風祭文庫・人形変身の館






「天狗の面」


作・風祭玲

Vol.416





テンツクテンツク

住宅に囲まれた鎮守の森に祭囃子が響き渡ると、

ザワザワ…

その囃子に誘われるようにして三々五々人々が集まり、

いつもは静かな境内がこの日だけは参拝者でごった返していた。

そして、そんな参拝者の列を

「はぁ…」

社務所の前に置かれた机に頬杖をつきながら

白衣に緋袴の巫女装束姿のあたし・野島美沙緒はぼんやりと眺めていると、

「はーぁ

 受付係って楽な反面、暇よねぇ
 
 あーぁ、
 
 あたしもこんなところに座ってないで
 
 遊びたいなぁ…」

来客で忙しかった午前中とは打って変わり、

来客の足がパタリと途絶えた午後、

あたしはそんな文句を言いながら受付簿の隅に落書きをしていた。



あたしの家は創建から700年の歴史を持つこの神社の神主を勤め、

あたしのおじいちゃんである野島勝太郎はその39代目の神主であった。

だから、孫娘であるあたしはお祭りのときは

こうして巫女として御勤めをしているんだけど、

でも、たまにはこんな巫女装束なんか着ないで遊びたんだよねぇ



ミーンミンミン…

蝉時雨とともに日は西へと傾き、

短かった影が次第に長く伸びてきた頃、

「こんにちわっ」

あたしの前に1人の人影が立つと男の人の声が響いた。

「はっはい」

その声に驚いたあたしは落書きをしていた手を休め、

慌てて顔を上げると

「(ドキン)!!

 たっ高野さん」

その人を見た途端、

あたしの胸の鼓動が大きく高鳴り、

顔が見る見る引きつっていく。

「どうした?

 びっくりした顔をして、

 おじいさんはこの中?」

机越しに立つ男性・高野さんはそう尋ねながら社務所を指差すと、

「あっはいっ

 ちょっと待ってて下さい」

ガタン!!

慌てて席を立ったあたしはそう言い残すと

大急ぎで社務所の中に飛び込んでいった。

「やっばぁ…

 見られたよぉ、

 絶対にぃ

 どうしよう…

 恥ずかしいよぉ」

あたしは衣の合わせ目を手で押さえながら恥ずかしさを吹っ切るように走っていくと、

ガラッ!!

おじいちゃんが居る部屋の引き戸を力いっぱい開き、

「おじいちゃん、

 高野さんが来たよ」

と声を張り上げた。



「失礼します…」

あたしに案内された高野さんはそう返事をしながら

おじいちゃんの部屋に入っていくのを見届けると、

「はぁ〜っ」

あたしは大きく息を吐き、その場に座り込んでしまった。

ドキドキ…

あっまだ胸が高鳴っている…

あの男の人は高野健二さんと言って、

あたしよりふたつ年上でいま東京の大学に通っている。

で、なんで今日この神社に来たのかというと、

なんでも、とある戦国武将に使えていた高野さんの先祖が

あたしの神社で祭っている天狗からのお告げでピンチを切り抜けたそうで、

それ以降、その時のお礼として

代々うちの神社のお祭りで舞を奉納するのが仕来りになったとか、

でも、あたしにとってはこうして高野さんに会えるのが嬉しかった。

だって、高野さんってあたしの憧れの人なんだから…



「はぁ…いきなりだったから…

 緊張しちゃったよ」

胸の動悸を抑えるかのようにあたしは胸に手を置き息を整えていると、

ガラッ

閉っていたドアが開き、

神職姿のおじいちゃんが顔を出すと、

「なんだ、美沙緒、

 こんなところに居たのか

 すまないが、

 出しておいてある”天狗の面”を取ってきてくれないか」

とあたしを見下ろしながら声を掛けた。

「はっはいっ」

おじいちゃんの声にあたしは飛び上がる様に立ち上がると、

トタタタ!!

緋袴を翻して”天狗の面”が置いている部屋へと走っていった。



「えっとぉ」

社務所から棟続きになっているあたしの家に入ると、

お祭りの前に神社の宝物庫より出した”天狗の面”が置いてある部屋へと入っていく、

すると、6畳ほどの部屋の真ん中のテーブルの上に漆塗りの盆が置いてあり、

その中から”天狗の面”が赤い顔を覗かせていた。

「あっこれね」

あたしは神々しい気配を放つ”天狗の面”を手に取ると、

「はぁ…

 あなたはいいわねぇ
 
 高野さんの顔につけてもらうんだから…
 
 あたしもいっそ天狗の面になれば

 高野さんと一緒に舞えるのに…」
 
天狗の面をじっと見据えながらあたしはそうつぶやくと、

そっと口を天狗の鼻に近づけ、

チュッ

と軽くキスをした。
 
「へへ…

 こういうのって間接キスって言うのかな」

小さく舌を出しながらあたしは悪戯っぽく言って、

そして手にしていた天狗の面を盆に返そうとしたとき、

ピシッ!

突然、”天狗の面”の額に縦の筋が入ると、

一瞬、天狗の面が怒ったような顔になった後に、

パキン!!

っと言う音を立て真っ二つに割れてしまった。

キャッ!

突然のことにあたしは思わず割れてしまった”天狗の面”を放り投げてしまうと、

カツン!!

天狗の面は音を立てて床の上に転がっていった。

「え?

 あぁ!!!」

床の上を転がって行く”天狗の面”にあたしは我に返ると、

慌てて拾い上げるが、

しかし、”天狗の面”は真っ二つに裂け無残な姿になってしまっていた。

「どっどうしよう」

おじいちゃんより神社の宝と常日頃聞かされていた物だけに

あたしのショックは大きかった。

そして、半ばパニックになりながら割れた”天狗の面”の幾度もあわせていると、

フワッ!

部屋の空気が不意に動いた。

「!?」

ザワザワ…

まるで大柄の人間があたしの周りをグルグルと回るような空気の動きに、

「だっ誰?」

あたしは本能的に怯えると、

『お前か…

 このわしに不純なことをしおったのは』

威厳のある男性の声が部屋に響き渡った。

「ひっ」

響き渡ったその声にあたしが飛び上がると、

『お前の不純な行為によって私の面は砕けてしまった
 
 この罪は重いぞ』

再び声が響いた。

「不順な行為って、

 そんなぁ…」

響く声に思わずあたしが口応えをすると、

『口応えをするなっ

 割れてしまった私の面の代わりにお前の体を使わせてもらうぞ』

そんな私を戒めるかのように声が響いたが、

しかし、その最後の言葉のとき、

あたしの体の一部が動くと、

その声はあたしの体の中から響いていた。

「!!!」

その感触にあたしは思わず緋袴を押さえ、

「なっなに?

 あっアソコが喋った?」

真っ青になりながらあたしはその場に座り込んでしまった。

すると、

『何を驚いておる、

 さぁ、お前はいまから私のヨリシロとなるがいい』

再びあたしのアソコが動いて、声を出すと、

ムクムクムク!!!

あたしのクリトリスが見る見る膨らみ始めた。

「いやぁぁぁ!!!

 何これぇ?!」

瞬く間に親指ほどの大きさに膨れ、

さらに大きさを増していくクリトリスにあたしは驚くと、

『ははは…

 何を驚いておる、
 
 まだまだだ!!』

声がそう叫んだ途端、

ズンッ!!

あたしのクリトリスは思いっきり膨らむと、

穿いていた緋袴を下から逞しく突き上げてしまった。

「いやぁぁぁぁ!!」

ズイッ!

まるでテントの支柱のごとく緋袴を突き上げる棒に

あたしは驚くと、

ウニィ…

今度はあたしのアソコが横に広がり、

そして左右に開いた両端が上に向かって持ち上がっていった。

「なっなによ

 どうなっているの?」

シュルリ…

あたしはアソコはどうなってしまったの確かめようと、

大急ぎで緋袴を脱ごうと締めてある紐を解き始めると、

グリッ!!

今度はオッパイが斜めに裂ける感覚が走ると、

何かがオッパイの中から飛び出してきた。

「ひぃぃっ!!」

もはや猶予は無かった。

緋袴と白衣を脱ぎ捨て、

そして下着を取ったあたしは自分の裸体を見るなり思わず悲鳴を上げてしまった。

「そっそんな…」

『ふふふふ…』

巫女装束を脱ぎ捨て出てきたあたしの体は

股間からまるで天狗の鼻のように聳え立つ真っ赤な肉棒と

その下で大きく開いている口となってしまったアソコに、

そして、オッパイには睨み付けるような鋭い目が左右に開いていた。

「なっなんなの?」

体全体が文字通り、

天狗の顔と化しているその様子にあたしは驚くと、

『さぁ…

 一気に行くぞ!』

ジロッ

天狗の顔は上を睨みながらあたしに告げた途端、

ムリムリムリ!!

あたしの体は一気に変化しはじめた。

「いやぁぁぁ!!」

体は赤く染まりながらさらに顔の形に変形し膨れ上がっていくと、

手足は顔と化していく体に飲み込まれ、

また、あたしの顔も伸びていく髪の中へと埋もれていく、

『うぐぅぅぅ』

髪の毛の中に埋もれながらもあたしは自分の体の形が見る見る変わって行くのを感じていると、

今度は

シュルル…

パキパキパキ!!

天狗の顔となった体が小さくなっていくのと同時に弾力性が消え始めだした。

『いやぁぁぁぁ』

次第に硬くなり、厚みが消えていく自分の体の様子に

あたしはそのときになって自分が”お面”に変化していることに気づいたが、

しかし、それに気づいたときには、

コロン!!

あたしは”天狗の面”となって床の上に転がり落ちていた。

『なに?

 あたし…お面になってしまったの?』

動かすことの出来なくなってしまった自分の体にあたしは驚いていると、

「おーぃ、美沙緒

 いつまで掛かっているんだ」

おじいちゃんの声が廊下から近づいてくると、

ガラッ!!

ドアが開くと同時におじいちゃんが部屋に入ってきた。

『おっおじいちゃん!!』

部屋に入ってきたおじいちゃんの姿にあたしは思わず声を上げたが、

しかし、お面となってしまったあたしの声はおじいちゃんに届くことなく、

「なんだ?

 まったく美紗緒め、

 あれほど大切に扱え
 
 と言っておいたのに、”天狗の面”を放り出すわ、
 
 巫女の衣装は脱ぎ捨てたままとわ、
 
 まったく」

部屋の様子を見たおじいちゃんはそう言いながら怒りだすと、

『違うのよ、

 あたしは、ここに居るのよ』

あたしは力いっぱい叫んだ。

けど、幾度叫んでもあたしの声はおじいちゃんに聞こえるはずは無く、

あたしを拾い上げたおじいちゃんは”天狗の面”が入っていた盆にあたしを乗せると、

高野さんが待つ部屋へと持っていってしまった。



「いやぁ、

 お待たせをしてしまって」

手にしている盆の上に載せてある”天狗の面”が

あたしであることに気づかないおじいちゃんはそう返事をしながら部屋に入ると

そこには天狗の衣装に着替え終わった高野さんが待っていた。

「いぇ、

 時間は十分にありますから」

高野さんは絵顔で返事をすると、

「では」

と言いながら、

差し出されたあたしを丁寧に手に取るとゆっくりと自分の顔へと近づけていった。

『え?

 これってまさか、
 
 あたしを?
 
 あっ待って、
 
 そんな…
 
 いやっ
 
 恥ずかしい!!』

恥ずかしがる間もなく、

ヒタッ

あたしは背中から高野さんの顔に貼り付けられた感覚が走ると、

『いやぁぁ!!

 高野さんの口があたしのアソコに当たっているよぉ!!
 
 それに息が体の中を抜けて行くぅぅぅ!!』

あたしはお面となってしまった自分をイヤというほど実感させられてしまった。

すると、

「!?」

高野さんが何かに気がつくと、

「どうかしましたか?」

おじいちゃんが高野さんにワケを尋ねた。

すると、

「いえっ

 ただ、このお面…
 
 以前と何か違いますね」

高野さんは確信をもてないものの、

でも、これまで付けていたお面と直感的に違うことを悟っていた。



そして始まった高野さんの奉納の舞…

既に日が落ち、

夜の闇の中に浮き出るように高野さんとあたしは境内に設けられた舞台の上に立つと

雅楽の調べにゆっくりと身を合わせる様に天狗の舞を舞い始めた。

『あぁ…あたし…

 高野さんと一緒に…
 
 しかも裸で…
 
 いやっ
 
 見ないで、
 
 お願い…
 
 違うのよ、
 
 お面じゃないのよ、
 
 あたしよ美紗緒よ、
 
 いやぁぁぁ』

衆人の注目を一身に浴びたあたしは恥ずかしさでいっぱいになると、

ジワッ

天狗の鼻がほんのりと熱くなってしまった。

高野さんの舞はさらに続き、

あたしの体は高野さんの息と汗でびしょびしょになってしまっていた。

『はぁはぁはぁ

 あぁ、
 
 高野さんの息があたしのアソコを…
 
 いっ
 
 いぃ…
 
 あたし濡れているの…
 
 あぁ…びしょびしょに濡れているのよ』

それを肌身で感じながらあたしはいつしか上気すると、

ジワッ!!

その快感に身をゆだね、

そしてそれは、イク感覚へと変化していった。

『いぃ…

 ひとりエッチよりもずっといぃ…
 
 あぁ…
 
 だめ、
 
 いっちゃう
 
 いっちゃうよぉ』

見物人の視線を一身に浴びながらあたしは上気し絶頂へと上り詰めていくと、

高野さんの舞いもクライマックスを迎えようとしていた。

そして、

舞が終わるのと同時に

『あっあっあぁぁぁぁぁ!!!

 いっちゃうっ!!』

絶頂に達してしまったあたしは

ビクビクビク!!

体の中を電気が駆け抜けると気を失ってしまった。



『誰?あなたは?』

『ワシか?

 ワシはこの社に祭られている天狗じゃ』

『天狗?

 あっ!!
 
 あたしの体を元に戻してよ!!』

『よかろう』

『え?』

『お前は私が与えた試練を立派に果たした、

 元に戻してやろう
 
 さらばだ』

そんな天狗の会話が終わった後、

ハッと気がつくとあたしは布団に寝かされていて、

じっと天井を眺めていた。

「どこ…」

天井を眺めながらあたしはそう思っていると、

ガラッ!!

突然、ドアが開き、

「あら起きたの?」

と言う声と共にお母さんが部屋に入ってきた。

「あっお母さん…」

部屋に入ってきたお母さんの姿にあたしは飛び起きると、

「え?」

眼下に見えた巫女装束姿の自分の姿にあたしは驚き、

「お面じゃない…」

とつぶやいた。

すると、

「何寝ぼけたこと言っているの?

 ほらっ
 
 起きたのなら、
 
 さっさと高野さんのところに行って謝ってきなさい、
 
 もぅおじいちゃんはカンカンなんだからね」

突き放したようにお母さんはあたしにそう言うと、

「え?」

お母さんのこの言葉にあたしは驚き、

「なにがあったの?」

と恐る恐る尋ねてみた。

すると、

「何があったのではないわよ

 高校2年にもなって木登りをして
 
 その上、高野さんの舞台の上に落ちてくるだなんて、

 おじいちゃん呆れていたわよ、
 
 いいから、高野さんに謝ってくる!
 
 さっさとしなさい」

お母さんは呆れながらそう言うとそそくさと部屋を出て行ってしまった。

「木登り?

 あたしそんなこと…してないよ」

狐につままれたような気持ちであたしは高野さんがいる部屋に行くと、

「あのぅ…

 申し訳ございません」

と謝り、頭を下げた。

すると

「あぁ、舞台のこと?

 そんなに気にすること無いよ」

そんなあたしを宥めるかのように高野さんはそう言い、

そして、あたしの耳の傍に口を寄せると、

「あの天狗のお面、美紗緒ちゃんだったんだってね」

と耳打ちをした。

「え?」

高野さんのその言葉にあたしは驚くと、

「ふふ…

 天狗が教えてくれたよ」

高野さんはそう囁くと、

テーブルの上に置かれている天狗の面を指差し、片目を瞑って見せた。



おわり