風祭文庫・異性変身の館






「超ムキムキマッチョマン」
(第4話:真夜中のマッチョマン)



原作・@wolks(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-242





真夜中の住宅街…

誰もが寝静まったこの町を一人のマッチョ男が走っていた。

「はあ…

 はあ…

 はあ…

 はあ…ここまでくれば…

 後は姿を元に戻るのを舞って服を着れば…でも…」

走りながらマッチョ男がそのようなことを考えているときに、

一人の警官が走ってくるなり、

「おい変態男!

 無駄な抵抗はやめておとなしくお縄につけ!」

と声をあげる。

そう彼は警官に見つかってしまったのだ。

マッチョ男は体を最大限に縮めてゴミ箱の中に隠れた。



―――――――――事の顛末は、ここ数日町内で多発している連続通り魔事件だった。

このところ、

町内を歩いている女性が何者かに連続して暴行されているという事件が起こっており、

しかもその容疑者はいまだに逮捕されていないと言うのだ。

その町内はちょうど友紀のすんでいる学校の近くで、

その日もたまたま学校に遅くまでいた友紀は

夜道を歩いて自分のアパートに帰ろうとしていた。

だが、その時間帯はちょうど事件が多発する時間帯だったのだ…

夜道をおそるおそる歩いている友紀であったが、

その足取りはいつにもまして速くなっていく。

そんなとき、背筋がぞっとするような感覚が襲った。

「なんか…誰かがつけてくる…」

その予感は的中した。

彼女が後ろを振り向くと約50メートル先に手に凶器を持ち、

けだもののような笑みを浮かべた一人の男が立っていたのであった。

「ひっ!」

友紀はとっさに電柱の後ろの袋小路に逃げ込むが、

しかし、その行く手を阻むように壁が立ちはだかる。

「どうしよう…ここ行き止まりだし、

 すぐ追いつかれれちゃう。

 …そうだ…この方法で切り抜けよう…」

そう考えた友紀は突然服を脱いてあの青いパンツ1枚になてしまうと、

持っていた薬瓶を徐に取り出し、

中にあった錠剤を飲み込んで見せる。

すると、一人の少女は

たちまち筋肉ムキムキの黒人マッチョへと姿を変えていったのであった。

(これでばれないわね。)

黒人マッチョに変身をした友紀は堂々と袋小路から歩き出すと、

後をつけていた通り魔はそれを見るなり、

「チッ!」

と舌打ちをしてみせる。

安心して夜道を闊歩する超ムキムキマッチョマンだが、

だが、そこに突然懐中電灯の光が当てられたのだ。

「きゃっ!」

光を当てられた超ムキムキマッチョマンは思わず声を上げ。

そして、その先を見下ろすと一人の若い警官がいたのであった。

「ちょっとあんた、

 なんでパンツ1枚で歩いているのかな?

 怪しい奴…

 ちょっと署まで来てもらおうか?」

いかにも点数稼ぎにしか頭がないようなツラをしながら警官は言うと、

「ちょ…ちょっと…怪しい男ならあそこに…」

超ムキムキマッチョマンは先ほどいた通り魔のほうを指差してみせる。

しかし、

「ほお…

 あそこで封筒を持ってるサラリーマンのどこが怪しいんだ?」

と呆れてみせる警官の視線の先には

変質者とは思えないごく普通のサラリーマン風の男が居たのであった。

「え…あ…」

予想外の展開に超ムキムキマッチョマンは焦りのあまり言葉を失ってしまうと、

「とにかく、一緒に来てもらおうか!」

そう言いながら警官は超ムキムキマッチョマンを連行しようとしたとき、

「!」

何かを思いついた超ムキムキマッチョマンは一瞬警官の目に手のひらをあててみせ、

彼の目が一瞬暗くなった隙を突いて走って逃げ出してみせる。

「こらぁ!

 待て!、

 待つんだ!」

一瞬の虚を突かれた警官は急いで追いかけるが、

だが、見失ってしまうと、

「くっそぉ!」

と悔しそうに臍を噛んで見せたのであった。



超ムキムキマッチョマンはゴミ箱の中で考えていた。

このまま外に出れば通り魔の目は欺けるがしかし警官には捕まる。

かといっ友紀に戻ればまた通り魔に襲われてしまう。

そして、なによりも窮屈なゴミ箱に隠れている状況を何とかしなければならない。

「このままこうしているわけにもいかないし…」



――説明しよう!

超ムキムキマッチョマンの肉体が単なる筋肉バカではなく、

どんな小さいケースにも入れるという超人的な身体能力を兼ね備えているのである。



そう超ムキムキマッチョマンはこの類まれな身体能力によって救われたのであった。
 
「まったく…あの変態筋肉野郎はどこに行ったんだ?

 でも、俺の本当の目的は変態筋肉野郎じゃないんだな…」

マッチョマンを見逃した警官はこうつぶやいていた。

怪しい男を捕らえればたしかに点数は稼げるが、

それよりもこの男にとって楽しみはあるのだろうか?

しばらくすると、警官が一人の男に職務質問をしているように聞こえた。

しかし、よく聞いてみるとそれは職務質問とは程遠いものだった。

「鳥間か…お前の獲物、見つかったか?」

「いや…今日制服着た女子高生見つけたけど、

 そいつ行き止まりに入ったままどっかいっちまってさ」

「おしいなあ…女子高生もののビデオだったら高く売れたのになあ」

「まあいいさ…

 いままで陰岡、お前の協力があったから

 ここまで女ども襲ってその写真とか動画ばら撒いてもうけてたんだからな」

「まったく、ちょろいもんだぜ。

 ちょっと警官が巡回してるからって安心しちまうんだから…」

二人の男は自分が今まで行い、

そして友紀に行おうとした悪事についてどうどうとかたっていた。

まさか、ここに当の本人が聞いているとは知らずに

(本当に許せないわね…こいつら…)

そう思うと超ムキムキマッチョマンは全身に力を入れる。

すると突然彼女の入っていたゴミ箱が飛び跳ね、

二人の男に向かって突撃してきたのであった。

「ぎゃあああ!」

ゴミ箱がぶつかったのは通り魔の方だった。

通り魔はゴミ箱に押しつぶされ気を失いそのまま道路上に倒れてしまった。

そう通り魔はさっき超ムキムキマッチョマンが指差しをしたサラリーマン風の男だったのだ。

「な…何なんだ貴様は…」 

警官が驚きながら怒鳴ると、

中からゆっくりと超ムキムキマッチョマンが現れる。

「あ…さっきの変態筋肉野郎!

 たっ逮捕するぞ!」

マッチョマンに向かって警官は声を荒げるが、

だが、

「オレなんかより、

 こっちの悪質通り魔野郎を逮捕しろよ!」

と言い返すと、

「な…なに!」

警官は路上に倒れる男を横目で見つつ固まってしまったのであった。

そして、固まりながら警官は後先を考える。

(そうか、

 とりあえずこいつを捕まえたらオレの手柄になるし、

 オレの存在をうまく消せる…

 いままで真面目な警官で通ってきたしな)

そう考えると警官は、

「わかった!

 この通り魔を捕まえてくれたから、

 お前の逮捕は免じてやる!

 感謝しろよ!」

と言うと、

超ムキムキマッチョマンに背を向けその場から逃してみせる。

こうして改めて人のいない町を闊歩する超ムキムキマッチョマンであったが、

先ほどの警官に対しては少し怒りがあった。

(でも…なんかムカつくわね。

 あの警官…。

 そうだわ…少し元に戻るまで時間があるし)

そう思うと友紀は公衆電話に向かった

翌朝、この町を騒がせていた通り魔が一人の警官によって逮捕されたというニュースが

テレビや新聞をにぎわせていた。

通り魔を逮捕した警官、陰岡巡査長は連日さまざまな新聞やマスコミで取り上げられ、

まさに英雄気取りであった。

こうして陰岡巡査長は、通り魔を逮捕した功績が認められ、

自分の勤務する警察署の署長室に呼ばれると、

お褒めの言葉をいただいてきたところであった。

そして

足取りが軽く署長室から出てきたところに一人の男が彼に厳かに声をかけた

「ほお…仲間を売っておいて自分は英雄とは…

 いい身分だな、陰岡巡査長」

「な…なんだ…あんたは…」

陰岡が後ろを振り返っていたのは、

黒いスーツを着た一人の大柄な強面の男だった。

「私は県警本部刑務部の監察官・Rだ。

 実はあの夜、匿名の電話があって君の事をずっと監視していたんだ。

 陰岡巡査長、

 君は鳥間と手を組んで、

 暴行した女性の動画や画像でもうけていたそうじゃないか。

 なんでも、君と鳥間がその話をしているのを聞いていた人がいるんだからな」

とR監察官はさらに厳かに語る。

「なんか…証拠はあるのですか?」

陰岡はうろたえた口調で聞き返すと、

「フフフ…君の交番にあるロッカーの金庫から、

 その証拠をたんまりとな…

 おっと、ここで汚いとか言っては困る。

 これが私のやり方だからだ。」

その様子に陰岡は膝を崩しすと、

(あの…変態筋肉野郎…)

と呟いていたのであった。



数日後…

「R監察官、

 それにしても陰岡がへんな黒人のマッチョな男がどうこうとか言ってるんですよね…

 それには鳥間も自分は黒人筋肉野郎に襲われたとか…」

R監察官の部下は彼に話しかける。

「もし、本当にその黒人マッチョ男がいるのであれば、

 彼こそがヒーローだとは言えはしまいか?」

その言葉にR監察官はユーモアを交えてこう言うが、

しかし、そのヒーローの正体が一人の女子高校生であったということは、

R監察官はまだ知らなかったのである。



おわり



この作品はに@wolksさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。