風祭文庫・醜女変身の館






「女神のコーラ」


作・風祭玲

Vol.1029





「すみませーん」

夕方のディスカウントストア・業屋。

その店内に少女の声が響き渡ると、

「すみませーん。

 誰か居ませんかぁ」

少し間を空けて再度声が響く。

「うーん、

 店員さん居ないのかな…」

山のように積まれたペットボトル飲料のコーナーで

髪を左右に分けて束ね

白い空手着を身に纏う勢多久美子は困惑した表情を見せていると、

『はぁい、

 いらっしゃいませぇ』

程なくしてその返事と共に和装姿の老人・業屋が売り場に姿を見せる。

「え?」

この場にあまりにも似つかわしくない老人の登場に久美子は驚くものの、

老人の胸にスタッフ札が着いているのを確認すると、

「えっ、えーとぉ…

 ゴーヤコーラってありませんか?

 最近発売されたものなんですけど…」

と腰をかがめて尋ねる。

『…ほぉ、

 ゴーヤコーラですかぁ?』

彼女の質問から少し間を空けて業屋は返事をすると、

『あーっ、はいはい』

相づちを打ちつつペットボトルが積み上げられている山と格闘を始めた。

「大丈夫なかぁ…このおじいちゃん…」

そんな業屋の姿を見て久美子は一抹の不安を感じるが、

『えっとぉ、

 あっこれですな』

彼女の心配をよそに商品を見つけた業屋は一本のペットボトルを近くのカウンター上に置いて見せる。

「あれ?

 これってTVのCMと違うメーカーだ…

 あのぅ、これじゃぁないんですけど」

ペットボトルを手に取った久美子は自分が希望するのと違うことを指摘すると、

『あぁ、それは仕方がありませんな、

 この店で扱っている商品はどれもあなた様がご存じないところで作られておりますが、

 どれもこの世界で販売されているどの類似品よりも質は上です』

揉み手をしつつ業屋は言い切る。

「ふぅぅん…

 でも、違うのを買ってきたんじゃぁ…

 怒られちゃうな」

困惑した表情を見せつつ久美子は考え込んでしまうと、

『業ーちゃんっ!』

その業屋に向かって馴れ馴れしく話しかける女性の声が響き渡った。

『この声は………白蛇堂殿ですかぁ?』

声を聞いた業屋は苦々しく振り返ると、

フアッ

空中からわき出るようにして

白い衣装を身に身にまとう金髪碧眼の若い女性・白蛇堂が姿を見せるや、

『よっこらしょっ』

と業屋の頭の上に腰を下ろして見せる。

『しっ白蛇堂殿、

 わっわたしの頭は椅子ではございませんが』

白蛇堂の全体重に耐えつつ業屋は顔を真っ赤にして注意すると、

『あらぁ?

 業ちゃん、そんなところで何をしているの?

 てっきり椅子かと思ったじゃない』

それを聞いた白蛇堂はそう言いながらわざとらしく降りて見せる。

『はぁ…全くもぅ、

 お客様がいらっしゃっているのですから、

 おふざけは謹んでください』

不機嫌な顔をしながら業屋は懐から取り出したハンカチで額を拭い、

『それにしても

 だいぶ重うございましたが、

 白蛇堂殿、太られましたか?』

と問い尋ね、

『如何です?

 このフィットネス・ゲームソフトでシェイプアップなされては、

 いまならゲーム機本体とセットでポイント10%増しぃ!』

”髭オヤジ”のキャラがトレードマークになっているゲーム機を掲げながら業屋は迫った途端、

『ふんっ!』

ズカンッ!

その脳天に白蛇堂の回し蹴りが見事決まった。

『あいたぁ!

 いきなり蹴らないでください』

頭を押さえながら業屋は蹲ると、

『あら、ごめんなさいね。

 ついつい足が出ちゃったわぁ

 でも、業ちゃんでも言って良いことと、

 悪いことがあるくらいちゃんと弁えているでしょう』

そう注意しながら白蛇堂はゆっくりと空手の構えを解いてみせる。

そして、

『あら、ごめんなさいね』

じっと自分を見ている久美子の存在に気付くや彼女に向かって謝って見せると、

『あなた、空手をやっているの?』

と久美子の道着を見ながら尋ねた。

「え?

 あっぶっ部活で…ですが」

『まぁ、あたしもやっているのよ。

 ふふっ、空手って楽しいよね』

「はっはぁ…」

『クスッ』

常識外れの展開について行けないのか

未だ戸惑っている彼女の姿を見て白蛇堂は小さく笑うと、

『最近黒帯を取ったからって、

 私を練習台にしないでくださいよ…もぅ。

 どうせ、稽古の際には殿方に化けられているのでしょう。

 で、今日は何のご入り用ですかぁ?』

額に絆創膏を貼りながら業屋は不機嫌そうに尋ねると、

『そうねっ、

 さっきアンタが言った言葉に関係するわね、

 ここにゴーヤコーラがあるでしょう。

 それ頂戴』

と白蛇堂は来店の目的を言う。

『はぁ?

 ゴーヤコーラですかぁ?』

彼女の言葉を聞いた業屋が驚きの声を上げると、

『そうよ、

 天界女神コーラボトリング製のゴーヤコーラ。

 ここに入荷しているのは確認済みよ』

業屋を見下ろしながら白蛇堂はは頷いてみせる。

『また、何でそれを所望で?

 コーラを飲んでお痩せになる。なんて話は聞いたことがございませんし、

 もしお痩せになるのでしたら、

 このフィットネスソフトの方が確実に痩せられますがぁ?』

気が乗らないのか業屋はあくまでもゲームソフトを勧めようとすると、

『時間がないの、

 さっさと出して』

と白蛇堂は迫る。

『はいはい、

 何を考えていらっしゃるのか判りませんがぁ、

 そう言えば狐の姫様は如何でしたか?

 コン・リーノ殿に呼ばれて行かれたんでしょう?

 美味しいものをいっぱい食べてこられて、

 私もたまにはご相伴に預かりたいですな』

嫌味と言いつつ業屋はペットボトルの山に挑み始めると、

『連れて行っても良いけど、

 あっという間に豚みたいなデブにされるわよ。

 それでも良い?』

と白蛇堂は忠告めいたことを言う。

『へ?』

それを聞いた業屋は驚いて振り返ると、

『太ったんだって、

 豚姫…じゃなくて狐姫が、

 男の精を貪り過ぎた罰よ、まったく。

 で、自分よりも痩せている者は許さないって…

 もぅ芒(ススキ)の原は大騒ぎ…』

『はぁ、それは一大事ですなぁ…

 しかし、大騒ぎってどういうことで?』

『もぅ鈍いわねぇ、業ちゃんわ。

 狐姫は妖怪だろうが誰だろうが片っ端から呪詛をかけて強制的に太らせているのよ。

 見て、この護法結界晶。

 コン・リーノからの呼び出しを受けたとき、

 嫌な予感がしたのでお守りとして持っていったものだけど、

 呪詛を取り込みすぎて変質しちゃったわ』

『はぁ…これはまた…

 ここまで変質してしまった護法結界晶は初めて拝見しますなぁ

 怖ろしいことで』

一見すると氷砂糖に見える護法結界晶を眺めながら業屋は身を竦め、

『なるほど…

 それで防ぎきれなかった呪詛の影響で太られたのですか…』

と納得してみせる。

『コン・リーノは良いわよ、

 コン・ビーとか言う狐を身代わりにさせて居るんだから、

 こっちは堪ったものじゃないわ。

 だから早くゴーヤコーラを頂戴。

 それとお勧めのフィットネス・ソフトはゲーム機と一緒にそのコン・リーノに送ってあげると良いかも、

 あいつ、狐姫を鎮める方法を必死で探しているし、

 ここで恩を売っておくと良いわ』

『ほぉ、それは良いことを聞きました。

 けど何故ゴーヤコーラにこだわる理由をまだ聞いては居ませんが』

話を聞いた業屋はニヤリと笑いつつもコーラにこだわる真意を尋ねると、

『あら、知らないの、

 アンタが仕入れたゴーヤコーラには呪詛返しの効能があるのよ。

 さすがあの女神が作っただけのことはあるわね。

 で、これを飲めば狐姫から受けた呪詛をはじき返せるとね』

と白蛇堂は答え、

『ほぉ、このコーラにそんな効能があるとは知りませんでしたなぁ』

感心しつつ業屋はゴーヤコーラのペットボトルを差し出してみせる。

『さんきゅーつ、

 ありがたく頂いていくわ』

差し出されたペットボトルを白蛇堂は素早く手に取って封を切ると、

グビツ

ゴクゴクゴク!!

と豪快に飲み干して行く。

『そう言えば先日お兄様が下の妹さん達を探していましたが』

『ん?

 あぁ、三色堂のこと?

 なんか危なっかしいことをしていたみたいね』

『あの、ご心配にならないので?』

『色々大火傷をしたみたいだけど、

 良い勉強になったんじゃないの?

 最もこのあたしがその後始末に行くんだけどね。

 あいつ等にはたっぷりとお仕置きをしてあげるわ。

 んっ、

 きたきたきたぁ〜っ

 しゅわしゅわしゅわぁぁぁぁ〜っ

 くぅぅぅ…これは癖になるわぁ〜っ』

コーラを飲み干した白蛇堂は体の中から響いてきた快感に身もだえしてみせると、

『あっあのぅ、

 お代は?』

業屋は不安気に問い尋ねる。

しかし、

『なによ辛気くさいわね。

 コーラぐらいどーんと目を瞑りなさいよ。

 うりゃぁ』

と言いながら、

ペシッ!

業屋の額を手刀で叩いて見せたのであった。

『そんなご無体なぁ!』

額を抑えつつ業屋は飛び上がると、

『そういえばあなた…』

早速効き目が現れたらしくさっきよりもスリムになった白蛇堂は

自分を見つめている久美子の手中にコーラのペットボトルがある事に気がつくと、

『あなたもこのコーラを買いに来たの?

 なら一本余分にもって行きなさい。

 きっと役に立つし、

 上手くすればあなたが置かれている立場もがらりと変わるかもよ』

ともう一本、コーラのペットボトルを手渡した。



「ただいま戻りましたぁ」

夕闇が迫る沼ノ端女学園。

コーラが入った袋を抱えて久美子は空手部と書かれたドアをあけると、

「遅いぞ」

「もう日が暮れてしまったじゃないかよ」

中で談笑していた空手着姿の少女達が彼女に向かって一斉に罵声が浴びせる。

「すっすみません、

 なかなか無かったので」

それらの声に詫びつつ久美子は業屋で買ってきたコーラを取り出してみせると、

「なんだこのコーラ?」

「げっ、コイツ、

 違うのを買ってきたよ」

「ゴーヤコーラってなんだぁ?」

久美子が出したコーラをひったくると一斉にクレームを付け始めた。

「え?

 だってぇ…

 ゴーヤコーラを買ってこいって言ったのは…」

困惑しながらも久美子は言い返すと、

シュワァァァァァ

その久美子の頭からいきなりコーラが浴びせられ、

「誰だがそんなことを言った?」

と問いただしてきた。

ビクッ

その声に久美子は身体を振るえさせながらも、

ギュッ

両手を握りしめ、

「あっあたしはハッキリと聞きました。

 ゴーヤコーラを買ってこいと、

 それとまだコーラのお代を貰っていません」

と久美子は部員達に向かって声を上げる。

「なにぃ?」

それを聞いた部員達の表情が強ばり、

そしてグルリと久美子の周りを取り囲むや、

「おいっ!

 その口の利き方は何だ?」

と怒鳴りながら胸襟をつかみ上げる。

「口の利き方って…

 上級生だからって無茶を言っても良いんですか?」

気丈に久美子は言い返すと、

パァンッ!

いきなり彼女の頬が叩かれ、

さらに、

パァン

パァン

と続けて叩かれる。

そして、

「ふふっ、

 頭の悪い子はお仕置きが必要ね」

と別の所から声が挙がるや、

頬を腫らす久美子を羽交い締めにしてしまうと、

「みんなっ

 今から正拳突きの稽古よ!」

の声と共に、

「押忍っ!」

部員達は一斉に久美子に向かって殴りかかった。

「痛いっ」

「いやっ」

「やめて!」

「ひぃ!」

手加減なしの鉄拳制裁に久美子は悲鳴を上げると、

「ねぇっ、

 そろそろやめたら」

足を組んだ姿勢で椅子に座るお嬢様風の少女が声を上げる。

「!!っ」

その声に久美子を暴行していた少女達の手が止まると、

ササッ

瞬く間に久美子の傍から離れ、

床に蹲る彼女の姿が露わとなる。

すると、

「勢多さん。

 あなたも空手部の部員なら、

 上級生の命には従って貰わないとならないのよ。

 それって判るでしょう?」

痛みをこらえる久美子に向かって空手部を率いる久遠寺美佳は優しく話しかけるが、

「……だからと言って、

 こんな無茶が許されるんですか?」

痛みを堪えながら久美子は立ち上がり美佳を見据えた。

その途端、

「こらぁ!

 美佳様になんて口答えをするのっ」

周りに下がっていた多の部員が慌てて久美子の頭を掴むと、

その場に無理矢理ひれ伏しさせるが、

「もぅ…

 もぅいやっ

 こんなのっ!」

伏せさせられた久美子は悲鳴にも似た声を上げて無理矢理顔を上げるや、

「あっあたしっ、

 もぅもぅあたな達にはついてけませんっ、

 なにがお嬢様よっ、

 なにが沼ノ端の華よっ、

 その正体はただのワガママな女じゃないっ」

と椅子に座る少女に向かって怒鳴ってみせる。

その途端、

ピクッ

美佳のこめかみが動くとゆっくりと腰を上げ、

足音を立てずに久美子の近くへと向かっていくと、

「おいっ、

 コイツをちゃんと押さえておけ」

そう命じるや、

ドスッ!

伏せられている久美子の脇腹を蹴り上げる。

そして、

「誰に、

 向かって、

 そんな、

 口を、

 聞いているのっ」

と話しかけながら空手技を思わせる蹴りで幾度も久美子の脇腹を蹴り上げる。

そしてその都度、

「がふっ」

「うぐっ」

蹴り上げられるたびに久美子の口から嗚咽が漏れ、

ハァハァ

ようやく美佳の足が止まった頃には、

白目を剥く久美子が力無く横たわっていたのであった。

「うふふ、

 さすがは初段の腕前ですね、美佳様」

「同好会だった空手部を正式の部活動にしてくれた恩ある方に逆らうだなんて、

 本当にバカな女」

倒れている久美子を見下ろしつつ皆は嘲笑していると、

「いいわ、

 空手部を辞めると言うなら止めません」

と言いつつ自分のロッカーを開け、

その中から薬瓶らしいものを2つ取り出す。

そして、

「この薬はねぇ…

 ある方から分けて貰った面白い薬なの」

と言いながら美佳は手にした薬瓶を意味深に見せた後、

「知っている?

 この薬を1錠飲めば1時間後には体重を1kg体重を増やすのよ。

 そう、この薬は効き目の持続時間と増量が飲んだ錠剤の量に比例するの。

 つまり2錠飲めば2時間掛けて2kgづつ増え続け、2時間後には4kgの増量

 3錠飲めば3時間掛けて3kgづつ増え続け、3時間後には9kgの増量、

 4錠飲めば4時間掛けて4kgづつ増え続け、4時間後には16kgの増量で効き目は切れるわ」

と皆に向かって説明をした。

「すっすごい…」

それを聞いた久美子以外の部員は顔をこわばらせ、

「じゃっじゃぁ…

 8粒飲んだら…8時間後には64kgも太るんだ…」

と一人が聞き返すと、

「はい…その通りよ。

 しかも、こっちの錠剤も併せて飲めば効き目は2倍の速度で進行するから…

 半分の時間で体重を倍にすることが出来るわ」

もう一つの瓶を掲げて美佳は言う。

「まぁ、なんて…恐ろしい…」

美佳が掲げた2本の薬瓶を見て皆は青ざめるが、

「ふふっ、本当にそんな効果があるのか見てみたいの」

と囁きながら美佳は薬瓶の蓋を開けると、

気を失っている久美子の口の中に水と共に錠剤を流し込んだ。

そして、

「後は任せたわ、

 明日の朝が楽しみね」

と気を失っている久美子に向かって話しかけると、

「逃げ出さないように縛っておきなさい」

と言い残して部室から立ち去って行った。



翌朝。

「ひぃ

 ひぃ

 ひぃぃぃぃ!!!

 いやぁぁぁぁぁ!!!」

空手部の部室から久美子の悲鳴が響き渡り、

ぶよん

ぶよん

白い肌の塊が部室の中を転がり回っていく。

そして、

「あははは…

 見ろよ、

 まるでマッシュルームだよぉ」

「うわあぁぁ…

 これは凄いなぁ…」

「やだぁ…きもい…」

登校してきた部員達は転げ回る久美子を指さして嘲笑すると、

「誰かぁ

 助けて…」

と久美子は思うように動かすことが出来ない腕を伸ばしながら訴える。

そう、昨日気を失うまではスレンダーだった久美子の体は

200kg以上はあろうかと思われる肉塊と化し、

さらに折り曲げることすら困難になってしまった手足のために満足に立ち上がることも出来ず、

膨れ上がった身体を転がり廻し続けることしか出来ないのである。

すると、

「あらぁ、

 すてきな身体になったじゃない」

の声と共に事の久美子をこんな姿にした張本人である美佳が部室に顔を出した。

「あっあたしに何をしたんですか?」

転がり回りながら久美子は美佳に尋ねると、

「ふふっ、

 さぁ?

 あたしをバカにした天罰が下ったんじゃないの?」

と美佳はしらばくれてみせる。

「そんな…

 もっ元に戻してくださいっ、

 こんな身体では教室に行くことも出来ません」

文字通りの全裸状態になっている久美子は涙を流しながら懇願すると、

「だからそんな姿にしたのはあたしじゃない。って言っているでしょう?」

と美佳は不満気に言うと、

「そうだそうだ、

 美佳様を見下した罰が当たったのよ」

「これは天罰よ」

「うふっ、

 その風船デブの姿で生きると良いわ」

「あはっ、

 相撲部に行きなさいよ。

 ほんと、みっともない」

と他の者も久美子の非礼を指摘し笑って見せる。

「そんなぁ…」

錠剤を飲まされたことを知らない久美子は呆然としてると、

『これはまた見事に太らされたわねぇ』

と白蛇堂の声が響くや、

フワッ

久美子の前に白い衣装を纏う金髪碧眼の白蛇堂が姿を見せる。

ザワッ

その途端、皆は一斉に驚き、

「誰よ、あなたは!!」

動揺する皆を押さえながら美佳は白蛇堂に向かって問いただした。

『あら、あなたただったの、

 あたしの妹たちを騙して”太る薬”をせしめたのは』

と白蛇堂は美佳を指さし尋ねる。

「なっ何を言うのっ、

 くっ薬なんてあたしは知らないわ」

その指摘に美佳は表情を強ばらせて言い返すと、

『あらあら、

 しらばっくれる気?』

白蛇堂はクスリと小さく笑い、

床に転がり落ちていたペットボトルを拾い上げる。

「なっなによっ」

それを見た美佳は口をとがらせると、

『はいっ』

白蛇堂は手にしたペットボトルを久美子に向かって放り投げ、

『それを飲みなさい。

 誰があなたをそんな姿にしたのか一発で判るわ』

と指示をする。

「これは…ゴーヤコーラ。

 あっ!」

渡されたペットボトルを見た久美子は昨日白蛇堂が言った言葉を思い出すと、

うんせっ

うんせっ

太って不自由になってしまった手を使ってゴーヤコーラの封をねじ切り、

グビッ!

それを飲み始める。

「なっなにを…」

その意味が分からない美佳達はゴーヤコーラを飲む久美子を見つめると、

『ふふっ、そのコーラは呪詛返しをするコーラ…

 あたしの妹たちが作った薬は不完全でね、

 主成分は呪詛なのよ。

 だから、彼女がこのコーラを飲むことで、

 こんな姿にした張本人とその仲間たちに呪詛が降りかかるのよ』

青い瞳を光らせつつ白蛇堂はそう呟く。

「ひっ!」

その説明に皆の顔から一斉に血の気が引いていくと、

プハァ

久美子はコーラを飲み干し、

「しゅわしゅわしゅわぁぁぁぁ…

 あぁ気持ち良い…」

と身悶えてみせると、

シュワァァァァァァァ…

彼女の身体から炭酸を思わせる泡が吹き出し、

ググッ

グググググッ

巨体と化していた久美子の身体が萎み始める。

「うそっ、

 なによこれは!」

見る見る萎んでいく久美子の姿を見ながら美佳は声を上げると、

シュワワワワワァァァァ…

ついに泡を吹き上げながら久美子は元の姿の戻ったのであった。

「え?

 え?

 あっあたし…元の姿に…」

身体にまとわりついている泡を拭いつつ久美子は驚きの声を上げると、

『さぁて、

 始まるわよぉ、

 本当にお仕置きが必要な者たちへの仕置きが』

美佳達を睨みながら白蛇堂が呟くや、

ドクンッ!

「うっ!」

美佳達の身体に異変が始めた。

メリッ!

「なっなに?」

突然襲いかかった異変に皆が驚き、

そして、

ミシッ

ミシッ

不気味な音を立てて膨れていく自分たちの手を見つめる。

そして、

メリメリメリィィィ!!!

ある一線を越えるのと同時にまるで爆発するかのごとく皆の身体が膨れ始めると、

「ぎゃぁぁぁ!!」

「いやぁぁぁ!!」

その場にいた空手部員達の身体がボールの如く膨れ、

バシンッ!

ブシッ!

ビリィィィ!!!

着ていた空手着を弾き飛ばし、

次々とマッシュルームの如く膨れた身体をさらけ出す。

『うふふふ…

 まぁまぁ、見事に太っちゃってぇ、

 豚でもそんなに太っているのは居ないわ、

 一生、転げ回っていなさい』

異形の生き物を思わせる姿になた美佳達を見ながら白蛇堂は笑うと、

「ひっひぃぃ!!

 騙して薬を手に入れたのは謝ります。

 お願いですっ

 もっ元の姿の戻してください」

ぶよん

ぶよん

と膨れきった身体に翻弄されながら美佳はそう懇願するが、

『さぁ?

 あたしは知らないわよ。

 自分たちで元に戻ることを考える事ね、

 ふふっ、己の浅はかさを悔いるといいわ』

泣き顔の美佳達に向かって白蛇堂はそう言うと、

『じゃぁ、あとはよろしくぅ』

と言い残して久美子の前からその姿を消したのであった。



こうして空手部に巣くっていた美佳一味は駆けつけたトラックに無造作に積み込まれ、

ドナドナ…もとい病院へと送られるが、

どのような最新鋭の療法を使っても1gたりとも体重は減ることはなく、

治療に当たる医師達はみな首をかしげていた。

一方、久美子は…

「でやっ!」

「おぉっ!」

「さすがは主将っ

 見事です」

空手部主将として空手着に身を包み、

稽古に汗を流しているのであった。



おわり