風祭文庫・醜女の館






「詩織」
(前編)


作・風祭玲

Vol.451





「そんな…

 うっウソだろう?」

「あっあたしもそう思いたいのよ、
 
 でっでも…」

詩織との結婚式を数日後に控えたその日、

俺は呆然としながら眼下の詩織を見詰めていた。

「どっどうしよう…

 俊之さん」

「どっどうしようって言われても…」

そう言いながら縋ってくる詩織に俺はどうして良いのかわからなかった…

まさか…詩織が男になってしまっただなんて…



それは今日の朝のことだった。

「はいっ、佐々木です」

掛かってきた携帯電話に寝ぼけ眼で出た俺の耳に

「あっあのぅ…

 俊彦さん?

 あたしです詩織です。

 実は大変なことが起きてしまって…

 お願い…

 部屋にまで来て…」

と俺の婚約者である詩織を名乗る男の声が鳴り響いた。

「あん?

 何だお前?

 俺をおちょくっているのか?」

声色の低い明らかに男の声とわかるその声に俺は立ちの悪いイタズラと判断すると、

眠りを妨げられた怒りをぶつけるようにして怒鳴り返すが、

「本当なんです。

 あたしなんです。

 あぁ…あたし…男の声になっているんですね。

 信じてください。

 あたし、詩織なんです」

と電話の男はそう懇願した。

「はぁ?」

なかなか切らない電話にもう一回怒鳴ってやろうかと俺は思うと、

「こんな声で信じられないと思いますが、

 でも詩織なんです。

 あたし、朝起きたらこんな身体になっていたんです。

 お願い。

 あたしのところに来てください」

と切羽詰った声で俺に言う。

「なんだ?

 この野郎は…

 でも…

 口調は詩織のような気がする…なぁ」

それを聞いた俺は相手の声が妙に切羽詰っていることに加えて、

その口調が詩織のそれと良く似ていることに気づくと、

「おいっ

 どこの奴だか知らないけど

 俺をからかうのも程にしろよ、

 でも、まぁ、いいだろう、

 付き合ってやるよ、

 お前のイタズラになっ」

電話に向かって捨て台詞を言った俺は、

「ったくぅ、

 ムカつくなぁ」

と心の片隅からこみ上げてきた不安な気持ちを押し殺すように文句を言うと部屋を出た。



俺の部屋から詩織の部屋までクルマで10分ほど離れていて、

俺が詩織の部屋の前に立ったのは、

部屋出てからちょうど15分が過ぎた頃だった。

「さて」

詩織の部屋の前で俺は一回深呼吸をすると、

呼び鈴のボタンを押した。

ドアの向こうから呼び鈴の響く音がこだまする。

すると、

ドタドタ…

何者かがそのドア向こうに来る音が響くと、

「………」

そのまま音がしなくなってしまった。

「(なんだ

  詩織の奴ちゃんといるじゃないか

  まったく、達の悪いイタズラだな)」

詩織の気配を感じながら俺はそう思うと、

「おーぃ、詩織ぃ

 無理に片づけをしなくても良いんだぞ、

 いや、俺が来たのはさぁ、

 今朝、変な電話が来てな…」

俺はてっきり詩織が出入り口の片付けをしているものだと思って声をかけた。

すると、

しばらく間をおいて、

チャッ!!

っと閉じていたドアが開いたと思ったら。

ヌッ!!

いきなり毛むくじゃらの太い腕が飛び出してくると俺の腕を掴み、

グイッ!!

っと部屋の中へと引き込んだ。

「なっ?

 はっ離せ!!」

いきなり引き込まれた俺は驚くのと同時に腕を引っ張るが、

しかし、俺の腕を引く力はものすごく、

容易には離すことが出来なかった。

「離せ、この野郎!!」

引きづり込まれた詩織の部屋の中はカーテンが閉じられているのか薄暗く、

俺の前の人物の姿はシルエットでしか見えない。

「誰だ、お前は!!

 何をしやがる!!」

そいつに向かって俺は怒鳴り声を上げると、

「俊彦さん…

 会いたかったぁ」

あの電話の男の声が部屋中に響くなり、

ムギュッ!!

っと俺に抱きついてきた。

「うわっ

 なんだぁ」

女性の柔らかさと違う男の張り出した筋肉の感触が俺の顔中を埋め尽くし、

それと同時に男の汗の臭いが一斉に降りかかってくるなか、

「うぷっ

 何だテメエは」

ジョリッ!!

体毛がびっしりと生えている腕で押さえつけられながらも俺は抵抗するが、

しかし、こいつの身長は俺よりも頭一つ高いらしく、

その筋肉の籠から抜け出すことは容易ではない。

「くっそぉ」

藻掻きながらも俺は必死で抵抗をしていると、

グニッ!!

ちょうど俺の臍辺りに固い棒のようなモノが押し当てられた。

「え?

 こっこれって…
 
 まさか、チンポ?」

その感覚に俺派押し付けられている奴のチンポであることに気がつくと、

その途端、怒りがこみ上げてくると、

「何時までも抱きついているんじゃねぇ!!

 このモーホー野郎が!!」

と怒鳴りながら、

何とか自由になる足の膝で奴の股間を思いっきり蹴り上げてやった。

すると、

「うぎゃぁぁぁぁ!!」

俺に抱きついていた男は悲鳴をあげ、

俺の体を放り出し、のた打ち回り始める。



「いまだ!!」

男がひるんだその隙に俺は飛び出すと、

「詩織ぃ!!

 居るのか詩織ぃ!!」

と叫びながら部屋の奥へと向かい、

そして、閉められているカーテンに飛び掛ると左右に開いた。

サァ…

その途端、午前の日差しが詩織の部屋を照らしだし、

薄暗く視界が利かなかった部屋の詳細が見えてくる。

しかし、

彼女が寝ていたであろうベッドは蛻の空で、

部屋中どこを探しても詩織の姿は無かった。

「詩織…

 どこに…」

空のベッドを見下ろしながら俺はそう思っていると、

「あいつ…」

さっき金的を食らわせた男のことを思い出すと、

即座に玄関へと向かっていった。

すると、

「なに?」

玄関のところで突っ伏している小山のような男の身体には

詩織が良く着ていたパジャマが身につけられ、

身体の大きさに対してパジャマが小さすぎるのか、

まるで子供用のパジャマを大人が無理やり着ているようなそんな様だった。

しかし、

俺はこの男が詩織のパジャマを着ていることに腹を立てると、

「おいっ!!」

と怒鳴りながら男の尻を蹴り上げ、

グイッ!!

男のクセに肩まで伸びていた髪を鷲づかみにして持ち上げると、

「貴様っ

 詩織をどこにやった!!」

と尋問をした。

ところが、

「ヒック!!

 俊彦さん酷い…

 なんで、あたしにこんなことをするの?」

と男は髭面の顔を俺に向け泣きじゃくり始めた。

「なんだ?

 気味の悪いヤツだなぁ」

男の女のような言葉遣いに俺は思わず引くと、

「痛い…

 痛いじゃないのぉ

 あたし死んじゃうかと思ったじゃないのよ」

男は泣きながら起き上がりそして股間を押させながら俺に迫ってきた。

「わっ悪かったよ」

男に迫られ俺は思わず侘びを入れると、

「ふぇぇぇぇぇん…」

なんと男はその場で泣き出し始めめしまった。



「えぇ!!!

 お前が詩織だってぇ!!!」

俺の驚く声が響き渡ったのはそれから約1時間後のことだった。

「ヒックッ

 そうよ、

 あたしよ、

 詩織よ」

ベッドに腰掛け涙でグシャグシャのなった目を擦る筋肉隆々の男…いや詩織は頷くと、

「あたし…朝起きたらこんな身体になっていたのよ、

 それで、俊彦さんに相談しようと思って電話をかけたのに…

 そしたらいきなりこんな目に…」

と涙声で俺を非難する。

「いやっ

 それは謝る。

 ゴメン、俺が悪かった。

 でっでもよぉ

 男の声で起こされて、

 ココにきたらいきなり引き込まれたら誰でも驚くぞ」

俺は再度謝った後にそう金的を食らわせてしまった事情を説明する。

「だって、

 あたしもどうしたら良いのか判らなかったんだもん。

 そこに俊彦さんの声がしたものだから、つい…」

「うん…そっそうか」

詩織の事情を知り俺はあの時の金的を悔やみながら頭を下げた。

そして、改めて目の前の詩織の姿を見ると、

俺よりも高い身長

プロレスラーかボディビルダーを思わせるような張り出し盛り上がった筋肉

長く伸びた髭と腕や胸を覆う黒々とした体毛、

そして、股間にそそり立つ男の肉棒…

まさにこのまま黒パンツをはいてプロレスのリングに立ってもおかしくない”男”がそこに居た。



「なっなぁ…詩織、

 なんで、

 男になんてなったんだ?」

この現象を目の前にして俺はどんな質問をしてよいのか判らずに、

とりあえずそんな質問をしてみると、

ジロッ!!

唯一、昨日までの詩織の面影を残す、

彼女、いや、彼の目が俺を見据えると、

「そんなこと、

 判っていたら俊彦さんに相談しないわよっ」

と俺を非難する声が響き渡った。

「あっ

 ごっごめん」

親父に怒鳴られたようなその声に俺は反射的に謝ると、

「なんで詩織は男になってしまったんだ?

 どうして?

 なんで?」

俺の脳裏に幾つもの疑問が湧き出すが、

しかし、どこにもその回答は無かった。

「ねぇ

 あたしどうしよう…

 このままじゃぁ俊彦さんと結婚できないよ」

ムキッ

肌に筋肉の陰影を浮かび上げながら男…いや詩織はそう訴えてくると、

「とっ

 とにかくだ、

 いまは落ち着け、

 そして、原因を考えよう」

詩織の張り出した肩を握り締めながら俺は自分に言い聞かせるようにそう言うと、

「昨日、俺から別れたあと、

 なにか変わったことが無かったか?」

と尋ねた。

「え?

 俊彦さんと別れてから?」

俺の言葉に詩織は俺と別れた後のことについて思い出し始めた。

「えっと…

 電車に乗って、

 それから…

 駅で降りて…」

「なにか、無かったのか?

 こう、変なものを飲んだとか、

 奇妙なものを拾ったとか」

「そんな、

 あたし、そんなことしないよ」

「例えばの話だよ」

「う〜ん…」

俺に急かされ、詩織は考え込んでいた。

すると、

「あっ」

何かを思い出したのか、詩織は手を叩くと、

「そうだ」

と声を張り上げた。

「なにか、思い当たるものでもあったのか?」

期待を込めて俺が尋ねると、

「うん

 ほらっ
 
 俊彦さんといったあのニューハーフクラブ」

と詩織は昨夜二人で入ったニューハーフクラブのことを指摘する。

「あぁ

 あそこがどうかしたか?」

「うん、

 実はショーの間に俊彦さんがトイレに行ったでしょう?」

「あぁ…っと

 いつだっけかなぁ…」

「行ったのよっ」

「あぁ

 それで?」

俺がトイレに行ったか行かないかはこの場では些細なことなので、

その是非は横においといて、話を先に進めた。

すると、

「うん、実はね、

 その時、あたしの隣のテーブルに座っていた男の人がねあたしに話しかけてきたの…」
 
「なに?」

詩織からその言葉に俺は驚くと、

「うぅん、違うの、

 変なことじゃないわ…
 
 ここに来たのは初めてだとか?
 
 俊彦さんとは付き合っているのかとか、
 
 そんなモノよ…」

「それだけでも十分に変だと思うけどな」

「そう?」

「それで?」

「あっうんっ

 それでね、
 
 なぜかダイエットの話になってね、
 
 その人がいい薬を持っているっていうのよ」
 
「薬ぃ?」

詩織の口から飛び出した薬という言葉に俺が敏感に反応すると、

「うっうん…」

詩織は大きく頷いた。

そして、

「それで?」

っと身を乗り出しその先を俺は尋ねると、

「それでね、

 その男の人は
 
 ”いい薬がありますよ”
 
 と言ってあたしに錠剤を一つくれたのよ」

と詩織はその男性から錠剤を手に入れたことを俺に告げた。

「はぁ?

 要するにその薬を飲んだら男に変身したのか?
 
 さっき、おまえ、変なモノなんて飲まないって言ったじゃないか」
 
「もぅ!

 人の話は最後まで聞いてよ」
 
「なんだ、まだ続きがあるのかよ」

「俊彦さんがせっかちなだけよ」

「あぁ判った!!

 で、その先は?」

詩織の非難に俺は悪態をつくようにしてその先のことを尋ねると、

「その時は飲まなかったわ、

 でも、
 
 そこのニューハーフクラブでちょっとお酒を飲み過ぎたみたいで、
 
 俊彦さんと別れてこの部屋に帰ってき時にはフラフラになっていて…
 
 それで、つい、胃腸薬と間違えてその薬を飲んじゃったのよ」

「はぁ?

 じゃぁやっぱり同じじゃないかよ」

「違うのっ

 間違えて飲んじゃったのよっ
 
 好きで飲んだんじゃないわよ」

「はいはい、

 もぅ言葉遊びしているヒマは無いんだぞ」
 
手を叩きながら俺は議論の打ち切りを宣言すると、

「じゃぁ、手っ取り早く尋ねると、

 お前、そのニューハーフクラブで手に入れた錠剤・薬で男になってしまったんだよな」

と再度確認をした。

「うっうん…

 薬を飲んだ後、
 
 体が妙に熱くなって…
 
 苦しくなって…
 
 そして、何んだが大きくなっていくような感じがしたから間違いはないと思う
 
 ねぇ、
 
 女の人が男の人になるなんて薬…
 
 発明されたのかなぁ…」

プロレスの準備運動をしているかのように詩織は体を動かしながら俺にそう尋ねると、

「さぁな?

 とにかく、お前は間違いなく詩織であることはわかった」

とこれまでの話を聞いていた俺はそう返事をした。

すると、

「酷いっ!!

 まだ信じてなかったの?」

とその直後、詩織の非難する声が響き渡った。



「とにかくだ、

 詩織、お前にその薬をくれたという男性に会ってみるしかないなぁ」

男性化した詩織を指さし俺がそう呟くと、

「うん、それしかないよ」

大き身体を俺によせて詩織は相槌を打つ、

「まずはあのニューハーフクラブに行って聞いてみるか

 確かに常連って言ったんだろう」

腰を上げた俺はニューハーフクラブなら何か知っているのでは?

と思いつつ、着る物がなく外に出れない詩織を残して

夕方、俺はニューハーフクラブへと向かっていった。

ところが、そこで貰った返事はそのような男性は知らないと言うものだった。

「この店の常連ではないのですか?

 俺の連れは常連のようなことを聞きましたが」

そう言って俺はなおも食い下がるが、

しかし、それ以上の返事をえることは無かった。



「えぇ!!

 それって本当?」

「うん」

俺からそのことを聞かされた詩織は驚くのと同時に落胆をすると、

「まぁ元気を出せよ、

 まだ元に戻れないと決まったわけではないだろう」

と俺は筋肉が盛り上がった詩織の肩を叩いた。

ところが、

来る日も来る日も俺はそのニューハーフクラブで詩織に薬を渡したという男性を待ったが、

しかし、詩織から聞いた人相の男性は現れることはなかった。

「そう…なの

 じゃぁあたし…戻れないんだ…」

男になってしまったあの日からすでに一月が過ぎ、

しかし、いっこうに男の素性すら判らない事態に詩織はガックリと肩を落とした。

「大丈夫だよ、

 きっと俺が元に戻れる方法を見つけてみせる」

落ち込んでいる詩織に俺はそう言って励ますが、

「無理よ」

詩織は短くそう即答をした。

「そんなことは無い、

 現に、詩織を男にしたのはこのその男から貰った薬のせいだろう?」

なおも食い下がるように俺はそう返事をすると、

キッ!!

詩織は俺をにらみつけ、

「それがなんだって言うの?

 あたし…いまだに男のままじゃない、

 しかも、こんなムキムキの…

 あたしもぅ女じゃないのよ!!」

「何も言うな」

泣きべそをかきながら詩織がそう叫んだところで俺は彼女…いや、彼を抱きしめていた。



結局、詩織が元の姿に戻らないまま数日が過ぎたある日、

「しばらくの間、留守にします。

 女になって戻ってきますので、

 それまで待っていてください」

一枚の紙にそう書き残し詩織は俺の前から姿を消した。

「詩織…」

その紙を握り締め、俺は詩織の姿を探しまくったが、

しかし、どこにどう姿を消したのか、

詩織の消息はぷっつりと途絶えていた。

そして、詩織が姿を消してから1年近くが過ぎた。

そんなある朝、

出勤途中に購入した週刊誌を捲っていた俺の目はとある記事で釘付けになってしまった。

それは最近評判になっていると言うニューハーフ・クラブの潜入レポートで、

その中で紹介されている本物の女性顔負けの人工美女達の中で

ただ一人、厳つい体のまま膨らませた胸を晒すように

派手な衣装を身にまとっている一人のニューハーフの姿が目に止まった。

「これは…」

舞台用の派手なメイクを施しているが、

しかし、その顔は間違いなく詩織だった。

「間違いない、

 詩織だ!」

俺は目を皿のようにして雑誌を見つめ、

そのニューハーフが詩織であることを確信するが、

「でも、なんで…」

俺には詩織がニューハーフになっていることが信じられなかった。

そして、その日の夕刻…

俺は雑誌で紹介されたニューハーフクラブの前に経っていた。

「いらっしゃいませ」

案内され、店に入るとちょうど1回目のショーの真っ最中で、

奥にあつらえた舞台の上では自慢の乳房を露にし、

派手な衣装を身に着けたニューハーフたちが美しくもコミカルなショーを演じていた。

「詩織は…いないか…」

通された席に座り俺はそう思いながらショーを見るが、

しかし、ショーに出ている人工美女の中に詩織の姿は見つからなかった。

「どこに居るんだ詩織…」

そんな気持ちで俺は舞台を見ていると、

フッ

突然、舞台の明かりが消され、

サー

踊っていた踊り子達は左右に分かれるようにして消えていく、

「なんだ、もぅ終わりか…」

あっけないショーの終わりに俺はそう思っていると、

「ご注文は…」

絞り上げた野太い声とともに一人のニューハーフが俺の傍に来ると注文を尋ねてきた。

「あっあぁ…」

彼女(?)の声に俺は返事をしながらふと見上げると、

「あっ!!」

そこにはバニーガールの衣装に身を包み派手なメイクを施した詩織が立っていた。

その顔、その表情間違いない、

どんなにメイクをしていても、

そんなに派手な衣装を身にまとっていても

そこに立っているのは詩織だった。

「詩織!!」

詩織と目と目が合った途端、

思わず俺は声を上げると、

「俊彦さん!!」

俺の声に詩織はさらに驚いていた。

「探したんだぞ」

驚く詩織に向かって俺はそういうと、

「………

 ごめんなさい、
 
 いま…仕事中なの、
 
 終わってからにして」

詩織はそういい残すとまるで消え去るように俺の前から消えていった。

「詩織っ!!」

詩織の消えていった方向を見ながら俺は腰を上げようとするが、

しかし、周囲の注目を浴びていることに気づくと、

「あっ

 うっうんっ」

俺は浮かした腰を再び落とし場を繕う

そして、しばらくして

「あのぅ…

 これを…」

そう言いながら別のニューハーフが俺の元に来るなり一枚の紙を俺に手渡した。

「え?」

意味がわからず紙を見ると、

そこには

「すべてをお話します

 閉店まで待っていて下さい」

と詩織の字でそう書かれていた。

「……」

それに目を通した俺は、

「判ったと、伝えてくれ」

紙を持ってきたニューハーフに伝えると、

「はっはいっ」

ニューハーフは返事をし俺の元を去って行った。




つづく