風祭文庫・ヒーロー変身の館






「ウルトラウーマン・フロス」
(第6話:黒い着ぐるみ)



原作・匿名希望(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-175





 
時は西暦20XX年、地球では怪獣や宇宙人の襲撃が多発していた。

それらの事態は国連軍では対処しきれないと判断した人類は

特殊科学戦隊TSFを結成し、迫り来る脅威に立ち向かっていた。
 


ここはT県にある遊園地。

ここで演じられる人気特撮ヒーロー「ティエフマン」のショーは子供達に大人気だった。

今、ティエフマンが戦ってる相手は、

非常に解り易い黄色い熊の着ぐるみなのだが…、

「頑張れティエフマン!」

「負けるな!」

「悪のクマ怪獣なんかやっつけちゃえ!」

ようするに、

敵がどんな奴でも変わらないのだった。

「はあ…」

「おいおい、

 何溜息ついてるんだ?」

「いや、

 結局子供の面倒押し付けられちゃいましたね」

「それを言うなよ…。

 長官の頼みじゃ断れないって…」

「ま、ヒーローショーなら悪戯はしないですよね」

「ああ、少しうるさいけどな…」

ここに何故かサイゴウとチシブキがいた。

どうやら長官に子供の面倒を押し付けられたらしい。

「あれ?」

「どうした?」

「いま何か変な音がしたような…」

「どうせ子供の世話で疲れて…」

バチバチッ!

「…ないようだな」

「ですね」

「今のは何だ?」

「あっちからですよ」

「俺が見てくる。

 チシブキは子供達を見ててくれ」

「あ、はい!」
 


倉庫近辺。

「確かこの辺りだったはずだが…」

サイゴウは謎の音がした辺りを調べていた。

バチッ!

「またか…。

 どうも、

 あの倉庫からみたいだな」

文句を言いながらサイゴウは倉庫の中を覗いた。

「な、なんだありゃ…」

そこにはブラックホールのような謎の物体が浮かんでいた。

さっきから聞こえてくる奇妙な音は

その物体から時折発せられる放電の音だったらしい。

やがて、

その物体は側に置いてあったショーの

敵用の予備の着ぐるみに近づくと、

着ぐるみに吸い込まれるように消えていった…。
 


TSF特殊科学研究所

「はい、

 こちらTSF特殊科学研究所…、

 はい?

 うちはラーメンは売ってません!

 番号をちゃんと確かめてからかけてください!」

どうやら間違い電話だったらしい。

「まったく…、

 連絡手段が携帯電話って…、

 経費削減もいい加減にしてほしいわね…」

その時再び通信が入った。

「はい、

 こちらTSF特殊科学研究所…、

 はい?

 うちは鰻重も売ってません!

 それに貴方さっきはラーメン頼んで無かった!?

 ころころ注文変えるんじゃない!」

そして、電話を切った。

「まったく、

 何でラーメン屋や鰻屋とTSFの番号間違えるのかしら…。

 そうとう頭がおかしいのね…」

その時三度通信が入った。

「はい、

 こちらTSF特殊科学研究所…、

 はい?

 ピザ!?

 貴方電話番号何回間違えたら気が済むんですか!

 しかもラーメン、鰻重、ピザって何!?

 変更するにしてももうちょっと一貫性を持たせなさい!」

思いっきり怒鳴った後電話を切った。

「はあ、早く次の作業に…」

四度通信が入った。

「はい、

 こちらTSF特殊科学研究所…、

 あ、サイゴウ隊員…。

 え、今何て言った?」

『30分程前に遊園地の倉庫で妙な現象が起きまして…。

 とりあえず調べてみてください』

「何でもっと早く連絡しなかったの!?」

『いや、

 その…、

 かける度に話中だったんですよ。

 誰と話してたんですか?』 

「気にしないで、 

 名前も知らないどっかの馬鹿よ」

『はあ…、

 そうですか…。

 (誰だ?)』

「まあいいわ。

 どんな現象だったの?

 …たしかに変ね。

 わかった、調べてみるわ。

 何かあったら連絡して」

そういうとユキムラ博士は電話をきった。

すると、すぐに通信が入った。

「何があったのかしら…。

 はい、

 こちらTSF特殊科学研究所…、

 はい?

 日本酒!?

 うちは酒屋じゃありません!!」

 

「調査の結果、

 あの辺りに謎のエネルギー反応がかすかだけどあったわ。

 この前のディメンションシップを覚えてる?」

「ええ、覚えてますよ」

「そのディメンションシップが次元移動時に出すエネルギーと

 謎のエネルギーが非常に酷似していたわ。

 次元を越える際に出るエネルギーとね…」

「では、

 次元を越えて何かが来たとでも言うんですか?」

「わからないわ。

 現時点ではデータが少なすぎるの」

「と、いうことだ。

 サイゴウとチシブキは明日からしばらく

 例の遊園地で警戒にあたってくれ」

「了解」
 


遊園地。

「で、何を警戒したらいいんですか?」

「知らん。

 こっちが訊きたいぐらいだ」

「は、はあ…」

「ま、冗談はそれくらいにして、

 例の物体は着ぐるみの中に消えた。

 ならその着ぐるみに警戒を集中したほうがいい」

「あ、なるほど」

「本気で気づいてなかったのか…、

 まあ、いい。

 とにかく倉庫に行ってその着ぐるみを回収するんだ」

「了解」

 

遊園地、倉庫。

遊園地のオーナー立会いのもと、

サイゴウとチシブキは倉庫に入った。

「…何だこりゃ」

「さあ…」

倉庫の中にあったのは大量の着ぐるみだった。

「これが着ぐるみですけど…」

「何でこんなにあるんですか?」

「予備です」

「何個あるんですか?」

「今ショ−で使っている物を含めて20個です」

「それって予備の数じゃないですよね」

「手違いで…」

「はあ、そうすか…」

そしてオーナーは帰って行く。

「…地道に1つ1つ解析するしかないな」

「そうですね」

「え〜っと…、

 これじゃ無いな」

「じゃあ、次のを…」

「って、これが最後だな」

「はい」

「え〜っと…、

 こ、これは!」

「どうしたんですか!」

「こ、これじゃ無い!」

「思わせぶりに言わんでくださいよ!

 …あれ?

 変だな…」

「何がだ?」

「これで19個ですよね、

 でもオーナーはさっき20個って言ってましたよね…」

「アホ、今1つショーに使われてるから全部で20…って、ま、まさか…」

「何ですか?」

「もしも、

 昨日ショーで使われていた着ぐるみと
 
 例の着ぐるみが入れ替わっていたとしたら…」

「ほ、本当ですか!?」

その時、ショー会場の方で爆発音のような音が響いた。
 


少し前、ショー会場楽屋。

「しかし、この暑い日に着ぐるみとは厳しいよな」

「まあ、仕事っすから」

「俺がやるティエフマンはお前の着ぐるみと比べて涼しいからいいけどな、

 お前はきついよな」

「励ましてるのか、自慢してるのかどっちなんすか?」

「とにかく早く着替えろ。

 時間が無いぞ」

「はいはい、え〜っとこれをこうして…」

バイトで熊怪獣役をやっているフリーターのオオクマは着ぐるみを着込んだ。

「よし、チャック閉めてください」

「OK」

オオクマの先輩で、

ティエフマン役のユウキはチャックを閉めた。

(ふう、始まるか…。

 しかし、今日はいつもより涼しいような…)

すると、着ぐるみに異変が訪れた。

「な、何だ!?」

(う、うわあああ〜っ!)

オオクマの悲鳴は声にはならなかった。

着ぐるみは徐々に巨大化し、

ついには楽屋の天井を突き抜けた。

オオクマの意識はそこで途切れた。
 


「な、何だありゃ!?」

「巨大な熊の着ぐるみですよ」

「んなこたぁ誰でもわかるわい!」

2人が漫才を始めたとき、

避難する人々の中から1人の男が2人に近づいてきた。

「貴方は?」

「フリーターのユウキです。

 貴方方はTSFでしょ!?」

「怪我してるみたいですが、

 大丈夫ですか?」

「ええまあ、鍛えてますから。

 ってそれどころじゃないんですよ!」

ユウキは見たことを伝えた

「そうか。

 やはり入れ替わったんだな」

「何が?」

「気にするな」

「はあ、そうですか」

「何でもいいから早く逃げんかい!」

「は、はいーっ!」

その言葉を残してユウキは逃げていった。



「チシブキ!

 この事を日本支部に連絡してくれ!

 俺は避難し遅れた人がいないか見てくる!」

「了解!」

 

TSF特殊科学研究所。

「はあ?

 うちは饂飩は置いてません!

 いい加減にしてください!」

ピッ!

「まったく、

 昨日に続いて…、

 あら?

 まただわ…。

 もしもし、

 今度は何ですか?」

『熊の着ぐるみが巨大化して遊園地で暴れています!

 至急解析を頼みます』

「え!

 実働部隊にはもう知らせた!?」

『はい』

「わかったわ、

 すぐに調べる」

「それと…」

「何?」

『さっきから30分も何話してたんですか?』

「気にしないで」

『はあ…』

「それじゃ、早速作業を…。

 ってまた通信?

 何か言い忘れたのかしら…」

『あ、蕎麦1つ…』

ピッ!

ユキムラはすぐに電話をきった。

 

「誰もいないな…。

 よし、フロス!」

 

スカイファイター5号内部。

「よし、フロスが出ないうちにミサイル発射だ!

 変な着ぐるみを燃やしてしまえ!」

「了解!」

ミサイル発射すると確実にフロスに当たるということを実感していたらしい。

しかし、

フロスはミサイルが飛んでいく途中に突然出現してミサイルの直撃を受けた。

お約束もここまでくれば立派である。

「何処に登場しとんじゃ!」

「あ、隊長がきれた…」

「まあ、

 せっかく今回は敵に当てようした所へ登場だもんな…」

そういう問題か?

それはおいといて、

フロスは背中に突然ミサイル直撃したせいで

前に倒れた所を巨大着ぐるみに踏まれた。

登場して早々踏んだり蹴ったりである。

しかし3回目ともなると流石に慣れたのかすぐに復活した。

 
突然チシブキにユキムラ博士から連絡が入った。

『チシブキ隊員!?

 あの着ぐるみの中には人間が入ってるわ!』

「知ってますよ!

 どの辺にいるんですか!?」

『腹の真ん中辺りよ。

 何とかフロスに伝えられないかしら』

「何でフロスなんですか?

 スカイファイターでもいいのに」

『突撃しかねないでしょ』

「あ、なるほど。

 それなら、

 いい方法がありますよ」

『いい方法?』

「はい…」

そう言うとチシブキはフロスの方に近寄ると、

「フロス!!!!!!!

 その中には人がいるぞ!!!!!!

 腹の真ん中辺りだ!!!!!!!

 早く助け出してくれ!!!!!!」

と叫んだ。

『それがいい方法…?』

「はい!」

チシブキは自信を持って認めた。

 

オオクマがいる場所を教えられたフロスは、

巨大着ぐるみとの間合いを詰めると腹にパンチを打ち込んだ。

「な、何をする気だ?」

「思いっきりめり込んでるぞ…」

「というか…、

 腹ぶち破ってないですか?」

そしてフロスは力を込めて拳を着ぐるみから引き抜いた。

その手には気絶したオオクマが握られていた…。

 

「そうか!

 本体の人間を助け出せば敵の動きも止まる!

 フロスはこれを狙っていたんだ!」

「でも、それは計算違いになりそうですよ。

 まだ動いてます」

「何!どういうことだ!?」

「もしかしたら…」

「ガクラ、何か思い当たることがあるのか?」

「奴にはすでに人格が存在していて、

 人間を一度取り込んだのは、

 その肉体を構成している物質を解析して、

 この世界で自らの体を維持するためだとしたら…」

「…つまり、

 奴にはすでに人間は必要ないということか?」

「ええ、そういうことになります」

「そういえば、

 あの人あっさり救助されすぎですね」

「とにかく!

 奴の体内にはもう人間は存在しない!

 今のうちに倒せ!」

「了解!」

 

オオクマを救助された巨大着ぐるみはその姿に異変が起きていた。

色は黒く変色し、

フロスに破られた腹はその脇から伸びる糸により修復されていった。

気のせいか、

表情にも邪悪な物が感じられた。

スカイファイターは巨大着ぐるみに向かって最後のミサイルを撃ち込んだ。

ちなみに、フロスはスカイファイターの様子を見るとその場に伏せた。

流石に今回はフロスに当たらなかった。

しかし、敵にも当たらなかった。

「ああ、くそ!はずれだ!」

「隊長…、

 今度からミサイルはガクラ隊員に任せましょうよ」

「大丈夫だ!

 私は新入隊員時代、

 凶悪怪獣の弱点にミサイルを見事に撃ち込んだことがあるんだからな!」

「それ、確か本当は威嚇射撃だったはずじゃ…」

「細かいことは気にするな!」

「…本当に大丈夫か?」

「あ、観覧車にミサイルが当たった」

「本当だ」

「見事にど真ん中に命中してるな」

「射撃練習の的じゃ無いって…」

「仕方がない!

 脱出して特攻だ!」

「また!?」

「ユキムラ博士から言われてるでしょ!

 『経費削減のために無茶な攻撃はしないでね』って!」

「あ、そうか…。

 じゃあやめよう」

「早っ!」

「そういえば、

 隊長は長官と博士には頭が上がらないんだったな。

 何でも昔色々あったらしくて…」

「それを言うな…」

「そんなこと言ってる間に戦闘勝手に進んでいますよ。

 フロスがやや劣勢といった所でしょうか…」

 

敵は巨大な着ぐるみのため打撃技はあまり効かない。

フロスはほとんどの攻撃を打撃に頼っているため、

この相手には少々苦戦していた。

それでも相手の腕を掴むとそのままふりまわし、

左腕をもぎ取るという荒業を繰り出した。

勢いでそのまま吹っ飛んだ敵は遊園地のシンボルのお城を直撃し、

多少のダメージを与えたらしい。

さらに、もぎ取った左腕を敵に投げつけると

そのままティエシウム光線を発射、敵を炎上させた。

 

「終わったのか…?」

「フロスが敵を倒してくれたようですね」

「しかし、奴は結局何だったんだ?」

「あ、ユキムラ博士から通信です」

「何?」

『あの後、

 例の謎のエネルギーから敵が何処から来たのかを調べてみたの』

「で、どういう結果が出たんですか?」

『電脳空間。

 プログラム等が作り出した擬似世界らしいわ』

「じゃあ、あれはプログラムなのか?」

「だとすると、

 さっきのガクラ隊員の想像も説明がつきますね。

 プログラムが現実世界で存在を維持するには、

 現実世界の生物のデータを取り入れるのが最も手っ取り早い方法だから」

「フルカワ、詳しいなお前」

「大学時代人口知能の研究をやっていたから」

「何十年前だ?」

「今30だから10年ほど前ですね」

『関係無い話をしないでほしいですね』

 

この後オオクマは治療センターに運ばれた。

何でも、フロスに掴まれた時に怪我をしたらしい…。



おわり



出演

隊長 ゴウダ・テツタロウ
副隊長 フルカワ・トモミ
隊員 ガクラ・アキラ
隊員 サイゴウ・ツヨシ
新入隊員 チシブキ・モンザエモン
博士 ユキムラ・フユコ
遊園地オーナー サトウ・ヒロシ
フリーター ユウキ・マサヨシ
フリーター オオクマ・タケル



この作品は匿名希望さんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。