風祭文庫・異性変身の館






「超ムキムキマッチョマン」
(第6話:Just 1 Minutes)



原作・@wolks(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-253





1分…

20秒…

1/60時間。

この短いようで長いような時間をいろいろと表現することができるだろう。

ここにも1分という短い時間の間で何かをしなければならない人物がいた。

「今からCMに出ろ?」

という指令をADから受け取ったのは、

先ほどまで行われていたドッキリ企画の収録を無事終わらせたばかりの超ムキムキマッチョマンであった。

「え…?

 しかも生のCMって?」

いきなりの指令にマッチョマンは少しむっとして見せるが、

(いきなりこんなことを言われたって。

 しかももうすぐもとの姿に戻るってのに)

だがしかし次の紙を見た途端、

その表情は大きく変わったのであった。

そして

「わかった。

 引き受けよう」

と返事をするとスキップをするようにしてCMの撮影現場へと向かっていく。

そうその紙には「報酬は今の5倍は弾む」と書かれていたのであった。


CMの撮影会場に到着した超ムキムキマッチョマンは、

競演するとこになる霊媒師・正似総課の元へと向かっていく。

この男は現在人気の霊媒師で、

さまざまな番組で霊との交信を行うことや一時的にその人物の前世の姿を見せることを売りとしていた。

「このCMはちょうど60秒で終わります。

 ただし、薬の効き目が切れてしまうので一発勝負でお願いします」

その場で超ムキムキマッチョマンは別のADより伝言が書かれた紙を受け取った。

CM撮影において早速超ムキムキマッチョマンはその男に占ってもらう事となった。

なお、テロップには臨時CMと書かれている。

――――残り60秒

その霊媒師は最初に手で祈ると、

なにやら怪しげなお経を唱えつつダンスを踊り始める。

そして、踊りながら徐々に不気味なオーラを放ち始めると、

カッ!

「見えてきました。

 見えてきました」

と訴えるように叫び始め。

「見えてきましたぁぁ

 あなたの前世はぁ〜

 どぉーん!!!

 ずばり全身が巨大な性器となった妖怪でぇぇぇすっ!」

と霊媒師がマッチョマンを指さし叫び声をあげたのであった。

「…まさか…」

突然の言葉に超ムキムキマッチョマンはまさに信じられないといったような表情をして立っていると、

「信じられないというような表情をしておるな?

 それでは…」

そう言いながらと霊媒師・正似はさらに怪しげなドラを取り出すと

ぼわぁぁぁぁん

ぼわぁぁぁぁん

とドラを叩きながら、

「玲皮玲皮…背脱視通甥線是野江魔尾…」

というなんとも胡散臭い念仏を唱え出す。

そして念仏を唱え終わると、

正似はにやりと表情を変える。

――――――――残り51秒

「うおおおおおおおおおおおお」

突然超ムキムキマッチョマンの体に異変が訪れた。

彼の体は急に脈拍数が上昇し、

滝のような多量の発汗をすると共に全身の筋肉が硬直すると、

パンツの中にある彼自身の持つただでさえ巨大なものが脈を打って大きくなっていくのであった。

さらに彼のパンツから真っ黒く巨大なものがはみだし、

それとは対照的にほかの体の部分は縮んでいく…

そしてついにそこにいるのは約2メートルはあろうかという真っ黒いペニスと

約100kgはあろうかという睾丸が激しく先端を揺らしているというものだった。

「…妖怪虚痕、これがこのムキムキ男の前世の姿。

 この妖怪は自分の体を何倍にも大きくなり、

 ついに白い体液を発車するぞい」

霊媒師・正似は説明を行った。

―――――――――――残り43秒

さて、この妖怪・虚痕は激しく自分の先端を揺らしていた。

「さてこの妖怪じゃが…

 この太い棒のような体と、

 この丸い部分…どこをどう叩いても棒の部分は大きくなるぞい」

そう言うと霊媒師・正似は自分の持っている棒でその妖怪をつつきだすと、

虚痕のゆれはさらに激しく大きくなるばかりであった。

その一方でこの光景を見ているCM関係者はただ呆然とするばかりである。

(フフフ…

 前世とかいうものをこんなにもこいつらは信じちまうのかな?

 俺がやったのは人を勝手にかえるお香を炊いてるんだ…)

そうなのである。

この男の見せる能力は全てイカサマだったのだ。

あるときは死者との交信と偽って自分の声をボイスチェンジャーで変化させたり、

また前世の姿を映し出すさいには催眠効果のあるお香を使ったり、

それだけでは飽き足らず姿まで変化させる香まで用いていたのだ。

得意になって説明しながら霊媒師・正似の横で、

虚痕は激しく自分の先端をさらに揺らしているように見えた。

だが…

(ん…あたし何してたのかしら?…

 え?

 何これ?、

 身動き取れないし…

 まったく前が見えない…

 でもなぜかぶらぶらしてる…)

(…ああん

 …ああん

 …さっきっから触られて気持ちいいわ

 …なんだか体がしまって

 …まさか…)

超ムキムキマッチョマンはこのときちょうど自分がペニスになっていたことを体感した。

『説明しよう。

 いくら超ムキムキマッチョマンとはいえ、

 その強靭な筋肉では催眠を防ぐのは難しいと思われる。

 しかし、お香のようなものの場合、

 ひとつのお香を吸収してしまえば、

 筋肉でその成分を感じ取り、

 それと似たような成分のお香を筋肉でブロックするのだ。

 つまり、このシーンでは霊媒師のかけた催眠術と変身のお香は成分がよく似ており、

 変身のお香の方を早く霊媒師は出していた。

 だから、姿は変わっても催眠にはかからないのだ。

 さらに付け加えると、

 この霊媒師はこの妖怪が実は自分で動ける意思があることを知らなかったのだ!』

――――残り23秒

妖怪・虚痕の体はさらに大きく硬直していき、

ついにはその長さが5メートルほどになっていく。

(…さっきのおとこは

 …ああん

 …ああん

 …そ…そうか

 …こっちのほうね)

触られている方向から霊媒師・正似のいる場所を把握すると、

虚痕はその方向に向かってまっすぐ倒れ込んでみせる。

「ぐぎゃああああああああ…な…なんだこれは…」

突然のことに驚いた霊媒師・正似は間一髪でよけて見せるが、

一回立ち上がった妖怪はさらに執拗に彼に向かって倒れこんでくる。

悪運が強いのかそのたびに間一髪でよけていた

そして、彼の袖の間からボイスチェンジャーと、

いくつかの怪しいお香と思われるものが転がり落ちる。

「まずい…これが知られては…」

それに気がついた正似はそれを拾おうとした

「これが…どうかしたんですか?」

そこに現れたのは作業服姿のUプロデューサーであった。

「先生…これは?
 
 まさか、あなたこれを使って不正をしていたんですか?

 ちょうどボイスチェンジャーだし、

 この薬…専門家のところにでも持っていけばお香の正体も何かわかるでしょうし…」

Uプロデューサーに真実を気づかれ、

激怒した正似はさらに懐から別のものを取り出した

「お前ら…よくも…

 でもなあ、オレがこのダイナマイトを使ってまとめてぶっ飛ばしゃあ証拠はのこらねえ!」

そういうとダイナマイトに火をつけ、妖怪・虚痕に向かって投げつけた。

――――残り10秒

10秒前…

妖怪・虚痕の体にダイナマイトがぶつかった

(きゃっ…)

それはあろうことか今にも開こうとしている巨大な口の中に放り込まれる。

9秒前…

予期せぬ異物に暴れこむ虚痕であったが、

暴れこんでいるせいかその体はますます大きくなってしまうと、

8秒前…

ちょうどダイナマイトが爆発した?

いや、中で創られていた我慢汁によって爆薬は溶け出し、

中に詰まれていたニトログリセリンが大量に虚痕の体に流れ込んでしまうと、

その体はゆうに20メートルを超える最大級の大きさと変貌していく。

7秒前…

恐れをなした霊媒師・正似はついに妖怪に向かって

そこにあった様々な物を投げつけてみせるが…

だが、硬さも太さも長さも最大級となった妖怪には心地よい刺激でしかない。

6秒前…

5秒前…

4秒前…

3秒前…

と、そのときだった。

妖怪・虚痕の体は動きが小さくなり、

まるでほぼ直角に聳え立った状態となった。

動きが止まったとばかりにけり倒そうとする正似だったが

2秒前…

次の瞬間、大量の白い液体がまるで火山の噴火を思わせるように著しく降り注いできたのであった。

「ぎゃあああああ…熱い…身動きとれねえ…」

霊媒師・正似は熱を帯び粘性を持った白い液体の中でもだえていた。

「先生…うちの記者会見で本当のことを話せば…出してあげますよ」

「わかった…全て話すから…!」

「そうですか…でももういいですよ。

 この生のCMの間に全てわかりましたから」

お茶の間には正似の無様な姿が流れていた。

―――――ちょうど1分が過ぎた。

妖怪の体は徐々に人間の体に戻っていき、

そしてさらにその体は黒人の超ムキムキマッチョマンから、

一人の女子高生町田友紀へと戻ったのであった。

「はぁ…こんなにも長い1分間は初めて…」

すっかり疲れた体を起こしながら彼女はそう呟くのであった。



おわり



この作品はに@wolksさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。