風祭文庫・ヒーロー変身の館






「バニーエンジェル」
−クモ女の企み−
(後編)



作・ボール(加筆編集・風祭玲)


Vol.T-200





「おい。

 圭子。

 大丈夫か。

 しっかりしろ」

レッドの声に気を失っていた圭子は目をさます。

「えっ、あっ、なに。

 どうしたの」

「もう大丈夫だね

 早く逃げて。

 ここは危険だから。

 それじゃ、私は行くから」

「まって」

圭子は体を起こすと行こうとするバニーレッドを呼び止め、

そして、

「中にまだ大勢の人が捕らえられているの

 助けてあげて」

と捕まっている人のことを告げた。

「解ってる。

 心配しないで、

 必ず助ける」

その声にバニーレッドは力コブを作ってそれに答えると、

「それと…」

圭子は言い淀むが意を決したかの様に続け、

「隼人が…、

 大切な幼馴染も捕まってるの。

 ついでいいから助けてあげて」

と告げた。

それにもバニーレッドはうなづくと

茂みの奥へと姿を消した。



「レッド・ランス!!」

バニーレッドが手にした短い棒が

かけ声と共に一振りの槍へと姿を変え、

襲いかかってくるクモ姿の戦闘員達をまとめて薙払う。

『ああっ!

 私の子供たちが!!

 よ、よくもやってくれたわね。

 絶対許さないんだから!!!』

それを見たクモ女は怒り心頭になると、

巨体を揺らしながらバニーレッドに襲いかっかってきた。

間隔を揃えず巧みに左右のパンチを繰り出すクモ女に対して、

バニーレッドもまたすり抜けるように左右に交互に跳んで避け続ける。

そして、攻撃の隙をつきバニーレッドのパンチがクモ女に突き刺さると、

クモ女はその攻撃に耐えさらに攻撃を仕掛けてきた。

風きり音と共にクモ女の右のパンチがバニーレッドに襲いかかり、

間一髪、バニーレッドは左に跳んで避けるが、

強気のクモ女は左のパンチを繰り出し再び襲いかかった。

刹那

バニーレッドは真上に跳んでかわした。

だが、そんなバニーレッドをもう一対の腕が襲いかかり、

両手を組み合わせ真上から叩きつけた。

その一撃がバニーレッドを的確に捕らえた。

バニーレッドは凄い勢いで叩きつけられ地面が陥没する。

「うっ!」

だが、クモ女はそこで攻撃を緩めずに

さらに四本の腕で連続パンチをあびせた。

『あはっ!

 あはっ!

 あははははははははっ!』

クモ女の容赦ない攻撃に

ついにバニーレッドはピクリとも動かなくなってしまうと、

『あんたをあれの代わりに我が子のゆりかごにしてあげる』

クモ女はバニーレッドに糸を吹きかけ繭を形作ってゆく。

そして、

『さぁて、卵を産みつけたら終わりだわ』

とクモ女が自信満々に告げた時、

『イエロー・ボンバー!!!』

の声と共にバニーイエローの一撃が

バニーレッドに卵を産みつけようとしていた

クモ女の体に見事に炸裂した。

『ぐわーっ!

 なに!

 いったい何なの』

『イエローキック!!』

混乱しているクモ女にさらなる一撃が浴びせられ、

クモ女はたまらずに倒れ込んでしまった。

そして、

『レッドを離しなさい』

クモ女の目の前に現れたバニーイエローは指示をすると、

『黄色い子ウサギめ。

 許さないんだから

 ゆるさないんだからー』

クモ女は糸の固まりを連続で吹き付けてくる。

だが、バニーイエローはそれを左右への細かいステップで避けると、

徐々にクモ女との距離を縮める。

そんなイエローに向かってクモ女は牽制の糸を四本の腕から放つが、

バニーイエローは僅かな挙動でかわしながらさらに近づいてゆく。

『イエロー・ボンバー!!』

バニーイエローの攻撃は次々とクモ女にヒットするが

だが倒すまでは至らない。

クモ女は四本の腕を引き戻す。

するとその先には大きな岩が張り付いていた。

気が付いたバニーイエローは大きく跳んでかわす。

クモ女はバニーイエローに対して岩による連続攻撃を仕掛ける。

バニーイエローはかわしながら攻撃の隙を見つけようとするが、

時々混じる糸に阻まれてうまく行かなかった。

避け続けるバニーイエローの脚が突如止まってしまう。

交わし続けたて地面に落ちていた糸の固まりに脚をとられてしまったのだ。

その隙を逃さず岩が襲いかかる。

バニーイエローはそれを避けきれずまともに受けてしまう。

クモ女はさらなる攻撃を加える為に飛び上がり体当たりを食らわし、

さらに執拗な攻撃を続ける。

クモ女の猛攻についに動かなくなってしまった

バニーイエローを糸でくり付けつり下げてしまった。

『ゆるさない。

 ゆるさない。

 ゆるさない。

 ゆるさない』

クモ女は吊り下げたバニーイエローを狂った様に殴り続けた。

そしてその剣を振りかぶりバニーイエローに突き刺そうとしたその時、

場に声が響いた。

『いいかげんにしろ!!』

怒気の込められた声が辺りに響く。

『お前は絶対に許さない!!』

『な、何者。すっ、姿を現しなさい』

そう叫び返すクモ女の声には恐怖の色を帯びていた。

『レ、レッド!?』

バニーイエローは苦痛の中呟きをもらす。

クモ女はその声にもはや動かなくなっていた糸の塊を見つめる。

と、その時、

塊が膨れ上がったかと思うと中から飛び出した炎が全体を包み込み、

そして瞬く間に糸を灰と化してゆく。

残された炎の塊がふっと掻き消すように消えるとその場には、

バニーエンジェル・バニーレッドの姿があった。

バニーレッドの姿は淡く輝き歩くたびに起こる炎の揺らめきが、

まるで残像のように見える。

何の予兆も見せずにクモ女により放たれた糸の束は、

再びバニーレッドを包み込もうとする。

けれど、もうその糸はレッドの触れることはおろか

近づくことさえできなくなっていた。

全て瞬時に燃え上がり、

灰すら残さず消え去ってしまうのだ。

『止まりなさい。

 止まらないと…

 この黄色い子ウサギをひねりつぶしてしまうわよ』

クモ女はそういってバニーイエローをさらに締め上げる。

『レッド!!

 あたしにかまわずやっちゃって』

バニーイエローが苦痛に声をゆがめながら叫ぶ。

だが、

『レッド・ランス!!』

バニーレッドは一振りの槍を手にすると無造作に振るう。

するとバニーイエローを縛っていた糸が燃え上がり、

戒めから開放され、

落下するバニーイエローをバニーレッドが支える。

『大丈夫、イエロー』

バニーレッドが声をかける。

『大丈夫よ、ありがとう』

バニーイエローはその声に答えるかのように支えを離れ立ち上がる。

『それから

 2度とあんなセリフは言うな。

 俺は誰も犠牲にしないし、

 誰も犠牲にさせない。

 自分を義背にして誰かを助けようだなんて絶対に認めない。

 みんなが助かる方法を考える。

 それが大前提、わかった?』

『わっわかったわ。

 誰も犠牲にしないし、誰も犠牲にさせない。

 そして、

 みんな生き残って決着をつける』

二人のその様子を見たクモ女は

その巨体をじわりじわりと後退させ始めていた。

だが、

『逃げるなよ、

 後はあんたの始末だけだ。

 今までの礼、たっぷりさせてもらう』

見逃さずバニーレッドは手にした槍でクモ女を指して言うと、

『そうね、

 大切な人が巻き込まれてしまった礼はきちんと返さないとね』

怒りのおかげか、

力を回復したイエローは全身をわずかに輝かせながら

クモ女を睨みつけた。

と、そのとき、

『イエローちゃん

 これを使って』

突如あわられたラビがイエローに2つの指輪を渡し、

『それぞれ中指にはめて

 「イエロー・ナックル」って叫んで』

と使用法を伝えた。

イエローは言われたとおりに指輪をはめ、

『イエロー・ナックル!!』

と叫ぶ。

すると、指輪が輝いたかと思うと

両手を覆う硬質なボクシンググローブへと変化した。

『他にもいろいろ変化するけど

 今のあなたの気分には

 これがピッタリだと思って

 あっ

 もうひとつ教えておくわね

 「イエロー・クロウ」って叫ぶとね

 それにつめが生えて切り裂けるようになるから』

『なあ、なあ、ラビ。

 俺のレッド・ランスは他に変わらないのか』

『あんたのはいいのよ

 それだけでも十分に恐ろしいんだから

 そうそう

 ここはとりあえず

 二人でお願いね

 他の三人も厄介なやつの相手してるからこれないわよ』

『わかったわ、ラビ。

 そういうことならよろしくね』

イエローは両の拳を打つけながらそう返事をし、

『これありがとう』

と付け加えた。

『それじゃ向こうの三人も心配だから行くわね、

 じゃあね』

『さあ、さっさと片付けて三人の援護に行かなきゃ』

作戦タイムを終えたバニーレッドはレッドランスを構えると

全身に時折炎をはしらせながら強く輝かき始め、

『そうね、

 あっちのほうが厄介らいいから

 すぐに駆けつけないとね』

一方、バニーイエローは、

イエロー・ナックルを構え全身に時折稲妻をはしらせながら

同じく輝き始める。



『えぇいっ!

 子供達っ!

 あの子ウサギ共を何とかなさい!!』

クモ女の一声が上がり、

瞬く間に100体近いクモ姿の戦闘員達が集まってくる。

みな一様に眼を光らせ、武器らしきものを手にしている。

中には先ほどバニーレッドがなぎ払った者なのか、

傷がある者もいる。

『普通の戦闘員達より強くなっているみたい。

 ちゃんと消滅させないと、復活してくる』

『じゃあ、確実に1体づつあたらないとね」

それを見たバニーレッドの忠告に、

やる気満々のバニーイエローが答える。

すると、

まるでその時を待っていたかのように

戦闘員達が一斉に襲い掛かってきた。

シュ!

すかさずバニーレッドは4本の剣を手に持ち、

向かってきた2体の戦闘員をジャンプで躱わし、

その後ろの戦闘員に向かう。

バニーイエローは躱わされた戦闘員に対して

渾身のボディーブローを次々に叩き込む。

バニーレッドに気が付いて身構えた戦闘員越しに

さらに後ろの戦闘員にランスを投げ、

身構えた戦闘員に対してほぼ真上からのキックを食らわせる。

着地してランスを引き抜くと4対の戦闘員が溶けるように消える。

この間わずか30秒。

『さーて、それじゃあ』

『本格的にいきますか』

そう言うと2人にバニーエンジェルは、

戦闘員の中に踊りこんだ。



約10分後、全ての戦闘員は消え去っていた。

『ぜっ全滅だってぇ!!

 100人のあたしの子供達がぁ

 たった10分でぇ

 そんなああああああああああああ!!!

 私の子供達がぁぁぁぁぁぁ!!!』

クモ女は一頻り泣き叫んだ後、突然黙り込む。

そして…

『そうよ、

 弱い子供はいくら産んでも仕方が無いわ。

 もっと強い子を産めばいいのよ。

 幸い餌はたくさん有るんし、

 栄養がたっぷりそうなやつもいるし

 次に母になる時は、

 きっと強い子が産めるわ。

 そのためにも、一旦女に戻らないと……」

そう言うとクモ女の胸が裂け、中に人影が見えた。

2人のバニーエンジェルはその隙を見逃すまいと技を放つが、

何かにはじかれたように届かなかった。

『慌てるんじゃないよ』

そう言うとその人影は、

クモ女の中から抜け出した。

その姿は、大柄だが均整のとれた体型をしている女性だった。

身長は2mほど、顔は飛び切りの美人ではなかったが、

すれ違えば話題になりそうな顔立ちをしている。

髪は眺めのストレートで、

全身をエナメル製のボンテージに包んでいるように見える。

手足は1対づつ。

残りのクモ然とした残りの2対は

腰の後ろへと折りたたまれていた。

『再び母となるには沢山の栄養が必要なのさ』

ちらりと繭にとらわれて人々を見やり続ける。

『まぁもっともあの栄養だけでも、

 母に戻ることはできるんだけどさ、

 強い子を産むにはもっと栄養が必要なのさ。

 この責任はきっちりとってもらうからね』

新クモ女は、

先ほどのとは比べ物にならないスピードで向かってきた。

しかし、人々を餌扱いした発言に

三度怒りをたぎらせたバニーエンジェルは、

そのスピードに対応していた。

だが、新クモ女の蹴りや拳は非常に重く

徐々にダメージが積み重なってくる。

一方バニーエンジェル達の攻撃も

また着実にダメージを与えていた。



新クモ女は、バニーイエローを弾き飛ばす。

そして、一人となったバニーレッドに攻撃を集中する。

バニーイエローはその背中へと攻撃を加えようと向かってくるが、

新クモ女は防戦一方になっていたバニーレッドを蹴り倒し、

バニーイエローにその矛先を変える。

今度は、バニーイエローが集中攻撃を受けていた。

一度連携をはずされてしまってからは、

新クモ女の巧みな攻撃により再び連携を取ることができなくなっていた。

そして、あせりからかその齟齬は大きくなってゆく。

けれど、

新クモ女の慢心か

バニーエンジェル達の疲れがそうさせたのか、

徐々にではあるが、

バニーエンジェル達の攻撃の連携が取れ始めていた。



後ろから首をしめようとしていたバニーイエローを

2対のクモの脚で締め上げ、

そして、背中越しに頭をつかみ、

助けに向かおうとしていたバニーレッドに対して投げつけ、

受け止めたところへタックルを食らわせる。

バニーレッドはたまらず地面にたたきつけられ、

バニーイエロー再び中を舞う。

空中のバニーイエローに追撃を食らわせようと

ジャンプした新クモ女は途中で引き戻される。

バニーレッドは倒れながらも

レッド・ウィップを新クモ女の足に絡ませていた。

バニーイエローは天井に対してイエロー・ボンバーを放ち、

その衝撃を利用して新クモ女へと向かう。

バニーレッドは体勢を崩した新クモ女を渾身の力で引き寄せ

地面へと叩きつける。

そこへバニーイエローが

空中から渾身のイエロー・ボンバーを食らわせる。

その衝撃から逃れるように新クモ女から離れて合流し、

乱れた息を整える二人。

一方、全身傷つき乱れた息を整えることもできない様子で

何とか立ちあがる新クモ女。

何とか息を整えた新クモ女が向かってくるが

明らかに先ほどまでのスピードは無かった。

そして蹴りや拳も先ほどまでの威力はなく

バニーエンジェル達に確実に捌かれてゆく。

着実に、そして一方的に新クモ女へと積み重なるダメージ。



バニーイエローが腹部へと当てた打撃は新クモ女の動きを止めた。

下がった上半身に、バニーレッドは回し蹴りを叩き込む。

新クモ女はそのままの体勢のまま飛ばされるが、

渾身の渾身の力で体を止め崩れ落ちることだけは防いだ。

バニーレッドは再び降伏(新クモ女に対しては初めてだが)を勧める。

だが新クモ女はその勧めには乗らず

(と言うよりは聞いていないようであった)

なにやら見つけたらしくニヤリとした。

そしてまたもや向かってくる。

何やら不吉なものを感じ身構えるバニーエンジェル達。

新クモ女はバニーエンジェル達と接触する寸前で方向を変え、

自ら脱ぎ捨てたクモ女の体に取り付いた。

そしてその体に手を突っ込み肉を引きちぎり口にして租借を始める。

やがて直接食らいつき食べ始める。

バニーエンジェル達はあまりもの光景に言葉を失う。

不気味な租借音だけがあたりに響く。

『なにしてるんだ……いったい』

ようやくバニーレッドが戸惑いを口にする。

『きゃははははっ。

 栄養だよ、え、い、よ、う。

 母だったこの体にはたっぷり栄養が詰まってるからね、

 もったいないじゃないか』

やがて、新クモ女は自らの体だった物の腹を切り裂き

卵を取り出し齧り付く。

『これなんか特にうまいね〜。

 栄養もだっぷりあるし、サイコーだねぇ』

『もうやめろ』

バニーレッドはレッドランスを手に

新クモ女を止めようと向かってゆく。

『じゃまをおしでないよ!!』

無造作に払われた手に弾き飛ばされ地面へと叩き付けられる。

明らかに先ほどより力が増しているようだった。

『レッド!』

バニーイエローは叩き付けられたバニーレッドに掛けより

助け起こす。

『なんで……なんでそんなことを』

バニーイエローも戸惑いながら新クモ女を見た。

『おかしなこと聞くねぇ。

 自然の中ではあたりまえのことだろう。

 親でも兄弟でも子供でも、

 死んじゃえばただの肉の塊さ』

攻撃するもの忘れていたバーニーエンジェル達だったが、

その顔は怒りと悲しみが複雑に絡み合った表情を浮かべている。

確かにそうなのだろうが、

人の言葉を話す者にそれを行われるのはつらかった。

やがて2人の体が輝き始める。

バニーイエローが放ったイエロー・ボンバーは、

食べることに夢中になっていた新クモ女に当りしたいから弾き飛ばす。

そこへバニーレッドのレッド・ウィップが

死体を炎で包み込み灰へと変えてしまう。

『あぁ

 せっかくの餌を。

 何してくれるんだい』

新クモ女が最高潮のスピードで向かってくて、

矢継ぎ早に攻撃を仕掛けてくるが、

バニーエンジェル達はそれを意に介せず逆に打撃を決めてゆく。

瞬く間に新クモ女は先ほど以上のダメージを負い

フラフラになってしまう。

『「これで、とどめだ」』

二人の声が静かに重なる。

バニーイエローのイエロー・ナックルが

新クモ女の姿形が変わるほどの量叩き込まれ、

そこへバニーレッドのレッド・ランスが、

左右袈裟懸・幹竹割・真一文字

(\/|―の順に切り裂いた)

に切り裂いた。

そのかけらは爆発することも無く

地面に落ちる前に空中で溶けるように消えてしまった。

それが、新クモ女の最後だった。



二時間後、二人はようやく最後の人を運び出していた。

『さて、これで最後だね』

バニーイエローは繭に包み込まれた人を解放しながら言った。

『そうだな』

バニーレッドは解放した人を公園に寝かせながら答える。

『そういえば、レッドは何でこんな所にいたの?』

『あぁ。

 何でかって、

 あ、そうそう。

 お、幼なじみが捕まっちゃてそれでね』

バニーイエローの質問にバニーレッドは少し慌てながら答える。

『そうなんだ…。

 で、無事だったんだよね?』

それを聞いたバニーイエローは心配そうに訪ねた。

『それは、大丈夫。

 最初の方に助けたから……。

 ところで』

バニーレッドはバニーイエローのそばに近づきながら尋ねた。

『イエローはどうしてここに?』

バニーイエローは体をピクンとさせ

慌てた様子で立ち去ろうとする。

『どうしたの?』

『急に心配になっちゃって

 じゃぁ私いくから』

そう言い残して、

バニーイエローは脱兎のごとく駆け出して消えてしまった。

『なんなのかね、あれ』

『さあ

 急用でも

 思いだしたんじゃない』

『あ、ラビ。いたんだ』

『えぇ

 あっちも終わったし』

『ふーん。そう』

バニーレッドは相づちをうつとその場で変身を解く。

そして、頭のカチューシャを外し、

「はい、これ返す」

そう言いながらカチューシャをラビに差し出した。

『いいのよ

 あなたが持ってても』

「へっ?」

『それ

 あなたのだから』

隼人は慌てて全身を探ると確かにカチューシャはなかった。

「どうやったんだよ、いったい」

深くため息を付きながら、

「おれ、帰るわ」

隼人はそうつぶやくと公園の出口へと向かって行く。

ラビはそれを見送りながら言った。

『相手が強くなれば

 貴方達も強くなるの

 けど

 貴方達が強くなるから

 相手も強くなるのかも………』



公園の出口には何故か圭子が待っていた。

「な、何でおまえがここにいるんだよ」

「なによ。心配だから来たんじゃない」

と、言ったきり二人はしばしにらみ合っていたが、

突然笑い出した。

「何だよ圭子その顔、土まみれじゃん」

「そう言う隼人も全身土まみれよ」

「なんか、いろいろ遭って遅くなっちゃたな。

 今度こそ送っていくよ、

 いろいろ物騒だし」

と隼人はかばんを持ちなおして圭子を促す。

「遅くなるとは連絡しておいたけど、

 そろそろ帰らないとね」

二人は公園を出て家へと向かった。

「なぁ圭子、

 なんか忘れているような気がしないか」

「えぇ!、

 隼人もなの」

「あぁ。なんだったかなー」

「気にしないほうがいいわね。

 思い出せないのはきっとたいしたことじゃないのよ」

「そうかなー。

 大事なことだったよう泣きがするんだけどなー」



次の日早朝、

新聞配達員が公園で倒れている多数の人々を発見して警察へ通報。

一時は何事かと騒然となった。

二人がそのことを知るのは朝のニュースの時間のことであった。



おわり



この作品はボールさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。