風祭文庫・ヒーロー変身の館






「学園の不死者」



原作・@wolks(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-357





日本一の最高峰を遠くに望み、

火山と湖水が織り成す風光明媚な県境域に広がる

超時空要塞都市・第三新沼ノ端市。

毎年お正月恒例の駅伝競走の終着点となている

この街に沼ノ端高校は存在し、

学内の平和を守るスーパーヒーロー集団

「ぷりきゅあふぁい部」

があることで有名だった。

だが、この学校には別の集団、

とくに夜に置いて活動するサークルがあることを知っているものは少ない。



きーんこーんかーんこーん

学校にチャイムが鳴り響く。

それと同時に担任の数学教師が入ってきた。

「おはようございます」

生徒たちは挨拶する。

「はい、おはよう。

 って、

 あら、亜門(あかど)さんは今日も遅刻かしら…」

担任の教師はクラスの生徒を確認すると

一つの机にその主が居ないことに気が付くと、

がらがらがらがら…

「遅れてすみません」

哀れふためきながら一人の女生徒が入ってきた。

「亜門さんまた遅刻ですか?

 今日で何度め?

 遅刻した理由は?」

「え…っと、

 何度目って、

 もう忘れちゃいましたし、

 理由は…

 その、出会いがしらにぶつかってしまった人と、

 入れ替わってしまいまして、

 元に戻るためにアレコレしていましたので」

と理由を言いながら女生徒は照れ笑いをしてみせる。

女生徒の名前は、

亜門優依奈(あかど・ゆいな)

黒髪の長い髪に大きな二重瞼をしたかわいらしい少女だ。

彼女は何回も遅刻をするのは当たり前。

授業中もボーっとしていることが多く、

用事を任されてもどこかでミスしてしまう。

体育の時間に走ろうとしてもすぐにずっこけてしまう。

おまけにミスをしても

「てへっ」

みたく照れ笑いをしたり、

女の子たちの話についても独自の解釈をして笑わせたり、

天然系ドジっ子としてのキャラを確立していた。

「そういうことなら仕方が無いわね、

 まあ、いいわ。

 亜門さん席について」

担任教師はなかば呆れたように溜息をついた。

「最近巷では、

 中学生や高校生が相次いで襲われる事件が多発しています。

 皆さんも気をつけましょう」

一通りの連絡事項の後に教師は付け加えた。

「じゃあ、積分先生は?」

男子生徒がふざけて担任の名を呼ぶ。

「う、うるさいわね!

 どうせ襲われないわよ。

 とくに亜門さんは気をつけなさい」

「は…はい」

優依奈は小声で返事をした。

さて、最近巷で起こっている事件とは…

沼ノ端高校のある

第三新沼ノ端市内で

とある中学校に一人の転校生が来たことから始まる

その生徒は学校を休みがちで、

来ても雨や曇りの日だった。

晴れの日に来ても夜明け前に登校し、

夕方以降に帰宅するという日が多かった。

そしてその中学校で一人の女生徒が失踪した。

生徒が何人か失踪したころ、

命からがら逃げてきた一人の女生徒が、

口から血を滴らせた転校生を見たという話をした。

その話を聞いた数人の教師が転校生のもとを訪れた。

そして…というないようのものであったという。



その夜…

煌々と満月が輝き、

小さな星たちがきらきらと光る夜。

長い黒髪をポニーテール状にした一人の少女が歩いていた。

「とてもいい夜ね。

 こんな夜は…うふふふふ」

少女は黒いマントを羽織り、

まるでビキニの水着を思わせるような

露出度の高い黒い衣装を身にまとっていた。

そして、月影に照らされた彼女のルックスは最高のプロポーションだ。

そのころ、

一人の男子生徒が別の中学校の制服を着たおさげ髪の少女に襲われていた。

「あなたもあたしたちの仲間になってもらうわ」

「なんだ貴様は…

 俺はそんな怪物になんかなりたくないぞ!」

男子生徒は必死に抵抗する。

「問答無用…

 あたしの正体を知ったからには、

 あたしの僕になってもらうわ。

 それに、

 あたしは自分に忠実な僕さえ作れればどうだっていいのよ。

 自由意思で動く怪物の作り方なんか知らないし…」

そう、その女生徒は一連の事件の犯人だった。

彼女は同級生をはじめとして学校の教師、

さらには他学校の男子生徒にまで

自分に忠実な吸血鬼や怪物に作り替えていたのだ。

彼女、いや吸血鬼は男子生徒にまさに牙を当てようとしていた

「やめろおおおお」

男子生徒が目をつぶったその時…

「そこまでよっ!」

一人の女性の声が響いた。



「誰…?

 あらまぁ、

 そんな格好して、

 どっかの風俗嬢かしら?」

おさげ髪の吸血鬼と男子生徒の前に立っていたのは、

露出度の高い衣装を着たポニーテールの黒髪の美少女だった。

「あたし?

 あたしの名は亜門優依奈。

 沼ノ端高校の生徒よ」

その美少女は亜門優依奈だという。

「その子はあたしの高校の後輩よ。

 その子はあんたの好き勝手にはさせないわ」

優依奈はおさげ髪の吸血鬼に

「(本当だ。

  亜門先輩だ…

  いつもドジばかりしてることで有名な…)」

実は男子生徒の名前は瀬良勝利(せらかつとし)。

沼ノ端高校の1年生だ。

だが、勝利は眼の前にいる優依奈に対して

昼間の天然系ドジっ子のものとはまったく違う印象を抱いた。

「気に入らないわね。

 まずはあんたから死んでもらうわ」

そう言うと

おさげ髪の吸血鬼は持っていたロープ付きのナイフを優依奈に投げつけた。

そして、ナイフは優依奈の左胸。

ちょうど心臓に突き刺さったようだ。

そして、

そのロープを引っ張ってナイフを心臓から抜き、

周囲には大量の血が飛び散った。

「きゃあああああああ」

そう叫びながら優依奈は倒れこんだ。

「さぁて、

 邪魔ものもいなくなったことだし、

 ゆっくりこの男の子を食べないと」

勝利は今度ばかりは絶体絶命と思った。

だが…

「…このまま死ぬと思ったの?

 馬鹿なの?…」

「何?」

おさげ髪の吸血鬼の目の前には、

大量の出血をしたはずなのに、

ゆっくりと立ち上がる優依奈の姿があった。

「何だ…あんたまさか吸血鬼?

 だけど、なんで吸血鬼があたしを襲うわけ?」

おさげ髪の吸血鬼の顔は一瞬ひきつった。

「あんたみたいなクソガキが

 やりたい放題暴れまわってると困るのよ。

 あんたみたいなことやってたら人間なんてすぐ絶滅よ。

 …それに、

 あたしはいろいろ込み入った事情で人間たちには逆らえないのよ」

優依奈はおさげ髪の吸血鬼の前に、

隠し持っていた拳銃を向ける。

「この銃の中にはね、

 妖怪を一発で倒す銀の銃弾が入ってるのよ。

 あんたみたいなザコだったら、

 一発でやっつけることが出来るわ」

「させるかっ…」

おさげ髪の少女は勝利を銃の前に出した。

「問答無用!!」

優依奈はそう言いながら引き金を引く。

「うわっ」

「ぐぎゃああああああああああ」

弾丸は吸血鬼に命中し、

吸血鬼はたちまち消滅した。

だが…

弾丸は運悪く勝利の急所に当たってしまったようだ。

「あいつを殺すために、

 あなたの急所を撃った。

 このまま生き残っても男としてはやっていけないわね」

「…そ…そんな…」

勝利は何を思っているのだろうか?

「どう…?

 瀬良君、あたし達の仲間にならない?」

その顔はまるで男を誘惑するような、

妖艶な美女の顔だった。

そして、その顔に勝利は惑わされてしまったようだ。


一方そのころ。

沼ノ端高校のそばでは二人の巫女装束のが話していた。

一人の巫女は普段は沼ノ端高校の保健医をしている柵良という女性だ。

彼女は数多くの妖怪を封印してきた神社の出身で、

数多くの鬼にかかわる事件を解決してきた。

「最近、やたらと吸血鬼や妖怪が出てくるようになりましたからね。

 鬼は鬼でも、

 吸血鬼やそれに準じる怪物を退治してもいいのではないでしょうか?」

「そうじゃのぅ…

 随分と物騒な世の中になったからのう。

 もはや私やぷりきゅあふぁい部の者達の手に負えないような

 事件ばかり起こる予感はしておったが

 だから私は後輩であるお前をここの教師に引き抜いたのだ」

「ありがとうございます。

 柵良先輩」

もう一人の巫女、

それは奈良久美子。

積分先生と呼ばれている、

そうあの数学教師である。

「それに、

 吸血鬼に対して警察とか

 ヒーローたちを導入しても奴らに餌を与えるようなもの。

 お札とかそういうものを使っても

 そう簡単に封印できるものでもありませんしね。

 私の実家…”奈落の歌”では

 吸血鬼に対しては吸血鬼を使うしかないと研究していましたから」

久美子の実家は表向きは小さな神社であるが、

裏では”奈落の歌”という機関を立ち上げて

吸血鬼に対抗してゆく方法を考えていたのだ。

「それにしても、

 久美子もなかなかやるの。

 自らの兵器を学校に忍ばせておくとは…」

「いえいえ…」

談笑する二人の前に、

優依奈と勝利が現れた。

「いま戻ったわ。

 あのおさげ髪の吸血鬼に襲われた生徒は…

 残念ながらほとんど全滅ね」

優依奈はやや悲しそうな眼で報告した。

「あれ?

 この子、瀬良君じゃない。

 瀬良君は助かったんじゃないの?」

久美子は尋ねた。

「…いいえ、

 死んでるのよね…てへっ!」

優依奈は照れ笑いをした。

よく見ると勝利の胸は膨らんでいるようだった…

「なんてことしてるのよ!

 まったく!!」

久美子は優依奈を大声で怒鳴った。



おわり