風祭文庫・醜女変身の館






「タトゥ」


作・風祭玲

Vol.627





それは蒸し暑いある日の夕方のことであった。

「じゃね」

「ばいばいーっ」

別れの挨拶をしながら

夏服姿の皆川麗子が聖母女学院の校門から出てくると、

「皆川麗子さんですね」

男性の低い声が掛けられた。

「はい?」

その声に麗子は振り返ると、

スッ…

この気温と湿度には似合わない黒のスーツ姿にサングラスを掛けた男達が

駆け寄りたちまち麗子の周りを取り囲むと、

「だっ誰です、

 あなたたちは」

突然のことであるにもかかわらず、

麗子は気丈に声を上げる。

すると、

「どうしたの?

 麗子っ」

彼女の声を聞きつけて

別れたばかりの部員達が駆け寄ろうとするが、

その前に別の男が立ちはだかると、

「我々は彼女だけに用事がある。

 君たちは下がりなさい」

と言い聞かせる。

「なっなんです。

 あなた方は…
 
 人を呼びますよ」

そんな状況にもかかわらず、

麗子は男達を見据えていると、

ザザザ…

1台の黒塗りのリムジンが校門に横付けされ、

その窓が開くと、

「我々と同行していただけませんか?
 
 皆川麗子さん…」

その中より白のスーツ姿の男が顔を出し麗子に言う。

「あなたは…」

男の顔を見た途端、麗子の表情が硬くなると、

「お久しぶりです」

20代半ば、

イケメンホストと見まごうばかりの風貌を持つ男は

麗子に向かって挨拶をすると笑みを見せる。

「うっ」

その笑みに麗子は思わず引き下がると、

「麗子っ!」

男達の包囲網を突破して、

彼女の友人であり、

新体操部の部員でもある河野有里が飛び込んできた。

「有里っ

 ダメよ、離れなさい」

その有里に向かって麗子は声を上げるが、

たちまち有里は男達に捕まってしまうと、

「やだ、何をするの?」

と叫び声を上げる。

「こっ粉川さんっ

 何でこんなコトを…」

車内の男を粉川と呼びながら麗子は迫ると、

「まぁ詳しいことは車内でご説明しましょう」

と粉川は麗子に告げ、

「おいっ!」

麗子を取り囲んでいる男達に小さく命じると、

「ちょちょっと」

「やだ!」

麗子と有里を無理矢理車内に押し込み、

男達も乗せてリムジンは走り始めた。



「どうなされました?」

車内のソファにゆったりと腰掛けながら、

粉川祐二はテーブルを挟んで座る麗子に話しかける。

すると、

「有里は関係ないわ、

 この近くで下ろしてあげて」

震える有里を抱きしめながら

祐二に向かって麗子は指示をするが、

「残念ですが、それは出来ません。

 この方の顔は知られてしまいました。

 麗子さん、
 
 この方はあなたと運命を共にしていただきます」

と告げた。

「運命って…」

祐二のその言葉に麗子は驚くと、

「昨日、上海の株式市場が大幅な暴落を記録したのはご存じですね」

と祐二は麗子に尋ねる。

「……あの部活に忙しくて、

 そう言ったことはあまり知らないので…」

祐二の言葉に麗子は間近にせまった新体操の大会の為に、

毎日練習漬けでニュースを見ていないことを告げると、

「なるほど…

 スポーツに真剣に打ち込み、
 
 汗を流すということは、
 
 人生にとって極めて有意義でありますね。

 でも、そのスポーツに打ち込める環境がどこから来ているのか、

 誰のお陰であるのかも常に把握しておくと言うことも、

 極めて大事です」

と祐二は麗子に告げた。

すると、

「まさか、お父様が…」

祐二のその言葉に麗子は声を上げると、

「お話を続けましょう、

 上海の市場で発生した暴落は

 たちまち、東京・ロンドン・ニューヨークへと波及し、

 今日現在、世界の株式市場は全面安の状態になっております。

 この暴落で私も資産を大きく失ってしまいました。

 でも、それよりも大変なのはあなたのお父さん、

 皆川啓介氏はさらに大きな損害を被りました」

と祐二は告げ、憂いの表情を見せる。

「そんな、お父様が…」

その説明に麗子はショックを受けていると、

「あなたも知っているとおり、

 私は幼少の頃より啓介氏に面倒を見ていただき、

 私がここまでになれたのも啓介氏のご尽力があってのことと、

 と常日頃思い、啓介氏の事業に全面的に協力をしてきました。

 でも、今度の暴落で啓介氏が出してしまった損害はあまりにも大きく、

 私一人の力では啓介氏を庇うことが出来ませんでした」

と祐二は説明を続ける。

「それで、なんで私を…」

その説明を聞いた麗子は祐二にこの拉致について問いただすと、

「はい、

 実は、啓介氏に資金を提供した一部の者が、

 その借金の担保にとあなたを拉致しようとする動きがあり、
 
 私はその様な不定の輩からあなたを守るために

 このような行動を起こしたのです」

と祐二は麗子言う。

「そっそうだったのですか」

その言葉に麗子は安心するのと同時に、

「だったら…

 有里を解放しても良いでしょう?

 私一人で十分でしょう?」

と麗子は聞き返すと、

「いえっ

 あのまま有里様が見て見ぬふりをして帰宅されれば、
 
 我々は何もしませんでした。
 
 でも有里様は割って入っていらっしゃいました。
 
 これで、あなたを狙う者達は有里様もターゲットにしたのです」

と祐二は言う。

「そんなぁ…

 あたしはただ…」

その説明に有里は声を上げると、

いつの間にかリムジンは点々と灯りが点る森の中を走っていた。

「あれ?

 ここは?」

見たことがない車窓に麗子は驚くと、

「昔の華族のお屋敷です」

と祐二は言う。

「え?」

その言葉に麗子は振り向くと、

「ここである方に会っていただきます」

と祐二は告げ、笑みを浮かべた。



「おぉ…待っていたよ、

 キミが皆川麗子くんか」

リムジンが停車するのと同時に、

横付けされた洋風の邸宅より

スーツ姿の男性がステッキを付きながら飛び出すと、

ドアを開けながら声を掛ける。

「はぁ…」

歳は50前後か、頭の禿げ上がった小太りの男を

麗子は怪訝な表情で見上げながらリムジンから降りると、

続いて有里も降り立つ。

「ほぅ、この方は?」

男性は降り立った有里を見ながら驚くと、

「先ほどお電話を差し上げた、

 河野有里さんです」

と祐二は説明をする。

「あぁ…

 なるほど、河野さんか…
 
 うんうん」

その説明に男はしきりに頷くと、

「さぁ、

 立ち話はなんだ、
 
 中に入りたまえ」

男はそう話しかけ、

麗子と有里を建物の中に案内した。

戦前に建てられたと思われる建物の中は、

外見とは裏腹に空調が効き、

外の蒸し暑さはまるで感じられなかった。

その中をステッキを付く男に先導されて麗子と有里、

そして祐二が歩いていくと、

やがて、12畳ほどはあるかと思われる応接間に通された。

応接間に用意されていたソファに座るなり、

「さてと、

 今回のコトは非常に残念だったね、

 私もキミのお父さんを応援してきただけに、
 
 もぅなんて慰めて良いのか」

と沈痛な面持ちで話し始めた。

「えぇ、

 誠に申し訳ありません」

その言葉に麗子は頭を下げると、

「うん、私もね、

 出来ることはするつもりだ」

と男は麗子にそう告げる。

すると、

「倉吉様…」

応接室にトランクを携えながら、

一人の男が入ってくると、

「おぉ…」

男は立ち上がってトランク受け取ると、

それを手下の男達の手に助けられながらテーブルの上に置くなり、

パチン!

それを開いて見せる。

トランクの中は帯封がしてある1万円札で埋まっていた。

「あっ」

それを見た途端、麗子は声を上げてしまうと、

祐二が立ち上がり、

「麗子さんの代金、

 確かに受け取りました」

と男に言う。

「え?」

祐二の口から出た言葉に麗子は驚くと、

「現金は麗子さんの分しか用意してなかった。

 追加分の有里さんの代金は小切手でいいかね」

と男は言うと、

「えぇ、

 構いませんよ」

祐二はそう返事をし、

そして、男がサインをした小切手を受け取る。

「ちょちょっと、

 コレは一体…」

二人のやりとりを見た麗子が慌てて腰を上げると、

「座りなさい」

と男はさっきまでとは違う厳しい表情で麗子に命令をした。

すると、

「なんで、あたしまで」

と今度は有里が立ち上がって声を上げようとしたとき、

グッ!

控えていた男達が有里に近づくと、

その肩を握りしめ強引に座らせた。

「きゃっ!」

男達の行為に有里が悲鳴を上げると、

「ちょっと、

 有里に何をするの!」

と麗子は怒鳴るが、

その直後、

男の手下が麗子の前に立ちはだかると、

パァァン!

応接室に響きの良い音が木霊し、

恵子の身体は2・3メートル横に飛ぶと、

ドサッ!

床に叩きつけられてしまった。

「麗子っ!」

有里の悲鳴が上がるが、

「座っていろ…」

その直後、男に命じられると、

有里は立ち上がることが出来なかった。

「うぐぐぐ…」

落ちた際に身体を打ったのか、

麗子はうめき声を上げていると、

「と言うわけです、麗子さん。

 あなたはこの倉吉雷蔵さんに売られたのですよ、

 あっ、
 
 ちゃんとご両親の承諾は頂いておりますので、

 お家のことは心配しないでください」

トランクを手下に運ばせながら祐二は言う。

「!!」

その言葉に麗子は目を見開くと、

「粉川さん!」

慌てて起きあがり、祐二の名前を呼ぶが、

ブンッ!

バキ!

その直後、ステッキの先が飛んでくると、

麗子の頬を強く叩き、

そして、それをねじ込みながら、

「お前は親の金策として俺に買われたんだ、

 いいなっ」

と男・倉吉雷蔵はいい聞かせる。

「そんな…」

そのセリフに麗子はショックを受けると、

「いやっ

 放して!」

有里の悲鳴が上がった。

「有里っ」

響き渡った悲鳴に麗子は振り返ると、

「放して、

 放して」

「こっちに来るんだ」

雷蔵の部下達に有里は取り押さえられ、

そして応接室から連れ出されようとしていたところであった。

「ゆっ

 有里は関係ないわ!
 
 彼女は帰してあげて」

男達に向かって麗子は声を上げるが、

「彼女の代金も支払った。

 故に、あの子も私のものだ」

と雷蔵は麗子に告げた。

「そんな…

 なんで…」

その言葉に唖然とする麗子に

雷蔵の手下達がジワジワと迫り、

「いやぁぁぁ!」

麗子の悲鳴が応接室に響き渡った。



あれからどれだけ時間が過ぎたのであろうか、

1週間、いや、ひと月以上、

麗子はとある部屋に監禁されていた。

机、テーブル、TV、ベッドと行った家具・調度品が置かれ、

扉を隔ててバス・トイレも完備してあった。

しかし、女の子用に飾り付けられているこの部屋の窓には鉄格子が張られ、

またドアには厳重に施錠させられていた。

まさに麗子は完全にかごの鳥であった。

そして、もう一つ、

部屋の中では麗子は一糸まとわぬ全裸にされていた。

あの時、麗子は全てを取り上げられ、

着ていた制服や下着すらも奪われ、

全裸でこの部屋に閉じこめられてしまったのであった。

しかし、部屋の気温湿度とも

全裸での生活が何不自由なく過ごせるように完全空調され、

いつしか麗子は全裸で居ることに抵抗を感じなくなっていた。



カラン…

日々、同じ時間に自動的に用意される食事を麗子が口にしていると、

フッ…

消えていたTVがついた。

「え?」

突然スイッチが入ったTVを見ると、

『やぁ、

 気分はどうかね』

と言う声と共にサマースーツ姿の倉吉雷蔵が画面に映し出される。

「どうって、

 あたしをこんな所に閉じこめてどうする気なの?」

画面内の雷蔵に向かって麗子は怒鳴ると、

『ふっ』

その声が聞こえているのか雷蔵の顔に笑みが浮かび上がり、

『麗子さん、

 キミを長い間放ったらかしにしてすまん。

 キミのお友達に構っていて、

 時間が取れなかったのだよ』

と笑顔で麗子に告げた。

「あたしの友達って…

 有里に何をしたの?」

雷蔵に向かって麗子は怒鳴ると、

『いやぁ、

 キミと有里さんは新体操部だったそうだね』

と雷蔵は返事をし、

そして、

『有里さんからそれを知った私は、

 彼女のために一肌脱いであげたんだよ』

と屈託のない笑顔で麗子に告げた。

「うそ、

 一肌脱いだって、

 そんなこと言って、

 彼女に一体、何をしたの?
 
 まさか、とんでもないことしたんじゃないでしょうね」

麗子は雷蔵を睨み付けながら怒鳴ると、

『そうそう、

 1週間前だっけかな…
 
 その新体操の大会が開かれて、
 
 彼女はその大会で優秀な成績を収めたんだよ』

麗子の抗議には耳を貸さずに雷蔵は一方的に言うと、

雷蔵の姿が画面半分になり、

その右側に試合会場の様子が映し出された。

「あっ

 そうか、
 
 大会終わっちゃったんだ…」

それを見た途端、

麗子は目標としてきた大会が終了してしまったことを思い出し、

ギュッ

その悔しさからか手をきつく握りしめた。

すると、

『ほらっ、

 見てご覧、
 
 キミの親友・有里さんの演技だよ』

と言う雷蔵の声が響き、

リボンを片手に舞い踊る有里の姿がTV画面に映し出された。

「有里…

 そう、あなたは出られたんだ…」

新体操部の紺色のレオタードを身につけ、

華麗なリボン裁きを見せる有里の姿を見つめながら、

麗子は心配していた彼女が新体操を舞っていることにホッとするが、

しかし、画面の中で舞う彼女の姿に違和感を感じた。

「……あれ?

 有里…
 
 何か違う…」

すらりと伸ばされた手、

絞り込まれたウェスト、

膨らんだヒップ、

力強い脚。

どれも、いつもの有里の姿なのだが、

しかし、違うのであった。

『どうかしたかね?』

麗子の反応に雷蔵は秘め事を隠すような笑みを浮かべると、

「違う…

 いつもの有里じゃない」

首を横に振りながら麗子は画面の有里を見る。

『いやぁ、

 有里さんだよ、
 
 別に他の人が化けている者ではないよ』

と雷蔵は言い、

それに合わせて有里の姿がズームアップした。

その瞬間、

麗子は舞い踊る有里の胸で弾む2つの膨らみを見つけると、

さらにその下、

絞り込まれたウェストで動く筋肉の動きに目を見張った。

「うそ…

 有里…裸なの?」

普段レオタードの下に隠れ決して見えることがない、

左右別々に動く乳房とウェストのヘソのくぼみ。

そして、股間を大きく開いたときに口を開くクレパスに

麗子の目は釘付けになった。

「でっでも、

 有里…レオタードを着ているよね…」

紺色の胸元で雫の形に輝くビーズの輝きと、

さらに、脇から腰にかけて別のラインを描く輝きに麗子は不思議に思った。

けど、さらに画面がズームアップして、

有里の顔を大写しにした途端。

「きゃぁぁぁ!!」

麗子の悲鳴が部屋中に響き渡った。

『どうかしたかね?』

TV画面に映る有里を怯えながら見る麗子に雷蔵は尋ねると、

「なっなんてこと…

 なんてことを有里にしてくれたのよ!
 
 こんなことをされたら…
 
 有里…死んじゃうよ」

と涙を流しながら麗子は抗議する。

すると、

『そうかね?

 じゃぁ、直接聞いてみるといい』

画面の雷蔵はそう返事をすると、

何かスイッチを押した。

その途端、

カチッ!

麗子をこの部屋に幽閉していたドアのロックが外れ、

カシャン…

何者かが入ってくる。

程なくして麗子の前に姿を見せたのは紛れもない、

あの有里であった。

「ゆっ有里…」

「麗子…お久しぶり…」

あの日以来、

長らく顔を合わせこなかった二人は久方ぶりに再会をすると、

お互いに言葉を交わす。

「麗子…少し太ったんじゃない?

 身体ちゃんと作っている?」

驚いたままの表情の麗子に有里はそう話しかけると、

「有里…

 ごっごめんね、
 
 あなたを巻き込んじゃって…」

と麗子は詫びながら有里の手を握った。

すると、

「ううん、

 いいのよ、もぅ済んだこと…」

麗子の言葉に有里はそう返事をする。

「済んだコトって…

 いっいいの?
 
 有里は本当に良いの?」

有里の返事に麗子はそう言い返すと、

「だって…

 仕方がないでしょう…」

涙を浮かべながら有里は怒鳴った。

「うっ」

彼女のその言葉に麗子は声を詰まらせると、

改めて有里の姿を見る。

そう、いま目の前に立つ有里は

ビーズの刺繍が施されている紺色のレオタードを身につけ、

そして、髪をシニョンに纏めた頭に、

試合用のメイクアップを済ませている姿で、

これから試合に出向いていく。そんな姿であった。

しかし、麗子の目には彼女の別の姿が映し出されていた。

それは…



目の前の有里は一糸まとわぬ全裸で立っていることだった。



「有里…」

そんな有里を見ながら麗子は彼女を哀れむと、

「同情は止めて」

有里は麗子に言う。

「え?」

彼女の口から出たその言葉に麗子は驚くと、

『いっいやぁぁ…』

突然TVから彼女があげる悲鳴が響き始めた。

その声に麗子がTV画面を見ると、

そこには白い裸体を曝す有里の姿が映し出され、

縛り上げられた両腕は天井から伸びるフックに吊されると、

両脚は大きく開かされて部屋に設けられたアンカーに固定され、

文字通り身動きが出来ない状態になっていた。

「これは…」

画面の中の有里の姿に麗子は驚くと、

「この後、

 あたしは髪を…
 
 いえ、体中の毛を失うのよ」

と麗子の後ろに立つ有里は説明をする。

「うそっ」

その言葉に麗子は驚くが、

『やめて!』

画面の有里が悲鳴を上げると、

物々しい防護服に身を固めた人物が有里に近づくと、

ドロ…

手にした容器から透明の粘液状の物体を有里の身体にかけ始めた。

そして、手袋を嵌めた手で

ネチャネチャとその粘液を有里の身体隅々まで伸ばしていくと

プッ

プッ

ププププ…

粘液に覆われた有里の頭から髪の毛が外れる様に抜け落ち、

さらに眉毛、陰毛など様々な毛が抜け落ちていった。

「うっ」

見る間もなく全ての毛を失い、

宇宙人を思わせる姿になっていく有里の姿に麗子は身を引くと、

「まだまだ、これからよ」

と麗子の後ろに立つ有里はそう告げた。

すると、TV画面が切り替わり、

全ての毛を失った有里はベッドのような所にうつぶせで寝かされていて、

その後頭部は手術をされたのか、

切開された後、縫われた傷があり、

そこから一本の管が伸びていた。

「なっなに、この管」

画面に映し出される管に麗子は目を見張ると、

「そのうち判るわ」

と有里の声が響く。

そして、その直後、

『おねがいします』

と画面から男の声が響くと、

ヌッ!

白髪頭の老人が道具片手に姿を見せ、

じっと、

寝かされている有里を一目見た後、

『いいんだね』

とカメラに向かって確認を取る。

程なくして、老人は椅子に腰掛け、

何か道具を持つと

ジジッジ…

道具より音を響かせ有里の肌に向かい合った。

「あっ」

その光景に麗子は言葉を失う。

小さな紺色の染みが有里の背中に姿を見せると、

時間が経つごとにそれは大きさを変え、

彼女の背中からヒップにかけてを覆っていった。

また、染みの広がりと共に、

有里の後頭部に膨らみが姿を見せると、

いくつかの段差を描くオダンゴとなっていた。

「うそ…

 有里、
 
 あなたの頭のオダンゴって、
 
 髪じゃないの…」

それを見た麗子は背後の有里に尋ねると、

「当たり前でしょう、

 あたし、毛がないのよ、

 このオダンゴは皮膚を膨らませて作られたのよ」

と有里は返事をし、

まるで髪を束ねたような配色をした後頭部の膨らみに手を添える。



画面の中の老人の作業はさらに続き、

背中の首の下に優雅なU字が描かれると、

彼のキャンバスは背中から正面へと移動し、

乳房やヘソ、

そして、陰毛が消え去った股間も紺色に染められて行く、

股のV字ラインがしっかりと作り上げられ、

また、紺色もよく見ると、

見る者を惹き付けるかのように

見事なグラディーションを表現している。

その模様はまさに麗子や有里が所属している

新体操部のレオタードの柄そのものであった。

老人は有里の両腕も染めて行き、

そして、新体操部のレオタードと同じように、

他の色で表現されている細かい模様も再現していった。

こうして、有里は全裸でありながら

新体操部のレオタードを”着せられる”と、

続いて、顔のメイクも老人の手によって施されていく、

口紅…

頬紅…

ノーズシャドゥ…

アイライン…

眉…

それらが次々と有里の顔に染め込まれ、

最後に頭髪がない頭の肌に髪の毛が染められていった。

『終わりです』

作業の終わりを告げ老人が立ち上がると、

ベットの上には全裸でありながら

新体操選手の姿をした有里が眠っていた。

すると、老人と交代するようにして、

中年女性が姿を見せ手にしたビーズで

有里のレオタードに刺繍を始めた。

無論、有里はレオタードなどは着ては居ない。

女性は有里の肌に直接ビーズを縫いつけていたのであった。

「うっ」

それを見た途端麗子は顔を背けると、

「この時、

 あたしは麻酔をかけられ、
 
 さらに身体も固定されていたので逃れることは出来なかったの。
 
 痛かった…
 
 無茶苦茶痛かったのよ」

と麗子に話しかける。

「止めて!」

耳を塞ぎながら麗子は叫ぶと、

「だめよ、

 見なさい。
 
 見るのよ、麗子!
 
 あなたの友達が変態男の手によって、
 
 醜く改造されていく様を…
 
 見て、
 
 お願いだから見てよ」

俯く麗子に有里は叫ぶが、

その声はいつの間にか涙声になっていた。

「いやっ

 止めて…
 
 願いだから…
 
 止めてぇ」

有里の声に麗子は泣き叫び、

その場に蹲ってしまった。

すると、

『ふふふっ

 どうかね?

 キミはもぅ永遠の新体操選手だよ、

 色々考えたんだけど、

 キミには新体操が一番よく似合う。

 さぁ、その姿で試合に出るんだよ、

 ふふっ

 どれだけの人が気がつくかね。
 
 キミは全裸であることと、
 
 そして、そのレオタードは入れ墨・タトゥであることに』

雷蔵の声が麗子に降りかかるように響くと、

『いやぁぁぁぁぁぁ!!!!』

絶望に満ちた有里の声が響き渡った。



「有里…ごめんなさい。

 本当にごめんなさい…
 
 あたし…
 
 なんて言って謝ったら…」

タトゥのレオタードを見せつける有里に麗子は幾度も頭を下げる。

「いいのよ、

 もぅ…
 
 さっきも言ったでしょう?
 
 終わったことだって…」

そんな麗子に有里は優しく告げると、

「さっ、

 ここから出て」

と声をかけた。

「え?」

有里のその声に麗子は驚くと、

「ふっ

 ここに来る前に雷蔵が言っていた。
 
 麗子…
 
 あなたは自由だって」

と言うと、

「話は終わったか…」

その声と共に雷蔵の手下が部屋に入ってくるなり、

「ボスの命令だ

 お前を帰す」

と告げると、

「あっちょちょっと」

無理矢理麗子を連れ出していった。

そして、それから1時間後…

聖母女学園の制服を着た麗子は

昼下がり学園の正門に立っていたのであった。



「あたし…

 自由になったの?」

久方ぶりに見る学校の風景を見ながら、

麗子は周囲を見回していると、

キーンコーン!

午後の授業開始のチャイムの音が鳴り響いた。

「あっ」

その音に急かされるように麗子は校門をくぐりぬけ、

教室へと向かっていく、

幸いまだ授業は始まっていないようだ、

久しぶりの自席に麗子は座ると、

「あら、麗子、

 久しぶり」

と隣の席の林美加が声をかけてきた。

「あぁ美加…

 あのね…」

その声に麗子は振り向きながら

自分が体験したことを放そうとした瞬間、

「うそっ」

麗子の表情が固まってしまった。

「どうしたの?」

そんな麗子に美加は首を捻ると、

「あっ、

 その制服、校則違反よ、
 
 スグに医務室に行って」

と美加は麗子に告げた。

「校則違反?」

彼女のその言葉に麗子は驚くと、

「理事長が倉吉雷蔵さんに変わって、

 制服は全身脱毛した身体に入れ墨で

 所属部活のユニフォームを彫ることになったのよ、

 ちなみに、帰宅部の子は以前の制服を彫っているわ、
 
 麗子は新体操部だから、
 
 レオタードを掘って貰うのね」

言うなり、麗子の腕を掴む。

「え?

 ちょちょっと」

「あたしだってこうして水泳部の水着を彫ったのよ

 さぁ行こう」

裸体に水泳部の競泳水着を表現している美加は麗子を連れ出すと、

そのまま医務室へと急行した。

そして、

「先生っ

 この子、新体操部なんです。

 レオタードの入れ墨をお願いします」

と声を張り上げた。



おわり