風祭文庫・ヒーロー変身の館






「第2話:木の下の杏(白種篇)」



原作・@wolks(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-370





きゅっぷい。

くどいようだけど、

これはとある時間軸でのお話と言うことにしといてくれ。


さて、植物怪獣がまき散らす花粉と胞子。

それに謎の火事場泥棒に支配されてしまった沼ノ端市内。

その中をパトロールしていたのは、

木之下杏改め競パンマンと桜庭咲子改め競パンジャーの二人の化生だった。

『もうすぐ沼ノ端高校につくね』

競パンマンは競パンジャーに話しかける。

『そうよね…

 あたしたちの学校、無事だといいけど』

競パンジャーはさらに話した。

二人は花粉や胞子、

さらには火事場泥棒が破壊した建物や車などをよけながら先に進み、

往復33万6000歩の旅路の果てについに沼ノ端高校に帰ってきた。

だが、沼ノ端高校の中は、何やらおかしい。

建物の中が静寂に満ちているのはわかる。

しかし…

いたるところに火事場泥棒の連中が残したと思われる痕跡があった。

火事場泥棒の武器や弾薬の残骸、

さらには使用していた衣類や食料のカスまで…

『沼ノ端高校に秘密が多いって聞くけど、

 どういうことなのかしら?』

『うちの高校って、

 いろいろと特殊部隊がいるだろ?

 もしかしたら産業スパイなのかもしれない』

そんな話をしながら競パンマンと競パンジャーは高校の奥へと進んでいく。

文化部のもっとも奥にある光画部の部室を過ぎ、

さらに、

”忘れられた部屋”と呼ばれる

先代校長が世界の珍品逸品を集めた部屋を通り過ぎると、

そこは沼ノ端高校の最果てであり、

希に探検部がオリエンテーションと称して強化合宿を行うエリアに到達した。

ギャオッ

ギャオッ

どこから来たのか奇っ怪な鳥類の鳴き声が響くと、

ズシンッ

ズシンッ

二足歩行をする巨大なトカゲが姿を見せる。

その中を二人は歩いて行くと、

関係者以外立ち入り禁止と書かれている部屋を見つけた。

『ねえ、

 立ち入り禁止って書いてあるよ?』

『今はこんなことを言っている場合じゃないからね!

 行くよ、咲子!

 おらぁ!

 見回り組だぁ!

 この宿に長州の浪人が隠れているのは判っているんだ!』

の声とともに二人はドアをけ破り突入するが、

しかし、そこはまっくらであった。

『なに…前が見えない…』

『ちっ、しまったっ』

視界の効かない中、

競パンマンは舌打ちをすると、

『うぉらぁ!』

『でやぁ!』

たちまち部屋の中は、

討ち入った新撰組と長州浪人との斬り合いとなってしまった。

『土方さん!』

『沖田ぁ!

 左に回れ!』

怒号が飛び交い。

血の臭いがあたりを支配する。

ズドンッ!

シャッ!

闇を切り裂いて、

ガミラス艦から放たれた陽電子砲がきりしまの艦尾をすり抜けていく。

『沖田艦長!』

『怯むなっ、

 艦首ショックカノンはどうなっている』

『エネルギー充填、

 70%』

『まだ撃ってはならん』

第二次火星沖海戦。

内惑星軌道まで迫ってきたガミラス艦に向けて、

国連地球軍艦隊はショックカノンによる一斉掃射まで…

…きゅっぷい。

うーん、何かいろいろ混信しているみたいだ。

どうもこの時間軸は不安定のようだ。



「者ども、かかれぇ!」

その声とともに火事場泥棒とその仲間たちが一斉に競パンマンと競パンジャーに襲いかかる。

普通であればパンチやキックを繰り出せれば勝てるであろう。

しかし、暗闇も手伝ってか競パンマンと競パンジャーのパンチはお互いに命中し、

その場に気絶してしまった。

まさに絶体絶命のピンチである。

すると、

「同士討ちとは、なんと間抜けな…」

の声とともに謎の男が二人を見下ろすと、

二人は沼ノ端高校の地下牢に入れられてしまった。

「…ここは…」

「…あれ、

 杏…?」

地下牢で目を覚ましたのは化生化を解かれ、

競パン1枚で倒れている杏と咲子だった。

「咲子…?

 もとに戻ってる?」

「きゃあ!」

咲子は思わず手で胸を隠してしまった。

「もとに戻っちゃったね」

「これからどうしよう…」

二人が牢屋の中を見渡すと、

木の棒とさび付いた金属の破片しか見つからなかった。

「さすがにこれだけじゃ、絶体絶命…」

二人は絶望に打ちひしがれると、

二人の前に火事場泥棒の一人がやってきた。

「ひゃっはーっ!

 …どうだ?

 裸で乗り込んできてやられる始末は?」

「なに…?」

「冥土の土産に教えてやろう。

 俺たちは沼ノ端高校の奥に隠されている秘密の文書の一部を探しているのさ。

 その文書をすべて集めて使えば世界、

 いやすべての時空と次元を支配できる…」

その事は二人にとっては初耳だった。

「せっかくDr.ナイトとやらが沼ノ端を荒らしてるんだから、

 これに便乗してとっちまおうとおもったまでよ!」

「まあ、どっちみちお前たちはすぐに処刑してやるからな!」

火事場泥棒が勝ち誇ったかのようにこちらを見ている。

そして、仲間たちの目も同じようにこちらを見ている

「どうしようか…」

だが、杏はパンツの中に筒を入れていることを思い出し、

その筒を取り出すと、

「でるぱっ!」

と叫び、

その中から出てきた白い種を口に含んだ。

すると詰め込んできた王子様の衣装が宙に舞った。

実はその衣装は演劇部で使用している衣装であり、

他の女子生徒から人気のあった杏に

皮肉をこめて悪友たちが渡したものだった。

すると、

「しゃるるー!!」

王子様の衣装は声を上げると、

杏の身に包み、

さらに頭には王冠を思わせるアクセサリーが付く。

そして、さび付いた金属片はたちまちレイピアのような武器に変化した。

『ボクの名前は魔法戦士アプリコーゼ、

 愛を無くした悲しい火事場泥棒さん。

 このアプリコーゼがあなたのドキドキ。

 取り戻してみせる!』

と口上を言うと、

続いて白い種は咲子の口に入れる。

こちらは、

「きゅぴらっぱー」

の声が響くと、

海がデザインしたドレスが体に舞い。

頭にはティアラのような髪飾りが付き、

木の棒は魔力を宿した杖に変化すると、

『愛の切り札!

 フラワリング・プリンセス!

 美しさは正義の証。

 雰囲気一つであなたのハートを射貫いて差し上げますわ』

と同じように口上を言う。

こうして、競パン1枚だった少年少女は

一瞬にして王子様とお姫様へと変身したのである。



王子様は剣に向かって手を当てた。

すると手の先から火の玉が出てきた。

『ふぁいが剣!』

そう叫ぶと、

「ひゃっはーっ」

たちまち火事場泥棒は一瞬にして焼かれてしまった。

さらに、

『ぶりざが剣!』

これにより一瞬にして氷漬けになり、

『さんだが剣!』

これにより雷に打たれたような状態になった。

一方でお姫様は杖の先から様々な魔法をかけていった。

『ばぎくろす!』

火事場泥棒たちをたちまち真空の刃が襲った。

『いおなずん!』

火事場泥棒はたちまち爆発した。

『咲子、

 今のうちに脱出しよう。』

あらかた片付いたとき、

王子様はレイピアで鉄格子をたたき切りながら声を上げると、

火事場泥棒たちの黒幕がいるという校長室に二人は向かっていた。

そして、

「よくここまで来たな!」

校長室で二人を迎えたのは火事場泥棒の黒幕だった。

「俺たちはなあ、

 この学校から機密文書を盗んでやるんだあ?」

どこからそんな自信があるのか、

黒幕は大声で笑うと、

『で、その文書ってどれ?』

と王子様は尋ねる。

「がははは、

 良いだろう。

 冥土の土産に見せてやる。

 それはコレだ!」

王子様に乗せられて黒幕は手にした文章を掲げると、

「どれ?

 鑑定をして進ぜよう」

の声と共にこの学校に出入りをしている僧が姿を見せ、

黒幕から文書を取り上げると、

一枚一枚確認を始めだした。

「いっいかがでしょうか?」

緊張感が校長室を支配する中、

黒幕は手もみをしながら尋ねると、

「うむ、

 良い仕事をしていますなぁ

 これは明の時代のものですな」

と僧は感想を言い、

『で、鑑定額はいかほどに?』

その僧に向かって王子様は問い尋ねる。

「少々またれい」

キュッキュッ

と僧はボードに数字を書き込むと、

『では、オープンザプライス!』

王女様の声が響くと、

バッ!

皆の前に鑑定額が提示され、

「おぉ!」

その額に皆の視線が一斉に釘付けとなった。

「うむっ、

 ご説明を進ぜよう。

 この機密文書であるが。

 書かれたのは中国・明代の後期のもので、

 それから幾たびかの改訂が行われておる。

 ちなみに最後に改訂が行われたのは、

 昭和39年の東京オリンピックの時でな。

 ほれ、

 ここに新幹線のチケットが貼ってあるじゃろ。

 これは直前の10月1日に開業した東海道新幹線の1番列車のチケットじゃ。

 機密文書の主は1番列車に乗れたことが余程嬉しかったんじゃなぁ」

湯気が立つお茶を飲みながら僧は感想を言うと、

「では、失礼したの」

の声を残して去って行く。

「えっとぉ」

僧が去った後、

気まずい空気が室内を支配すると、

その支配をふりほどくかのように、

『そっそうだ。

 おっお前のせいで

 私と咲子はひどいことをされて死にかけてたんだぞ!』

王子様は取り繕うように怒りをあらわにする。

「え?

 あっあぁ

 そっそんなことはしったこっちゃねえよ!

 それに花粉と胞子でこの町が混乱している間にものを盗み出す。

 ついでに言うと、Dr.ナイトってやつがこの町を滅ぼせば

 この町ごと俺がのっとってもよかったんだぜ」

と黒幕も黒幕らしく大笑いをしてみせると。

『許せない…』

普段は怒ることのないお姫様の怒りが頂点に達したとき、

ティアラは頭から外れ、

お姫様の額にはまるでドラゴンの顔を思わせるような傷が浮かび上がると、

『ぎがでぃーん!

 だっちゃぁぁ!!』

たちまち高出力の電撃が天空より黒幕の頭を襲うが、

その直前。

「王女様のおねーさぁぁぁん!」

と声と共にこの学校の2年B組、唐渡が飛び込んでくると、

お姫様に抱きつこうとして電撃の直撃を受けた。

「うぎゃぁぁぁぁ!!!」

校長室に渡の絶叫が響き、

ドサッ

黒焦げの渡が床に倒れ込んだ。

「ったく、

 どうなっているんだ、

 こう次々と乱入者が来るなんて」

落ち着きの無い校長室の様子に、

黒幕はそそくさと立ち去ろうとすると、

ボフッ

巨大なものの背中に激突した。

「なんだぁ?」

目の前に迫るものを見上げると、

『んん?』

それはこたつで暖を取る巨大な猫だった。

そう、この学校には普段から出入りをしている”さすらいのネコ”が居て、

こうして校長室で午後のひとときを過ごすのである。

『んん?

 んんん?』

大切なひとときを邪魔されたことに猫は不快感を示しながら黒幕に迫り

次第に黒幕は窓際へと追い詰められていく。

そして、

『ふんっ!』

猫の一振りで、

ガシャァァァァン!!!

「ぶるぅいんぱするぅぅぅぅ!!!」

の声を響かせながら黒幕は空高く飛び、

植物怪獣の方向へと向かっていった。



すべては安寧のうちに片付いたのである。

学校を出た王子様とお姫様は、

いつの間にか登場していた白馬に乗ると、

『帰ろうか。

 沼ノ端高校を襲っていた連中はもういなくなった』

『はい…上様』

『それに、ご神木のほうでも、

 牛…じゃなかったマッチョマンがやっつけてくれたみたいだからね』

ちゃーんちゃちゃん。

ちゃちゃんちゃちゃーん。

ちゃらーらーららー

某将軍のテーマソングを響かせながら

王子様とお姫様は帰途についたのであった。



その日の夜

「今日で避難警告が解除されたとは、

 お祝いだな!」

マンションの13階にある杏の部屋では、

クラスメイト達が集まってパーティーをしていた。

「クリスマスとかじゃないけど、

 みんなで騒ごうぜ!」

杏の前に涼介が言うと、

「…なんか、上もさわがしいわね」

美緒が少し不快になるように呟く。

「…ああ、牛島さんの部屋だね。

 テレビ局のプロデューサーで結構楽しい人みたいなんだ」

「あの若手の敏腕プロデューサーが近所に住んでいるのか!」

「まあ、そういう人がいるんだったら騒いでも大丈夫だよね!」

「あと、お前に渡した演劇部の衣装、

 あれお前に似合ってたぜ。

 だから、あれお前にやるよ」

「ええ、そうかなあ?」

そんな会話をしながら

クラスメイト達は夜遅くまで騒いでいただとさ。

きゅっぷいっ



おわり