風祭文庫・ヒーロー変身の館






「超ムキムキマッチョマン」
(第13話:マッチョマン体操)



原作・@wolks(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-353





君はテレビ番組や動画サイトで活躍の場を広げているヒーローをご存じだろうか。

超ムキムキマッチョマンと呼ばれる謎のスーパーヒーロー

何処とも無く現れて、

そのムキムキな筋力で事件を強引に解決し、

風のように去っていく。

まさに通りすがりのスーパーヒーローである。

だが、彼に関する情報は少なく、

その謎の正体を知る者はほとんど居ないのである。

超ムキムキマッチョマンとは何者なのか、

人類の敵なのか、

それとも味方なのか…



「おはよー!」

今日も元気に幼稚園児たちは登園をしていた。

「あ、きれいなおねえちゃん、

 おはよー」

元気のいい園児は通学途中の友紀に出会うと元気よく挨拶をする。

「おはよう。

 今日も元気でね」

友紀はにこやかに挨拶をし、

園児を見送りながら通学していた。



そしてその日の夕方…

園児は夕方まで公園で遊んでいた。

「じゃーねー!」

園児は一緒に遊んでいた友達に元気よく挨拶をすると、

一目散に道路へと飛び出していく、

帰宅道一直線。

そう呼ばれるこの年頃特有の症状は、

一度発症してしまうと患者は極端な視野狭窄に陥り、

帰宅するまでの間、

患者の視野は左右角僅か15度にまで制限を受けてしまうのである。

これは時速300km/h以上で爆走中のF1レーサーの視野と同じであり、

帰宅途中の園児はまさに街中を爆走するF1であると呼んでも問題はない。

さて、園児が飛び出した通りを1台のトラックが爆走していた。



上海から高速船で運ばれてきたコンテナを搭載したこのトラックは

昨夜遅くに福岡港を出発し、

順調ならその日の朝早くに目的地に到着をしているはずなのだが、

中国自動車道での事故渋滞を手始めに、

名神高速・天王山トンネルでの自然渋滞。

東名高速・由比パーキングエリア付近の高波による通行止めと言う、

渋滞のトリプルパンチを喰らい予定より大幅に遅れていたのである。

「やっべーな…」

時計を気にしながら運転手はアクセルを踏み込むと、

ボーッ!

トラックに搭載されている高性能ガスタービンエンジンに火が付いた。

キュィィィィン!

タービンエンジンが奏でる見事な音階が運転室に響き渡り、

ゴワァァァァァァ!

トラックはGをかけて、

陸上の主であるが如く加速を開始する。

爆走する園児とトラック。

質量差では圧倒的にトラックが有利ではあるが、

無論、園児も負けてはいない。

スピードが増せば質量は増加する。

この物理学の法則に則って、

街中を疾走する二つの移動体は一陣の風に乗って急速に接近していく、

生と死が交差する接点に向けて!



キキ―!

突如街中に大きな音がこだまし。

ギュワァァァァァン!

爆走していたトラックはもうもうと白煙を噴き上げながら一気に減速をする。

「事故だ!」

「爆走していた幼児園児がトラックを撥ねた」

その現場に居合わせた誰もがそう思った瞬間…

園児はタンクトップ姿にサングラスをした黒人マッチョ男に抱かれ、

向い側の歩道にまで運ばれたのである。

「大丈夫?」

園児を見つめながらマッチョ男はそういうが、

そに対して、園児は…

「な…なに?

 このこわいおじさん…ぎゃー!!」

悲鳴を上げながら園児は一目散に逃げていく。

何度も繰り返すが、

この年頃の園児は走り出すと視野狭窄になる。

そして、それは次の事故を引き起こすのである。

(何よ。

 今朝と全然態度違うじゃない。

 まあ、低年齢層にまで浸透してないからだけど)

と文句を垂れるのはこの黒人男、

超ムキムキマッチョマンこと町田友紀であった。

(なんとかこれを低年齢層にまで広げないと)

そう思いながら超ムキムキマッチョマンはロケ現場に戻った。



数日後…

「え?出演依頼ですか?」

友紀はU部長から新たなる仕事を言われようとしていた。

「ああ、N・H・Kの教育番組に出てくれないかと」

(N・H・K

 あぁ、のび太放送協会ね。

 大丈夫かしら。

 でも、これもマッチョマンを広めるチャンスね。)

そう言い聞かすと、友紀は

「大丈夫よ。やってみせるわ」

とU部長に返事をする。

かくしてロケ当日。

青いビキニパンツ1枚という出で立ちで

スタジオに来た超ムキムキマッチョマンの姿があった。

「テレビの前のよい子のみんなー!

 今日はこの僕が新しい体操を見せちゃうぞ!」

通常のマッチョマンのキャラとは違うキャラを作って見せ、

まずは肩慣らしといったところだ。

「今日はマッチョマン体操!

 行ってみよー!」

そういうと超ムキムキマッチョマンはまずは体を大きく回して、

次に背伸びのようなポーズをとった。

そして手をまわしたり、

次にはパンチとキックのような姿勢をとり、

さらにはエルボーなどのプロレス技を連発した。

それ以外にもオーソドックスなラジオ体操の動きを織り交ぜたり、

にわかな筋トレの姿勢を一瞬だけとり、

もちろんボディービルダー独特のポーズをとるのを忘れなかった。

さらにマッチョマンは姿勢を取りながら歌を歌う余裕があった。

「ぼくはスーパー・ムキムキマッチョマン

 元気に体をまわしてる

 今日も技を華麗に決めて悪い奴らをやっつける

 すすめすすめゴーゴーマッチョポーズは今日も輝く

 飛び出せマッチョパンチにマッチョキック

 いざとなったら得意技だって出しちゃうぞー

 ああマッチョマン―マッチョマン―

今日もスーパームキムキマッチョマン

 元気に体をそらしちゃう

 正義の心をいつももやして悪い奴らをやっつける

 戦え戦えフライフライマッチョポーズはこの通り

 飛び出せマッチョエルボーにマッチョ背負い投げ

 いざとなったら得意技だって出しちゃうぞー

 ああマッチョマン―マッチョマン―〜♪

 みんなもスーパームキムキマッチョマン元気に高く飛び跳ねる

 優しい心をもちあわせてもいいひとたちを助けてる

 救え救えレスキューマッチョはやさしくちからもち

 飛び出せマッチョ頭突きにマッチョビンター

 いざとなったら何だって出しちゃうぞー

 ああマッチョマン―マッチョマン―」

(なんか恥ずかしいけど、

 この際どうでもいいわね)

そう思いながらマッチョマンは演武を続けていた。

当然これらの歌やダンスはすべてアドリブである。



翌日…

この「マッチョマン体操」はかくしてお茶の間、

とくに子供たちのハートをキャッチしてしまうと、

またたく間にCD化、DVD化、BD化され、

マッチョでない人たちもこの踊りをまねするようになるなどになった。

当然低年齢層にもバカ受けである。

さらの数日後…

多くの子供たちにサインをねだられている超ムキムキマッチョマンだったが…

「おじさん…ごめん…」

マッチョマンの前に現れたのはあの日の園児だった。

「わたし、

 おじさんが私のこと助けてくれたのに、

 すぐに逃げ出しちゃって…」

「いいよ…そんなことはもう!」

マッチョマンは園児の前で顔を赤らめていた。

「でも、わたし思ったの。

 テレビでもおじさんすごく面白いし、

 わたしのこと助けてくれたし…

 わたし、おじさんみたいになりたい」

「そうなんだ、頑張れよ」

(え…?)

園児の夢を応援する代わりに、

超ムキムキマッチョマンは内心青ざめていた。



仕事が終わった後の楽屋で…

「ねえ、友紀姉ってば…

 一人だけあんなに売れちゃって。

 なんであたしも呼んでくれなかったの?」

そういうのは友紀の妹分の美香だ。

アフリカの部族の筋肉男に変身でき、

二人目のマッチョマンとも呼ばれている。

「あんなに稼いだんだから、

 おごってくれてもいいじゃん。

 ねえ…」

「まったく、

 昨日もおごってあげたでしょう?

 しょうがないわねえ…」

新たに妹分を増やすことについて、不安を感じる友紀であった。

「(U部長には内緒にしておこう)」



おわり



この作品はに@wolksさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。