風祭文庫・醜女の館






「悪夢」
【前編】


作・風祭玲

Vol.271





シーン…

すべての音が消えた部屋の中、

「………」

その部屋に詰めている大勢のギャラリー達は

目を皿の様にして部屋の真ん中に置かれたテーブルで行われている勝負の行方を

息を殺し見つめていた。

そして、無数のギャラリー達の視線が降り注ぐ中、

深紅のシルク・ドレスに身を包み

華麗に巻き上げた髪と高価なネックレスを輝かせ、

ドレスと同じ色合いの手袋を填めた女性がトランプを伏せながら

「さぁ、どう?、

 この勝負、あたしの勝ちね」

と勝ち誇るかのように宣言すると、

「お嬢さん、勝負は終わっていませんよ」

女性の相手をしているタキシード姿の男は最後の一枚をめくるなりそう呟いた。

「ふん、負け惜しみを!!」

相変わらずふてぶてしい男の態度に女性は強気の台詞を吐くと、

バッ

っとテーブルに自分のトランプを並べた。

そして、それを見た男は、

「悪いですね、

 お嬢さん、

 あなたの二十歳の誕生日を一生忘れることの出来ない日にしてしまったみたいです」

と言うと手にしていたトランプを自分の目の前に広げた。

「おぉ!!」

テーブルに広げられたトランプにギャラリー達から驚き声があがった。

「なっ」

それを見た人気絶頂のアイドル”源ひかり”こと、

後藤圭子の顔から血の気が見る見る引いていくと、

「だっ・だから止めようって言ったのにぃ」

いかにも気の弱そうなマネージャが圭子に食ってかかった。

そして、そんな圭子の姿を見ながら、

「可愛そうに…」

「源ひかりもおしまいだな…」

「まだお若いのに…」

とギャラリーたちは口々にそんな台詞を口にする。

それを横で聞きながら圭子は呆然としていたが、

しかし、スグにさっきまでの勝ち気さを取り戻すと、

「まっまだよ、まだゲームは終わっていないわ」

と男をにらみ付けるようにして叫んだ。

すると、男は

「ふっ残念ですが

 次のゲームはありません。

 判っていると思いますが…」

と言いながら、

ピッ

っと胸元から一枚の紙を取り出すと圭子の前に差し出した。

その途端、

「うっ」

それを見た圭子の表情が強ばっていった。

「そっそれだけはご勘弁を…

 いま”ひかり”ちゃんがいなくなったら…」

そう叫びながらマネージャは男の足に縋ると、

その隙にとばかりにギャラリー達は次々とその姿を消していった。

やがて、誰も居なくなったのを見計らうように、

ジロッ

これまでの表情とは打って変わって男は鬼のような形相でマネージャを睨み付けると、

ガッ!!

いきなりマネージャを蹴り上げ、

「…甘ったれるんじゃねぇ!!

 コイツの母親は芸能界の大ボスかも知れないが、

 ここではそんな親の七光りは通用しねぇぞ、

 大体、ココはどこだか判って言っているのか?

 それを承知した上に勝負をさせて、

 それで、負けたら見逃してくれだぁ?

 お前、人を舐めるにも程があるぞ」

と怒鳴りつけると、

ドカッ!!

再度、マネージャの身体を思いっきり蹴り上げると

彼の身体は宙を舞い部屋の隅に転がって行く。

「笹木さん!!」

その様子を見た圭子が声を上げて腰を上げようとすると、

「動くな!!」

男の恫喝が彼女の身体を縛った。

「おいっ、誰に許可を得て動こうとした」

まるで獲物を見据えるようで目で男は圭子に怒鳴ると、

「そんな…」

身体をガタガタ震わせながら圭子は座っていた椅子に腰を落す。

「いいかっ、

 たったいまから1年間、

 お前は俺の奴隷だ、

 俺がお前に何をしようと俺の自由、

 そして、お前は俺に何をされても

 また、何を命令されても絶対に逆らえない。

 この契約書に署名したお前なら判っているはずだ」

と怒鳴るとさっき出した紙を圭子の顔面に突きつけた。

「…はっはい」

男の行為に圭子は小さく返事をすると、

肩を振るわせ泣き始めてしまった。

しかし、男は泣き出す圭子を無視して、

「おいっ、

 そこの奴をつまみ出せ!!」

と倒れて気を失っているマネージャを指さして部下に命令をすると、

「はっ離せ…

 けっ”ひかり”ちゃぁん!!」

と叫ぶマネージャを部下達は部屋の外へと運び出していった。

「安心しな、殺したりはしない、

 ただ、1年間彼女は俺のオモチャになってもらうだけだ、

 はははは、

 まぁ、指の1・2本は無くなっているかも知れないけどな」

運び出されていくマネージャに向かって男は笑いながらそう言うと、

パチン!!

指を鳴らした。

すると、

スッ

音もなくテーブルが片付けられ、

「お呼びでございますか?」

と言う声と共に、

カーテンの後ろから白いシルクのドレスを身に纏った女性が姿を現した。

「龍子っ

 新しい奴隷だ…

 また成り立てで礼儀を知らないようだから

 しっかりと教育をしてくれないか」

女性に向かって男はそう言うと、

「畏まりました」

龍子は跪きながら男の靴にキスをし、

スクッと立ち上がった。

そして、

圭子をその切れ長の目で静かに見据えると、

「名前は?」

と冷たく尋ねた。

「…ごっ源ひかり…」

圭子は本名ではなく芸名を言うと、

ビシッ!!

と言う音共に圭子の頬に熱湯がかけられたような痛みが走った。

「いたぁぁぃ」

頬を押さえながら圭子が悲鳴を上げると、

ヒュン

ヒュン

龍子の手に一本の乗馬用の鞭が唸る様な音を立てていた。

「誰が、偽りの名前を言えっていった?

 えぇ?」

吐き捨てるように龍子が声を上げると、

「オラッオラッ」

ビシッ!

ビシッ!!

鞭は容赦なく圭子の身体を襲う。

「いやっ、

 止めて

 お願い!!」

圭子は両腕で身体を庇いながら悲鳴を上げたが、

しかし、龍子の手はなかなか止まらない。

ビシッ!

ビシッ!

幾度も叩かれる打ちに圭子のドレスは引き裂け始め、

ついにはミミズ腫れが幾筋も走る圭子の身体がその姿を現してきた。

「お願いです、

 何でも言うことを聞きますから」

圭子は泣き叫びながら懇願するのを見て、

「まぁまて」

男は龍子を制した。

その途端、

「はっ」

激高していたハズの龍子は返事をするとスグに手を止めた。

「そうか、俺の言うこと聞くか…」

立ち上がった男はゆっくりと圭子に近づくと、

「それなら奴隷の証を立てな…」

と言いながら靴の先を圭子の前に差し出した。

すると、圭子は体を震わせながら、

ゆっくりと俺の靴にその唇を近づけていく、

ピクッ

その様子を見た男は、

突如

ドカッ!!

っと圭子の身体をを蹴り上げると、

「なんだ、お前のその身体の震えは!!

 体が震えると言うことは、

 本心では俺の奴隷には成りたくないっ

 っということだろうがっ」

と怒鳴ると、

「やれっ」

待機していた龍子に短く命令をした。

「はっ」

龍子は俺に一礼すると、

スグに、

「ご主人様に嘘をつくとは見上げた根性ね…

 さぁ、2度と嘘がつけないように徹底的に教え込むわよ」

と叫ぶと、

さっきよりも激しく圭子を鞭打ち始めた。

「ぎゃぁぁぁ!!」

圭子の声が部屋中に響き渡る。

その様子を見ながら、

「ふわぁぁ、

 今朝は早かったからいい加減眠くなってきた。

 ちょっと寝てくるから…

 この女が素直になった頃、

 起こしに来てくれ」

男は部下にそう言い残すと部屋を出て行った。



「…様…お目覚めでしょうか?」

「ん?あぁ」

その声に男が起こされると朝になっていた。

くっぅぅ…

男は大きく背伸びをすると、

「あぁ、そうだ、

 夕べの女…どうなっている?

と部下に訊ねると、

「はっ、死んではいないと思いますが、

 少し前からほとんど動かなくなってしまいました」

と報告をする。

「そうか…

 じゃぁ潮時だな」

男はそう言いながら部屋を出ると、

圭子が監禁されている部屋へと向かって行く。

そして、

ガチャッ

部屋のドアを開けた途端、

ムワッ

悪臭が男の鼻腔を刺激した。

「ほぅ、コレは酷いな…」

鼻をハンカチで押さえながら男が部屋の中に入ると、

そこには、白目をむきスタズタになったドレス姿の圭子が横たわっていた。

「なんだ、吐いた上に糞まで漏らしたのか」

床の上の汚物を横目で見ながらそう龍子に訊ねると、

「申し訳ありません」

そう言いながら龍子が俺の足下に跪いた。

一瞬、男の口が歪むと、

ガシッ

彼の手は龍子の頬を思いっきり殴った。

「あっ」

殴られた勢いで龍子は倒れると、

「馬鹿野郎!!

 お前が圭子を壊しては元も子もないだろうが!!、

 これは俺のオモチャなんだからな大切に扱うんだ」

男は龍子の頭を踏みつけながら怒鳴る。

「申し訳ありませんっ

 なにとぞお許しを…」

龍子はそう言いながら男の足にすがると、

「ふん、まぁいい、

 そこで転がっている可哀想な圭子に新しい服を着せてやれ、

 それと、一緒に朝飯を食べたいな」

と言い残すと男は部屋をあとにした。



ガチャッ!!

「お待たせしました」

別の部屋で男が朝刊を広げていると、

という声と共に新しい衣服を身につけた圭子は龍子と共に部屋に入ってきた。

ふわっ、

シャワーを浴びたのか圭子の身体から石鹸の香りが漂ってくる。

ビクッ

圭子は男の姿を見た途端ビクつくと、

男はその様子を見ながら、

「どうだ、夕べはよく眠れたかい?」

と優しく話しかけた。

すると、圭子は男の足下に飛んでくると、

「…はいっ、あなた様のお陰で夕べは大変よく眠れました」

と這い蹲りながら答えると、

男の靴にそっと口付けをした。

「そうかそうか」

その様子を見ながら男は満足そうに圭子の頭を撫でると、

「じゃぁ、朝食にしよう」

と告げると、

カチャカチャ

と言う音と共に男の前に朝食が並べられていく、

そして、それを見て圭子が立ち上がろうとすると、

ドンッ!!

男は圭子の背中を足で叩き、

「誰の許しを得て立とうとした?」

と告げた。

「もっ申し訳ありません」

男の表情を見た圭子は真っ青な顔をすると再び跪いた。

「そう、それでいいんだよ」

男は圭子にそう言うと、

「おいっ、こいつのエサも出してやれ」

と部下に命じた。

すると

圭子の前に残飯が山盛りに盛られた皿が差し出された。

「え?」

それを見た圭子の表情が硬くなる。

「さぁ、食べな…

 いろんなものがいっぱい入っていて栄養満点だから美味しいぞ」

男は優しく圭子に話しかけると、

「うっうっうっ」

圭子は肩を振るわせると、頬に涙が筋を作り始めた。

そして、

ゆっくりと手を伸ばそうとしたとき、

ギリっ

男の足が圭子の右手を踏みつけた。

「ぎゃぁぁぁぁ」

朝の食卓に圭子の悲鳴が上がる、

「誰が手を使っていいと言った?

 口で喰うんだよ口で…」

悲鳴を上げる圭子に男がそう命令をすると、

「うっ」

圭子は絶望的な表情をしながら

髪を垂らして差し出された残飯を食べ始めた。



食事後、

バタム…

圭子を挟むよう男と龍子を乗せたリムジンは朝の街中を走っていく、

「………」

真ん中で何もしゃべらず、ジッと俯く圭子には、

昨日までの高慢さはすっかり消え失せ、

両腕に刻み込まれたミミズ腫れの筋が痛々しくも感じられた。

やがてクルマは今日の営業を始めたばかりの理髪店の前に停車すると、

理髪店の方に顔を向けながら男が、

「今日も暑くなるみたいだな…」

っと圭子に言うと、

ビクッ!!

圭子は体を震わせるながら、

「そっそうですね…」

と呟いた。

「なんだなんだ、その声はもっと元気良く返事をしろ」

圭子の返事を聞いた男が怒鳴ると、

「そうですねっ」

圭子は声をやや大きめにして叫んだ。

「よろしい」

男は満足そうに頷くと、

クルマのスグ横を歩いていく野球のユニホーム姿の少年に目を向けると、

「う〜ん、彼らは涼しいだろうなぁ…」

と呟いた。

「え?」

圭子はぎょっとした目で男を見る。

その様子に、

「俺はこう見えても暑がりでね…

 どうも、暑苦しいモノをみると不愉快になるんだ」

と笑みを浮かべながら圭子に向かってそう告げる。

「………」

圭子は何も答えずにいると、

「ほらっ、お返事はどうしたの?」

っと龍子が圭子の臀部を抓りながら催促をすると、

「はっそうですね…」

圭子はやや迫力のない声で返事をした、

そして、自分の髪に手を掛けながら、

「わっ判りました、この髪を……切ります…」

と更にトーンダウンした声で男に言うと、

「あぁそうか、いやぁ君からそう言ってくれると嬉しいよ、

 でも髪を切るならそこに床屋があるだろう、

 そこで切って貰うといい」

男は床屋を指さしながら圭子に言うと、

「おいっ、龍子っ」

顎で龍子に指示をした。

すると、

「はっ」

龍子はリムジンから降り、

圭子の傍のドアを開けると、

「どうぞ…」

と言って頭を下げた。

「………」

圭子は何も言わず、車から降りると、

「…逃げようと思っても無駄ですよ」

圭子の耳に龍子は小さく呟くと、

サッ

クルマの周囲で動く影を指さした。

「逃げるとキツイ罰が下されます。

 そうして消えていった女の子も居ると言うことをお忘れなく」

まるで圭子を見えない鎖で縛り付けるように龍子はそう言うと、

「わっ判ってます」

圭子は小さく答えると、床屋へと向かっていった。



カラン!!

ドアに取り付けられた鈴がなると、

「いらっしゃいっ」

小太り気味のマスターが声を掛けた。

「うっうん…」

床屋に入ったのは初めてだけに圭子は思いっきり緊張をした。

「どっどうぞ…」

今日一番目の客が美少女だっただけにマスターは驚きながら席に案内すると、

「えっと、どういった髪型…

 あっ顔剃りですか?」

と尋ねた。

すると、

「こっこの髪を切って欲しいんです。

 バッサリと…」

喉をカラカラにして圭子がそう言うと、

「え?」

マスターは一瞬驚くと、

「いやぁこんなに綺麗な髪を切るなんて勿体ないですよ」

と圭子に言った。

すると、

「いえっ切って欲しいんですっ、

 あれくらいに短く…」

マスターの言葉に圭子はそう言いながら

道向こうのグラウンドで汗を流す野球部の部員を指さした。

「はっはぁ…

 まぁお客さんの要望ならそうしますけど…

 でも、あとで文句を言わないでくださいよ」

マスターは渋々承知すると、

ファサ

圭子の身体に髪よけの布を撒くと、

シュッシュッ

っと霧吹きで髪を濡らし始めた。

そしてそれを感じながら

「ぐっ」

圭子は唇をかみしめる。

それが終わると、

スッ

マスターの手に握られた鋏が口を開けると、

ジョキッ!!

っと圭子の耳元で音を立てた。

バサッ!!

同時に圭子の視界から自分の髪の一部が消える。

クワッ

圭子は目を見開くと、

ジョキジョキ

と髪が切られていく自分の姿をじっとみつめていた。

やがて、圭子の両耳の線よりも下の髪の毛が無くなると、

こんどは頭の両側、

そして正面と圭子の髪の毛を切っていく、

こうして、髪を落とされた圭子はまるで男の子のような顔になると、

ブィィン

マスターは鋏から電動バリカンに持ち替え、

うなじから上へと圭子の頭に沿ってあげ始めた。

ポロッ

圭子の瞳に涙が浮かび上がってきたが、

しかし、圭子は必死になってそれを堪えた。

ジャリジャリジャリ!!!

バリカンは見る見る圭子の毛を刈っていく

そして、マスターの手の動きに合わせて、

ヒヤリッ

地肌が露出した圭子の肌に外気の冷たさが伝わってきた。

ゾクゥ

初めて味わうその冷たさに圭子の背中は思わず震えた。

ガァァァァァ…

しかし、マスターの手に握られたバリカンは、

容赦なく圭子の髪を根こそぎ刈っていくと、

鏡に映し出された圭子の頭は見る見る青白い色へと変化していった。

「あのぅ…こんな感じで…」

あらかた刈り終えてマスターが訊ねると、

チラリ

圭子は店の表で待つリムジンを見た。

そこにはじっと前を向いたままの男が座っている。

すると、圭子は

「このまま、さらに剃っていただけませんか」

とマスターに注文をした。

「え?、

 あっあのぅ、
 
 お客さん、尼さんになるのですか?」

圭子の言葉に驚いたマスターが聞き返すと、

「お願いします」

圭子はそう言うとそれ以上は何も言わなかった。

「はぁ…」

困惑しながらもマスターは圭子の頭に泡立てたシャボンを塗ると、

丁寧に剃り上げ始めた。

ゾリゾリゾリ

言いようない音が頭から直接圭子の耳に響いてくる。

ギリッ

今にも泣き出したいの衝動を圭子は唇を噛んで我慢した。

やがて、マスターの作業が終わると、

鏡には髪をきれいに失い青い剃りを見せている圭子の顔が自分を見ていた。

「こっコレで結構です…

 お代はコレで…」

「あっ」

そう言って圭子は自分を覆っていた布を払うと

代金をマスターに手渡し、

そして逃げるようにしてそのままリムジンの中に駆け込んだ、

「ほう…剃髪までしたのか、関心だなぁ」

すっかり坊主頭になった圭子の頭を撫でながら男はそう言うと、

「………」

声を殺して圭子は泣き出してしまった。



「よしっ、出せっ」

そんな圭子を横目に男は声をあげるとリムジンは静かに動き出した。

そして、一軒の歯科医の前で停車した。

「え?、歯医者さん?」

歯科医の看板を眺めながら圭子が尋ねると、

「そうだ、すでにお前の名前で予約してある。

 おいっ」

男は返事をしながら龍子に声を掛けた。

すると龍子は

「はいっ」

と答えると、

口を大きく開き、

ンぺっ

っと口の中から入れ歯を取りだした。

「こっコレは…」

さっきまであった歯が無くなり

端整な顔つきだった龍子がヒョットコのような顔つきになるのを見た圭子が驚くと、

「そうだ、このとおり龍子は総入れ歯だ、

 口の中には一本の歯もない」

と男は告げると、

圭子はハッとした表情をするや否や、

「おっお願いですっ

 歯を無くしてしまったらあたし…

 歌うことが出来なくなってしまいます

 どうか、どうか許してください」

圭子は男にすがるように許しを請うと、

「別に入れ歯でも歌うことは出来る、

 それに歯を抜くことは俺への忠誠の意味もある。

 契約のこと忘れたのか?」

と男は冷たく言い放った。

「くっ…」

圭子は肩を落とすと、

泣きながらリムジンから降り、そのまま歯科医のドアを開けた。



「はいっ、

 予約の方ですね、

 ではこちらに」

受付の助手は坊主頭の圭子に少し驚くと、

そのまま治療室へと案内した。

やがて白衣姿の歯科医が圭子の所に来ると、

「全部抜歯って聞いたけど…」

と圭子に治療内容を確認した。

「は…い…」

歯科医のその言葉に圭子はそう答えて頷くと、

「ふぅ〜ん

 まぁ、あの方の依頼だから引き受けるけど、

 でも勿体ない歯をしていますね」

と歯科医は圭子の歯を眺めながらそう呟いた。

そして、

「じゃぁ始めようか」

歯科医はそう告げると、

麻酔薬の入った注射器を圭子の歯茎に刺した。

見る見る圭子の口の中から感覚が消えていき、

やがて、完全に感覚が無くなった頃、

歯科医の手に抜歯用のペンチ握られると圭子の奥歯を掴んだ。

「クッ」

圭子は思わず目を瞑ると、

「よっ」

っと歯科医が捻るように力を込めると、

ズボッ!!

圭子の口から血まみれの奥歯が取り出された。

カラン

ステンレス製の器に落ちた歯を音を聞きながら

ジワッ

圭子の瞼に涙が沸き上がってきた。

圭子の抜歯作業は予想以上に長く掛かり、

抜歯と止血作業の繰り返しの結果、

ついに圭子の口から歯はすべて取り除かれてしまった。

「ふぅ…

 本来なら一度に抜くことはないんだけどね」

額の汗を拭いながら歯科医は圭子に言うと、

コクリ…

歯茎が腫れ口が利けなくなた圭子はただ頷くだけだった。

「では、熱が出るようでしたらこのクスリを飲んでください」

代金を支払ってクスリを受け取った圭子は

再び待っているリムジンに乗り込んだ。

「ようしご苦労だったな…

 今日はここまでにしよう」

剃髪と抜歯をした圭子を男は暖かく迎えると、

クルマを自宅へと向かわせた。



「ほえが、あらひ…」
(これが、あたし)

そういいながら圭子はすっかり人相が変わってしまった自分の顔を見て呆然とする。

昨日までは確かにあった長い髪と

スポットライトに煌びやかに輝いていた歯はもぅそこにはなく、

入れ歯をはずした龍子と同じ口が窄まりヒョットコのような口と

顎を閉じるたびにクシャリと潰れる歪になった自分の顔がそこにあった。

「ひろいお、あんえほんあおほほい…」
(酷いよ、なんでこんなことに)

歯を失い満足のしゃべることが出来なくなった圭子はそう泣き叫ぶと

「さぁ、圭子さん…

 お夕飯ですよぉ」

と言う龍子の声と共に、

ぞろぞろ数人の裸の男たちが入ってきた。

「あんあの、ほのかあはひは」
(なんなの、その方たちは)

筋肉質で股間に太いペニスを勃起さてている男たちがずらりと並ぶ様子に

怯えながら圭子が訊ねると、

「ふふ、圭子さんのお食事は彼らのチンコから出てくるわ

 さぁ、好きなチンコからしゃぶりなさい」

そう龍子が告げると、

「いやお」
(イヤよ)

圭子は叫んだ、

「何を言って居るの?

 圭子さんは歯が無いんでしょう?

 普通の食事が取れると思っているの?

 さぁ召し上がれ」

そういって龍子は勧めるが、

「あれあ、ほんはほもをさふひあすはぁ!!」
(だれが、そんなものをしゃぶりますか)

と圭子が叫ぶと、

ビシッ

鞭の音が部屋のこだました。

「言っても判らないなら、

 これが必要のようですね」

ビシッ

再び鞭の音を鳴らしながら龍子が呟くと、

「あっ…」

反射的に圭子は一人の男の前にひざまづくと、

ニュプッ

歯の無い口を開きペニスをしゃぶり始めた。

「そう、それでいいのよ、

 さぁっ、しっかりとしゃぶらないとお食事は出てこないわよ」

「うごっ」

涙を流しながら圭子は夢中になってペニスをしゃぶる。

「ふふ…

 あの高慢なアイドルが

 まぁ…自分から男のチンコをしゃぶるなんて、

 地に落ちたものね」

ペニスをしゃぶる圭子の姿を眺めながら龍子はそう呟くと、

「ううっ」

その声を聞いた圭子は今にも泣き出してしまいたい気持になっていたが、

しかし、その思いとは裏腹に圭子の身体は男の体液を欲し始めていた。

ヌプッヌプッ

歯を失った圭子の歯茎は容赦なく男のペニスを責め、

やがて、

「うっあぁぁ…」

男がうめき声をあげると、

ガッ!!

両手で圭子の頭を掴み、

ビシッ!!

ビシッ!!

幾度も腰を圭子の顔に打ち付ける。

そして幾度目かの時、

男のペニスが圭子の喉奥深くに侵入すると、

ドクドクドク!!

男は射精すると、

圭子の喉をなま暖かい男の精液が流れ下っていった。

「ゴボッ!!」

圭子は目を白黒させながら、精液を飲み干すと、

「ウエッゴホゴホゴホ!!」

飲み込んだ精液を吐き出すかのように激しくせき込んだ。

「まぁ、勿体ない…

 折角のご飯を吐き出して…

 こんな我が儘が出来るのは今のウチよ

 さぁ、次はいいの?」

圭子のその様子を見ていた龍子は圭子の耳を掴み上げると、

そのまま隣の男の股間に圭子の顔を押し当てた。

「ゆうひてぇ」
(許して…)

圭子はそう懇願したが、

「ホラホラ、さっさとしゃぶるんだよ」

龍子はグイグイと圭子の顔を男の股間に押し当てる。

「うぅ…」

仕方なく圭子は生臭い息を吐きながら口を開くと、

男のペニスを頬張った。

「そうそう、

 時間がないんだからサッサとするのよ」

龍子はそう圭子に言った。



つづく