風祭文庫・ヒーロー変身の館






「超ムキムキマッチョマン」
(第14話:筋肉vs脂肪)



原作・@wolks(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-354





さて、皆さんは数取りゲームというものをご存じだろうか?

数取りゲームとは、

たとえば

「たんす→一棹」

「烏賊→二杯」

「カラス→三羽」

「ガラス→四枚」

…というふうに単位を数えていくゲームである。

そして、そのゲームはあるバラエティ番組の一コーナーで人気となり、

小学生から大人まで学校でのゲームから宴会まで

さまざまなところで活躍しているのである。

だが、このコーナーの人気を陰で支えていたのが

数人の力士たちであったことをご存じであろうか?



ぶんぶん!

「血…40リットル」

「字…?」

一人の回答者が単位を言えなかった。

すると、壮大なラッパの音とともに十分に肥え太った力士たちがあらわれ、

単位を回答できなかった回答者達が

しこを踏んだ彼らにさまざまな相撲による攻撃を受けているのだった。

力士たちのしこ踏みが受けるのか、

わざと難しい題を吹っかけて彼らを登場させるものや、

わざと攻撃を受けるために間違えるマゾヒストな回答者も出現した。

数取りゲームがブームになると同時に、

相撲や力士などもブームになっていたころだった。

「あの力士軍団すごくおもしろいです!」

「単位がわからないけど、すごく好き」

テレビのアンケートには老若男女さまざななところから好感度を上げていた。

だが、それをあまり心地よく思っていない人間がいた。

「あんな脂肪の塊のどこがいいのかしら?」

そういいながらテレビを消したのは、

バスローブに身を包んだ一人の少女だった。

「ちょっと口直ししないと…」

そう言いながら彼女は鏡の前でバスローブを脱ぎ、

青いブーメランパンツ1枚になると、

「ふんっ!」

と力を入れた。

すると、スレンダーな彼女の肉体はたちまち黒くなると、

全身に筋肉が隆起し、

そしてパンツのふくらみを大きく盛り上げていく。

「やっぱり筋肉じゃないとね〜」

彼女はポーズをとりながら鏡の前に立っていた。

彼女の名前は町田友紀。

表向きは女子高生であるが、

超ムキムキマッチョマンに変身してテレビ業界だけでなく、

他の分野でも八面六臂の活躍を見せている。

最近の彼女は筋肉男に変身することに快感を覚えてきた節もある。

しかし…

「今日の力士たち、面白かったわね」

「そうそう、うちの子なんて

 お相撲さんになりたいなんて言いだしちゃって」

外での主婦たちの会話を耳にした超ムキムキマッチョマンは…

「(なによっ!)」

そう言いながら頬をふくらましていた。



数ヵ月後…

数取りゲームの人気もやや衰えてきたのかな?

と思えてきたある日のこと。

「え?

 私と力士軍団がですか?」

「そうなんだよ…

 数取りゲームをそろそろやめないか。

 という提案があってだ、

 そのために彼らの花道にしなければならないんだよ」

「あんな汗臭いデブの連中と仕事なんかしたくないわ!」

友紀はU部長の提案を断ろうとしたが、

しかし…

「でも、まあこれはこれでいい絵になるし、

 ギャラも弾むようにするから」

U部長のその言葉に釣られてしまい、

引き受けてしまったのである。



当日、その日はバラエティ番組の2時間枠という関係で

数取りゲームスペシャルの最終回を行う予定であった。

参加したのは初代ぶっこみ総長・ショウ、

子連れの狂犬・ケン、

三度目の留年・マサル、

地味な巨人・ジミー、

伊集院家の★・ヒカル、

孤高の美男子・じょにー、

本名は幹サトシ・みっきー、

そして事情がよくわかっていない超豪華なベテラン俳優陣だった。

レギュラー陣はここぞとばかりに間違え、

次々と力士軍団が登場しては罰ゲームを行っていた。

しかし…

(「なんであたしを待たせておくのよ!」)

狭い控えボックスの中でマッチョマンは膝を抱えながら不満そうな顔をしていた。

そのころ…

「どすこーい!

 どすこーい!」

今回も例によって不正解をたたき出した男・ヒカル。

この男は間違いの常連となり、

今まで数々の罰ゲームを乗り越えてきていたのである。

一方、力士軍団もまた

しこを踏み、

突っ張りで追い詰めていたのであった。

「(ふう…あと1回成功すればこっちの業とやらも…)」

一人の力士には思うところがあった。

そして、次の数取りゲームの集会では最終回とは言わんばかりのじらし方だった。

「…山林→100ヘクタール!!」、

「山林→101ヘクタール!!」、

「三輪車→102台!!」

「ラムズフェルド国防長官→112人」、

「摘出手術→113件」、

「グレートブリテンおよび北部アイルランド連合王国→114カ国」

…中略…

「ハイドロプレーニング現象→178回」、

「ブルーリボン賞→179部門」、

「江角マキ子→ショム180」

と、難しい単位でもなんなくこなしてゆく。

そして、いつの間にか200の大台を突破してしまったのだ。

「江頭→261時50分」、

「太鼓→262つつみ」、

「西暦→263年」

「…ゲスト→299人」、

「ゲスト→300人」、

「ゲソ→…」

さすがは最後の回というだけあってか、

数取りゲームは300の大台を突破した。

そして…いつも間違いの常連ともいわれたヒカルが残され、

大きなラッパの音が鳴り響いた。

パラリラパラリラ…

だが、現れたのは力士軍団ではなく、

超ムキムキマッチョマンであった。

「これからは筋肉の時代だぜー!!」

マッチョマンはそう言わんばかりに

ヒカルにさまざまなプロレス技をかけた。

見ていた連中は言わんとばかりに唖然としていたが、

たちまちにそれは興奮へと変わった。

「いいぞ!

 いいぞー!」

ヒカルが気絶して伸びたとき、

一人の力士が乱入してきた。

どすこーい!

「なに人の標的をとってんのよ!

 この筋肉野郎!」

力士がマッチョマンを貼り倒そうとしていた

「どすこーい!

 どすこーい!

 マワシファイター基、

 相撲ライダーの威力を思い知るがいい」

相撲ライダーはマッチョマンに対して張り手をくらわせる。

「(なに、こいつ…汗が飛び散って…でも…なんか…)」

相撲ライダーの腹のぜい肉がマッチョマンの体にぶつかってくる

「この脂肪野郎!

 ここはあたしの出番よ!」

マッチョマンはさらに相撲ライダーを押し倒そうとする。

脂肪の塊と筋肉の塊の異様な対決を前に、

出演者やスタッフは引くどころか、

さらに激しく興奮しているようだった。

「マッチョマン行け―!」

「相撲取も負けるな―!」

「マッチョ―!」

「相撲―!」

K−1やプロレスをはるかにしのぐ興奮にスタジオは包まれた。

「どすこーい!」

ずーん!ずーん!

「この脂肪野郎!」

「筋肉野郎!」

筋肉の塊と脂肪の塊が激しいせめぎ合いをした。

相撲のあらゆる業をかけるが、

なおもへこまないマッチョマン。

しかし、マッチョマンが技をかけようとも、

あせと脂肪のせいでいまいち決まらない…

試合自体はいつまでたっても決着がつかないものであった。

「筋肉野郎にチャンスを奪われてたまるか―!

 男くさいくせにー!」

「なんだー!

 脂臭くて汗臭いくせに―!」

相撲ライダーとマッチョマンはさらに激しく戦い、

延々と続く試合に関してなど誰も関与しないほどであった。

「こりゃ最終回にふさわしいや!」

出演者は興奮に満ちていた。

そしてさらに…

ドアが開いてスモークがなると、

往年の突っ張りソングを歌う歌手のバックに

3人のグループバンドがあった。

パンクを思わせる衣装をまとい、

鍵を思わせるアクセサリーを持った美少女、

彼女の後ろにいるのは銀髪碧眼の美少年が特攻服を思わせるような

白いTシャツを裸の上半身の上に羽織っている。

また下には上にあわせた特攻服のようなズボンをはき、

指輪やクロスなど銀色のアクセサリーで固めいているのと、

一方、黒髪灼雁の美少年は

髑髏マークの入った黒いTシャツと黒く破れかけたズボンを身につけ、

さらに金色のアクセサリーで身を固めているのがいた。

脂肪の塊と筋肉の塊の試合、

さらには新しく結成されたロックバンドのお披露目ということもあり、

スタジオは今期始まって以来の最高潮をたたき出していた。

その傍らで最後の問題を間違えたヒカルは一人取り残されていたが…

きりがないので二人の試合はいったんドローということにはされたが、

「脂肪野郎!

 あんたは気に入らないのよ!」

「筋肉野郎にそんなこと言われたくないわ!」

「そんな脂肪を身につけたままでいいと持ってるの?」

「それは…」

力士のほうが若干劣勢になった。

すきアリといわんばかりにマッチョマンは相撲ライダーをひっとらえた。

「うーん、

 おぬしの頑張りはと折り合えずみとったで。

 とりあえず今回の件でお前さんの業はなかったことにしといたるわ」

その時、一人の狐のような老人が二人の前に現れた。

「あなたは相撲の神様…」

相撲の神様と名乗る狐がいうには、

相撲ライダーはかつて神社の娘であったが、

何の罪のない人々を私利私欲のために利用したため

このような姿になったという。

業を消し去るには普通の相撲のほか、

さまざまなハンデを乗り越えなければならなかったのだ。

「そうだったの…」

「でもこれで元の姿に戻れるわ…」

相撲ライダーは元の姿に戻れると思っていたが…

「甘いわね。

 筋肉を馬鹿にした報いはちゃんと払ってもらうわ…」

そういうと超ムキムキマッチョマンはここぞとばかりに

用意していた薬を相撲ライダーに飲ませたのである。



1ヶ月後…

「はあ、力士の次はこんな姿だなんて…」

相撲ライダーの体にあった体脂肪はすべて筋肉に置き換わり、

廻しの代わりにビキニパンツをもっこりさせていた。

「ここから先はわしにも専門外やね。

 まあ、がんばりなはれ。わしはあの、

 イジューイン・ヒカルとかいう奴にでもつくぞ。

 あいつはマワシファイターーとして

 最高の素質があることは確かめさせてもらったしのう。

 ほな、さいなら」

「そんなあ〜」

そのころ…

「まったく、元に戻りたいのはこっちのセリフですよ。

 いつまでこの受難が解けないのでしょう」

鍵を持った少女はそうぼやいていた

「いいじゃないの、あんた十分かわいいわよ」

「うふふふ、十分に行けますわよ」

そう言うのは銀髪と黒髪の二人の美少年だった。

「あなた方と違って、

 好きでやってるわけではないんですよ」

鍵を持った少女は溜息をついたのであった。



おわり



この作品はに@wolksさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。