風祭文庫・醜女の館






「歪んだ愛情」



原作・猫目ジロー(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-329





私には生まれ持った美貌と知性があるのだから、

どんくさい牛女を苛める権利がある。

半年前まで、鈴原空は選民思想に取り付かれていて、

学校で悪意を振り撒くさながら猛虎の様な存在だった。

だが今の空は例えるならそう子猫だろう…



「空ちゃん可愛いー」

「本当に何着せても似合うよね」

「女の子に生まれればよかったのに惜しいね」

「こらこらみんなぁ、

 空ちゃん困ってるでしょ

 彼、泣き虫なんだから」

違う私が泣いているのは自分が今の自分が惨めだからだ…

かつての私はクラスのアイドルで

女子のリーダー私の通う中学で私はいつも皆の中心にいたのに…

だけどそれは半年も前の話、

今の私は性同一性障害の男の子…

あの悪夢の日からずっと…



半年前私はクラスの中で苛めをしていた。

始まりは下らないそうちっぽけな嫉妬だった。

私が苛めていた梅原楓は

中学二年生としては綺麗なバストを持っていて、

貧乳の私はそのことに嫉妬して彼女を牛女と呼び苛めた。

元々アイドル顔負けの容姿を持つ彼女への反感があったのか、

みんな私に同調して彼女を苛め始めた…



そんなある日

私は学校返りに後ろから睡眠薬を嗅がされ気を失った…

「ここっ何処よ、

 えっ

 キャッ

 なっ何なの」

目が覚めた私はパニックに陥っていた。

何故なら私は一糸纏わぬ裸にされ、

両手は手錠にかけられた上に吊るされていた。

体に負担がかからないように配慮してあるようだけど、

それでも少し肩が痛かった…

しかも、よく見ると足も拘束されていて、

M字開脚の恥ずかしい姿にされていた。

「誰がこんなこと…」

「私よ空ちゃん」

「かっ楓!?」

「はっ何のつもりよコレ!

 こんなことしてただで済むと思ってんの?」

「ふふっ

 思ってるよ。

 だって空ちゃんはこれから私に媚びなくては

 暮らしていけなくなるんだもの」

「どういう意味よそれ、

 私の恥ずかしい写真でも撮るつもり!?」

「そんな卑劣なことしないよ、

 空ちゃんじゃあるまいし、

 そうただ首輪をつけるだけよ…

 可愛いオス猫ちゃんにね」

やっぱり狂っているこの女。

私の苛めのせいで心が壊れてしまったんだろうか…

とにかくこのままじゃ私何されるか分からない…



そんな思考を張り巡らせていると、

楓は焼きゴテの様な禍々しい道具を机の中から取り出してみせる。

道具だけではなかった。

改めて辺りを見回すと机だけでなく

絨毯も額に飾られた絵も豪勢でドラマのセットの様な御屋敷みたいだ…

楓ってこんなに金持ちだったの?

確かにお嬢様だとは聞いていたがこれ程とは…

「素敵な細工が施された焼き印でしょ?」

「悪趣味ね、

 それで私の肌を焼くつもり?」

「まっさかぁ

 私そんな野蛮じゃないよ。

 これはアイルランドに伝わるケルト民族の魔法の聖印なんだよ」

「日本の裏社会では女性失格印って呼ばれているけど

 元々は性別を捨て悟りを開くために使われてたんだって」

この娘ヤバい…

空はその狂喜に満ちた説明を聞いて完全に楓の頭が狂っているのを実感した。

背中から冷や汗が流れたその瞬間…

「あっ

 痛っ

 があっ…

 あっ熱い」

私の女性器の少し上のアンダーヘアに刻印が押されたのだ。

よく見ると刻印から紫の煙や光が出ていて、

次第に私の身体を覆い始めていた…

ビキッ

ギシッ

「何よ、

 こっこれ、

 嫌イャァ!!」

私の身体の変化は既に始まっていた…

柔らかい脂肪に包まれた太ももは急速に固さを増し、

足には今まで見たことないような固い脛毛が生え始めていた

骨格も太くなっているのか手錠に拘束された四肢が少し痛い…

「ふふっ

 始まったね

 空ちゃんモデルみたいに綺麗だから

 きっと可愛い男の子になれるよ」

「嫌よ、そんなの男になんてなりたくない。

 お願い助けて楓」

「残念だけど一度剥奪された性別はもう戻せないのよ」

魔女の様な冷たい笑みを浮かべて楓は私の体の変質を確認する。

余程私が憎いのか、悪魔の様な楽しそうな表情をしている。


なおも止まらない私の変化、

身体中を包む煙は次々と私の性別を剥奪し、

私は目の前の縮み続ける自らの乳房を見つめていた…

BカップのバストはAAカップまで縮み、

胸全体を覆うむず痒い感覚に私は身悶えするけど、

やがてその感覚も鈍くなり…消えていった。

バストと呼べるものは既になく、

乳首も男の子の様な色や大きさになっていた。

その姿に私は思わず涙をこぼすけど



「ぐがぁ

 あっ…

 はぁっ

 あぁぁぁぁぁー」

私の下腹部の女性器陰核と膣に激痛がはしると、

皮膚が熱で溶けてる様な凄い痛みへと代わって行く。

…嘘でしょう。

そんなとこまで男になるの?

私まだ処女なのよ…

痛みと絶望が覆うなか、

私の意識はそこで途絶えた…



私の新しい肉体はまさに楓に媚びる毎日だった…

刻印の魔力で過去や周りの記憶戸籍も改編されていて、

私は男としてこの世に生を受けたことになっていた…

家族にも学校でも男らしくしろと怒鳴られ

心を締め付けられる

毎日そんな私に手を差し伸べてくれたのが楓だった…

世界が改編されたことにより、

元々美人で気立ての良い楓はクラスの中心人物になっていたて

私をいつも男子の苛めから守ってくれた。

男子もクラスのアイドルに嫌われたくないのか、

私をからかうことはなくなり

私は学ランに苦しめられながらなんとか毎日学校に通っていた…

そんなある日楓は私を呼びだしある提案をした。

「女子の仲間に私も入れてくれるの?」

「それは貴方しだいよ鈴原君」

「楓と私達のペットになるのが条件よ」

「そうすれば一緒に昼食も食べてあげるし、

 男子の苛めから私達も貴方を守ってあげるわ」

「楓の優しさと慈悲の心に感謝しないさいよ」

楓とその取り巻き達はそう言った。

皆昔は私の取り巻きだったのに…

そう改編される前は…

でもどんなに悔しくても惨めでも背に腹はかえられなかった。

もう一人で食べる学食も一人ぼっちの日々も限界だった…

私は頷いて彼女達の提案受け入れた…

猛虎の様に恐れられた私は子猫に彼女達のペットになった。



彼女達は昔から人をオシャレに着飾り

コーディネートするのが好きだった。

今の私は彼女達の言うなれば着せ替え人形だった。

「キャッ可愛いぃ」

「やっぱり女子の制服よく似合うよね」

「ありがとう楓ちゃん雪ちゃん」

私の通う中学は私立なので、

寄付金次第で色々要望が通ることがある楓は

寄付金で先生達を説得して

性同一性障害ということになってる私を

女子と同じ制服が着れるように働き掛けてくれた。

感謝してもしきれなかったが勿論条件があり

楓の屋敷で暮らすのが条件だった…

私の両親は改編された世界では私を腫れ物の様に扱っていて

有難い申し出としてそれを受け入れた。

また楓の家は早くに父親を亡くし母親と使用人だけの暮らしだったため

娘に寂しい思いをさせていたことに後ろめたさを感じていたのか、

彼女の我が儘を聞き入れ私を養子縁組で向かい入れたのです。

無論、年頃の娘のいる屋敷で

少年をただ家に置くわけにはいかず

私には楓の母親から条件が出された。

「新薬の臨床試験…」

「そう貴方にとっても悪い話ではないでしょう。

 勿論、貴方が娘の言うように女の子だったらの話ならね…」

楓での母親の言う新薬は性同一性障害のために開発された薬で

男性ホルモンを女性ホルモンに肉体の中で変換するらしい。

そのため女性ホルモンより体の負担も少なく

体の出来上がってない私でも打てるようだ…

楓の母親は自分の製薬会社の実験台にするために私を引き取ったらしい…



少し怖かったけど、

今の私はすっかり楓に依存していて、

楓に嫌われたくなかったので臨床試験の誓約書に同意した。

しばらくすると薬の効果が表れ

胸が数年前の膨らみ

初めの時のようにぴりぴりし始めた。

また身長の伸びも止まり、

声変わりも抑制出来てるようで

中学三年生になっても声変わりの兆候は表れなかった…

「おはよう空」

「おはよう楓ちゃん」

「どうしたの楓ちゃん何か顔に付いてるの?」

「違うわ空すっかり朝立ちしなくなったと思って」

その言葉に赤くなり私は俯いてしまう。

思春期の男子になった私は心が女性でも朝立ちや性欲に苦しんでいた。

けど嫌悪感から自分で処理することも出来ず。

よく夢精して濡れたパジャマを楓の前にさらしていた…

「空が夢精するまで我慢するの可愛かったのになー」

「やめてよ楓ちゃん恥ずかしいよ朝から」

「ふふっすっかりおしとやかになったね空」

私は楓の優しさに怯えてびくびく話す様になっていた。

今の私には楓しかいなくて見捨てられたくないから、

楓の頼みなら自分の趣味じゃないゴスロリのドレスでも何でも着た…

依存心もこの1年で強くなり、

精通し初めて夢精したあの日は変わってゆく体が怖くて楓の胸元で朝まで泣いた…

楓はそんな私の頭を優しく撫でてくれた。

その日以来、私は名実共にまさに楓のペットの子猫に堕ちてしまった…

「ねぇ楓ちゃん。

 何で私にこんなに良くしてくれるの?

 私楓ちゃんに酷いこといっぱいしたのに…」

「貴方が好きだからよ空」

「私が好き!?」

「そう私ずっとクラスのアイドルだった空を

 自分だけのものにしたかったの」

「楓ちゃん同性愛者なの!?」

「えぇそうよ、

 気付いてなかったの空?

 でも今の私と空は異性結婚も出来るんだよ」

「まさかそのために私を男性化させたの?」

「だってそうしないと結婚出来ないじゃない。

 心配しなくても可愛いウェディングドレス着させてあげるから」

私は動揺しないようにしたけど、

彼女の歪んだ愛情が怖くて

パジャマに冷や汗をかいていた…

そして、さらに彼女は恐ろしい言葉を口にした。

「あっ勃起しなくなって心配してるの?

 大丈夫よ

 貴方の精子は冷凍保存してあるから、

 ちゃんと空の赤ちゃん産んであげられるよ」

「空と私の赤ちゃんなら可愛いだろーな」

私は楓の発想がおぞましくて足の震えが止まらなかった…

女同士だった私達の赤ちゃんだなんて…

だけど同時に楓の歪んだ愛情が嬉しかった。

どうやらこの生活で私もすっかり狂気の住人になってしまったらしい。

楓が私を愛して結婚してくれる。

ずっと一緒に居てくれるのが素直に嬉しかった。

私は同性愛者じゃなくて普通に男の子が好きなはずなのに

楓のことを思うと無性に胸が熱くなった。



私は楓に恋をしていたのだ…

男性化して居場所のなくなった私をいつも守ってくれた楓。

恥ずかしかったけど私に似合う服をいつも用意してくれた楓。

散々酷いことしたのにそれでも私を愛してくれるだなんて、

こんな私のことを…

その日、鈴原空は楓のことを思い高鳴る心臓を抑え床に就いた。

その興奮のためか空の陰茎は久し振りに勃起していた…

しかし薬の影響で縮んだそれは矮小で

パジャマの上からほんのり盛り上がっているだけだった。

楓の夢をみてるのか笑顔で眠る空…



空は夢の中で楓に初めて陰茎を見せた日を思い出していた。

男子である今の空が女子の秘密を喋るのを疑った楓の取り巻きは

空の陰茎の姿を首輪として写真に撮った。

「可愛いねー

 空のぺニス男子で一番小さいでしょ」

「確かに可愛いけど皮被ってるし

 彼氏としてはパスかなアタシは」

「彼氏ってありえないよー

 アタシ達より非力なのに」

好き放題空の陰茎を皆が貶すなか

楓だけは空の可愛いぺニスが好きだと誉めてくれた。

その時のことを思いながら刻印を輝かせ

空はパジャマに染みを広げていた。

久し振りの夢精に気持ち良さそうな表情をして、

ショーツをびっしょりにして楓への思いを解き放ち続けた。



おわり



この作品は猫目ジローさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。