風祭文庫・醜女変身の館






「夜の蝶」
第3話:ニューハーフ女子高生



原作・猫目ジロー(加筆編集・風祭玲)

Vol.t-323





街を行きかう人たちにはアタシはどう映っているのだろう。

きっと男性には高嶺の花と思われ、

女性には嫉妬と羨望の眼差しで見られているのだろう。

だってアタシはこの世に生を受けた瞬間から、

美の女神に愛されているのだから、

それほどまでにアタシの容姿は完璧だった。

「うん、完璧!」

自信過剰な少女・黒野美華は確かに輝きを放っていた。

人を見下す美しい綺麗な目元、

母親譲りの高くて整った鼻、

男がキスしたくなる様なぷっくりした魔性の唇。

そんな天性の美貌と周りの甘やかした態度が

彼女を傲慢な性格にしたのだろう。



彼女の心根はその美しい容姿とは裏腹に酷いものだった。

遊び感覚で男性を痴漢の冤罪に仕立てあげて示談金を荒稼ぎし

また機嫌が悪いときは、

彼氏と親父狩りをして

憂さ晴らしをしたりして楽しんでいた。

しかし何事にも報いは来るもの、

闇の中で渾然と輝く不夜城の様なオーラを持ってしても

その運命からは逃れられなかった。



師走は人々が慌しくなり、

忘年会のシーズンでもあってか

この時期は酔っぱらいも多い、

しかし、そんな時が彼女にとっては稼ぎ時であり、

同時に彼女の注意力は薄れていた。

「あの親父のスーツブランド物じゃん。

 うふっ、いい鴨見っけ」

とある路地裏。

獲物を見つけた彼女がそんな一人ごとを呟きながら、

携帯を取りだそうとした瞬間。

彼女の口を布が覆う、

睡眠薬だろうか、

途端に彼女の四肢から力が抜け落ちてしまうと、

美華はそのまま道端に倒れ込んだ。

そして、休むまもなく現れた黒服の男達によって

彼女は車に詰め込まれたのである。

この日、彼女の天運はつきた。



数時間後

彼女は郊外の屋敷で目覚めた。

「うーん、

 あれ?

 ここ何処って、

 えっ何でアタシ裸にされてんの!」
 
彼女は自らが裸にされている事に驚き、そして動揺する。

「心配しなくても何もしてないわよ」

美華の頭上から声が掛かる。

ハスキーな声だった。

「誰、アナタ

 まさかアンタがアタシを誘拐したの?

 てっあれアンタもしかして」

そう美華は声を掛けた人物に心当たりがあった。

確か最近テレビによく出る話題の人物で

コスメティック・アゲハのニューハーフ社長・桜島揚羽だ。

「へぇやっぱ女を気取っていても、

 変態なのね。

 ニューハーフ社長さん」

「あら私も有名になったものね、

 貴方みたいな小娘にまで名が売れているなんて」

「アタシが小娘なら、

 アンタは女の物真似している滑稽な男ね」

「あらいいの?

 そんなこと言って

 貴方ももうすぐ私達の仲間になるのに」

「あはっ、

 現実見なよ、

 いい歳して痛々しいよ?

 アタシは完全な女性よ、

 生理の苦しみも知らない男のアンタとは違うの」

彼女が放ったその言葉が

揚羽の心に静かな怒りの炎を灯した。

そして目の前の美華を冷たい視線で睨み付け。

静かに喋り始めた。

「生理の苦しみなら私も知っているわ、

 だって私元女性ですもの」

その言葉を聞いた途端、

美華は笑い転げる。

両手が後ろに拘束されてなければ腹を抱えて笑っていただろう。



「もうお喋りは終わりにした方がいいみたいね。

 貴方みたいな小娘には

 身をもって分からせた方がよさそうだもの」

そう言いながら揚羽は棚の上から古びた箱を取りだすとおもむろに開けてみせる。

その中にはこの世の物とは思えない禍々しい焼きごてが入っていた。

「何よそれでアタシの肌に焼きでもいれるつもり」

「うふふ、

 これは焼きごてじゃないのよ。

 女性失格印っていうの」

揚羽の尋常じゃないオーラに圧倒された美華は思わず後ずさったが

しかし直ぐに壁にぶつかってしまう。

そして次の瞬間。

美華の柔らかい太ももに刻印が刻まれた。

「あぁっ

 アァァァ」

その痛みに美華は思わず仰け反るが、

刻印が美華の太ももから離れていくと、

太ももの女性器の近くには

この世の文字とは思えない禍々しい紫色の刻印が

刺青の様にしっかり刻まれ艶かしい光を放ち始めた。



光は熱と共に美華の身体中を覆い、

彼女の性別を剥奪していく。

「ぐがぁぁぁ、

 痛い、

 熱い、

 お願い助けて」

苦しさから逃れようと美華は揚羽に助けを求めるが

「そんなのすぐに終わるわ、

 もうすぐ貴方は男になるんだから。

 そんな泣き言言わない方がいいわよ、

 男らしくないもの」

と冷たく言い放つ揚羽の言葉通り、

美華の体はどんどん変化していた。

食事制限している美華の細く華奢な四肢は

まるで熱で脂肪が溶けていくみたいに柔らかさを失い

変化してゆく筋肉や骨格と共にゴツゴツし始めていく。

また、体毛も濃くなり始め、

美華の体は男性特有の硬い体毛に覆われ始めていた。

「ねぇ、お願い、

 何でもするから、

 この変化を止めてよ」

「残念だけど、

 刻印は一度押されると一生消せないのよ」

懇願する美華に揚羽は笑みを浮かべながら

黒の手袋を脱いで左手の甲の刻印を見せつける。

それを見た美華の心を絶望が覆う。

揚羽はそんな彼女の反応を楽しんでいた。

そう美華を裸にしたのも

己の目で自分の変化を見せ付けたかったからである。

美華の体の変化は進み続け、

さらに服で隠せないからその変化は揚羽に筒抜けだった。

彼女の体は骨格が既に男性化し、

骨盤や脂肪の変化で

ヘソの位置も変わり男性の視線を釘付けにした。

魅惑的なヒップラインは消え失せ括れもなくなっていた。

美華の目を涙が覆うその切れ長の睫毛さえ

男性化の影響で短くなり、

目付きも女性らしさを少し失い鋭くなってしまうと、

顔の皮脂の急激な増加で化粧は既に崩れ滑稽な姿になっていく。

そんな美華を揚羽は容赦なく言葉攻めする。

「あらあら肌の決め細やかさがすっかりなくなっちゃったわね、

 顔も男っぽくなってきたし。

 これからは化粧のノリが悪くて時間がかかるでしょうね。

 化けるのに」

揚羽はクスクス笑いながら美華に語り掛ける。

確かに美華の肌はきめ細かさを失い、

色素の沈着も進み男性的な肌になっていた。

脂肪もすっかり薄くなり。

小さいながらも形の良かった乳房も消え失せ、

瑞々しいピンクの乳首もすっかり萎え色も茶色くなっていた。

もぅ美華はどこから見ても男性になっていた。

セクシャルシンボルを失った美華。

しかしその薄い胸板や筋肉は男としての魅力にも欠け、

まるで今の美華はなよなよした少年のようであった。

そんな美華に残された女性として最後の砦にも無情な変化が襲い掛かる。

まるで城に攻めこむ兵士のように刻印の熱が美華の女性器に集中すると、

紫の刻印は一際輝き最後の変化が始まろうとしていた。

美華の膣と陰核に今まで感じたことのない激痛が走ると、

美華の額から脂汗が流れ落ち、

その表情が痛みの凄さを物語っていた。

そんな美華の最後の変化を揚羽はしっかり観察していた。

「あっ

 ぐがぁ

 あぁはぁ

 はぁあぁぁぁぁ」

膣を縫い付けられる様な痛みがはしり、

美華は痛みで転げ回る。

そして陰核にも爪が食い込む様な痛みが襲うと、

美華はあまりの痛みに失神してしまったのた。

男の裏返ったような叫び声を上げながら。

美華が気を失っても当然変化は続き、

揚羽は変わりゆく美華の姿を楽しそうに見つめていた。

既に美華の膣は癒着して消えかけると、

陰核も紫の煙を上げ肥大し続けていた。

そんな美華に揚羽は優しく語り掛ける。

「膣がなくなっちゃったから、

 これからはセックスの時はここでぺニスを受け入れるのよ。

 判ったわね、美華ちゃん」

そう囁きながら揚羽は美華のアナルに指を入れ。

出来たての小さなぺニスを突っついてみせる。

すると、

ビクッ

と美華の体が快感に揺れ、

彼女、いや彼の変化は終わった。



「あれからもう半年も経ったのね」

美華はハスキーになった声で呟く。

そしてシャワーを浴びながら自らの体を見つめていた。

かつて美華はお風呂が何よりも好きで

学校に行く前には必ず朝風呂に入っていた。

だが今の美華にはこの場所は一刻も早く出たい場所だった。

裸になると嫌でも見なければならない自分の男の体。

男としては華奢だが体は硬くゴツゴツしている。

その度に美華は柔らかく瑞々しかった女の体を思い出してしまい、

やりきれない気持ちになった。

浴槽に入ると嫌でも視界に入る自分の陰茎と陰嚢。

そう今の美華は女性器も乳房も子宮も失い、

変わりに授かったのが陰茎と陰嚢だった。

はじめは嫌で嫌で堪らなくて叩いたりしたが、

その度に激しい激痛が襲い、

ついには腫れ上がってしまったので

今は仕方なく大事に洗っている。

「本当は触れるのも嫌なのに」

苦虫を噛み潰した様な表情で美華は男性器を洗いバスルームから出ると、

そして日課の脛毛と無駄毛の手入れに入る。

女性の柔らかい体毛と違い男性の体毛は硬くて太く。

かつては週一だった毛の手入れは

この体になってからは毎日の日課になっていた。

「あらもう出たの美華ちゃん。

 何時も言ってるでしょ

 ニューハーフになりたいなら。

 もっと清潔にしなきゃ駄目だって」

「しっかり洗ってます」

「でもまたニキビ出来てるわよ。

 説明したでしょ男と女は肌の手入れが違うって」

自分磨きに投げやりになる美華に揚羽が何時ものように説教する。

刻印の魔力で周りの記憶や戸籍が改竄され、

美華は社会的には出生時から男性という扱いになってしまっていた。

さらに社長令嬢だった美華は世間体を気にする父親から勘当されたことになっており。

天涯孤独になった美華にはもう頼れるのは揚羽しか居なかったのである。

そんな美華に揚羽は屋敷の一室を与え、

ニューハーフとして生きるのに必要な心得を沢山教えてくれた。

無論優しさや親切ではない。

美華をオモチャにするのが楽しいからだ。

揚羽は初めから昔の自分に似てプライドの高い美華をターゲットに決めていた。

何故なら美華が親父狩りで大怪我させた被害者の中に

揚羽のかつての恋人・亮二がいたのである。

大怪我をさせられた亮二。

病院に担ぎ込まれたその痛々しい姿を見た揚羽は、

彼の無念を晴らそうと犯人探しを行い、

そして、ニューハーフ仲間の助けを得て

美華の存在を突き止めたのであった。

美華への復讐。

その事へ揚羽が進もうとしたとき、

”女性失格印”が揚羽の手元に転がり込んできた。

きっかけは些細なことだった。

業屋九兵衛を名乗る怪しげな老人から、

あることとの引き換えを条件に

「その願いに君の人生を賭する気はあるのなら、

 君の望みは叶えてあげよう」

そう問い尋ねられた揚羽は亮二への復讐を願い、

その結果として”女性失格印”を手に入れたのだ。



そんな揚羽も人の子であった。

美華と共に暮らす内に美華に情が入り

彼を見捨てることが出来なくなっていた。

揚羽にそう思わせるくらい男になった美華は健気だった。

男性になって1ヶ月が過ぎたあの日

美華は自室でカレンダーを切なそうに見ていた。

そう美華は自分の生理周期を計算していたのだ。

今の自分は男性だから生理はもう永遠に来ない。

そんなことは美華自身も分かっていたが。

でも、どうしても認めたくなかった。

自分がもう女じゃなくなったこの現実を…

そんな美華を揚羽は容赦なくからかった。

「そっか美華ちゃんもうコレ必要ないのよね」

揚羽が机の上に置いた物

それは生理用品のいわゆるナプキンだった。

「私と同じでもう赤ちゃん産めないものね。

 美華ちゃんも」

その言葉が美華の心に突き刺さった。

赤ちゃんが産めない…

生理は女性が赤ちゃんを産める証のようなものだった。

確かに生理は辛いし邪魔に思っていた。

でも今の美華には宝物のように感じられた。

さらに美華を苦しめたのは男性の生理現象であり、

いわゆる朝立ちや夢精などであった。

美華も今は思春期の男子である。

その性欲は年相応に強く。

朝起きるとパジャマにテントが張り、

男性に抱かれる夢をみながら

夢精したのも一度や二度じゃなかった。

それでも美華は男のオナニーを一度もせず。

いつもショーツに精を放つまで我慢した。

それが美華に残された最後のプライドだった。

深夜1時を過ぎた頃、

その日も美華は婬夢を見ていた。

もう1ヶ月も夢精しておらず、

そろそろ美華の体は限界だったのだろう。

テントを張ったパジャマに染みが少しずつ広がっていく、

美華の精液がショーツからパジャマに漏れてるのだろう。

手や足をなくした人間がその感覚を覚えている様に、

美華も女性器の感覚を今もしっかり覚えていた。

今の彼にとって夢の中は女性に戻れる唯一の時間なのだろう。

美華は夢精してパジャマを汚しているのにも気付かず。

今日も気持ち良さそうに寝言を話していた

「そこもっとあんあぁぁぁ」

染みが広がる中。

彼女の太ももに刻まれた紫の刻印は艶かしい光を放っていた。



おわり



この作品は猫目ジローさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。