風祭文庫・ヒーロー変身の館






「ウルトラウーマン・フロス」
(第17話:幼い逃亡者)



原作・匿名希望(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-197





時は西暦20XX年、地球では怪獣や宇宙人の襲撃が多発していた。

それらの事態は国連軍では対処しきれないと判断した人類は

特殊科学戦隊TSFを結成し、迫り来る脅威に立ち向かっていた。
 
 
都内某所病院産婦人科。

今ここで新たな命が誕生しようとしていた。

父の名はカズオ、

母の名はテルコ。

彼らはごく普通の夫婦だった。

普通に出会い…、

普通に恋愛感情を抱き…、

普通に付き合い始め…、

普通に結婚し…、

普通に暮らしていた…

少なくともこの日までは…

 
 
整形外科…、

「まったく…、

 なんで俺達が見舞いに来なきゃならないんだよ…」

「まあまあ…、

 ガクラ先輩…、

 行かなかったら後で半殺しですよ…」

「う…、

 確かに…」

「しっかし…、

 ホシカワらしいよな。

 ダンプカーに跳ねられて右足の骨を1本折っただけなんだろ?

 普通は1本じゃ済まないぜ」

「人間離れしてますね」

「お前といい勝負だよ…」

「どういう意味ですか?」

「なんでもない」

「まあ、見舞いぐらい行かないと

 後で自分が入院することになるからな…

 あいつ手加減抜きだから…」

「本当…、

 名前だけは少女漫画の主人公みたいな名前なのに中身は任侠漫画の極道…」

その時突然ガクラの背後の扉を突き破って

松葉杖が飛んで来るとガクラの脳天を直撃した。

「ぐわ!!!!」

「何だ!?」 

「まったく…、

 誰が任侠漫画の極道よ…」

「ホ、ホシカワ…、

 聞こえてたのか…」

「サイゴウ先輩!

 ガクラ先輩が!!!!!」

「何!?

 とりあえず医者呼んで来い!」

「はい!

 え〜っと、177番は南蛮ですか!?」

「突っ込みどころが多すぎるわ!

 番号自分で言ってるし!!

 177番じゃなくて119番だし!!!

 ここ病院なんだから電話する必要ないし!!!!

 第一漢字が間違ってるし!!!!!」

「最後の一体どういう意味ですか!?」

「廊下で騒ぐんじゃない!!!!!!」

最後の婦長さんの一括がいちばん騒がしかった…

 
 
産婦人科、

今1人の男が部屋に駆け込んできた。

彼の名はタミヤ・カズオ、

都内のある商社に勤める平凡なサラリーマンである。

何故彼が慌てているのか、

それはここが産婦人科だということからも解るだろう。

彼は今日めでたく赤ん坊を授かるのだ。

彼は分娩室の前まで走って行くと近くにいた看護婦を問い詰めた。

「はあはあ…、

 テルコは!?

 子供は!?

 大丈夫なんですか!?

 ねえ!?」

「いや…、

 あの…、

 大丈夫ですから…、

 落ち着いて…」

「これが落ち着けるか!

 やっと出来た子供なんだぞ!

 心配しない親は親の資格が無い!」

「心配するのと取り乱すのは違いますよ!」

「たいして違わんだろ!」

そうか?

 
 
小児科、

「脳震盪です。

 幸い命に別状は無いですけど、

 念のために入院して精密検査を受けた方がいいですよ。

 それと大人の方は内科に持ち込んでください」

「解りました」

「しかし、随分と派手にやられてますな。

 病院の中で宇宙人とでも格闘したんですか?」

「当たらずとも遠からずといった所です」

「どういう意味ですか?」

「宇宙人並に強い入院患者に松葉杖投げつけられたんです」

「…その人本当に入院してるんですか?」

「不思議な事に入院してるんです」

 
 
産婦人科、

この分娩室に元気な産声が響いた。

「生まれた!」

カズオはすぐに分娩室に飛び込んだ。

そこには生まれたばかりの赤ん坊を抱いた看護婦が立っていた。

「元気な女の子ですよ」

「か、可愛い!」

「カズオ!」

「良くやったテルコ!

 お礼参りに足繁く通ったかいあった!」

「それを言うなら御百度参りでしょ?

 ところで名前は何にする?」

「もう決めてあるんだ!

 『イズミ』っていうのはどうだろう?」

「あ、いいわねそれ!」

妙にテンションの高い夫婦である。

しかし確かにこの時

彼らは非日常の世界へと足を踏み入れていたのである。

 
 
「チシブキ、

 これからどうする?」

「御見舞いも終わったし…、

 基地に戻りましょうか?」

「それもそうだな…、

 ガクラも命に別状は無いみたいだし…」

 
 
その夜、病院廊下…、

1人の看護婦が歩いていた。

「ふう…、

 まったく当直も楽じゃないわね…」

彼女はWCの帰りだった。

「あら?」

彼女は階段の下から何かが動いているような音を聞いた。

「こんな夜中に誰かしら…、

 下は産婦人科だったわよね…」

彼女はこの病院の妙な噂を思い出した。

生まれてまもなく死んだ赤ん坊の霊が毎晩這い回っているという…

「まさか…」

恐怖に駆られた彼女はその場をすぐに立ち去った。

これ以降も同じ出来事が度々起こりだした…

 
 
今日もサイゴウとチシブキはガクラの見舞いに来ていた。

「ガクラ先輩元気そうで何よりでしたね」

「まあな。

 それよりチシブキ、

 この病院の噂知ってるか?」

「あ、はい。

 何でも夜中に産婦人科の廊下を何かが動く音がするとか…」

「今回の見舞いはその調査も兼ねてるからな」

「え、そうだったんですか?」

「おいおい…」

「それで何処を調べたらいいんですか?」

「そりゃあ入院してる人に訊いてみる以外にないだろ」

「あ、なるほど」

「今の所産婦人科に入院してるのは1人だけらしいからな。

 とりあえずはその人に話を…」

「訊くんですね」

「その通りだ。

 チシブキは証言をした人に話を訊いて来い」

「了解」
 
 
産婦人科、

サイゴウはタミヤ・テルコに話を訊いていた。

「というわけで、

 何か知りませんか?」

「は、はあ…(いきなり出番…?)

 でも最近夜は熟睡してるので何も…」

「そうですか…、

 ところで可愛いお子さんですね。

 何て名前ですか?」

「イズミといいます」

「へえ…」

(この赤ん坊…)

「…?

 どうしました?」

「いえ、何でもありません。

 じゃあ失礼しました…」

「は、はあ…(何だったの?)」

 
 
「先輩、

 何か収穫はありましたか?」

「お前の方は?」

「何も有りませんでした」

「こっちもだ」

「とりあえず基地に戻りましょうか?」

「いや、

 俺はここに残る」

「何故ですか?」

「残った方が少しは何かわかるだろ、

 いっその事物音の正体を確認するという選択肢もあるしな」

「なるほど、

 じゃあまた明日」

「ああ…」
 
 

深夜、産婦人科廊下…

小さな影が暗闇の中を這い回っている。

「ふう…、

 やはりこの体は少し動きにくいな…

 しかし…」

影は呟いた。

その時階段を何者かが下りてくる音が聞こえた。

何者かは影に向かって話しかけた。

「これはどういう事だか説明してもらおうか。

 本名は何て言うのか知らんので

 今の所の名前で呼ばせてもらおう。

 いいか…?

 タミヤ・イズミ…」

「な!

 な、何で…?」

「やはり宇宙人みたいだな。

 フロスの言ったとおりだ」

「フロス?」

(私の事です!)

「フロスに話を聞いたんで、

 さっき連れと別れた後看護婦に訊いてみたんだ。

 何でも死産確実だったのが急に持ち直したそうだな?

 その時お前が合体したんじゃ無いのか?」

「お、お前も宇宙人と合体してたのか!

 くそ!

 捕まってたまるか!」

イズミは逃げ出した。

だが這い這いではうまく逃げられないようだった…

 
 
「さてと…、

 どういう事だか説明してもらおうか?」

(なんならこのままギャラクシーポリスに突き出しますか?)

「何!?

 もしかしてギャラクシーポリスの人なんですか?」

(…何だと思ったんですか?)

「最初から御話します」

「いきなり改まったなおい!」

(さっきまで警戒してたんでしょうか?)

「僕はトーボ星の者です」

「トーボ星?」

(聞いた事があるわ。

 寄生生命体達が生息する平和な星だって。

 でも何故か最近環境が悪化して滅びたらしいけど…)

「キセイツ星人の仕業です…

 奴らは密にトーボ星を侵略して資源を大量に奪っていったんです…

 その上キセイツ星人は口封じのために僕の仲間達を…」

「そうだったのか…」

 僕はトーボ星唯一の生き残りなんです。

 奴らは当然僕の命を狙うでしょう…

 このままでは無関係の人に迷惑がかかってしまう…、

 だから早く此処から脱出しようと…!」

「話は聞かせてもらったよ」

突如男女が話に割り込んできた。

「タミヤさん!」

「ど、どうして…?

 眠らせておいたはずなのに…」

「夜中にふと子供の顔が見たくなってね…、

 こっそり病院に忍び込んだんだ…」

(やばいなこいつ…)

サイゴウ、フロス、イズミは同時に心の中で呟いた。

「そしたらテルコが眠りこけててイズミが居ないかったんだ。

 だからテルコを起こして一緒にイズミを探してた所なんだ…」

「どの辺りから聞いてたんですか?」

「『僕はトーボ星の者です』の辺りからだ。

 事情は大体わかった」

「それじゃあ遠い安全な所に僕を連れてってください!

 このままでは無関係な貴方たちまで…」

「無関係って事はないだろ。

 中身は関係ない。

 君は僕達の娘なんだから!」

(私としても大事な犯罪の証人を見殺しにするわけにはいきませんよ)

「…ありがとう。

 ところでフロスさ…」

「サイゴウさんだろ!

 サ・イ・ゴ・ウ・さ・ん!!」

「え…、

 でも…」

(サイゴウ=フロスっていうのは一応秘密なんですから!)

「じゃあサイゴウさん…」

「さっきから何言ってんだ?」

「何でもないです!」

「…サイゴウさん、

 キセイツ星人が来るのも時間の問題ですよ。

 どうするんですか?」

「心配無い!

 地球には心強い味方がいるんだ!」

(ウルトラウーマンフロスとTSFがね!)

「(TSFはあまり当てにならないが…)

 安心してくれ!」

「サイゴウさん…、

 ありがとうございます!」

(…何か来る!)

その時窓の外で何かが光った。

「何だ!?」

「キセイツ星人だ!!」

 
 
宇宙から落ちてきた光は駐車場の真ん中に着陸した。

光の中から現れたのは異形の怪物であった。

「タミヤさん!

 イズミさんをお願いします!」

「解った!」

「イズミ!

 早くこっちへ!」

ほとんど存在を忘れられかけていたテルコが呼びかけた。

サイゴウは非常階段を走り下りながら両腕をクロスさせた。

「フロス!」

サイゴウの体は光に包まれた。

 
 
キセイツ星人は非常ドアを腕力でぶち破ると病院内に侵入してくる、

すると待ち構えていたフロスが一気にダッシュし、

思いっきりドロップキックをぶちかました。

一瞬の間をおいて、

ドロップキックを食らったキセイツ星人は

来た道を引き返すかのごとく駐車場まで蹴り飛ばされると、

地面に叩きつけられた。

間髪入れずにフロスは倒れたキセイツ星人に飛び掛り、

首(と思われる部分)を思いっきり締め上げる。

もつれ合うフロスとキセイツ星人。

そんな中、

キセイツ星人はフロスの両腕をなんとか掴むみ前方に向けて投げ出すが、

うまく着地したフロスは振り向きざまにエネルギー弾を

キセイツ星人目がけて撃ち込んだ。

だが、キセイツ星人はウサギが跳ねるかの如くの跳躍力で

エネルギー弾かわしてしまった。

フロスに向かってニヤリと笑みを浮かべるキセイツ星人。

だが、フロスは二発目、三発目、四発目と立て続けにエネルギー弾を放ち、

そして、ついに256発目として撃ったエネルギー弾が直撃すると、

キセイツ星人は背後に吹き飛ばされた。

44分を表示している深夜の時計の下、

フロスは間髪いれずにティエシウム光線を撃ち込んだ。

この直後、深夜の病院に爆発音がとどろいた…

 
 
当事者の将来を考えてこの騒動は関係者だけの秘密となった。

知っているのはタミヤ一家・サイゴウ、

そしてギャラクシーポリス関係者だけである。
 
 

「先輩、何があったんですか?」

「俺が駐車場に出たらフロスが何かと戦ってたんだよ」

苦しすぎるいいわけである。

「何かって何なんですか?」

「俺に訊かれてもな…、

 フロスに訊いてくれよ」

「そりゃそうですね…」

実は目の前に居たりする…

 
 
おわり



出演
隊長 ゴウダ・テツタロウ
副隊長 フルカワ・トモミ
隊員 ガクラ・アキラ
隊員 サイゴウ・ツヨシ
新入隊員 チシブキ・モンザエモン
博士 ユキムラ・フユコ
研究員 マツガヤ・ミツル
研究員 ミズタニ・サオリ
女子高生 ホシカワ・セイコ
会社員 タミヤ・カズオ
主婦 タミヤ・テルコ
赤ん坊 タミヤ・イズミ
医者 トクダ・キリオ
婦長 ナスノ・チヨ
看護婦 シラトリ・リカ
看護婦 ウミノ・ヨシミ
医者 イシヤマ・ウミヒコ



この作品は匿名希望さんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。