと、

湯船から引き上げる。

袋状の足や手に油が入っていて。

体がとても重い。

ぽたぽたと手や足の先から油が落ちる。

男は適当にあたしの手足を上にしたり下にしたりして中の油を湯船に戻す。

あたしの前に男の背中がある。

あたしの顔と胸は男の背中に密着している。

へばりついている。

男の足があたしの足の中に入っていく。

あたしの足が押された油で膨らむ。

…気持ちいい。

男の手があたしの足を指先から腰にかけてなぜる。

中の男の足の毛の感触と男の手にサンドイッチされて、とても気持ち良い。

あたしの足と男の足がぴったりとへばりつく。

そして、もう片足。

ずるずるずる。

空っぽのあたしの中に入ってくる。

次に男の腕はあたしの胸や腰を触って、あたしの右半身の中に入ってくる。

びよよん。

あたしの体が伸びて。

あたしの右腕に中身が入ってくる。

ポタポタ

流れ出る油。

次は左、だんだん充実してきた。

あたしの首は180度曲がり、後ろを見ている。

…うっ酔いそう。

あたしの手が動き、頭に手をやる。

首をびよんと伸ばして。男の頭があたしの頭の中にすっぽり入る。

髪の毛の感触が気持ち悪い。

男の手があたしの顔をなぜていく。

ぬるぬる。

油や空気の固まりをきれいに押し出し。

丁寧に丁寧になぜると、あたしの頭と男の頭はぴったりフィットする。

あたしは手や足の油や空気のかたまりを丁寧に押し出す。

すっごく気持ちが良い。

あらかた空気と油を押し出すといよいよチャックだ。

あたしはおちんちんをしっかり中にしまうと、チャックをつかむ。

そ〜っと、引き上げると鋭い快感が走る。

…ん。んんっ。

一気にクリトリスまで引き上げる。

空気出し。

しっかりフィットさせないと。

また少しチャックを上げる。

空気出し。

チャック。

空気だし。

チャック。

空気だし。

全身を男にまさぐられているようでとても気持ち良い。

いよいよ胸だ。

これが難しい。

とりあえず首までチャックを上げて。

湯船につかると、油を手桶で汲んで胸の中に入れる。

空気を抜いては油を入れて、

何度も繰り返して形を整えて完成。

最後に空気を抜きながらチャックを少しづつ上げて、

顔のチャックも完全に閉まると。

チャックは収納されて消える。

…はあ。

 つかれた。

あたしは気だるさの残る体に活をいれようと、

湯船から出てシャワーを浴びる。

冷たいシャワーが気持ち良い。

さあて、仕事だ仕事。

あたしは気持ちを切り替える。

あたしはエリート官僚っ。

沢渡玲子なんだからっ!

うふふ。

何故だか自然と笑いがこぼれる。

今日もお仕事、がんばろうっ!



おわり



この作品はあむぁいさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。