風祭文庫・醜女の館






「太陽とアンドロギュヌス」



原作・猫目ジロー(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-328





郊外に佇む建物築年数をあまり感じさせないモダンな造りのそのアパート

その一室から微かに聞こえる艶かしい喘ぎ声。

…部屋に置かれた時計は既に深夜2時の針を刻んでいた。

「はぁはぁ…

 あっいぃそこ

 あん

 あぁ

 もっと突いて…」

部屋の中に響き渡るハスキーボイス。

暗闇の中でも分かる濃い化粧をした一見すると女性に見える人物…

だが、それを否定するかのように彼女の股間には男性の器官が備わっていた。

性的な興奮をしているのか膨張して尖端から涙を流し続けている。

暗闇の中ではっきり見えないが、

どうやら男性自身を受け入れているのは

女性の象徴ではなく排泄をするための器官。

そう彼女…いや今の彼はニューハーフと呼ばれる存在だった。



彼の名前は月山竜平。

普段はニューハーフとしての源氏名・梨華子を名乗っているが

元々は梨華子の方が彼の本名だった。

梨華子は生まれた時から正真正銘の女性であり

3年前までは戸籍上にもそう記されていた。

あの悪夢の日までは…



梨華子は学生時代より才色兼備を絵に描いた様な女性であり、

彼女に訪れるであろう輝かしい未来を疑う者はいなかった。

事実、大学卒業後も一流企業の社長秘書を務め

周りの男性はマドンナである彼女と付き合うために、

彼女は常に合コンの華だった。

だが完璧な人間と言うのはこの世には居るはずもなく、

梨華子の心無い行いに涙した人間は必ず居たのである。

そして、それらの存在が彼女の幸せの器に亀裂を生じさせていくと、

運命のあの日、彼女の存在の器は崩壊したのであった…



「泥棒ネコには相応しい罰があるのよ」

梨華子の前に姿を現した女性は審判者を気取りながらそういう。

彼女は梨華子の不倫相手の正妻だった。

そう、梨華子は社長と不倫関係になっていた。

思えば彼女は何時だって欲深い人間だったのかもしれない…

彼女の人生は自己顕示欲に溢れ、

学歴も美貌もそれを満たす道具でしかなかった。

あるいは社長との関係さえもそうなのかもしれない。

社長夫人ただそのステータスが欲しいだけだから、

その影で正妻やその娘が不幸になってもどうでもよかった。

そう自分さえよければ…



彼氏が帰った部屋で、

一人起き上がり鏡を見る梨華子の鏡の中には

裸のニューハーフが映っていて、

男性としては華奢なその体と、

不釣り合いな陰茎が彼を見つめていた。

そして、その上のヘソの辺りで輝く紫の刻印

一見すると刺青のようだが、

それはこの世のものとは思えない禍々しい光を放っていた。

彼にその刻印を刻んだ女性はそれを女性失格印と呼んだ…



「本当、夢みたいな話しよね

 女性を男性化させる刻印なんて…」

刻印を触りながら自虐的に呟く梨華子、

しかし、その声は男性の声を女性化させたような独特のハスキーボイスであり、

ゴクリと唾を飲み込む喉元に存在する喉仏が今の彼の性別を象徴していた。



あの日、正妻によって拉致された梨華子は

その恐怖から涙を流し必死に命乞いをする。。

「いっいや、

 お願い許して。

 彼とは別れるから殺さないで!」
 
「そんな野蛮なことしないわよそれに言ったでしょ
 
 相応しい罰があるって」

「なっ何よ罰って!?

 顔に傷でも付けるつもり?」

「そんなことしないわ、

 ただお前の性別を奪い取るだけよ…」

そういいながら正妻は静かに笑みを浮かべます。

そう、まるで獲物を狩る魔女のような…

次の瞬間、彼女は手に持った焼きゴテらしきものによって

禍々しい道具で彼女のヘソの辺りに刻印を刻れた。



「あぁぐがぁ…

 あっあぁぁぁぁー」

刻印の魔力による痛みと熱で梨華子はもがき続け、

彼女が意識が次第に薄くなっていく中、

「クスッ

 目が覚めたら地獄がまってるわよ。

 今みたいにモテないでしょうし、

 彼氏を作るのにも苦労するでしょうね。

 頑張って逞しく生きてねメス猫…

 いやオス猫ちゃん」

正妻は嘲笑を混めてこう言うと、

その彼女の言葉を聞きながら梨華子の意識は途絶えた…



彼女に言われたように

目が覚めたら梨華子の世界は180度変わっていた。

まず目に入ったのが変わり果てた自らの姿だった…

鏡に映った梨華子は男性的な幅広い骨格をしており、

153cmの小柄な体は168cmの引き締まった体になっていた。

「何なのよこっコレ!?」

思わず叫んだその声も

かつての猫の様な甘い声ではなく、

明らかに男だと分かるハスキーな声だった…

喉仏が出来たその変わり果てた声で彼女いや彼は号泣する。

夜が明けるまでずっと…

それからの梨華子の人生は苦労の連続だった。

刻印の魔力により過去まで改編されており、

彼は出生時から男性と言うことになっていて、

戸籍や周りの記憶まで書き変わってしまていたのである。

そう、彼が女性だったことを示すのはヘソに刻まれた刻印のみだった…

また一流大学を主席で卒業した梨華子は

改編された世界では不登校で学歴もなく、

性同一性障害のせいで家族とも疎遠だった。

そんな梨華子にはもう水商売しか残されておらず。

彼は24年間無縁だった夜の世界に身を投じるのだった。



深夜2時過ぎ、

今日も梨華子は酔っぱらって客の男性と共に帰宅していた。

かつての梨華子は社長秘書という仕事柄、

清楚な格好を心掛けケバいギャルなどを

内面の伴わない空虚な自信だと嘲笑っていた。

だが今の彼はそのケバいギャルそのものであり、

昔のように男にモテたいために化粧はどんどん濃くなり

生粋の女性に負けたくなくて肌の露出もどんどん増えた。



深夜3時部屋に響き渡る何かを舐める様な音。

「あっおっあぁぁ」

男性の口から気持ち良さそうなよがり声が洩れる。

…そう梨華子はフェラをして男性に奉仕していた。

「はぁはぁ、

 スゲェな梨華子のテクニック」

精を放出し息を切らしながら男性は梨華子に向かっていう。

男性は店の常連客で若く整った顔立ちをしているが

ニューハーフが好きという変わり者だった。

「あん、

 あぁはぁ…

 はうっ」

自らのぺニスを舐められ

ビクッ

と身悶えする梨華子。

始めは今の自分が男性だと自覚させられようで嫌悪感があったその行為。

自分の陰茎から零れ落ちる白濁した涙も嫌で嫌で堪らなかった

だが男性の感覚を知り尽くした彼の愛撫は気持ち良く

いつしか梨華子は彼…塚田洋平の虜になっていた。

「あっはぅっ

 あぁん

 あぁぁぁぁー」

ベッドのシーツをきつく握りしめ、

ハスキーな絶叫を梨華子はあげると、

次の瞬間、

洋平の口に青臭い味が広がっていく。

ごくっ

「飲まないでよ、

 汚いわよ

 私のは…」

「そんな卑屈になるなよ、

 梨華子お前のココ、

 いい臭いだよアンダーヘアも可愛いし」

射精したばかりで敏感なそこを撫でられ、

ピクッ

と梨華子は震えてみせる。

確かに梨華子は女性時代と同じようによくそこを手入れしていた。

そうただ洋平に愛してほしい一心で…

再びの愛撫に乳首と共にたち上がる梨華子の象徴…

「梨華子

 俺っもう」

「分かったわ始めましょ」

そう言って梨華子はベッドから尻をアナルをつき出す。

女性の象徴を失った彼は、

もうそこでしか男性の愛を受けとめることが出来なかった…

女性器の感覚と全然違うそこを使うのに始めは抵抗もあったが

洋平によく開発され

今では梨華子も快感を感じていた。

「いくぞ

 梨華子力抜けよ」

アナルにローションを塗り準備する洋平。

そこは本来精行為に使う場所ではないために自然に潤うことがないので

ローションを使わなければならない。

始めの内は今の自分の体つきを実感するので

嫌な行為だったが今では彼の愛を感じて胸が熱くなった。

梨華子のややゴツい肩を掴みのっぺりした尻に洋平は陰茎を入れると、

「うっ

 あっ

 あん…」

梨華子の顔が快感と苦痛に彩られていく。

しかいs、彼はこの瞬間が何より好きだった。



24歳で女性ホルモンを打ち始めた梨華子は

店のニューハーフに比べややゴツかった。

けど、次第に昔のような柔らかさを取り戻していくと、

筋肉も減少して髪や爪も柔らかに再び女性化してきた。

たが20歳を過ぎて完成されたやや肩幅や骨格、

女性のように括れのない骨盤はどうすることもできなかった。

しかし、

再び女性化したことで得られたキメ細やかな肌、

手術で入れたバスト整った顔立ちは

そこそこ美人で女性としてはゴツくても

ニューハーフとしてはレベルが高かった。

「あっ

 あっ

 あぁん

 はぁはぁ…

 あんっ

 あぁぁぁぁー」

彼にアナルを突かれ、

よがり声を上げる梨華子興奮はしだいに強くなり、

乳首だけではなく

やや大きめの下腹部も膨らみ続けていた。

梨華子のシーツを掴む手に力が入ると、

恍惚の表情に彩られながら梨華子は絶頂を向かえた。

梨華子の陰茎から少し色が透明になった液が漏れる…

女性ホルモンによって再び女性化したために、

梨華子の陰茎の勃起は少し弱々しくなっていようだった。



梨華子は洋平を心から愛していた。

この体になり昼の仕事に就けず、

また行く先々で男性に冷たくされたが、

刻印の呪いで自殺も出来ず。

女性として昔みたいに普通に生きたいのに、

男性であることを売り物にするオカマバーしか職がなく

客に茶化され客を笑わせる日々に絶望してた時、

救ってくれたのが…洋平だった。



梨華子は彼の存在に救われ自分は女性でも男性でもない、

ニューハーフだということも少しずつ受け入れ始めていた。

そう彼は夜の蝶となった梨華子を照らす太陽の様な存在だった。

あるいはかつて自分を求めていた社長も寂しかったのかもしれない、

皮肉にも男性化して周りの取り巻きが居なくなった梨華子は

以前より人肌が恋しくなり人の愛も少しは理解出来るるようになった…



「魔女の呪いで真実の愛を見つけるなんて

 まるで童話の世界の話みたいね…」

彼女が魔女なら私は何者だろう?

呪いをカケラレタお姫様かしら?違うわねきっと…

神話の世界なら私はきっと悪魔でしょう。

そう王を騙し民を惑わせる悪魔アンドロギュヌスね、

ギリシャ神話では男性は太陽、

女性は大地

そして両性アンドロギュヌスは月を意味するので

自分と洋平みたいだ…

珍しくロマンチックなことを考えながら、

梨華子は眠りについた…

太陽のその笑顔で夜に月光が照らせるようにただ願いながら…。



梨華子の願いに呼応する様に

ヘソに刻まれた刻印は艶かしく紫の光を静かに放ち続け

今日も梨華子はオカマバーへ出勤の準備をしていた…

鏡に映る自分を見つめる梨華子…

その中に映し出された姿はかつての自分と似てもにつかぬ姿だった。

かつての薄い清楚な化粧は見る影もなく、

今の梨華子の化粧は女を強調するかの様な濃いメイクだった。

「うふふ

 変われば変わるものね。

 私がニューハーフだなんて」

鏡に向かって切なそうに梨華子は呟く。

既にメイクを終えた彼は

ニューハーフ用の股間の膨らみを抑えるショーツを履き、

男性化した体臭を隠すための香水をつけていた。

けど、女性として扱ってほしくて涙ぐましい努力を重ねる梨華子だったが

これまでに付き合った男達は赤ちゃんが産めないから結婚出来ない、

ニューハーフと一回やってみたかった。

などと言いながら皆自分の前から去っていった…

彼氏をつくるのにもあの女の言葉通り、

苦労して好かれようと一生懸命男に尽くしたにもかかわらず、



それでも男性も女性も自分に冷たく

誰も生粋の女性と同じ様に扱ってくれなかった。

店や特集で呼ばれたテレビ番組でも

髭やすね毛の処理について質問され、

場の空気も自分達を女性として扱ってくれたなかった…

昔のことを思い出しながら梨華子は鏡に映る自分を見る

この3年ですっかり慣れた自分の顔には濃いアンラインが施され、

口紅は紅く艶めかしく輝く…

今日も梨華子の1日が始まる、。

そうニューハーフとしての1日が…

ヘソの周りに輝く刻印は月光に照らされ艶かしい光を放っていた…



おわり



この作品は猫目ジローさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。