風祭文庫・ヒーロー変身の館






「ウルトラウーマン・フロス」
(第3話:不思議の森の戦い)



原作・匿名希望(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-171





時は西暦20XX年、地球では怪獣や宇宙人の襲撃が多発していた。

それらの事態は国連の外部機関たる地球防衛軍では対処しきれないと判断した人類は

専任の特殊科学戦隊TSFを結成し、迫り来る脅威に立ち向かっていた。



Y県東部のとある村が一夜にして森に埋まった。

この事件が史上最大の(わけのわからない)戦いの始まりだった…。
 
「フルカワ、森の中の状況はわかるか?」

「いえ、周囲の空間に歪みが生じているらしく、

 森の中のデータが取れません…」

「そうか。

 同じだな、

 5年前と…」

「そうですね」

「5年前?

 俺が入隊する前ですね。

 何があったんですか?」

「ああ、当時のTSFのメンバーは私と

 フルカワ、ガクラ、ユキムラの3名と

 そしてシラガミ長官だった」

「シラガミ長官とユキムラ博士が

 元戦闘部隊だってのは聞いたことがあります」

「うむ、当時の隊長は長官で副隊長はユキムラだった。

 そんなことより、ある日奇妙な事件が起こった。

 M県の北部が一夜にして森に埋まったんだ。

 その森の周辺は空間が歪んでいるらしく解析が不可能だった」

「確かに現在の状況に似てますね…。

 で、どうやって対処したんですか?」

「実際に森に突入したんだ。

 そしたら妙な現象が起こった」

「妙な現象?」

「我々の服装が変化したんだよ、

 まるで忍者のようにな…」

「そんなことがあったんですか。

 原因は何だったんですか?」

「それは私よりユキムラ博士が詳しい」

「呼んだ?」

「うわっ!ユキムラ博士!

 いきなり出てこないでください!

 心臓が止まるかと思いましたよ!」

「その事件の原因は、

 精神寄生獣ヘルメーンよ」

「聞いてませんね…」

「ヘルメーン?

 何ですか、それ?」

「人間の精神に寄生して、

 その人間の願望を不思議な森の中に具現化する謎の生命体よ。

 その時は忍者に憧れる青年に寄生したために、

 森の中を忍者の里に変化させたの。

 弱点は本体。

 宿主のそばにいるはず」

「なるほど」

「というわけだ。

 我々も突入して元凶のヘルメーンを倒すしかない。

 早速出動だ!

 私とガクラが南西、

 サイゴウとチシブキは北東、

 フルカワはスカイファイター4号で上空から突入しろ!

 姿が変化しても乗り物までは変化しないはずだ!」

「了解!」


 
フルカワはスカイファイター4号で森の上空に達している所だった。

「何か体が変な感じ…、

 でも、乗り物に変化は無いらしいし

 例え動物に変化しても大丈夫よね」

そして、フルカワに変化が起こった…。

「えーっと…、

 確かに乗り物に変化は無かったけど…、

 これじゃ、操縦できないよね…。どうしよう…」

変化したのは何故か白鳥だった。

(それにしても、何故頭に王冠があるんだ?)

腕が翼じゃ操縦することは出来ない。

当然脱出することになった。
 


謎の森北東部。

「確かに変化はあったが…、

 何だこれ?」

「僕の猟師はまだわかりますけど…、

 何故先輩が赤ずきん(女!?)になるんでしょうか」

「さあな…。

 (まさか、フロスに反応したとか?

  それよりも、俺はチシブキが猟師という方が気になる…)」

「まあ、武器はありますから…、

 早速行きましょう」

そういうとチシブキは銃を構えた…。

「げ、やばい!」

サイゴウはそのまま逃げ出す準備を始めた。

「オラオラオラオラオラーっ!

 こんなみょうちきりんな森、

 この俺様がぶっ潰してくれるわーっ!」

チシブキは暴走し、

「どわあああああっ!」

サイゴウは逃げ出した

お約束の展開である。
 


謎の森南西部。

「隊長、何ですか?その姿」

「多分長靴を履いた猫だな。

 どうやら今度のヘルメーンが寄生した奴は、

 童話の世界に憧れていたらしいな」

「はあ、そうですか…」

そこには、長靴を履いた2足歩行の猫と、

中世ヨーロッパ風の衣装を着た青年がいた。
 


「うおりゃーっ!」

「こっち来んなーっ!」

暴走したチシブキは何故かサイゴウのいる方に突進した。

「赤ずきん」は普通猟師が赤ずきんを助けるはずだが、

ここでは、猟師が赤ずきんをピンチにしている。

「くそ!」

サイゴウはとっさにそばの木の陰に隠れた。

「しゃらくせーっ!」

チシブキは意味不明の咆哮を轟かせながら

あさっての方向へと走り抜けた。

「あ、危なかった。

 それにしても痛てて…」

スカートに慣れていないサイゴウは途中で何度か転んでしまっていた。

「ん?何だありゃ」

森の中にひっそりとたたずむ建物があった。

「…何、これ?」

その建物は解り易過ぎるほど解り易いお菓子の家であった。

「今度はヘンゼルとグレーテルかよ…。

 まさか中に赤ずきんのお婆さんや狼はいないよな…」

関係無い心配をしながらサイゴウはお菓子の家の中を覗いてみた。

「あれがヘルメーンって奴か?」

中には1人の少女と空中に浮かぶスライム状の物体があった。

確かにスライム状の物体がヘルメーンの本体のようだ。

「よし、突入しよう!

 何か武器は…、

 テリブルシューターはバスケットに変化しちまったし…。

 お、これは使えそうだな」


 
お菓子の家内部。

そこにいる少女、

クゼ・キョウコは昔から童話が好きな少女だった。

彼女はいつか童話の世界に行ってみたいと考えていた。

もちろん、無理な願いと諦めていたのだが…。

ある日彼女は村はずれで見たことも無い生物、

ヘルメーンと出会った。

このヘルメーンは彼女の願いであった童話の世界を作り出した。

それ以来、彼女は念願だった童話の世界で暮らし始めた…。

「あーあ、今日も楽しかった」

日課の散歩から帰った彼女は椅子に座り、

くつろぎ始めた。

「それにしても、何か大きい物が落ちてたけど、

 なんだったんだろ?」

墜落したスカイファイター4号である。

「それじゃヘルメーン、そろそろご飯を作るわね」

彼女はそのまま昼食を作り始めた。

「待て!」

突如叫び声がした。

「誰!?」

「TSFだ!

 そこにいるヘルメーンから離れろ!」

そこに立っていたのは、

両手でそこらで拾ったらしい太い木の枝を構えた赤ずきんであった。

「あのね、貴方は赤ずきんなんだから、

 もっと女の子らしく出来ないの?」

「うるさい!

 誰のせいでこんな格好してると思ってるんだ!

 とっとと、この森を元に戻せ!」

なんか苛々しているようだ。

「仕方ないわね。

 ヘルメーン、この子追い返して」

すると、ヘルメーンから光が放たれ、

突然地響きが起こった。

「なんだ!?」

とっさにサイゴウが外に出ると、

何故か巨大な竜が歩き回っていた。

「うわっ!」

竜は突然火を吹き、

サイゴウはとっさに避けた。

巨大な竜に立ち向かう赤ずきん、

こういうのをシュールと言うのだろうか?

サイゴウは森の中に逃げ込んだ。

「くそ、何か対処法は無いのか…」

すると、両腕が光を放ち始めた。

「この光は…。

 そういえば、長袖で見えなかったけど…」

袖をまくった所では銀色のブレスレットが光を発していた。

「これだ!」

そしてサイゴウは両腕をクロスして叫んだ。

「フロス!」

すると、サイゴウの体は光に包まれ、

徐々にウルトラ戦士へと姿を変えていく。

完全に変身が終わった時、

サイゴウの体は身長40mに巨大化していた。

ウルトラウーマンフロスの登場である。
 


「た、隊長!」

「フロスが現れたのか。

 しかし、あの竜は何だ?」

「さあ、わかりません。

 とりあえずあれを目印にしましょうか?」

「そうだな、他にあても無いし」

2足歩行の猫と青年はそのまま、

竜とフロスが向かい合っている

明らかに危なそうな所を目指して歩き出した。

さらに彼らの後ろから、

もはや忘れられてそうな王冠をかぶった白鳥が飛んでいった。
 


「往生せいやー!」

チシブキはまだ暴走していた。

何故弾切れが起きないのか、

それは永遠の謎である。
 


フロスは竜の吐いた炎を何とかバリアで防ごうとした。

しかし、竜の吐く炎は絶え間なく続き、

最終的にフロスのバリアを破壊してしまった。

炎の直撃を受けたフロスはそのまま後ろに吹き飛び、

森の中へ倒れこんでしまう。

フロスはすぐに立ち上がり竜にエネルギー弾を撃ち込むが、

竜は硬い鱗に守られているらしくまったく効かなかった。

まさしく大ピンチであった。
 


一方、お菓子の家では…。

2足歩行の猫と猟銃を持った青年が突入していた。

「くそ、ヘルメーンの本体はどこだ!」

「宿主の姿も見えんぞ!」

「あ、隊長!

 あそこです!

 あの森の中!」

「わかった!」

ちなみに、ガクラが持っている猟銃は、

暴走しているチシブキをしばき倒して分捕った物である。

「今からじゃ追いつけないな。

 ガクラ!ここから狙撃しろ!」

「了解!」

するとガクラはキョウコと共に逃げるヘルメーンに狙いを定めた。

そして、銃声が森に響き渡った。
 


竜は突然動きが鈍くなり、

炎の威力も低下していた。

いまだとばかりにフロスは竜に掴みかかり背負い投げを決めると、

森の中に墜落した竜めがけてティエシウム光線を撃ち込んだ。

そして竜は爆発音と共に消えていった。
 


ガクラの撃った銃弾はヘルメーンに大きなダメージを与えた。

空間の歪みは少しずつ小さくなり、

森も薄くなり、動物達も元の姿に戻っていった

キョウコはヘルメーンが撃たれると同時に気を失い、

地面に倒れこんだ。

「やった!」

「ああ、命中だ!」

彼らの姿も元の姿へと戻っていた。
 


謎の森は消えた。

クゼ・キョウコはTSFの治療センターに運び込まれ手当てを受けている。

「それにしても、凄い戦いでしたね…」

「ああ、

 近くで竜と銀色の巨人が格闘しているお菓子の家から、

 少女と一緒に逃げているスライムを、

 長靴履いた2足歩行の猫を連れた青年が猟銃で撃つ。

 こんな意味不明のラストのメルヘンは世界中の何処にも無いよな…」

「本当ですよね…」

「俺なんか、

 赤ずきんの格好で木の枝構えて、

 お菓子の家に突入したうえに、

 竜に立ち向かったんですから。

 途中で何とか避難できましたけど…」

「あまり無茶はするなよ…」

「はい…」

「そういえば、フルカワはどうした?」

「あ、治療センターに運ばれました。

 なんでも高い所から落ちたそうで…」

「あ、なるほど」
 


ここから先は余談である。

この戦いでは住民達に多くの負傷者が出たが、

その大部分は奇声を発しながら猟銃を撃ちまくる

猟師の流れ弾に当たったのが原因だそうだ。



おわり



出演
隊長 ゴウダ・テツタロウ
副隊長 フルカワ・トモミ
隊員 ガクラ・アキラ
隊員 サイゴウ・ツヨシ
新入隊員 チシブキ・モンザエモン
博士 ユキムラ・フユコ
少女 クゼ・キョウコ



この作品は匿名希望さんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。