風祭文庫・ヒーロー変身の館






「ウルトラウーマン・フロス」
(第2話:マリオネット計画)



原作・匿名希望(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-169





時は西暦20XX年、地球では怪獣や宇宙人の襲撃が多発していた。

それらの事態は国連の外部機関たる地球防衛軍では対処しきれないと判断した人類は

専任の特殊科学戦隊TSFを結成し、迫り来る脅威に立ち向かっていた。


 
「ほ〜ら、人形劇が始まるよ〜」

ここは最近作られた遊園地ルドーランド。

特に大人気なのが中央テントで毎日行われる人形劇だ。

しかし、その裏である恐ろしい計画が進んでいることに、

気づく者は誰1人としていなかった。
 


所わって、ここはTSF本部。

数々の最新鋭の防衛システムが仕込まれた鋼の要塞である。

なにしろ、隊員ですら慣れるのに3年はかかるといわれるほど厳重なのだ。

そして、ここはメインルーム。

隊員達が出動の時を待つ防衛の要となる施設である。

そこで夜勤に当たっている副隊長のフルカワと

隊員のガクラとサイゴウが会話をしていた。

「この前のフロスとかいう宇宙人、

 あれは凄かったなー」

「ミサイル背中に撃ちこまれてもぴんぴんしていたし、

 アルミタの猛攻にも耐えていたし、

 特に最後の光線は迫力だったわよね。

 アルミタを問答無用で爆殺するんだもん、

 驚いちゃった。サイゴウ隊員もそうでしょ?」

「え、俺はその…。

 ひ、避難してたから…」

自分がそのフロスだと言い出せないサイゴウ隊員であった。

「おい」

「あ、隊長!」

ゴウダ隊長が突然メインルームに入ってきた。

「新入隊員がいる。

 来たまえ」

すると、隊長の後ろにいた青年が緊張した様子で自己紹介を始めた。

「チ、チシブキ・モンザエモンといいます…。

 よ、よろしくお願いいたします…」

「チ、チシブキ!」

「モンザエモン!」

ガクラとサイゴウは叫び声をあげた。

「随分と物騒な名前ですね」

フルカワだけはマイペースであったが。

「別に物騒じゃない。

 漢字で書くとこうなるんだ」

正面のモニターには

『千渋木・紋左衛門』

という文字が映し出された。

「十分変ですよ」

ガクラの言うことももっともである。

(特に名前が。)

「おいおい、いくらなんでもそれは言い過ぎ…」

隊長がしゃべり始めた時、通信が入った。

「何だ!

 人が話しているときに!」

隊長は会話を途中で遮られるのが嫌いらしく、

通信機の画面に向かって思いっきり怒鳴った。

「シ、シラガミ長官!

 いや、その…、

 なんというか…、

 え〜〜〜っと…」

どうやら通信先は長官だったらしい…。

『まったく、相変わらずだな。

 とにかく、事件発生だ』

「な、何でありましょうか!」

『敬礼までしなくていい。

 今家内から連絡が入ったのだが、

 うちのコウスケは知っているか?』

「は、はい。

 知っております。

 シラガミ長官のご子息ですよね」

『コウスケがさっき突然起き出してどこかに行ったそうだ。

 1時間たっても戻らないらしい』

「御子息の御友人の御宅には連絡したのでありますか?」

『改まらんでよろしい。

 それが、コウスケの友人のクロサキ家や

 ミドリカワ家も同じ状況だったらしい』

「なんと!

 すぐに調査をいたします!」

『頼んだぞ』

「了解!

 フルカワ、すぐに怪しい所を調べてくれ!」

「もうすでに調べました。

 T都T市にある遊園地『ルドーランド』内に謎のエネルギー反応があります」

「早いな。

 まあいい、TSF出動!

 ガクラ、サイゴウ、チシブキはランドファイターで至急向かえ!

 私とフルカワはいざという時に備えてここで待機だ!」

「は!了解!」
 


T県内某高速道路。

ここを鬼のような速度で走り抜ける1台の車があった。

これはTSFの地上行動用の車ランドファイター。

運転しているのは新入隊員のチシブキである。

「うおおおおおおーっ!

 俺のぶっちぎりだぜーっ!」

「どわーっ!

 誰だーっ!

 こいつに運転させたのはーっ!」

「お前だろガクラーっ!」

深夜の高速に咆哮と悲鳴が響き渡る。

チシブキはどうやらハンドルを握ると性格が変わるタイプだったらしい。

ガクラが「何事も慣れだ」と言って、

チシブキにランドファイターの運転をさせたのが間違いだったらしい。

しかし、その分早く目的地についた。

途中で事故が起こらなかったのが奇跡である。

「あ、どうしたんですか?

 2人共ゲロなんか吐いて…」

「お前のせいだーっ!」

2人は同時に叫んだ。

「はあ、僕は何もしてませんよ?」

(記憶が無い!?)

(二重人格か!?こいつは!)

想像以上のタイプだったらしい…

それはとりあえず置いといて(おい!)

ルドーランド内部。

何故か入り口が開いていたため、

中の様子を3人で偵察することになった。

すると、子供が数人中央テントの中に入っていくのが見えた。

「おい、あの中の1人ってコウスケ君の友達じゃないのか?」

「ああ、確かアオシマ・ヒロキとかいったよな」

「はい、僕も入隊テストで見ました」

何故長官の息子の友達の顔が入隊テストに出るんだ?

「こんな夜中、中央テントに何故子供が集まるんだ?」

「臭うな…」

「あ、わかります?

 緊張のあまり1発…」

「あのな、誰もお前の屁の事なんか言っとらん。

 それより、中央テントの中を調べてみよう」

「ああ、その方がよさそうだな」

「はい!

 わかりました!」

「叫ぶな!

 どアホ!
 
 聞こえたらどうする!?」

「アホはサイゴウの方だ!

 お前の声の方がでかいだろ!」

幸いこのアホな漫才は誰にも聞えなかったらしい。

彼らはそのまま静かにテントに近づいた。

「入り口は向こうだ。

 よし、行くぞ…」

「はい…」

「ああ…」

彼らは入り口からテントの中を覗いて見た。

「こ、これは…」

「な、何だあいつら…」

「わかりません。

 見たことも無い生物です」

そこには、異形の怪物がいた。

その横には大量のマリオネット、

その前には大量の子供がいた。

徐に怪物が話し始めた。

「よし、、これだけ地球人の幼生体がいればいいだろう。

 始めるぞ、準備はいいか?」

怪物が話し終わった途端、

何処からとも無く無機質な声が響いた。

(了解)

すると、マリオネットが光を放ちながら徐々に巨大化し、

それと同時に子供達は徐々に縮小していった。

最終的には、マリオネットだった者は子供になり、

子供だった者はマリオネットと化した。

「お、おい。

 どういうことだ?

 これは」

「俺が知るか!」

「し〜、静かにしてください。

 見つかっちゃいますよ」

TSFはテントの入り口で息を潜めていた。

「質問です!」

突然子供に変身したマリオネットの1人が声を発した。

すると、怪物が答えた。

「何だ?」

「俺達何をすればいいんでしょうか?」

その瞬間、怪物は盛大なアクションでずっこけた。

「大馬鹿野郎!

 何のために、

 今まで人形劇に偽装して地球人の幼生体を洗脳したと思ってるんだ!」

「何でですか?」

ぷつん、一瞬そんな音が聞こえた。

「アホ!

 ボケ!

 カス!

 お前らを捕獲したこいつらの代わりに地球に送り込むんだろうが!

 地球征服計画を忘れんな木瓜茄子!

 これは我等ルドー星人の全宇宙の征服の第1歩なんだぞ!」

ありったけの罵詈雑言はテントの中でよく響いた。

中には気絶している奴もいる。

「お、おい。

 聞いたか?今の」

「嫌でも聞こえるだろ。

 どうやら阻止した方がよさそうだな。

 よし、俺とチシブキが正面から突入して敵の目を引き付ける。

 その隙にサイゴウが子供を救出するんだ。

 あと、本部への連絡も忘れずにしておけ。いいな?」

「わかった、任せておけ!」

「よし、行くぞ」

サイゴウはテントの裏に回り込んだ

「よし、行きましょう」

「まて、お前武器持って無いだろ。

 この予備のテリブルシューターを渡しておく」

「あ、はい!」

「じゃあ、先に行ってるぞ」

そういうとガクラはテントの中に飛び込んで叫んだ。

「動くな!

 TSFだ!」

そう言うとガクラは昨日徹夜で考えたポーズを決めようとした。

しかし、後ろからいきなり銃声が轟いた。

「今度は何だ!?」

「しゃらくせーっ!

 こんな奴らこの俺様が皆殺しにしてくれるわーっ!」

「チ、チシブキ!?

 何言ってんだ、おい!?」

どうやら拳銃を持っても性格が変わるらしい。

そしてチシブキはルドー星人に向かっていきなり銃を乱射した。

(何か1人称車運転した時と違わないか?

 もしかして、三重人格!?)

彼の性格がTSF7不思議に加えられる日は近いかもしれない…。

一方こちらは裏手に行ったサイゴウ。

「何か騒がしいな。

 囮作戦が始まったのかな…」

まあ、敵の注意を引き付けいるのには間違いないだろう。

そして、サイゴウはテントの布を少し持ち上げて中に侵入した。

何故所々穴が開いているかは気にしていないようだ。

「よし、これを外へ…」

サイゴウは運良く無傷でマリオネットの山を回収すると、

そのまま逃げ出した。

「おし、囮作戦成功!

 もういいぞチシブキ!」

「おらおらおらおらおらおらーっ!

 往生せいやーっ!」

チシブキはまだ暴走していた。

「くそ、このままではやられる。

 お前ら、合体だ!」

「了解」

追いつめられたルドー星人は光を発しながら合体し、

巨大化していた。

「何!」

「これは!」

「おらおらおらおらおら!」

約1名気にしていないようだ。

「くそ、仕方が無い。

 フロス!」

サイゴウは両手をクロスさせて叫んだ。

その途端周囲を眩い光が包んだ。

そして、光がおさまった時、

そこには銀色の肌に朱のラインを引いた

巨大女性型宇宙人ウルトラウーマンフロスが立っていた。


 
ゴウダ隊長とフルカワ副隊長がスカイファイター2号でルドーランドに着いた時、

そこでは死闘が繰り広げられていた。

ややフロスの方が優勢のようだが、ルドー星人も負けてはいなかった。

ルドー星人と違って時間制限のあるフロスは次第に押されていった。

「くそ、このままではフロスが…」

「隊長!

 援護しましょう!」

「ああ、ミサイル発射!」

ミサイルはまたフロスを直撃した。

そのミサイルのせいで余計に戦況が悪化した。

もはやお約束の展開である。

「くそ、もうミサイルが無い」

「どうしましょう!?」

「仕方が無い。

 最後の手段だ!」

「最後の手段?」

「脱出してこのままぶつけろ!」

「なんかフロスに当たるような気がしますが…。

 …脱出!」

フルカワの想像通りスカイファイター2号はフロスを直撃した。

その結果戦闘は最悪の展開を迎えた。

カラータイマーは点滅を続け、

フロスはルドー星人に取り押さえられてしまった。

その時、一発の銃弾がルドー星人の額に命中した。

「しゃらくせー!

 これでも食らいやがれーっ!

まだ暴走していたチシブキの弾丸である。

その衝撃でひるんだ隙にフロスはルドー星人から離れると、

そのまま手からエネルギー弾を撃ち込んだ。

エネルギー弾をまともに受けたルドー星人は、

そのまま分裂して元に戻った。

「くそ、一旦引き上げだ!」

「了解!」

ルドー星人はテントの地下に隠してあった宇宙船に乗ると

そのまま宇宙へと向かった。

「くそ、逃がすか!」

ガクラはテリブルシューターを構えると宇宙船めがけて発砲した。

が、効果は無かった。

しかし次の瞬間、

ルドー星人の宇宙船にフロスのティエシウム光線が直撃し、

宇宙船は爆発炎上したのであった。

それを見届けたフロスはそのまま空の彼方へと飛んでいった。

その後、子供達は無事に元に戻れたそうだ。
 


「いやあ、お前のおかげだよ。

 お前の銃のおかげでフロスは勝てたんだ」

「あ、そうですか…。

 (よく覚えてないけど…)」

「しかし、やっぱり過激よねフロスって」

「ああ、ほとんど大量虐殺だよな。

 サイゴウもそう思うだろ?」

「い、いや、俺は子供達の救出に集中してたから…」

その後、サイゴウはなおさらサイゴウ=フロスと言うことを隠し始めるようになったそうだ。



おわり



出演
隊長 ゴウダ・テツタロウ
副隊長 フルカワ・トモミ
隊員 ガクラ・アキラ
隊員 サイゴウ・ツヨシ
新入隊員 チシブキ・モンザエモン
長官 シラガミ・クロキチ



この作品は匿名希望さんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。