風祭文庫・ヒーロー変身の館






「ウルトラウーマン・フロス」
(第19話:七夕幻想憚)



原作・匿名希望(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-199





時は西暦20XX年、地球では怪獣や宇宙人の襲撃が多発していた。

それらの事態は国連軍では対処しきれないと判断した人類は

特殊科学戦隊TSFを結成し、迫り来る脅威に立ち向かっていた。
 

 
時は戦国の世…、

織附家の長女織附不千恵乃は彦根家の長男彦根清左衛門の元に嫁いだ。

これにより彦根家と織附家は同盟を結ぶ事となった。

そして夫婦は幸せに暮らし始めた。

しかし…、

幸せは長くは続かなかった…。

「…で?

 これがどうしたの?」

「宿題で古い本の読書感想文を書くんだろ?

 それで古い本を1冊持って来いって言ったのはホシカワじゃないか」

「古すぎるんじゃない?」

「そうかな…?

 ま、いいや!

 とりあえず読んで見てくれよ!

 じゃ、俺は部屋に戻る!」

「あ、こら!

 イノマタの奴…、今度こんなの持って来たら新しい喧嘩技の練習台にしてやる…」

 
 
ここはプロテスタント系の教会。

ここでは身寄りの無い子供達の保護も行っている。

実はデジモン騒動の時デジモンにされていた子供達は全員ここで暮らしているのである。

ここの施設の広間では子供達が紙に自分の願い事を書いていた。

今日は7月6日、明日は七夕なのである。

子供達はその日に向けて短冊に願い事を書いているのだ。

(『何故プロテスタント系の教会の行事に七夕があるのか?』という疑問は置いておく)

もともと学校に通っている子供達は、

夏休みに向けて授業と宿題の嵐でそれどころじゃないそうだが…。
 
 

「慰問?」

「そうだ。

 家族のいない子供達のための施設に慰問に行くという案がでてな、

 TSF隊員はほぼ全員参加する事が決定した」

「何故ですか?」

「特殊科学戦隊TSF(Terrible・Science・Forse)の一員として当然だろ!」

「ある意味一番関係ないですよ!

 何処が特殊ですか科学ですか戦隊ですか!?」

「正義の戦隊としてだ!」

「なら最初からそう言ってくださいよ!!」

「何処に行くんですか?」

「マイペースだなお前…」

「何処に行くかは人其々だ。

 例えばガクラとサイゴウはこの教会、

 フルカワとチシブキはこの施設という風に…」

「隊長は?」

「私は長官とこの教会に行くことになった。

 ちなみにユキムラ博士はマツガヤ研究員と…、

 ナリタ博士はタカマツ研究員と一緒に行くらしい」

「ナリタ博士も!?」

「そうだ…、

 まあ治療センターのヤブウチさんが待機しているから大丈夫だろう…」

「そうですね」

「ところで何で俺達はこの教会なんですか?」

「ガクラ、お前そこに知り合いがいただろ。

 知り合いがいれば迷いもしないだろうしな…」

「知り合い?

 (なんか嫌な予感が…)」
 
 

「久しぶり!!

 種子島以来ね!!」

「嫌な予感的中…」

「なんか言った?」

「いや、なにも…」

「なるほど、確かに知り合いといや知り合いだな…」

「サイゴウ、冷静に分析するなよ…」

「ところで手に持ってるその本は何だ?」

「高校の宿題で昔の本の読書感想文を書かなきゃいけなくなったの。

 それで本とかに妙に詳しいイノマタに頼んだらこんなの持ってきたのよ」

「よく貸してもらえたな…」

「かなり親切な奴でね。

 一言頼んだらすぐに持ってきたわ」

「(脅迫したな絶対…)

 で、どうだった?」

「短編集だったけど取り合えずこの話を読んでるの」

「何で?」

「一番短いから」

「なるほど」

「2人とも…、

 いい加減本題に移れ!!」

「本題って何?」

「電話で言っただろ。

 施設の案内だよ」

「あ、そうだっけ?。

 電話の内容なんて聞き流してるから…」

「(こいつは…)

 で、まずは何処から行くんだ?」

「何処から行く?」

「案内する側が質問してどうすんだよ。

 慰問なんだから子供達の所でいいだろ?」

「あ、それもそうか」

「(わざとやってんじゃないだろうな…、

  この極道少女…)」

 
 
「此処が遊戯室よ」

「へえ、

 意外と広いな。

 うちの司令室の2倍はあるぞ」

「でも誰も居ないぞ」

「もうそろそろ来る頃ね」

「へ?」

「もうそろそろ朝飯の時間が終わるのよ」

「お前は朝飯食わなくていいのか?」

「一足先に食っといたから」

「あ、そう…」

「いつもそうなのか?」

「ええ!

 皆より30分は早く食べれるわよ!」

「おいおい…」

「あれ?

 あそこにあるのは?」

「ああ、七夕の竹よ。

 皆の願い事が書かれているわよ」

「へえ〜、

 これはホシカワのか?」

「ええ、そうだけど…」

「『もっと強い奴と喧嘩したい』…、

 いろいろな意味でホシカワらしいな…」

「いや〜、

 それほどでもないけどね」

「褒めてないぞ…、

 お前は野○し○の○けか?」

「どういう意味…?」

「い、いや!

 気にすんな!

 それよりこれは誰のだ!?」

「イノマタの奴のじゃない、

 何て書いてあるの?」

「『ホシカワにいじめられませんように』…、

 …なるほど」

「それ、どういう意味…?」

以下恐ろしく残虐なシーンのため省略。
 
 

「もうそろそろ食事時間が終わる頃ね」

「は、はあ…」

その時扉が開いて子供達が入ってきた。

「あ、ホシカワ姉ちゃん、いつもながら早いね」

「まあね」

「ところであそこある赤い水溜り何?」

「気にしないで、

 色水こぼしただけだから。

 それよりこの人がサイゴウさんよ」

「あ!

 TSFの人だ!」

「もしかして今気がついた?」

「うん!」

「あれ?

 だけど2人来るんじゃなかったの?」

「急用が出来て出かけちゃったのよ」

「(病院にね…。

  それにしても相変わらず猫被るのが上手いな)」

 
 
領土拡大を目論む黒原家の当主黒原辰虎はついに彦根・織附両家の土地に攻め込んだ。

この戦は戦場となった平野に流れる川の名から「安間野川の戦い」と呼ばれた。

最初は優勢だった彦根・織附両家も時と共に次第に劣勢になりつつあった。

そしてついに両家の居城は黒原家の軍勢に包囲され落城は時間の問題となってしまった…。

「なに読んでるんだ?」

「例の学校の宿題の読んでるのよ」

「しかしこの話短すぎないか?

 短編集にしても普通はもっと長く書くぞ」

「しかたがない…、

 事実はそれのみしか残されていないんだから…」

「誰だ!?」

「ヨリコちゃん?

 何してるの?」

「いや…、

 別に…」

そう言うと少女は去っていった。

「誰?」

「ミナモト・ヨリコちゃん。

 ちょっと変わってる子で…」

「変わりすぎだろ…」

「兎に角無口で無愛想で…。

 あたしも声聞いたのは今のが初めてだった気が…」

「おいおい…」

「赤ん坊の時にこの教会の入り口に捨てられてたって聞いたんだけど…、

 書置きとかがなかったんで詳しい事は解らないらしいのよ。

 そういえばキヨコちゃんの誕生日ってたしかもうすぐだったよね」

「書置き無いのに何故誕生日がわかったんだ?」

「捨てられてた日を誕生日にしたのよ。

 ちょうど七月七日の朝で…」

「七月七日は今日そのものだぞ」

 
 
少女は丘の上に佇んでいた。

何度この世に生を受けてきたのだろう

だが約束はまだ果たせていない。

いつか約束を果たせる日、

その日が果てしなく続くこの生が終わりを迎える日であろう。

だが今回の生もやがて終り再び新たな生を受けるかもしれない。

次は人か獣か男か女か白人か黒人か黄色人種か、

遥か未来の事を思いながら少女は佇んでいた。
 
 

『隊長!

 サイゴウ隊員達が向かった先の周辺の地中に
 
 怪獣らしき反応がありました!』

「そうか…、

 とりあえずサイゴウに伝えておけ!」

『了解!』

「ところで…、

 お前誰だっけ?」

『…ハシダです』

「ああそうか!

 イシダだったな!」

『隊長…、

 わざとやってませんか?』

 
 
「この付近の地中に怪獣の反応があるのか…」

「いざという時の為に避難の準備させとこうか?」

「それがいいな。

 『備えあれば」

「うれしいな』でしょ?」

「憂い無し』だ。

 学校で何習ってんだ?」

「別にいいでしょ。

 そんな事知らなくても。

 喧嘩と可愛い物があれば十分よ」

「どっちも必ずしも必要というわけじゃないぞ

(むしろ前者は無い方が平和だ)」

「何か文句ある?」

「いや何も…」

「何の話してるんですか?」

「あらイノマタ。

 そんなに大した事じゃないよ。

 ただ怪獣がこの付近の地中にいるってだけで…」

「大事じゃないですか!」

その時獣のような咆哮が轟いた。
 
 

「何だ今のは!?」

教会に帰ろうとしていた少女は咆哮を聞いて立ち止まった。

「あの声…、

 まさか!?」

少女には咆哮が誰かの声に聞こえたらしい。

そして少女は感じ取った、

遥か昔から少女が待ち望んでいた

『約束を果たせる日』

がついに来たという事を…。

 
 
「イノマタ!

 カミノさんに伝えて!

 子供達の避難を先導するようにって!」

「ホシカワはどうするんだよ!」

「サイゴウさんと一緒に怪獣に挑むに決まってるでしょ!」

「ちょっと待て!

 何時何処で誰がそんな事言った!?」

「今此処であたしが言った!」

「それじゃ駄目だろ!!

 一緒に避難しろ!!」

この後この問答が5回くらい続いた後

ようやくホシカワも避難する事になった。

「さてと…、

 フロス!」

 
 
丁度その頃教会周辺の上空に隊長と

フルカワの乗ったスカイファイターが到着していた。

「あれは…」

「間違いない…、

 アルミタだ。

 しかもフロスまで…」

「隊長!!」

「どうしたフルカワ!?」

「間違ってもミサイルは撃たないでくださいね。

 かえってフロスの敗北率が高くなります」

「解っとるわい!」
 
 

地上に現れたアルミタのまえにフロスが立ち塞がった。

だがアルミタはフロスを押し退けて走り出すと、

フロスは咄嗟にアルミタを掴むと教会とは

逆方向へと投げ飛ばした。

そのままフロスは墜落したアルミタの上に躍り懸かり、

地面に押さえつけたままパンチを連発した。

 
 
一方、これから避難しようとしている教会関係者達は…、

「皆そろってますかーーーー!?」

「ヒィフゥミィ…、

 1人足りないーーーー!!!」

「何だって!?」

「いないのは・・・、

 ヨリコちゃん!」

「何ですって!

 ちょっと探してきます!」

「ホシカワ!?

 ちょっと待て…」

「皆は先に避難してて!」

そう聞こえたと思ったらもういなくなっていた。

「足早いなセイコちゃん…」

「何を今更…」

 
 
フロスはアルミタから離れると

すぐにティエシウム光線を撃ち込む用意をした。

その時叫び声が聞こえた。

「やめろ!

 それ以上姫に手を出すな!」 

フロスは咄嗟に声のした方を見た。

そこにいたのはミナモト・ヨリコだった…。

「姫!?

 あれの何処が姫なの!?」

少し離れた場所に居たホシカワは思いっきりつっこんだ。

しかしヨリコはホシカワのつっこみをまったく気にせずに

アルミタに近寄って行った。
 
 

「隊長!

 アルミタに少女が接近中!」 

「何だって!?

 早く保護を…」

「無理ですよ!

 近くに着陸できそうな所がありません!

 ミサイルを撃ったら少女も巻き込まれる可能性があります!」

 
 
「姫…、

 やっとあえましたね…」

ヨリコは倒れたままのアルミタに声をかけた。

その時アルミタもヨリコを見つめだした。

「あ!

 危ない!」

ホシカワがすぐにヨリコを救出に行こうとした時、

突然眩い光がアルミタとヨリコを包んだ。

 
 
「何だ!?

 この光は!」

「解りません!

 アルミタにはこんな光を出す性質は無いはずです!」

 
 
「ま、眩し…、

 え?

 あれは!?」

ホシカワの目には光の中で向き合う男女の姿が映った。

戦国時代のような服装をした2人は

そっとお互いの体に触れた瞬間光は更に強くなった…。
 
 

光が治まった時、そこにはアルミタもヨリコも居なかった。

一体何が起こったのかわからないままTSFは帰還した。

そしてTSFの必死の捜索にもかかわらず

ミナモト・ヨリコの行方は依然として判明しなかった…。

 
 
ついに清左衛門が出陣する事となった。

討ち死覚悟の出陣の前に清左衛門と千恵乃は永遠の別れを悲しんでいた。

そして2人は誓った。

何時の日か生まれ変わってまた会おうと…。

その後清左衛門は討ち死し、

報せを聞いた千恵乃は自害した。

「…そうだったんだ。

 あたしがあの光の中で見たのは…」

ホシカワは本を静かに閉じた。

あの光景を見たのはホシカワだけだったらしい。

どうも地上から見ないと見えないらしい。

フロスの身長は40m、普通に立つだけで光を見下ろす形になる。

スカイファイターはそれよりも高い所を飛んでいた。

教会関係者は避難をしている最中で光からは離れていた。

結果的に地上に居て

尚且つ、近くに居たホシカワだけが見ることが出来たようだ。

窓を開けたホシカワは空を見上げた。

そこには自分の名字に通じる星の川『天の川』が光っていた。

その時ふと天の川を挟んで反対の場所に輝く星、

彦星と織姫に光の中で見た2人の男女の姿が重なった。

そんな気がした…。
 
 

おわり



出演
隊長 ゴウダ・テツタロウ
副隊長 フルカワ・トモミ
隊員 ガクラ・アキラ
隊員 サイゴウ・ツヨシ
新入隊員 チシブキ・モンザエモン
オペレーター ハシダ・ミカコ
女子高生 ホシカワ・セイコ
神父 カミノ・セイト
高校生 イノマタ・ユキヤ
小学生 ミナモト・ヨリコ



この作品は匿名希望さんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。