風祭文庫・ヒーロー変身の館






「バニーエンジェル」
−獣教師−



作・カギヤッコ(加筆編集・風祭玲)


Vol.T-266





サァァァァァ!

ギュンッ!

サァァァァ!!

草木も眠る丑三つ時とある峠道にてチェイスが行なわれていた。

かの伊呂波似(いろはに)峠の穂屁徒(ほへと)坂ほど危険ではないが

それゆえに公道レーサーよりも真っ当なツーリスト達に好まれているこの峠を二つの影が駆け抜けている。

一見普通の公道レースにも見えるが、

その音は車ともバイクとも違う音を立てている。

さすがに無騒音の超ハイテクエンジンを搭載しているのかと言うとそうでもない。

と言うより、

追いつ追われつの相手は互いに車でもバイクでもない。

「やれやれ…僕とした事が油断どころではない大へまですね…」

追うのはなぜか鍵を模した杖に乗った時代物のコート姿の青年。

『そうよそうよ!早く取り返さないとあいつらがパワーアップしちゃうんだから!』

青年の左肩―にあたる部分から彼をなじる声が聞こえる。

「……わかっていますよ。

 今まで預かっていたものを返せないどころか奪われた日には僕の名折れですし、

 何よりこの世界が危ないですし」

『ならさっさと取り返しなさーい!』

「わかりましたよラビさん、

 でもちょっと揺れますよ!」

そう言いながら青年はスケボーの要領でスピンをかけ、

急なカーブを切り抜ける。

『キャッ!』

「大丈夫ですか?」

『大丈夫と言うよりノリよノリ、

 さすが鍵屋特製の倉庫スペースだけあってなんともないわ』

「恐れ入ります」

そう言って青年―鍵屋は肩の辺りから聞こえる声―ラビに声をかける。

そうやって二人が追う存在、

それはさらに異様であった。

『おーほほほほ!

 捕まえられるものなら捕まえてごらんなさーいっ!

 もっともこのゴーストバグの幹部怪人、

 サメ女様を捕まえる事なんてどんな韋駄天でもできないでしょうけどね〜』

そう、彼らが追っているのはサメ―しかも宙を滑るように駆け、

人語さえ解するとんでもないサメであった。



話を遡る事十数分前。

以前鍵屋に預けていたバニーエンジェル用強化チョーカーの確認と

情報交換をしようと峠近くの公園で合流していた鍵屋とラビをサメ女が強襲した。

運悪く倉庫にしまう前だったチョーカーを奪われてしまうと言う大ミスを犯してしまった鍵屋は

急いでラビを小動物保護用空間に保護しそのままその後を追ったのだが、

『ところで鍵屋、

 最近乗ってるって言うオート三輪はどうしたの?』

突然思い出したようにラビが尋ねてくる。

「轟天号なら今は信頼できる人の所で整備中なんですよ……

 って今はそう言う話をしている場合ではないですよ!」

そう言いながらも鍵屋はたくみに鍵杖をさばき、

急な斜面を駆けてゆく。

「……懐かしいですね

 ……かつてあの峠を駆けていた頃、

 いや……“あの峠”での日々を……」

伊呂波似峠の穂屁徒坂に何か相容れないものを感じて去って間もなくと言うより

今の仕事についてから鍵屋はある峠を駆けていた。

そこで鍵屋は度々あるサイドカーに乗ったカップルと走るようになった。

メインライダーである男性は背中に「K−1」と書かれたレーシングスーツをまとい、

サブライダーである女性はうまく読めなかったが「BEL」、

もしくは「VEL」で始まるネームを着けたスーツを着ていた。

さわやかな風を感じさせながら息のあった流れでたくみに峠を駆け抜ける二人に

穂屁徒坂の走り屋達にはなかったものを感じた鍵屋は勝負と言うよりツーリングの感覚で二人と「競って」いた。

あいにくその場で二人の素顔を見る事はないままだったのだが、

彼が轟天号を預けている「信頼できる人物」こそ

実はそのサイドカーのメインライダーである事を鍵屋は知らずにいた……

『……あの〜鍵屋、

 そう言うあんたが何か物思いにふけっててどうするのよ!危ないじゃない!』

ラビの声が鍵屋を引き戻す。

「おっと、

 これは失礼……」

その声に我に返った鍵屋はあわてて体勢を立て直すが、

その間に全く事故など起こさないのはすごすぎである。

そうする間に鍵屋とサメ女の距離はどんどん縮まる。

「そこのサメ女、

 そのアイテム、

 こちらに返しなさい!」

そう叫ぶ鍵屋だがサメ女は意に介さず、

『そんなの関係ないわよ〜、

 3日逃げ切れればどんな罪もチャラ、

 これ惑星ゾラの常識!』

と意味不明な言葉を言って逃げ去ろうとする。

「……疾風の様に駆け抜けさせていただきますよ!」

少し呆れながらも鍵屋は一瞬身をかがめると文字通り風のごとく突っ切り、

そして流れる様にサメ女の前に立ちはだかる。

“まだまだあの二人には及びませんね…”

そう言いながらも鍵屋はサメ女の抱えたチョーカー入りの箱に手を伸ばそうとする。

しかし……

『なめるんじゃない!』

バシッ!

次の瞬間、

サメ女は身を翻して尾びれを振り、

鍵屋に叩きつけようとする。

「何のっ!」

間一髪、鍵屋は身をかわすが、

その勢いでガードレールを越えて海に放り出される。

『ざまぁごらん……きゃぁ!』

あざ笑っていたサメ女もまたその勢いで海に投げ出される。

「……やれやれ、

 水中戦ですか、

 しかも相手は妙に頭のいいサメの様で……」

とっさに障壁を張り激突の衝撃の緩和と水中移動の体勢を行なった鍵屋は改めて鍵杖を構える。

『ちょっとちょっと、

 何のんきな言ってるの!

 このままじゃまずいんじゃない?』

空間から聞こえるラビの声をあえてさえぎり向ける視線の先、

そこにはかの伝説的テーマ曲をBGMにしそうなのりで迫るサメ女の姿があった。

『おーほほほ!

 正に今のわたしは水を得たサメ、

 怖いものなしよ!

 本当はさっさと帰るべきなんでしょうけど行きがけの駄賃にあんた達を夜食にしてあげるわ!』

猛然と迫るサメ女に対して鍵屋は静かに鍵を鍵杖に装填して構え……

「空間湾曲の鍵!」

と杖を突き出す。

ギュルルルル!

『な、

 何?』

次の瞬間、

グルリと水が動くと、

鍵屋を起点に水が抜けた筒状の空間が細長く伸び、

瞬く間にサメ女を巻き込んだ。

『な、水が…

 だからって何よ、

 水がなくなったくらいで!』

自分に味方するはずだった水を失ってもサメ女はなおも突進するが、

次の瞬間

ドガッ!

『ぐ、

 ぐぎゃぁぁぁぁーっ!』

とサメの弱点でもあると言う上あごを殴られ、

それを押さえる事もできずサメ女は跳ね回る。

そこへ……

ガッ!

“ぶろうくん・ふぁんとむ”と書かれたびっくり箱パンチがその真下に空いた空間から飛び出し、

サメ女は海の中にできた道から上空に飛ばされる。

『ひぇぇぇ……』

そしてそのまま近くの砂浜に叩きつけられるコースを取る。

その先には……

「やれやれ、

 本当は成敗してもいいのでしょうけど、

 スキャンした結果百歩譲りましょう……」

と静かに鍵屋が待ち構え、

「空間分裂の鍵!」

そのまま杖をサメ女に突き出す。

ギュルルルルーッ!

杖がサメ女に直撃したその瞬間、

サメ女は文字通り空間ごとゆがみ、

広がりながら霧散する。

そしてその中から一糸まとわぬ姿の女性が飛び出し……

ドスン。

と地面に叩きつけられたが、

幸い砂浜だったのと空間湾曲の影響で衝撃などがかなり緩和されたらしく女性は気絶しただけですんだようだ。

「これで一応一件落着ですね……

 一応この人も怪人になってた時の記憶もないみたいですし、

 あとは身元を確認してしかるべき保護を……」

いつの間にか回収していたチョーカー入りの箱を調べ

鍵屋はチョーカーが本物でなおかつ無事である事を確認すると

女性を落ち着いた場所に寝かせながらつぶやいた。

だが、

『でも、いま思い出したんだけど、

 追いかける前にその鍵とか使って足止めとか何とかすればよかったのに……』

と空間から出てくるやラビはそう突っ込みをいれてくると、

鍵屋は……

「すみません、

 ノリです」

と軽く頭をかいた。

「しかし、話を聞いた通りそちらも色々大変みたいですね。

 やはりこのアイテムはお返しした方がいいんじゃないですか?」

気を取り直しながら鍵屋はチョーカーの立体映像を見せる。

それを見つめながらラビはしばし考え込んでいた。

『……確かにそうしたいけどまだ一つ、

 何か一つパンチが欲しいのよね……

 実際みんなのレベルは上がっているけどまだ何かが……』

そう考えながらラビの視線が例の女性の前で止まる。

そして、その頭の中で何かがひらめいた。

『ねえ鍵屋、

 最近レンタル商品に加えたって言うあのアイテム貸してくれない?』

ゴーストバグ本部にサメ女がMIA(行方不明)となった一方が届いたのはその夜明けの事だったが、

作戦行動以外の無断行動の末の失踪だった事もありそのまま登録を抹消された。

もしサメ女が手に入れかけていたものの正体を知ったら、

そしてそれが果たされていたら、

ゴーストバグの対バニーエンジェル戦は圧倒的に優位に立つはずだったのだろうが……



「先生、

 さよぉ〜ならぁ〜」

「はーぃ、

 気をつけて帰るのよぉ」

黄昏色から漆黒色へと姿を変えていく空の下、

今日の部活を終えた生徒達が別れの挨拶をしながら帰宅の徒についていくのを

ここで教鞭をとり始めて間もない酒江香織は笑顔で見送っていた。

「はぁ、

 今日も一日無事に終わったか」

最後の生徒を見送った後、

香織は肩をトントンと叩きながら安堵の表情を見せていた。

「あら、

 酒江先生。

 また残っていたんですか?」

そこに由紀よりも前にここで教鞭をとっていた親友の長田由紀が声を掛けてきた。

「由紀、

 やめてよその先生呼びは」

 由紀が発した先生という言葉に香織は軽く身震いをしてみせると、

「そりゃぁねっ、

 由紀とは親友同士だし呼び捨てでもいいけど、

 生徒の手前それはできないでしょう……?」

と香織は指摘するが、

ふとデジャビュに近い感覚を覚えて首をかしげる。

「はいはい……ところで香織、

 いま、暇?」

それを断ち切るように由紀は呆れたポーズを軽くして見せ、

話をそらすように尋ねる。

「いいけど一体なんで?」

その理由を香織が尋ねるが、

「まあまあ、

 ちょっとだけだし。

 付き合ってくれないかしら?」

職員会議などもなく、

すでに帰宅するしかやる事のない香織に親友である由紀の誘いを断る理由はなかった。

それから程なくして、

ガラッ!

資料室と書かれたドアが開かれると、

「香織さ〜ん、

 こっち」

とまるで自分の自宅に招くかのように由紀は声を上げる。

「……この展開、

 どこかで見た覚えがあるけど……

 じゃなくてどうしてこんな所に来ないといけないの?」

そんな由紀に向かって香織は怪訝そうな目つきをするが、

「まあまあ、

 細かい事は気にしないで入って、

 入って」

由紀はそれを気にする事無く、

嫌がる香織の背中を押しながら教室の中へと入っていった。

ギラッ! 

普段は学園の記録やその他を集めた文献などの棚が並ぶ殺風景な部屋だが、

窓から差し込む月明かりに照らし出され、

どこか異世界を思わせる空気に満ちている。

「まるで異世界って感じ…」

香織は思わず身をすくめたが、

対照的に由紀は平然と辺りを見渡すと、

シュルッ!

由紀は平然と着ている服を脱ぎ始める。

「え、

 ちょっと由紀、

 何してんの?」

由紀の行為に香織はその理由を問いただした。

「ん?

 今日やる事にはこれが必要なの、

 さ、優香さんも脱いで」

「?」

何がなにやらわからないまま首をかしげる由紀にさらに香織は言葉を投げる。

「香織、

 脱がないと帰さないわよ」

「……わ、

 わかったわよ、

 脱げばいいんでしょ?」

香織は由紀の妙な殺気に押され、

手を自分の服に掛けるとそれを脱ぎ始める。

シュル、

パサッ

ほぼ同時に股間の秘部を覆っていたショーツが脱ぎ捨てられ、

二人は一糸まとわぬ白い肌を見せ合う事になった。

「さぁ、

 香織。

 こっちに来て」

と白い肌をさらしながら由紀は香織を招く。

「おいしそ〜う」

由紀は香織の自分より大きな乳房を見ながらそう言った。

「ち、ちょっと由紀、

 目がおじさんっぽいよ?」

そう言いながら香織は標準より少し大きめの胸を両腕で覆うが、

その上からバサリとあるものを被せられる。

香織はそれを手に取り広げて見る。

「こ、

 これって?」

それは香織の肌のように鮮やかな色をした一枚のカーテンのような布だった。

「うふっ、

 これを被るとすごい事になるんだから。

「すごい事?」

「そうよ。

 これからわたしが手本を見せてあげる」

そう言いながら由紀は窓から漏れる月光に何一つ身につけていない裸身を映し出す。

「由紀、

 何言ってるの?」

香織は何がなにやらわからないまま尋ねるが、

香織は答える代わりに月明かりをスポットライトにする様に仁王立ちをする。

「見てて香織ぃ、

 わたしが変わるの……」

やや呆けた声でそう言うと由紀は手にしていた布を頭から被る。

ピクッ、

ピクピクッ!

と同時に布はみるみる由紀の体を包み込み、

繭のような形をとる。

「はぁん、

 あぁんっ……」

繭の中で全身が小気味よく震えだす快感に震えながらも由紀はさらに力を入れる。

香織はただそれを見守る事しかできない。

そして、

「ああん、

 はぅ、

 はぅ〜…セラーチ!」

絶頂の瞬間、

由紀はそう叫ぶと、

ビッ!

ビュルルルーッ!

繭が群青色に染め上げられてゆく。

ジワ…

見る見るうちに繭は群青色に染まってしまった。

「あっ、

 はぁぁっ……」

ググ、

ググ……

由紀の嬌声をバックに群青色に染められた、

正確には覆いつくされた由紀の肌全身が嬌声を上げる。

ドキン。

「由紀……」

おののきながらその姿を見ていた香織だが、

その中に恐怖とは別の感情が入り込む。

そして嬌声を上げながら由紀の肉体に変化が始まる。

ズバッ!

足の辺りが二つに分かれ、

その形を整えながらもまるで人間の足と魚の後ろひれが融合したような形になる。

同じ様に伸びだした腕、

特に肘の辺りからは広くも鋭い前びれが伸び、

お尻の辺りからはたくましい尾ひれをたたえた尾が伸びる。

「むむ……ぐぐ……ふぁん……」

スーツが伸縮を繰り返しながら変化する、

と言うよりスーツに食われるような感覚に由紀は苦痛とも快楽とも言えない声を上げる。

そしてそうするうちに由紀の背中には象徴的な背びれが生え、

胸の周りには三本一対のえらを思わせるラインが入る。

「はぁ、

 ああっ……ガバッ!」

グバッ! 

そして、その顔を突き破るように鋭い牙をたたえたアゴが伸びる。

「うおおおーっ!」

カッ!

絶頂と共に見開いた目は人間のものではない。

と言うよりその姿は……

「うっうそぉ!

 由紀が…由紀がサメ女になっちゃった……」

呆然とする香織を余所に、

「うふふ、

 どう香織さん。

 あたしの姿は…とっても恐ろしそうでしょう?」

そう言いながら由紀はサメ女と化した姿を見せ付けるようにポーズを取って見せる。

「由紀ちゃんおかしいよ!!

 なんで、なんでこんなことを!!』

半ば涙目になって叫ぶ香織だが、

由紀は意に介さず続ける。

「由紀……そう、

 確かにわたしは長田由紀だわ。

 でも今のわたしはもう一つ、

 新たな姿を授かったのよ。

 きれいでしょ?」

そう言いながら由紀はつややかな鮫肌をなで、

そのまま香織の素肌を抱きしめる。

「え……やだ……やめてよ由紀……」

柔肌を鮫肌になでられる怖さ、

そして同時に来る快感に声を上げながらも香織は何とか由紀を止めようとする。

「今のわたしを由紀と呼ばないで。

 今のわたしは獣の素肌を身につけた獣人教師、

 ビースティーチャー・セラーチなのよ……

 う〜ん、言っちゃった言っちゃった……」

自分で言った異形宣言に思わず嬉しがる由紀=セラーチ。

しかし、獰猛なサメの口で嬉しがられても怖いだけである。

「香織、

 あなたには素質があるわ。

 わたしと同じ様に獣の素肌をまとう素質、

 そしてそれに酔う性質が……」

「ち、違う、

 わたし、

 そんなのしたくない、

 だから帰して、

 戻ってよ由紀〜」

少し涙目になり叫ぶ香織だったがセラーチはそれを否定するように指を振る。

「じゃあ香織、

 あなたどうして興奮してるの?

 感じているの?」

「えっ……?」

そう言われて香織は体を見回す。

その素肌は上気し、

足の間からはかすかな湿りが発している。

そして、その顔は恐怖と言うよりもどこか恍惚と強い願望の色を見せていた。

「あなたもこれを着ればわたしと同じになれる。

 同じ快感を味わえるのよ?それともこんな機会を放棄して悶々として教師生活を送るの?」

香織はしばらく考え込んでいたが、

ふときびすを返すと床に落ちていた服を身につけた。

スッ、

ススッ……

そして一式を身につけて立ち上がった姿が月明かりに照らされる。

その上気した肢体を素顔もろとも肌色の布に押さえ込ませた香織の姿が。

「由紀、

 これでいいの?

 これで由紀みたいに、

 じゃなくてもっと気持ちよくなれるの?」

「あのね、

 わたしは由紀じゃなくて……まあいいわ、

 あとはその布が導いてくれる。

 酒江香織と言う女性からそれを糧に生れるビースティーチャーへと……」

セラーチが見つめる中、

香織は月明かりに照らされた肢体を大きく上下させながら深呼吸をする。

ドクン、

ドクン、

ドクン、

ドクン。

「はぁーっ、

 はぁーっ、

 はぁーっ、

 はぁーっ……」

繭となってゆく布の密着と素肌の伸縮が香織にかつてない圧迫感を与える。

そしてそれは香織の性感、

そして彼女の中に潜んでいた「獣」を呼び覚まそうとする。

「ああ……いい……きつい……熱い……」

密着されたがゆえ素肌から噴出す汗や吐息がそのまま全身に満ちてゆく。

それが彼女の理性を溶かしてゆく。

「はぁ……いい……気持ちいい……なる……なる……獣になるぅ、

 由紀みたいな獣にぃ・・・・・・」

ガバッ!

その瞬間、

香織の両腕が繭から伸び、

おもむろに乳房をつかむ。

まるで両手が大きな獣のアゴに変化して乳房を食いちぎるかのように。

「ああっ、

 うわぁっ、

 ああぁっ!」

さらに右腕のアゴは足の間にも伸びる。

「あっ、

 あっ、

 あっ」

外から食い尽くす快感、

そして中から押さえつけられ食い荒らされる快感が繭に閉ざされた香織の中を荒れ狂う。

ガバッ!

両足も二つに分かれ、

二本の足がしっかりと快感に酔う香織の体を支える。

「ああ…いい…もっと、

 もっと…」

それを示すように香織の身体に変化が始まった。

ビクン!

一瞬、香織の身体が小さく飛び上がると、

モコッ、

モコモコモコ!

彼女の手足から筋状に皮骨が姿を見せ、

その全身は暗緑色へと染まりはじめた。

生地の変化は背中にも広がり背中全体を変化させてしまうと、

腹全体が柔らかな素肌を思わせる生地から硬い蛇腹へをその姿を変えていった。

「はぁぁん、

 あんあんあん」

ボコボコの蛇腹が内側の素肌に擦り付けられる痛みと快感に声が上がる。

ニュッ!

蛇腹が全身を覆いつくした頃、

お尻から突起物が突き出した。

突き出した突起物はさらに成長を続け、

巨大な”尾”へと変化する。

それと時を合わせるように、

メキメキメキ!

セラーチの時と同じ様に香織の顎がかすかに伸び、

小さくも鋭い牙を潜ませた口が天高く伸びてゆく。

「はぁん、

 はぅ、

 はぅ〜変わってく、

 わたしが食い尽くされて変わって行く〜」

もう香織の両手はフリーになっていたが、

その必要は無いくらいその乳房も、

そして足の間も快感を浮けまくっている。

そして、その勢いはマグマのごとく頂点‐香織の脳を突き抜けようとしていた。

「あぁっ、

 うわぁっ、

 ああ……ダーイル!」

絶頂の瞬間、香織はそう叫んでいた。

カッ!

見開いた瞳は黄色く染まり、

その奥は縦長の鋭い眼光が光る。

その姿を見渡した香織―だったものの目にもはや怯えはない。

むしろ望む境地に達した快感だけがその身を支配する。

「ダーイルッ!」

月明かりに照らされて再度吼えるその姿は人間の女性の姿に押さえ込まれているものの、

まぎれもなく獰猛なワニの姿だった。



「先生、

 さよぉ〜ならぁ〜」

「はーぃ、

 気をつけて帰るのよぉ」

黄昏色から漆黒色へと姿を変えていく空の下、

今日の部活を終えた生徒達が別れの挨拶をしながら帰宅の徒についていくのを香織は笑顔で見送っていた。

「やれやれ、

 今日も無事終わったか……もういいわよね……」

最後の生徒を見送った後、

香織は肩をトントンと叩きながら何か物欲しそうな表情を見せていた。

「あら、

 由紀。

 また残っていたの?」

そこに由紀が声を掛けて来る。

「……やめてよその呼び方は。

由紀が発した先生という言葉に香織は明らかな嫌悪の顔を見せる。

「ううん、

 もうわたしは酒江香織と呼ばれる事、

 そしてこの姿でいる自体我慢できないわ。

 わたしの名前はビースティーチャー・ダイル。

 獣の素肌をまとった獣人戦士なのよ。

 それぐらいわかってるわよね、

 セラーチ?」

二人だけなのが幸いとしても堂々と「あの姿」の名前を使う香織に対して

由紀はその口をあわててふさぎにかかる。

「あのね、

 確かにわたし達は獣の姿をまとうビースティーチャーだけど、

 その前にわたし達は普通の美人女教師なんだから」

と親指で自分を指しながら由紀は厳しく言う。

「う、

 うん……わかってる、

 わかってるけど……セラーチ……

 じゃなくて由紀だってわかるでしょ?

 あの姿になった時の気持ちよさ、

 そして開放感……

 だからどうしてもあっちの方に心が行っちゃって……

 ついついなりきっちゃうのよ。

 それに、

 前にもこんな事があったような気がして……」

そう言って軽く舌を出して見せる。

「やれやれ……

 まったく、

 胸以外はおとなしめと思っていたあなたの中にあんな性分が潜んでたなんて……

 誘ったの間違えたかな……

 と言うより前にも…?」

気持ちが少し落ち着いたのか少し顔を赤くする香織に対して改めてため息をつき、

ふと首をかしげる由紀。

そこへ……

「!」

「!」

携帯の着メロが響くや二人ともメールを開く。

「これは……“トレーナー”からの連絡!

 いよいよわたし達の出番よ!」

「やった!

 元の姿に戻れるっ!」

「香織……とにかく出番よ!……

 今度“トレーナー”に相談した方が良いかな……」

「はは、

 ごめん由紀、

 早く行くわよ!」

そう言いながらも二人は部屋を後にする。


町内の一角。

そこで五色の仮面を被ったバニーガールが死闘を終え安堵の中にいた。

そこに……

「キャッ!」

彼女達の足元の地面に背びれらしきものが浮かんだと思うと、

バニーガールの一人が突然地中に引きずりこまれた後空高く投げ飛ばされる。

「な、

 何っ?」

「奴らの新手なの?」

辺りを見回すバニーガール達だが、

別のバニーガールが今度はまた足元から何かに足を取られてなぎ倒される。

「誰だーっ!

 出てきやがれ!」

かわいらしくも男のように荒い口調で赤いバニーガールが叫ぶが、

その足元から二つの影が立ちあがる。

「やっ!」

「はっ!」

すかさずバニーガール達が飛び掛かるが、

どの攻撃もその硬く弾力のある肌に受け流され、

直後またしても吹き飛ばされる。

「まったく、

 この場は名乗りくらい上げさせても良いのにね」

「こう言う場合は別にそんなの良いわよ……」

やれやれとため息をつくサメ型獣人に対してうきうきとした声を上げるワニ獣人。

そして改めてポーズをとる。

「サメ女とワニ女……サメ女、

 いや酒江先生は助けたはずなのに……」

バニーガールの一人がやや呆然とした顔で言う。

「別人かも知れないけど、

 ゴーストバグがこんな手で来るなんて…みんな、

 もう一頑張り行くわよ!」

獣青いバニーガールがそう言って構えを取る。

その周りを立ち直ったバニーガール達が取り囲む。

「ゴーストバグ…

 わたし達はそんなダサいキャラじゃないわ。

 わたしの名は獣人戦士ビースティ・セラーチ!」

「そしてわたしはビースティ・ダイル!

 バニーエンジェル、

 あなた達を指導してあげる!」

背中を合わせてそう叫ぶ二人の獣人戦士に疲弊した体を震わせながら向き合うバニーエンジェル。

彼女(+彼)達の戦いはもう少し続きそうだった。


その光景を物陰から見つめていた“トレーナー”は静かにつぶやく。

『……どうやら第一段階はうまく行きそうね。

 あの二人がどこまであの子達を鍛えてくれるか、

 そしてあのチョーカーを得るにふさわしいレベルになってくれるか……

 時間は少ないけど待つしかないわね……』

トレーナー=ラビは鍵屋から借りた変身ケープで救出した女性=由紀を改めて”正義のサメ女(苦笑)”に変身させ、

かつて彼女にワニ女にされていた香織と共にバニーエンジェルの心身の鍛錬を行なう

いわゆる【実地訓練役】をして相手させると言う強攻策に出たのだった。

一方それとは別に素顔の二人にプライベートでのエンジェル達の精神的な指導をさせる別計画、

通称「暮らしの中に修行あり作戦」もラビの脳裏には浮かんでいる。

ゆくゆく五人がふさわしいレベルになればあの二人は「倒され」、

エンジェル達はチョーカーを手に入れると言う段取りにはなっているがその結末はラビ自身にさえわからない。

そんな思惑を他所にバニーエンジェルと

ビースティーチャーの壮絶な「実践稽古」の第一時限目が始まったのであった。



おわり



この作品はカギヤッコさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。