風祭文庫・醜女の館






「デジタル・ビューティ・モーフ」
第3話:美里の場合




原作・ラックーン(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-064





「あ〜あ」

1週間続いたモーターショーが終わり、

緊張から解放された横山美里が美しい眉根をつり上げて溜息をついた。

「今日も写真小僧につけ回されて、

 それでも笑っていなけりゃならない。

 はぁ…嫌になっちゃうわ」

大学時代にミス日本に選ばれた175cmの身長は勿論、

50kgの体重もきちんと維持している。

B90、W59,H93の見事な身体と日本人離れした容貌は外国人にも評判が良く、

ミス・インナーナショナルで最後の5人にまで勝ち残った程である。

しかも彼女の肌は黒子、しみ、そばかすと全く縁がない。

美しいものであることも上位に食い込んだ理由の一つであろう。

そして、両親の反対で延び延びになっていた、

海外の大手モデル・エージェンシーとの契約もなんとかまとまったところ。

「絶対許さん」

美里の申し出に猛反対の両親を押し切っての決意だったが、

その代償は思いがけない勘当であった。

しかし、この容姿をカメラ小僧が放っておくわけがない。

彼女自身も自らを【ゴージャス】と認めるが、

しかしナルシストではないし、時間をかけている美容も仕事の為と思っている。

追ってくるのはカメラ小僧だけではない。

街を歩けば皆振り返り、

言い寄ってくる軟派の数々をかわすのも大変だし、

女性からは嫉妬のつぶてが飛んでくる。

旧横山財閥の令嬢という身分に加え、

美しすぎるが故、未だにステディーな恋人は出来ず相談する女友達もいなかった。



「孤独だなぁ」

そんな孤独を癒す為に、何年も前から彼女は変な一人遊びに凝っていた。

「これでも案外男っぽいのよねぇ」

と美里は意味深長に呟きながら、

穿いていたミニスカートを下ろすと、

そこにはすっと現れた赤いTバックのT部分に手を伸ばした。

否、それはTバックではない。

Tの交差部分にこぶのようなものがある。

何と、美里はかがめば下着が見えそうなマイクロ・ミニスカートの下に

赤い六尺褌をきつく締めこんでいたのである。

もう数年来愛用している。

ミス日本として各地を転々とする時も締めることが多かった。

肛門と秘所への直接的な刺激だけでなく、

男性の下着である褌を締めるという男性への部分的変身という倒錯的興奮、

もしかしたら見られてしまう。

というスリルが複合的に彼女に刺激をもたらし褌を濡らすことも少なくない。

「はぁ…

 今日も濡らしちゃったわ。

 うふっ写真小僧にコレ撮られたかな」

半ば期待しているかのように、美里は再び独り言をつぶやいた。



「さて…」

褌だけの裸になった姿の美里は立ち上がり鏡に向う。

フッ

その途端、鏡には無骨な赤褌を股間に締めた裸の女性が向き合った。

「ふふ…」

笑みを浮かべる女性と対峙しながら美里はやおら右手を顔の中心に持ってくると、

人差し指でその高い鼻をぐっと上向きにする。

あらん限りの力を加えると、

彼女の西洋人風の高い鼻はまるで豚のようにひしゃげる。

一見硬そうに見える鼻は意外なほど柔らかく

鼻のトップは目じりの位置にまで持ち上がるほどである。

高いがゆえに大きな鼻の穴をさらし、

意識的に切っていない太い鼻毛が覗く。

上品な顔立ちが一瞬にしてこの上なく下品になる。

「ああ、感じちゃう。

 また褌がぬれちゃう」

通販で買った首輪を付け、

素人愛好家からオークションで手に入れたごつい鼻フックを装着すると、

首輪に結びつけた。幅広の鼻フックは彼女の鼻の穴を逆三角形にするだけでなく、

美里の鼻と目の間に歪んだ皺を作り出し、淫靡感が漂う。

さらに、唇を横に広げるタイプの口枷を付けると、

蛙のように間の抜けた顔が出来上がる。

「美里は豚で蛙、豚蛙なのぉ」

一人暮らしのマンションの一室に嬌声が上がった。



豚顔オナニーを終えた美里は鼻フックで見事にひしゃげた顔のままパソコンに向った。

新しい褌をネットで注文した後、

いつものように検索エンジンにアクセスし、

【ブス整形】と打ち込む。

すると、検索エンジンは瞬時にディスプレイに検索をしたサイトのリストを表示し、

美里はその中に掲載されたとある整形スレッドをクリックした。



「…輪姦されそうになって、男が怖くなってブス整形をした美少女を知っている」

そのスレッドに中に書き込まれたある一行に胸をときめかせながら、

「私もやってみたいな」

と美里はそう呟きながらさらにアクセスと続けると、

【デジタル・ビューティ・モーフ】

という興味深いサイトに出くわした。

【美女に復讐したい貴方をサポートするサイト】

というサブタイトルに美里は胸を一層ときめかせていた。

震える手を押さえながらマウスを動かし、クリックをする。

するとそのトップページの解説から、

デジタル画像を使って美女を醜女に変えてみるという

このサイトのコンセプトはすぐに理解できた。



サンプル画像の白石百合子のデブ変身、

源ひかりの鬼畜変身に思わず褌を緩め、

それらを見ていくうちに美里は綺麗な左手を褌の下で湿り気を帯びだした秘所に持っていく。

「たまらないわ」

彼女がもっとも興味を覚えたのは、サンプルBである。

ディスプレイに現れたのは

彼女の前の年にミス日本に選ばれた同じ年の綾小路千佳。

元を正せば由緒ある旧華族の出身。

ミス日本に選ばれた後、一時は日本随一のスーパーモデルともてはやされたが、

彼女もまた人気沸騰中に忽然と姿を消していたのである。

千佳は身長はほぼ美里と同じだが、彼女ほどグラマラスではない。

目はくりっと大きいが、全体の印象は日本的で大人しい。

美里とは対照的だ。

「元ライバルの変身を見てやろうじゃないの」

文字通り褌を締めなおして美里は気合を入れると。

カチッ。

とスタート・ボタンをクリックした。

すると、

ディスプレイの中の千佳の大きいが日本的な切れ長の目が一重になり、

徐々に細くなり、

さらに小さくなっていくと、

黒目のありかさえ分らないほど細くて小さい目になってしまった。

すらりとした鼻は、見事にひしゃげて豚のように上を向いている。

顔を下げても穴は見え放し。

「みじめねぇ、千佳さん!」

変化していく千佳の姿に美里は勝ち誇ったように笑みを浮かべる。

しかし、画面上の千佳の変身は止まることなく唇は異様に厚くなり、

かつ、左右に広がっていくと、顔中唇というイメージができあがる。

綺麗な肌は薄汚れた色の鮫肌になり、白い歯は薄茶に染まり…。

最終的に作り上げられたブス整形の顔は醜女というレベルを超え、

もはや化け物に近かった。

「うわぁぁぁ

 これで生きていくのはつらいわね」

美里はサディスティックな気持ち以上にマゾヒスティックな快感を覚えていた。

「もっと見たいな」

他のサンプルを見るには、

●変身させてみたい若い女性の生写真を郵送、

 もしくはデジタル写真をEメールで転送のこと。

●変身内容を記載すること。

●このデジタル変身により本人または家族、

 当事者に生じるかもしれない異変については弊社はいかなる責務を負わないこと。

●扱った画像はそのまま他のサイト訪問者にも公開されることを承認すること。

という制約があり誰かの画像を送る必要がある。

すると、迷わず、

「うふふ、いいわ

 天下の美女・横山美里を俎上に上げてあ・げ・る」

そう呟きながら美里はコンパニオン姿の自身を写真を送ることにし、

コメントには

「顔全てのブス整形+120kgデブへの変身」

と打ち込んだ。



それから1週間後…

待ちに待った時がやって来た。

いまさっきメールで受け取ったIDとパスワードで

美里はこれから始まる自らの変身を見届ける覚悟は出来ていた。

カチッ

マウスのクリック音と共に

数多い写真の中でも一番美しい彼女が写った写真がそのままの姿で現れる。

「……」

その写真をじっと見つめながら美里はゆっくりと手を動かし、

カーソルを画面に映し出されるスタートボタンに合わせると、

カチッ。

美里はクリックをした。

ジワッ

その瞬間、自分の秘所を食い込むように覆っている木綿の布がっていくのを感じた。

そう、美里は白い六尺褌を締めてパソコンに向っていたのであった。



クリックと同時にディスプレイの中の美里がゆっくりと変身が始まった。

千佳と同じように目はまめつぶのように細く小さくなり、鼻はひしゃげる。

ボクサーのレベルではない。

ゴリラのようにひしゃげているのである。

口は下品までに大きくなり、唇は幸薄そうに平べったい。

その下からは無様に不ぞろいの出っ歯が見えている。

隠そうにも隠せないほどの出っ歯らしい。

耳も異様に出っ張っている。

眉毛は事実上ないに等しい薄さ。

たおやかだった頬は数cmも突出し、顎は削られてしまっている。

全くバランスの取れていない異様な風貌である。

色白で染み一つなかった肌は浅黒い鮫肌に変わり、

何十という黒子、

大きなしみとそばかすでいっぱいで、

気色悪いほど汚い。

そしてデブ化が始まる。

元々大きなバストは130cmほどになり、ヒップは150cm。

しかし、白石小百合などとは違って僅かに砂時計の形は保っている。

太くなったとは言え、

110cmのウェストはまだ相対的には細いのだ。

しかし、この時彼女の体は妙に熱くなり始めていた。

「いったい…」

マゾ的な興奮が絶頂に達する前に、

パソコンの画面に釘付けだった目が自身の体に移動する。

「きゃっ!!!」

見る見る膨れ上がる自分の体に美里は驚愕の声を上げると、

立ち上がり慌てて全身鏡を見るが、

しかし、そこに立っていたのは豚ゴリラとでも言うべき

浅黒い醜い女がそこに立っているではないか。

「え?

 なんで?
 
 どうして?」

信じられない物に触るかのように美里は指で鼻を触ると、

以前の高い鼻はそこになく、いきなり現れる鼻の穴に指が入ってしまう。

「なっなっなっ何よ、これぇぇぇぇぇ!」

部屋の響き渡った叫び声と共に美里は気が遠くなっていった。



2年後…

ここはとある女子プロレス会場。

モホーク刈りに悪魔のようなグロテスクなフェイス・ペイントを施した女子タッグ・ペアが、

チャンピオン・ペアの敵役として、客から罵声を浴びていた。

「デブのブスはさっさと引っ込んでろ!」

「短小のくそ餓鬼どもが。

おめえらはてめえの糞ばばあとはめてりゃあいいんだよ」

反発するのは、175cm、130kgの巨漢女子レスラー。

「ペイントしてるほうがまだ見られるな!」

「おめぇら、ちんぽしごいて、糞して寝てろ」

と、176cm、80kgの筋肉質な相棒も負けてはいない。



最初に反応した巨漢レスラーは読者のご明察の通り、

2年前までコンパニオンとして絶大なファンまで獲得していた横山美里である。

【デジタル・ビューティ・モーフ】

を訪れ、ひどい姿に変身させられた後

美里はある大きな形成病院を訪れたが、

「お客様の場合、

 皮膚のアレルギー、ならびに骨格の問題で、

 手の施しようがないんです。
 
 目の二重はあるいは出来るかもしれませんが」

と彼女の凄まじい容貌に圧倒されながらも医師は冷静に告げた。

美里はこの回答に首をうなだれ、結局何もしないで帰宅したのだったが、

ある日、同じように変身を強いられていた綾小路千佳が

現在女子プロレスラーとして活躍しているらしいことを偶然手にした雑誌により知る。

「武彩子(ぶ・さいこ)?」

変身させられた後の千佳にそっくりだ。

事務所に電話して本人と話を交わした結果、

本人ということが判明。

かつての正体が暴露されるのを恐れて、

武彩子という中国系の思わせる名をリング・ネームにしているらしい。

しかし、

これは社長が彼女の最初の印象【不細工】をもじって付けて屈辱的な名前なのだった。

千佳は、不細工になって仕事にあぶれているところをプロレス団体に拾われたそうだ。

「あなたもそういうご事情なら、

 ここにいらしたらよろしいのではありませんこと?」

上品な言葉使いは昔からの千佳の特徴である。

上品さにかけては自信のある美里もこれだけは真似できないとさじを投げる。

勘当され仕事もなくなり金策も尽きた美里は現場に駆けつけるしかなかった。

175cm、120kgの体躯はテストもせずに合格したが、

しかし、社長の言葉は屈辱的だった。

「千佳より凄い面構えだな。

 敵役しかできねぇだろ。
 
 あんたはとりあえずピッグ横山。

 横山はまずい?
 
 あっ、そう。なら、ピッグ大腹。

 ビッグではなく豚のピッグ、
 
 大原ではなく大腹だ。
 
 はっはっはっ」

と大きな体をゆすりながら大笑いをした。

しかし、美里にはもぅここしか生きていくところは無かった。

「お願いします」

屈辱的な言葉を投げかけられても美里は頭を下げた。



上品な千佳だったが、しかしイザと試合になると、

「コノヤロー」

「くそったれ」

「ちんぽ」

など悪口雑言の数々。

この業界に入るまではまず使ったことはないだろう。

「あなたのような上品な人がよくあんな言葉を使えるわね?」

美里はそのギャップに驚く。

「仕方がないのです。

 さもないと、社長様や先輩方にきつく折檻されましたので。
 
 今では自然に出ますことよ。おほほ」

いつもの淑やかな口調で答える千佳。

そして美里に悪口雑言の数々を伝授するのだった。

その千佳は入団時顔こそひどい有様だったが、

体重はミス日本当時の49kgのままだった。

半強制的に食べさせられ、体を鍛えた結果80kgになったという。

1年近く要したらしい。

入門時既に120kgだった美里は、半年の厳しい訓練後公式デビューに至った。

こうして1年後、顔に醜悪な顔のフェイス・ペイントを施したフリークス1号(美里)、

2号(千佳)として悪役タッグ・ペアが誕生したのである。

その時点では二人とも髪だけは美しいままに保たれていたが、

「長髪は危険だ」

と社長が言ってモホーク・カットを強制した。

「髪だけはどうか」

と嘆願する二人を尻目に、

「お前ら、他に仕事ないやろが」

と社長はにやりとする。

「毎日剃るのは大変じゃろ。

 これで永久脱毛してやれ!」

先輩レスラーが渡された強力な脱毛剤をセンター部分を残してつるつるになった頭皮に塗りこめる。

二人の目から涙が溢れ、頬に伝わった。




フェイス・ペイントで素顔を隠していても、

二人の人間ばなれした風貌は誰の目にも明らかだ。

特にひしゃげた鼻には客席から

「ゴリラ!」や「オバケ」と屈辱の声がかかる。

二人は、相手が美女チームであればあるほど力を発揮する。

キャメルクラッチの体勢を決めると相手構わず鼻の穴や口を指を入れ、

徹底した顔面責めを行うのである。

ネットの画像掲示板では二人のフリークスにより血祭りに上げられた美人レスラー達の

凄まじいブス顔が毎日のように張られている盛況ぶりだ。

その意味でフリークスを応援する隠れファンは多い。

「美人も、ブタみたいな顔になっては台無しだなぁ」

今では男のように太くなった声で美里が言う。

もはや歪めて楽しめる美しい顔を失った彼女は、

美人レスラーを相手にサディスティックな興奮を味わうしかないのだ。

かって耽溺したマゾヒズムがこうしてサディスティックな行為にのみ満たされると、

インテリでもある彼女は、

「マゾヒズムは自分に向けられたサディズムなのよ」

と相手の美顔を徹底的に歪めながら確信を深めていった。

「このデブが、俺のプリティーに何するんだよ」

カメラを手にしているファンの若者は、

ご贔屓の美人レスラーが瞬間とは言え二目と見られぬひどいご面相にさせられると、

(心の中でニヤッとほくそえみ)

シャッターを切る手を休めずに激怒するふりをした。

しかし、彼は知る由もない。

今、彼が罵声を浴びせた相手が2年前まで3年間追い掛け回し、

今でも部屋中に写真を飾っている永遠のマドンナ・横山美里その人であることを。



おわり



この作品はラックーンさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。