風祭文庫・ヒーロー変身の館






「ウルトラウーマン・フロス」
(第9話:10年目の願い)



原作・匿名希望(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-184





貴方が道を歩いている時、

見慣れないお地蔵様が立っているのをみつけたら、

願い事をしてみましょう。

その地蔵は貴方の願いを叶えてくれる

「願掛け地蔵」

かも知れません。

しかし、願いを言う時、

例えそれが比喩だとしても余計なことは言わないでください。

何故なら……
 


10年前…。

1人の小学生が1人寂しく帰路についていた。

彼の名はナオキ。

同級生のスグルから酷いいじめを受けていた。

それの影響で一緒に帰る相手がいないのである。

「はあ…」

帰り道の途中、

彼は見慣れない地蔵がポツンと立っているのに気がついた。

「あれ…、

 こんな所に御地蔵様があったかな…。

 まあいいや。

 少しお願いしてみよう…」

彼は地蔵の前に立つと願い事をした。

「お願いです…。

 僕の同級生のスグル君を

 女の子みたいにおとなしく僕と仲良くなってくれますように…」

言い終わるとナオキはその場を立ち去った。

次の日…、

彼が通う小学校では男子が1人減り、

逆に女子が1人増えていた。

しかし、減った男子の事は男子本人ですら覚えていなかった。

覚えているのはただ1人、

トクマツ・ナオキただ1人だけであった。

そして、それから10年の月日が流れていった。



時は西暦2XXX年、地球では怪獣や宇宙人の襲撃が多発していた。

それらの事態は国連軍では対処しきれないと判断した人類は

特殊科学戦隊TSFを結成し、迫り来る脅威に立ち向かっていた。



ある日、高校生になったナオキは高校からの帰り道を歩いていた。

あの日スグルがいなくなっても

ナオキに対するイジメは無くならなかった。

現在彼をいじめているのは

同じ1−Bのキサイチ・トシヒコとノグチ・マサヒロいう生徒である。

性格は2人ともスグルにそっくりという、

ある意味最悪の相手である。

「ね〜!一緒に帰ろう!」

彼の後から1人の少女が走ってきた。

オガワ・ユウ、

あの日スグルの代わりにクラスの一員となった少女である。

ナオキにべったりなのだが

何故かいつもナオキは一緒に帰ろうとはしなかった。

そんなある日、再びあの地藏がナオキの新たな願いを叶えようとしていた…。


 
TSF日本支部。

「いや〜、大変でした〜…」

「チシブキ、

 どうだった?

 結婚式は」

「何とか穏便に終りましたよ。

 結婚式の司会って大変ですね」

「そうか?」

「最初から最後まで立ちっぱなしですからね。

 料理もあまり食べられませんでしたよ」

「(酒飲まれたくないからだよな…)

 で、どっちの名字になるんだって?」

「『神社があるからミコトの方です』ってミツグが言ってましたよ」

「ま、あんな騒動が原因で結婚とは…、

 悪趣味な奴もいたもんだね」

「ガ、ガクラ先輩…」

「失礼だぞ!

 本当のこと言うなよ!」

「サイゴウ先輩の方が失礼ですよ…」
 


ある朝、ナオキはいつもの道を歩いていた。

今回は行きなのでユウはいない。

「ん?

 あれは…」

ナオキの視線の先には一体の地蔵があった。

「この御地蔵様は見覚えがあるような…、

 そうだ!
 
 あの御地蔵様だ!」

思い出したナオキはその御地蔵様に駆け寄った。

「確かこの御地蔵様に願い事をすると願いが叶うんだよな…、

 比喩は慎重に選ばないと余計な事まで叶っちゃうみたいだし…」

ナオキは願い事を始めた。

「僕はもっと強くなりたいです…、

 ティエフマンに出て来るイジョーズみたいにもっと…」

ちなみにイジョーズというのは、

大人気特撮ヒーロー番組「ティエフマン」に出て来る怪獣である。

この少年、主人公より悪役の方が好きなタイプのようだ。

フィクションのキャラなら使っても大丈夫だろうという判断である。

しかし、その判断は間違っていたとしか言えなかった…。
 


TSF本部。

「大変です!

 T都XY地区に怪獣出現!」

「なんだって!?

 TSF、出動!

 私、サイゴウ、ガクラはスカイファイターで出撃!

 フルカワはチシブキと地上で住人を避難させてから解析にあたれ!」

「了解!」
 
「なんか強そうな怪獣ですね」

「ええ」

「しかし、何処かで見たような気がするんですが…」

「え!

 それ本当!?」

「確か、特撮ヒーロー物で…」

「あのね…、

 これは現実よ、

 そんなのに出てるわけ無いでしょ」

実は大当たりである。

その怪獣は特撮ヒーロー物に出て来る怪獣

『イジョーズ』を再現した物なのだから。

そして、このイジョーズは凶暴な所まで

きっちりと再現されていたのであった…。
 


XY地区内某所高校では怪獣がここに向かっているとの情報が入り

生徒達は教師の先導で避難をしていた。

1−Bの生徒が出席をとられている。

…

「トキタいるか!?」

「はい!」

「トクガワいるか!?」

「はい!」

「トクシマいるか!?」

「はい!」

「トコヨダいるか!?」

「はい!」

「トサカいるか!?」

「はい!」

…。
 


一方、スカイファイターに乗った3人は

イジョーズとの激しい攻防戦を繰り広げていた。

(約一名足を引っ張っているのがいるが…)

「ガクラ!右に行ったぞ!」

『わかったサイゴウ!』

『私も行くぞ!』

「隊長は引っ込んでてください」

『さっきから何発のミサイルを建物解体に使ったと思ってるんですか?』

『どういう意味じゃ!』

「ガクラ、放っとこう」

『ああ』

『おい!無視するな!』

『なんか苛ついてるな』

「ここの所出番が無かったからだろ」

『それは禁句だぞ』

 

避難する途中の某高校関係者達。

その中にはユウもいた。

「はあ…、

 はあ…、
 
 何処まで逃げればいいの…」

相当疲れているようだ。

「それにしても…、

 凄く大事な人を忘れてる気がする…」

ユウの脳裏に1人の少年の顔が浮かんだ。

しかしユウはそれが誰なのか解らなかった。

いや解らないのではなく思い出せないのである。

同級生に聞いてもそれらしい少年は1−Bにはいないとの事であった。

だが、ユウはその少年の顔が気になって仕方が無かった…。
 

「副隊長、怪獣が進路を変えました!」

「ちょっと!?

 あっちは避難経路じゃない!」

「本当だ!

 た、大変だーーーーっ!!!!!」

「うろたえすぎ!

 とにかくスカイファイターに連絡を!」

「りょ、了解!!」

 

『というわけで怪獣の進路変更した先に

 住人の避難経路があるんです!』

「見りゃわかる」

『ガクラ、お前目がいいな…』

「両目足して…」

『足すなよ』

「8.0だ」

『凄いな』

『隊長にガクラ先輩…、

 なんか話がそれてませんか?」

 

サイゴウは隊長とガクラの阿呆なコントを聞いていた。

「仕方ないな…」

サイゴウはスカイファイターを自動操縦にした後腕をクロスさせた。

「フロス!」
 
ユウは迷っていた。

怪獣が住民の避難先に向かったというので

住民達は急な進路変更をしたのだが、

その時ユウは列からはぐれてしまっていた。

ユウは昔から方向音痴だった。

中学生1年の時歩いて5分のコンビニに行こうとして、

何故か町1つ挟んだ先の町にある中古ゲーム屋についた事もある。

「ここは…、

 何処?」 

実は避難先とは正反対の方向である。

暫く歩いたユウは何かを見つけた。
 
フロスは登場すると同時にイジョーズの尻尾を掴むと、

住民達が避難した方向とは逆方向に引きずっていこうとした。

が、重くて逆に引きずられた…。

「くそ!

 ガクラ!

 サイゴウ!

 ミサイル発射だ!」

「了解!」

隊長とガクラはミサイルを発射した。

一方、サイゴウの乗っていたスカイファイターも

自動操縦のためミサイルを発射した。

そして、隊長の発射したミサイルだけフロスを直撃し、

残りはイジョーズにあたった。
 


「あれ?

 あれは…」

そこには地蔵が立っていた。

まあ、この地蔵が何なのか多分予想はつくと思う。

「こんな所にお地蔵さんなんてあったっけ?」

現在位置もわからないのによく言えたもんだ。

「…そうだ!

 お願いしてみよう。

 私の記憶にある男の子が誰なのか解るように…」

そして彼女はその事を願った。

不思議とその地蔵には

皆願い事が叶うかもしれないという印象を受けるようだ。

 

フロスは何とか立ち上がった。

「しかし、フロスのダメージも大きそうですね」

「よし!

 フロスを援護する!」

イジョーズからの攻撃よりも

隊長のミサイル攻撃によるダメージの方が大きいのだが、

隊長は全然気にしていないようだ(おい!?)。

フロスはとりあえず隊長の乗るスカイファイターに

エネルギー弾を撃ち込んだ後、

イジョーズにパンチキックを雨霰と浴びせた。
 


(…ト…ク…マ…ツ…ナ…オ…キ…?)

ユウの脳裏に少年の名前が浮かんだ。

そして、思い出した。

その少年との日々を。

「ナオキ君は私の彼氏だったんだ!

 何で忘れてたんだろう…」

片思いだったことは忘れたままのようだ。

「あ、確かナオキ君はまだ町にいるんだ…、

 怪獣がいるのに…。

 そうだ!

 助けてくれるように御地蔵様に願ってみよ!

 今みたいに願いを叶えてくれるかも…」
 


フロスはヘロヘロになったイジョーズに

ティエシウム光線を発射しようと身構えた。

しかし、イジョーズはティエシウム光線が当たる直前

光を発しながら消えてしまった。

フロスは驚いて身構えたが

イジョーズが再び現れる様子は無かった…。

なお、はずれたティエシウム光線は

イジョーズの背後にあったビルを直撃して破壊したが誰も気にしていなかった。
 


「…あれ?

 ここは…」

ナオキはふと気がついた。

何故か彼は破壊された町のど真ん中に立っていた。

「なんか体が痛いな…、

 それに凄くだるい…」

「ナオキくーん!」

「うわ!ス…、ユウ!?

 どうしたのこれ!?」

「怪獣から避難している最中に道に迷っちゃって…。

 でもお地蔵さんに助かるように願ったら
 
 怪獣が消えちゃったんだよ!」

「へ、へ〜」

「そして私はナオキ君の所に一目散に走ってきたわけ」

実は適当に走っていたら偶然辿り着いただけである。

「ね、ナオキ君!」

「は?」

「大好き!

 今日から絶対に忘れないからね!」

「ははは…」

ナオキは非常に表情を見せた。

 

TSF本部。

「なんだったんだろうな、あの怪獣」

「まったく謎でしたね」

「ホント、急に消えるんですから」

「あ、そうだ。

 隊長」

「どうした!?」

「隊長がぶっ壊したビルの損害賠償が来てますよ」

「…ちょっと待てサイゴウ。

 何故フロスが光線で爆破したビルまで入ってんだよ!」

 

貴方が道を歩いている時、

見慣れないお地蔵様が立っているのをみつけたら

願い事をしてみましょう。

その地蔵は貴方の願いを叶えてくれる「願掛け地蔵」かも知れません。

しかし、願いを言う時、

例えそれが比喩だとしても余計なことは言わないでください。

何故ならそのお地蔵様はその例えですら

叶えてしまうかもしれないのですから。



おわり



出演
隊長 ゴウダ・テツタロウ
副隊長 フルカワ・トモミ
隊員 ガクラ・アキラ
隊員 サイゴウ・ツヨシ
新入隊員 チシブキ・モンザエモン
高校生 トクマツ・ナオキ
高校生 オガワ・ユウ



この作品は匿名希望さんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。