風祭文庫・ヒーロー変身の館






「ウルトラウーマン・フロス」
(第8話:九尾狐の怒り)



原作・匿名希望(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-179





時は西暦20XX年、地球では怪獣や宇宙人の襲撃が多発していた。

それらの事態は国連軍では対処しきれないと判断した人類は

特殊科学戦隊TSFを結成し、迫り来る脅威に立ち向かっていた。
 


N県井成山冬風村井成神社神主イナリ・トウフウの家。

神社の中で1人の老人と若い男が言い争っていた。

「だから!

 何があってもあの神社を潰すわけにはいかないって言ってるじゃろ!」

「そんなこと言われても…。

 さっきから説明してるでしょ、

 この村を存続させるためにはホテル計画の推し進めが必要不可欠なんです。

 この計画ではどうしてもあの神社を潰さなければならないんですよ」

「ならん!

 あの神社は九尾狐様の御社じゃ!

 壊すなどもってのほかじゃ!」

「くだらない信仰なんか捨てたほうがこの村のためですよ」

「何!?

 九尾狐様をくだらないとは言うとは!

 今に神罰が下るぞ!」

「はあ…、

 また今度来ますよ。

 それまでにくだらない信仰と村の存続のどちらが大切か、

 じっくり考えてください」

「2度と来るな!」

若い男が部屋を出るのと入れ違いに、

男と同年齢ぐらいの巫女が部屋に入って来た。

「アゲオ君は帰られたようですね」

「まったく、

 この神社を壊してはならぬと何度説明したらわかるんじゃろう…」

「でも…」

「それよりも九尾祭の準備はどうなっておる?」

「順調に進んでいますわ、御爺様」

「祭は1週間後じゃからな。

 忘れるでないぞ」

「はい、御爺様」


 
「九尾祭(クビマツリ)?」

「ええ。

 今度僕の故郷の冬風村で毎年恒例の九尾祭をやるんです。

 サイゴウ先輩やガクラ先輩も一緒に来ませんか?」

「俺は遠慮しとくよ。

 どうもそういう祭系は苦手だ」

「俺は行くよ。

 何か面白そうだし。

 ところで、九尾祭ってなんだ?」

「解らないのに賛成するなよ」

「九尾祭っていうのは

 九尾狐(クビギツネ)っていう守り神を祭る御祭なんです」

「へえ〜」


 
そして6日後。

「よし、ランドファイターも借りたし行くとするか。

 俺が運転するから道順教えてくれ」

「そんなことしなくても僕が運転しますよ」

「いや、いい!」

「遠慮しないでいいですよ」

それからT都とN県の間で

凄まじいスピードで爆走する一台の車の目撃が相次いだという…。
 
冬風村。

「イナリさん!

 久しぶり!」

「久しぶりですわ。

 お変わり無いようで」

「はは、そっちも相変わらずマイペースのようで…」

「ところでそちらの方は?

 何か気持ち悪そうですが」

「僕の先輩のサイゴウさん」

「ああ、T都の方のU公園に…」

「立ってません」

「そうですか」

「あの、誰ですか?

 この人」

「僕の幼馴染で井成神社の巫女をやっている

 イナリ・ミコトさんですよ」

「はあ」

「ところでサイゴウさん、

 チシブキ君は暴走したりはしておりませんか?」

「してます…」

「どのような?」

「それがカクカクシカジカで…」

「変わってませんね」

「どんな子供だったんですか…?」

「まだ幼稚園児だった時、

 三輪車で車と並走した事があったんです。

 後、銀球鉄砲で村の不良グループを…」

「もう暴走話はいいです…」

「暴走って何ですか?」

「お前は関係有だけど関係無だから知らなくていい…」

「日本語おかしくないですか?」

「気にするな…」

「はあ、そうですか。

 そういえば、アゲオは?」

「…今はアゲオ君の話はしないでください。

 明日の準備がありますので…」

「誰だ?

 アゲオって…」

「僕の幼馴染です。

 幼稚園ではいつも一緒に遊んでたんですよ。

 今は急成長の不動産会社に勤めてるとかで、

 そうそう、そういえば、

 都心に新しいマンションを建設したとか言っていましたよ、

 間取りが非常に広く、客にも喜ばれているとか、

 なんでも、腕の良い建築士が下請けに居るそうです」

「へえ〜、そうなんだ…

 どこか良いところ紹介してもらおうかな…っと、

 で、でも何でイナリさんは話をしたがらなかったんだ…?」

「さあ…、

 複雑な事情が有るんですよ、きっと」

「そうか。

 あ、そういえば俺達今日は何処に泊まるんだ?

 お前の実家丸ごとT都に引っ越したんだろ」

「あ…、忘れてた…」

「阿呆!!!」


 
その夜…。

「ね、眠れん…」

「狭いですからね…」

「まさか、ランドファイターの中で寝るはめになるとは…」

「すみません…」

「ところで、公衆トイレは何処だ?」

「トイレですか」

「ああ」

「突き当りを右ですよ」

「解った」

サイゴウはランドファイターを降りると公衆トイレに向かった。
 
「ふう、すっきりした」

小便を出し終えたサイゴウは帰路に着いた。

暫く歩いたサイゴウは人影が林の中に消えるのを見かけた。

「こんな夜に何してんだ?」

不審に思ったサイゴウは人影を尾行する。

「こっちは確か井成神社だったよな…」

人影は井成神社の本尊の前に立った。

人影が本尊に触れた時、

淡い光が扉から溢れ人影を包んだ。

「…何だ?

 今のは…」

すると人影がサイゴウのいる方向に歩いていった。

「まずい!」

サイゴウはすぐ側の木の陰に潜んだ。

人影がサイゴウの側を横切った時、

サイゴウは人影の顔を見た。

イナリ・ミコトだった…。
 
「あ、お帰りなさい。

 随分時間がかかりましたね」

「途中で気分が悪くて2・3回吐いたからな。

 (あのことは黙っていた方がいいな)」

「何でまた」

「昼間の車だ」

「車に弱いんですね」

「あれじゃどんな奴だって酔うぞ」

「何がですか?」

「もういい…」

「そうですか…」


 
次の日

「美味いな、この稲荷寿司」

「さっきから食べてばかりですね」

「しっかり食っとかんと、

 いざという時に動けないからな。

 しかも昨日胃の内容物全部出ちまったし…。

 (それに昨日の事もある。

  何が起こるかわからんしな…)」

「ゲーム系の出店はどうですか?

 あそこで射的やってますよ」

「それだけはやめとけ」

彼らが出店を見て歩いている時、

偶然イナリ・ミコトに出会った。

「あ、イナリさん」

「何してるんですか?」

「ちょっと今朝から気分が優れなくて…。

 そういえばチシブキ君、

 先程神社でアゲオ君に会いましたわ。

 御爺様と何やら口論をしておりましたけど…」

「え!

 そうですか。

 行ってみます」

「俺はここに残るよ。

 ミコトさんに少し訊きたいことがあるんだ」

「あ、じゃあ…」

チシブキは神社の方に歩いていった。

「さて、まずは…。

 ミコトさん」

「あ、はい」

「九尾狐とは一体何なんですか?」

「この辺りに古くから伝わる守り神です。

 九本の尾を持つ狐だそうで」

「ふーん、良く聞く奴ですね」

「そうですね」

「それから、

 何故気分が優れないか心当たりはありますか?」

「いえ、別に…」

「昨夜出歩いたりしませんでしたか?

 夏とはいえ冷えますから」

「いえ…、熟睡していましたから…」

「…そうですか」

「もうよろしいですか?」

「ええ、いいです」

「では。

 神社の仕事も有りますから…」

そう言い残してミコトは去って行った。

「…嘘をついてるようには見えないな。

 じゃあ、あれは何だったんだ?」

昨夜の光景を思い出しながらサイゴウは独り言を言う。

「あれって何ですか?」

「うわ!

 いきなり話しかけるな!

 心臓に悪い!」

「すみません…」

「で、口論ってのは何だったんだ?」

「それがですね…、

 何でもこの辺にホテル建設計画が持ち上がっているいるらしいんですが…」

「ですが?」

「その計画では井成神社を潰すことになるんだそうです」

「なるほど、つまり神社を潰すかどうかでもめているわけか」

「そういうことです」

「で、その担当がアゲオってわけだな」

「はい、

 本人は廃村寸前のこの村を救うために計画を推し進めてるらしいですけどね」

「そうか…。

 (神社存続の危機の時に例の怪現象、

  これは偶然なのか?)」

「どうしたんですか?」

「いや、実は…」

サイゴウは昨夜見た怪現象をチシブキに説明した。

「それって一体どういうことですか!?」

「知らん。

 俺が聞きたいぐらいだ。

 とりあえずチシブキ」

「あ、はい」

「念のためにミコトさんの側にいろ。

 何が起こるかわからないからな。

 幼馴染のお前なら側にいても不自然ではない」

「わかりました!」

チシブキは神社に向かって行った。

「…もしかしたら、

 祭どころでは無くなるかもな…」

サイゴウは一言つぶやいた。

その時大きな悲鳴が聞こえた。

「何だ!?

 チシブキが暴走でもしたのか!?(おいおい…)」

サイゴウは大急ぎで悲鳴のした方向へ向かった。
 
到着したサイゴウが見たものは…、

「こ、これは…」

エンジン音を轟かせる建設車両が止まっていて、

そこには建設会社のロゴが入るヘルメットを被った

4人の男達が運転席に乗っていた。

「誰だ?

 こいつら…」

「土建屋ですよ」

「チシブキか…。

 あれ見りゃどんな職業か解る」

 で、どうすんだ?こいつら…」

「どうしましょうか?」

「俺が知るか」

「おらあ!

 無視すんな!

 大体誰だてめーら!?」

「お前に言われたくないよ」

「何だと?

 貴様ら、俺達が誰だか知ってるのか?」

「記憶にございません」

「なんだとぉ?

 いいかっ、よく聞けっ

 俺たちはマンション・ホテル建設で

 飛ぶ鳥も落とす勢いの有名な建設会社の作業員だ!」

「あっそうか、

 俺たちはTSFの隊員だよ」

「それがどう…、

 何だって?」

「TSFの隊員」

「…それがどうした!

 武器持ってなきゃ関係ねえだろ!」

「チシブキ」

「はい?」

「これを持ってろ」

「これは?」

「さっき出店で買ったガスガンだ。

 あいつらを追い返すぞ」

「へ!

 そんなちんけな武器で建設車両に勝てるかよ!

 神社はぶっ壊さしてもらうぜ!」

「なめんなーーーーーー!!!」

「…どゆこと?」

「俺は知らんぞ…」

「てめえらなんざ俺様がふんじばってくれるわ!!!!」

「チシブキ、程々にな」

「うおりゃああああ!!!!」

「聞いてないな、こいつ」

「しゃらくせーーーー!!!!」

「どわああああ!!!」


 
チシブキの猛攻に地上げ屋達は見事に敗北した。

「くそ…、

 流石はTSFだ…」

「こいつが特別なだけだよ。

 え〜っと、1、2、3…、

 あれ?

 1人足りないな…」

「どうしたんですか?」

「あ、弾切れになったから戻ったのか」

「何のことですか?」

「知らんでいい」

「そうですか」

「それよりも、

 地上げ屋は後1人いるんだよな。

 最後の1人は何処に行ったんだ?」

「ああ、ショベルカー運転してあっちの方に行きましたよ」

「それを早く言え!

 あっちは神社だろうが!」

「あ!そうだった!」

「そういえば、

 さっきから気になってたんだが…、

 ミコトさんはどうした?」

「見失っちゃいました」

「馬鹿野郎!

 すぐ追うぞ!」

「はい!

 今ランドファイター持ってきます!」

「ちょっと待ておい!

 …行っちまったか、

 えらいことになりそうだな…」

 
 
神社前。

「とりあえずこの神社をぶっ壊せばいいんだな…」

地上げ屋Dはショベルカーを操縦して、

神社を壊そうとした。

その時彼の背後から轟音が轟いた。

「な、何だ?」

振り向いた彼が見たものは、

鬼のような速度で爆走する一台の車であった。

「どわああああ!!!!」

「うおおおおおおおおお!!

 逃がすかあああああああっ!!!!!」

運転手が誰なのか、

もはや説明するまでも無いだろう。
 
サイゴウが神社に到着した時、

そこは凄い光景であった。

建設車両は横転し、

ランドファイターは神社に突っ込み、

地上げ屋Dとチシブキは気絶していた。

「…意味ねええええ!!!」

サイゴウは思いっきり叫んだ。

当然である。

「ついにやったか…」

「誰だ!!」

サイゴウが振り向いた所にはミコトが立っていた。

「ミコトさん!?

 いや…、違う!」

「もはや堪忍ならん…、

 我が住処を破壊する者は許しておけん!」

「くそ、お前は誰だ!?」

「我が名は九尾狐…」

「ミコトさんに憑依したのか!?」

「そうだ…。

 昨夜、

 我はこの巫女を呼び出し憑依した…。

 今日、なにやら起こると予知してな…」

「…そんな能力があるなら何故事前に阻止できなかったんだ?」

「つい失念していた…」

「忘れるなよ!」

「五月蝿い…」

「くそ!

 おい!

 チシブキ!」

「…あれ?

 何があったんですか?」

「お前な…」

「うわ!

 神社が壊れてる!

 一体何故!?」

「貴様のせいだろうが!!!」

「いや、あいつは車運転時の記憶が無いんですよ」

「そうなのか!?

 なんと面妖な…」

「あれ?

 イナリさん?

 どうしたんですか?」

「我は九尾狐…。

 今この巫女の体を借りている…」

「へ?」

「要するにだな…」


 
「そういう事ですか」

「そうなんだ」

「やっと状況が理解できました。

 つまり九尾狐がイナリさんに憑依して、

 神社が壊されたから怒りだしたわけですね…。

 ええーーーー!!!!!

 それって凄い大変なことじゃないですか!?」

「いまさら気づくな!!」

「我を怒らせた罪、

 思い知れ!!」

「随分と唐突だな!

 おい!」

「このような事態に落ち込んだそもそもの原因、

 ホテル計画を打ち砕く!」

「何でぶっ壊した本人じゃないんですか?」

「その本人がそのことを覚えてないから意味が無いんだよ」

「そうなんですか?

 随分と忘れっぽい奴ですね」

(お前だよ!)

サイゴウは心の中で突っ込みを入れた。

次の瞬間、

ミコトの体が変化し始めた。

「何が起こったんだ!?」

「さあ…」

ミコトの体は少しずつ大きくなり、

毛深くなっていった。

巫女服はすでに破れ、

尻からは九本の尾が突き出していた。

「う、うわああああ!!」

「くそ!

 とにかく村の人を避難させろ!

 俺はTSF本部に連絡する!」

「了解!!」


 
冬風村。
「皆さん落ち着いて!

 すぐに避難してください!」

「ほれ、わしの言った通りじゃろ?

 九尾狐様を怒らせると神罰が下されるとな…」

「そんな事言ってる場合じゃないでしょ!」

「大体、アゲオが悪い。

 このような計画を推し進めるから…」

「あのね、

 アゲオはこの村のためにホテル計画を推し進めたんですよ。

 廃村寸前のこの村に活気を呼ぶために…」

「そのような説明は耳にタコが出来たわ!

 そのようなことで九尾狐様の神社を壊すなどもってのほかじゃ!」

「あーもう…、

 とにかく逃げてくださいよ!」

「守り神様から逃げる必要が何処にある!」

「有りすぎるくらいあります!

 とにかく!

 逃げてくださいよ!」

チシブキの説得はとある1人の老人のせいで難航していた。
 
巨大化した九尾狐は冬風村に向かって行った。

TSFに連絡し終わったサイゴウは九尾狐の後を追った。

「一体何処に行くつもりだ?

 …待てよ、

 確かあいつは…、

 まさか!?」

サイゴウは何かに気がついたのか、

チシブキと連絡をとった。

『あ、先輩…』

「おい!

 そっちにアゲオ君はいるか!?」

『え、いますけど…』

「九尾狐の狙いはアゲオ君だ!

 九尾狐はホテル計画を打ち砕くと言っていた!

 だとしたら!

 ホテル計画を先頭に立って推し進めていた

 アゲオ君が狙われてもおかしくない!

 アゲオ君から目を離すな!」

『何ですって!?

 解りました!』

「頼んだぞ!」

ピッ!
 
一方、チシブキ率いる避難組では…。

「アゲオ!

 僕から離れるな!」

「何でだ?

 俺にその方面の趣味は無いぞ」

「安心してくれ、

 僕にも無い。

 九尾狐はお前を狙う可能性がある」

「ちょっと待て!

 何でだよ!」

「九尾狐はホテル計画を打ち砕くと言っていたんだ。

 ホテル計画を先頭に立って推し進めていたのは?」

「…そういうことか。

 それなら俺が他の皆と一緒にいるのはまずいんじゃ…」

「でも、僕1人じゃ…。

 先輩は九尾狐を追っているし…」

その時、ランドファイターが彼らの元に走ってきた。

「お前ら、どうしたんだ?」

「ガクラ先輩!?

 どうしたんですか!?」

「念のためにお前らの護衛に来たんだが…、

 こんな所で何してるんだ?」

「まあ、色々あって…。

 そうだ!

 ガクラ先輩!

 この人達を頼みます!」

「え、ちょっ…」

「アゲオ、行くよ!」

「あ、ああ…」

「…何なんだ?

 一体…」


 
「確かこっちに空き地があったはず…」

「なあ、チシブキ」

「へ?

 アゲオ?」

「他の連中は大丈夫かな?」

「大丈夫だよ。

 ガクラ先輩って意外と優秀だから」

「意外…?

 なんか心配になってきた…」

「大丈夫!

 TSFを信じてくれよ!」

「チシブキ…」

アゲオは何か言いたそうだったが…。

「あ、やっと着いた!」

「ここが目的地なのか?」

「開けた所の方が警戒しやすいでしょ?」

「あれじゃ警戒も糞も無いと思うが…」

「へ、あれ?」

アゲオが指差した先には、

身長40mに達するほど巨大な、

九本の尾を持つ狐獣人が迫ってきていた。

「…どわあああああ!!!!!!!」

チシブキは今頃気がついたようだ…。
 
九尾狐の後を追っていたサイゴウは、

前方の開けた場所に見慣れた顔と見慣れない顔を見つけた。

「…何でチシブキとアゲオ君があそこにいるんだ?

 しかし、このままじゃ危ないな…」

サイゴウは両手をクロスして叫んだ。

「フロス!」

その瞬間サイゴウは光に包まれ

体が少しずつ女性の物へと変化していった。

さらに、すでに女性の物へと変化している部分の色は

赤と銀の二色に変化していった。

胸にはプロテクターとカラータイマーが出現した。

体の変化が終わるとサイゴウは少しずつ巨大化していき、

やがて正義の女性宇宙人ウルトラウーマンフロスへと変化を遂げた。


 
フロスは九尾狐を後ろから羽交い絞めにすると、

チシブキ達がいる空き地から引き離した。

(何をする!放せ!)

…。

(何とか言え!)

説明しよう。

本来フロス達ウルトラ族には口にあたる部分が無いため

会話は全てテレパシーで行われる。

しかし、現在フロスの体の主導権を握っている地球人サイゴウ・ツヨシは

テレパシーの使い方を知らない。

すなわち、現在フロスは話すことが出来ないのだ。

(おのれ、無視おって…、許さん!)

しかし、九尾狐は無視されたものと思い込み勝手に怒っていた。

九尾狐は素早くフロスの背後に回って襲い掛かった。
 
「とりあえず逃げよう…」

「ああ」

チシブキとアゲオはその場を静かに離れた。

「それにしても、何でスカイファイターが来ないんだろう?」

「連絡してみたらどうだ?」

「あ、そうか!」

「…もしかして今気がついた?」

チシブキは黙って頷いた。

「…不安だ…」

「えっと…、

 本部の番号は…。

 あ、隊長?

 えっ!

 あ、わかりました。

 御大事に…」

「どうした?」

「食中毒で2人とも寝込んでた」

「…凄く不安だ…。

 あ!そういえば」

「は?」

「ミコトは大丈なのか!?」

「(…言わない方がいいかも)

 ま、まあ大丈夫だと思うけど…、

 急にどうしたの?」

「いや、その…」

「あ、もしかして」

「あはははは…」

「さっきまで見事に忘れてたから恥ずかしいんでしょ!」

「違うわい!

 好きな相手の心配をして何が悪い!」

「やっぱりそうだったか」

「あ…、

 やられた…」

「解り易い誤魔化し方だったし」

「流石は誘導尋問チシブキ…。

 腕は衰えていないな…」

「小学校卒業以来だったけど成功して良かった…」

「…こいつらどんな小学生生活をおくって来たんだ?」

「あ、ガクラ先輩!?

 いつからそこに?」

「『ミコトは大丈夫なのか』って辺りからだ。

 面白そうなんで黙って見てた」

なお、九尾狐とフロスはまだ密着戦を続けていた。

(こいつら、主役とその敵なのになんか影が薄いな…)
 
フロスは九尾狐の攻めに必死で耐えていた。

何しろ、相手の体はミコトの物なので

下手に反撃することが出来ないのだ。

そのため、さっきから九尾狐の一方的な攻めが続いていた。

もうイってもおかしくなかった。
 
「くそ!フロスが危ない!」

「でもどうすんですか?

 下手な攻撃は出来ないし…」

「そうだ!

 いい方法がある!」

「アゲオ?

 何か思いつた?」

「俺が説得する!」

「聞く耳持たないんじゃないのか?」

「少しでも隙を生み出すことが出来れば

 フロスが助かるかもしれないだろ?」

「それもそうか」

 
フロスの体力は限界に近づいていた。

凄い力でコブラツイストを2分もかけられていたら当然だろうが…。

(なお、何故村の守り神がコブラツイストを知っていたのか、

 それは永遠の謎である)

今ここを写真に撮れば抜けかけた魂が2つ写りこんでいただろう。

フロスはもうすでに逝く一歩手前である。

カラータイマーも鳴り始めた。

その時、奇跡が起きた。

突然九尾狐が苦しみだしたのだ。

その隙にフロスは脱出した。

一瞬フロスはそのことを疑問に思ったが、

すぐに

『カラータイマーの音が大きかくてやかましかったから』

という理由にたどり着いた。

その時、アゲオの声が響いた。

「九尾狐!

 俺の話を聞いてくれ!」

九尾狐はすぐにアゲオの所に向かおうとしたが、

とっさにフロスがフロスボールで動きを封じ込めた。
 
「今回の騒動は全て俺のせいだ!

 それで責任を取りたい!」

「本当に効果があるのかね…」

「まあ、大丈夫だとは思うけど…」

「新しい神社を建てよう!」

フロス、ガクラ、チシブキは見事にずっこけた。

「そ、そんなので説得に…」

(いいだろう。

 許してやろう)

3人は再びずっこけた。

「ず、随分とアバウトな…」

(反省しているようだからな。

 毎回根に持っていると続けられん)

(じゃあ今回の騒動って一体…)

3人は心の中で突っ込みを入れた。
 
その後九尾狐は怒りを鎮めミコトを解放した。

しかし、この騒動は話題を呼び、

かえってホテル計画を推し進める結果になったが、

だが、ホテルの完成直前、

建物の耐震強度が非常に不足していることが発覚。

関係者による責任のなすりつけ合戦が

繰り広げられることになった。



数日後、TSF日本支部。

「あ〜…、

 気持ち悪い…」

「どうしたチシブキ?」

「二日酔いが酷くて…」

「例のクラス会か?

 どれだけ飲んだんだ?」

「ビールを一杯」

「それアルコールに弱すぎだろ」

「でも一杯飲んでからの記憶が無いんですよ。

 他の同級生達は結構騒いだんですけどね」

「記憶が無いのによくわかるな」

「凄い状態でしたから。

 テーブルは倒れ、

 食べ物や飲み物は飛び散り、

 出席者は倒れているという…。

 僕なんか気がついたら椅子に縛り付けられてましたよ」

「チシブキ、何か打撲は無いのか?」

「ええ、アザが結構出来てました」

「…まさか…」

それ以来、チシブキが飲み会に誘われることは無かったという…。



おわり



出演
隊長 ゴウダ・テツタロウ
副隊長 フルカワ・トモミ
隊員 ガクラ・アキラ
隊員 サイゴウ・ツヨシ
新入隊員 チシブキ・モンザエモン
井成神社神主 イナリ・トウフウ
井成神社巫女 イナリ・ミコト
建設会社社員 アゲオ・ミツグ
建設会社作業員 A〜D



この作品は匿名希望さんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。