風祭文庫・醜女変身の館






「夜の蝶」
第4話:美華と揚羽



原作・猫目ジロー(加筆編集・風祭玲)

Vol.t-324





美華が揚羽の恨みをかってしまい

刻印の力で男性にされてから2年の月日が流れていた。

人間は原初の頃より環境に対する適応力があるが、

それは美華も例外ではなかった。



東京郊外に建つ古びた洋館。

持ち主の悪趣味が外観から滲むその屋敷の二階に

美華は今も居候として暮らしていた。

時刻は既に3時の針を刻む頃、

彼は静かに起き上がりそしてトイレに向かった。

豪勢な造りの幅広いトイレに備え付けられた洗面所で

美華は自らの下着ショーツを洗いはじめる。

彼はネグリジェ姿だったが、

下には何も履いておらず、

今の彼の心境を顕すような皮を被った小さな陰茎が

申し訳なさそうに項垂れていた。



「また漏らしたのね美華」

背後から突然掛けられたその声に

美華の肩はビクッと揺れる。

「揚羽さん…」

項垂れる美華だったが彼はもうすぐ二十歳になる。

当然オネショをするような年齢ではなく、

彼のショーツを汚したのは精液だった。

そう彼は夢精してしまったのだ。

「この前、約束したでしょ?

 寝る前はナプキン付けるって」

美華は今だに男のオナニーに嫌悪感を抱いていて、

いつも夢精するまで精を溜め込んでいた。

そんな彼に揚羽が薦めたのがナプキンの着用だった。

「アタシ、やっぱりナプキンは付けられません!」

美華は鼻にかかるハスキーな涙声でそういい放った。

美華はこの2年必死にこの体に慣れようと努力を重ねてきた。

だからこそ、

女子高生だった頃を嫌でも思い出すナプキンを付けることに抵抗があったのである。



「うふっ

 相変わらず気の強い娘ね、

 貴方は」

「揚羽さんの意地悪で鍛えられてますから」

いまはこうして言い合える仲になっていた美華と揚羽だが

男性に変えられた当初は美華は揚羽に激しい憎悪をもっていた。

しかし揚羽や自分を傷つけようとすると

太ももの刻印が激しく痛み体が動かなくなった。

そのような自殺も復讐も封じられた状況だから

美華は前向きに生きるしかなかった。

本人は自覚してないが、

美華は心の何処かで毎晩夢精を期待して寝ていた。

何故なら夢の中の美華は

あの頃のまま女子高生で好きな男性に抱かれているのだから、

しかし、美華の心の支えになっていた夢精も

最近はスッキリしなくなっていた。

人間は日々新しい環境に適応していくもの、

美華も例外ではなく、

自らの体に陰茎や陰嚢があるのが当たり前になりつつあった。

同時に女性器の感触や感覚も薄れ始め、

彼氏のペニスが膣に入る感覚はハッキリ思い出せなくなっていた。



「懐かしいな…」

そう呟きながらら美華は揚羽が買ってきた夜型ナプキンを見つめていた。

美華の生理は重い方で

夜はいつも横漏れを気にしていたのを思い出していたのである。

「はぁ、

 そういえば生理の痛みも

 もうはっきり思い出せないや」

生理中特有の睡魔のせいで

テストで赤点を取ってしまったことなどはすぐ思い出せても

感覚の記憶は曖昧なままだった。

「よしっ思いきって付けてみるか」

何か吹っ切れたのか

美華はおもむろにナプキンの袋を開け始めると、

中から一枚とり出し、

生理用ショーツに取り付け脚に通した。

今まで美華は2日続けて夢精したことはなかった。

しかし今日は今までとは状況が違っていた。

女性の感覚を思い出したくて付けたナプキン。

だが本来生理用ショーツやナプキンは横漏れを防ぐため

普段のショーツ以上に締め付けがきつく

美華のペニスはその中で普段以上に圧迫されていた。



本来、生理用ショーツはいまの美華の様な

ペニスを持つ男性が履くことなど想定されておらず

美華のペニスは窮屈な中でいつもストレスにさらされていた。

そんな彼のペニスが今宵不満を爆発させるかの如く静かな反撃を開始した。

「はぁはぁ

 うっ

 はぁっ

 あっあっ」

気持ちの良い婬夢をみてるのか、

美華の顔は恍惚の表情に彩られ

普段寝相の良い美華はベッドの上で乱れ続けていた。

そんな彼と息を合わせ膨らみ続けるペニス。

美華の興奮の強さを象徴するように

太ももの刻印も暗闇の中艶かしい紫の光を放ち続けていた。

それでもネグリジェから見える美華のショーツには染みになっていなかった。

ナプキンのお蔭なのだろう。

だが表面上綺麗に映っていてもその中は大変なことになっていた。

ショーツの中の美華のペニスは圧迫感からか、

普段以上の涙をその先端から流していた。

既に仮性包茎の美華のペニスは先端が露出し始め。

ナプキンの中は先走りの涙で一杯だった。

さらにショーツのキツい締め付けは敏感な先端部を圧迫し続け。

美華の脳に快楽を絶え間なく送り続ける。


「うっ

 あん

 はぁ

 あぁぁぁぁ!!」

射精という絶頂を向かえたのか、

美華の体は激しく仰け反った。

彼の体を包みこんでいるネグリジェは既に乱れまくっおり

女性ホルモンによって再び膨らみ始めた、

美華のAAカップの初々しい乳首が露出していた。

「!!っ」

次の瞬間、美華は飛び起きると、

慌ててショーツを脱いでナプキンを見る。

その中は既にすごい染みになっており、

ナプキンの吸収力がなければ

またショーツを汚してたであろうことは想像に難くなかった。

「そんな2日続けて出しちゃうなんて…」

初めての事態に美華は動揺が隠せなかった。

「もしかしてアタシ性欲が強くなってるの?」



「それは女性ホルモンのせいねきっと」

朝食を食べながら揚羽は美華にそう説明をする。

「何で女性化しようとしてるのにそんなことになるのよ!!」

美華は興奮して思わずテーブルを叩いてしまった。

そんな美華を諭す様に揚羽は話を続けた。

「美華の陰嚢からは毎日男性ホルモンが分泌され続けてるのよ」

「今更言われなくても分かってますよそんなこと」

認めたくないのか美華の表情は暗かった。

「貴方が今打ってる女性ホルモンは

 その身体中の男性ホルモンと戦っているの」

つまり美華が女性ホルモンを打てば対抗して

陰嚢も男性ホルモンを増やす。

落ち着くまで暫く性欲は収まらないと揚羽はいった。

周囲がすっかり寝静まった深夜、

美華は今朝揚羽に言われたことを思い返していた。

時刻は既に深夜0時を過ぎており、

いつもなら揚羽の経営しているオカマバーに出勤している時間だったが、

美華の心境を察した揚羽が珍しく休暇をくれたのである。



「今のアタシはニューハーフか…」

美華は静かに呟いた。

女性ホルモンの影響で少し声は高くなっていたが、

一度出来た喉仏は消えることはなく、

その声は鼻にかかる様な独特のオカマ声だった。

耳に入る自分の声に思わず眉をしかめる美華だったが、

昔の可愛らしいソプラノの声が無性に懐かしく感じた。

揚羽は美華に女性のプライドを捨てる様に促した。

「気持ちは分かるけど、

 下らないプライドは捨てた方がいいわよ、

 美華ちゃん」

「出来ません、

 そんなこと。

 アタシはあの頃の様に素敵な彼氏がもう一度欲しいんです!」

「だったら、

 尚更プライドは捨てなきゃ

 残酷な言い方するけど

 世の中は私達ニューハーフに厳しいものなのよ」

そんなことは美華にも痛いほど分かっていた。

この体になってから行った揚羽との温泉でも

自分達には女湯に入る許可は下りず。

結局男湯に入ることになり好奇の目に晒された。

その時のことを思い出し項垂れる美華に揚羽は言った。

「私は別に卑屈になれっていってるわけじゃないのよ。

 私達は元々女性だし堂々としてればいいのよ」

「ただね私達が女性と同じ土俵で男を奪いあっても

 勝てないそれもまた現実なのよ」

「アタシにはもう一生彼氏は出来ない。

 って言いたいんですか!」

「出来るわ、

 そのプライドを捨てればね。

 もうすぐ成人式だしいい機会じゃない美華ちゃん」

揚羽は美華に今を受け入れるよう促した。

自分達には女性にない武器ペニスがあるその感覚を学べと。

「美華ちゃん、

 私達はペニスの感覚を知ってるんだから

 フェラの達人になれるのよ」

男性のペニスを口で舐める…その言葉に美華は動揺した。

確かにセックスは嫌いじゃなかったし、

校内でHしたこともあった。

でもプライドの高かった美華は頼まれても

フェラだけは絶対にしたことがなかった。

「あと美華ちゃんにはもう膣がないんだから

 アナルを柔らかくしとかなきゃダメよ」
 
揚羽はさらに美華を追い詰める現実を叩きつける。

男性とHしたいならそこを使わなければならない。

ニューハーフにとってそんな当たり前の現実が重く美華の心にのしかかった。

確かに女性よりニューハーフが好きな男性もいるだろう。

「でもアタシは女性だったのよ」

暗闇の中、美華の頬に一筋の涙が零れ落ちていた。

確かに美華の顔は男性としては可愛らしいので

ニューハーフとしてならモテるだろう。

でもそれは自分が女性でないことを認めることになる。

そのジレンマが彼の心を苦しめた。



季節風が吹く1月の快晴の日。

美華は朝から成人式の準備をしていた。

既に着物の着付けや髪のセットを終えた美華は自室で化粧をしていた。

鏡台の前で化粧水をつけベースメイクをする美華が向かう鏡の中のには

髭剃り後で少し肌が荒れたニューハーフが映っていた。

女子高生だった頃の美華は

天性の美貌で化粧などしなくても美しかったが今は違う。

「痛っ」

剃り残しの髭を毛抜きで抜きながら美華は思わず呟いた。

この作業は面倒だったが男性と見破られないためには重要な作業だった。

「そろそろレーザーで脱毛した方がいいのかなアタシも」

男性化した当初は薄かった髭は剃るたびに濃くなり続け、

今は顎にまで生え始めていた。

さらに男性ホルモンの影響で皮脂が増え毛穴も開きやすくなったため、

化粧の時間は更に長くなり。

女性の頃は30分で終わった化粧も今では2時間を超える作業になっていた。

そんな悪戦苦闘の末ようやく美華は化粧を終えると、

鏡の中にはしっかり化けたニューハーフが映っていた。



「うん、今日も綺麗だよ」

確かに鏡に映る人物は美人だったが、

それはあくまでニューハーフの中での話しであり、

女性としては平凡な容姿だった。

刻印の力で美華の周りの世界は改編され

当然女子高生時代の写真などなく

美華は昔と今の容姿を比べる術をもたなかった。

記憶も忘却の闇に飲まれるように曖昧になり、

美華はかつての自分が並のアイドルより可愛かったのを忘れかけていた。

「似合ってるわよ

 美華ちゃん、

 メイクも気合い入ってるわね」

「ありがとうございます、

 揚羽さん」

美華は思わず笑みがこぼれ嬉しそうな顔になった。

「うふふ

 いいでしょコスメティック・アゲハの新製品」

揚羽の会社の新製品はニューハーフ向けのライナップになっていて、

体毛や髭を薄くするローションや

すね毛を処理しても残る毛穴の後を隠すストッキング、

特殊メイクを応用した人工乳房や

股間の膨らみを隠すニューハーフ用のショーツは

美華のお気に入りだった。

売上の方も好調らしい。



「美華ちゃん、

 振り袖着る前にちゃんと処理した?」

その指摘に思わず赤くなり頷く美華。

処理とは自慰行為のことで

男性に喜んでもらうため

美華はその感覚を学んでいた。

それに刻印の影響なのか

美華自身の性欲も依然として強く

彼、自身その行為を楽しんでいたのである。



揚羽が見送る中

屋敷の門の前で美華は空を見上げると、

その目はかつての様な力強さを取り戻していた。

そんな美華の心に反応して

振り袖の中で淡い光を放つ刻印と共に

美華は新しい一歩を踏み出していた。



おわり



この作品は猫目ジローさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。