風祭文庫・ヒーロー変身の館






「TG作戦を粉砕せよ」



原作・nao(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-259





人里から遠く離れた”とあるダム湖”

どれくらい遠くにあるのかというと、

首都圏から新幹線に揺られること約2時間。

降り立った駅から在来線のロカール電車に乗り換えて約30分。

さらに分岐駅からディーゼルカーに乗り換えて1時間半かかったところにある文字通りの秘境駅。

その秘境駅の目の前に目的地であるダム湖が広がっているのである。

冬になると降り積もる雪によってすべてが閉ざされるそのダム湖の畔に、

「大佐、準備が完了しました」

と威勢の良い声が響き渡ると、

「じゃあ、ダムにTG液を流し込むのよ」

鞭を手にし軍服姿のゾラ大佐の指揮の下、

TG作戦が決行されようとしていたのである。

…説明しよう、

 TG作戦とは男を女、女を男にしてしまうと言う恐るべき作戦であり、

 その作戦の鍵を握るTG液はとある町外れでひっそりわき出ていると言われる

 男を娘にしてしまうと言う”娘溺泉”

 娘を男にしてしまうという”男溺泉”

 と原料に作られているのだが詳しい工程はトップシークレットとされているのであった。



タップンッ!

持ち込んできたタンクの中で揺られているTG液を見ながら

「こんな事して世界征服などできるのか」

とゾラは思いながら空を仰ぎ見る。

すでにダム湖の周りには白いモノがうっすらと降り積もり、

ゾラの口から白い息がこぼれ落ちるが、

「なぁ、今度の列車が最終らしいぜ」

「次は春まで無いんだって」

「それ乗り逃がしたら歩いて山を越さないとならないそうだよ」

「八甲田山の行軍をマジでやる気はないよ」

「こんな山の中で遭難なんてしなくないな」

「だから、さっさと終わらせようぜ」

と身を切る寒さに震えながらささやく”下っぱ”達の声が聞こえてくると、

「オホンッ」

そんな”下っぱ”達に注意を促すようにして大きく咳払いをしてみせる。

そうゾラ大佐こと扇田知美は扇田グループの総帥であり、

ボッカーの首領でもある扇田剛史の一人娘なのだ。

彼女は父からお小遣いを貰うためにボッカーの幹部として働いているのだ。



とそのとき、

パォォォン…

突然、秘境駅の目の前で口を開けているトンネルの中からタイフォンの音が響き渡ったのである。

「イーッ!」

突然のタイフォンに”下っぱ”達は皆一様に驚き、

「やっべぇぇ!!!!」

「列車が来ちゃったよ!」

「大佐ぁ、

 さっさとTG液をぶち込んでください!」

「すぐに帰り支度をしないと!」

と皆が一斉にあわてふためき出す。

「えぇ!

 もぅ来ちゃったの?

 そんな、まだ時間があると思ったのに」

突然の事態にゾラはあわてて時計で現在時間を確かめたあと大急ぎで時刻表を取り出しめくり始めるが、

その間にもトンネルの中がライトの光で溢れ、

ゴォンゴォンゴォン!!!

列車が接近する音が響き始める。

そして、

「うわぁぁぁ!」

「急いでホームに行けぇぇぇ!」

「列車に乗り遅れるぅぅぅぅ」

迫る列車の音に浮き足立った”下っぱ”達がついに動き始めると、

時刻表をめくるゾラを置いてきぼりにして、

一斉に駅に向かって掛けだしてしまったのだ。

「あっ待て!

 こらぁ!」

まるで蜘蛛の子を散らすようにして秘境駅に走って行く”下っは”達に向かって

ゾラは怒鳴り声を上げるが、

もはや誰もその声に耳を傾けず一人ぽつんと取り残されてしまうと、

「まったくぅぅぅ!!

 ごらぁ!!

 まだ仕事は終わってないのよ。

 戻って来なさい」

と怒鳴ったとき、

パォォォン!!!!

再び鳴り響いたタイフォンの音共に、

ギュォォォン!!

タタンタタン!!!

タタンタタン!!!

タタンタタン!!!

秘境駅のホーム横を流線型の列車が轟音と共に駆け抜けて行く。

そして、

「あぁぁぁぁっ…」

乗車のためホームの上に並んでいた”下っぱ”達が唖然としながら通過していく列車を見送っていると、

ガチャッ!

走り去る列車の最後尾のハッチが開き、

バォォォォン!!!

その中から派手な塗装とゴテゴテ・デコレーションを施した一台のクルマが勢いよく飛び出してきたのであった。

ォォォォン!!!

飛び出したクルマはエンジン音も高らかにそのままレールの上を走り、

ギョワァァァン!!

サーカスの曲芸運転のごとく秘境駅のホーム上へと駆け上がると、

列を作って並んでいた”下っぱ”達に向かって猛スピードでつっこんで来た。

「うわぁぁぁ!!」

暴走してくるクルマに追い立てられるようにして、

”下っぱ”達は一斉にホーム上から逃げ出すが、

グワッシャァァァン!!!

バォォォン!!

クルマは秘境駅のこぢんまりとした駅舎と改札口を躊躇いも無く木っ端微塵に粉砕し、

逃げる”下っぱ”をなおも追い立てる。

そして、

「ゾラ大佐ぁぁ!」

の声と共に”下っぱ”達は湖畔のゾラの元へと逃げ込んでくると、

「まったく…」

そんな彼らの姿を見てゾラはため息をつき、

そのままグッと腰を落した後、

両手を手首のところで合わせて構える。

そして、

「はぁぁぁぁ

 かぁ〜、

 めぇ〜、

 はぁ〜

 めぇ〜

 はぁぁぁぁぁっ!!!!」

のかけ声と共に、

ズドォォン!!!

と暴走してくるクルマめがけて気功波を放ってみせた。

次の瞬間、

カカッ!

チュドォォォン!!!

閃光と共にキノコ雲が立ち上っていくと、

ブワッ!

爆風がゾラが被っている帽子を飛ばしていくが、

キノコ雲が消えた後には無惨に吹き飛ばされた”下っぱ”達と、

直撃を受け動きを止めたクルマの姿があったのである。

「危ないじゃないか」

「死ぬかと思った」

「よく見てみればまたアイツかよ」

ようやく止まったクルマの姿に復活した”下っぱ”達が取り囲むと、

バゴンッ!

閉じられていたドアが派手に開かれ、

「俺、参上!!

 ふっ見事な攻撃だったなゾラ大佐っ」

の声と共に一人の男が降り立って見せる。

そう、彼こそ地球の平和を脅かすボッカーに敢然と立ち向かうヒーロー・仮面レーサーなのだ。

「はぁ、来たな、

 おじゃま虫」

「このぉ迷惑運転男、

 覚悟しろよ!」

「仮面レーサーだからってすべてが許される思ったら大間違いだ」

見得を切ってみせる仮面レーサーに向かって一斉にブーイングが浴びせられるが、

「ふっ、

 おまえらがヌルいんだよ。

 俺はいつだってクライマックスだぜ!」

と見得を切る仮面レーサーは一向に気に止めなかったのである。

…説明しよう

 仮面レーサーはあまりに乱暴な運転をするので、

 ボッカー内部では彼を「迷惑運転男」とか「暴走運転男」などと呼んでいるのである。



「ふふっ、

 仮面レーサー!!

 今日でお前の迷惑運転は終わりよぉ」

不貞不貞しい態度を取り続ける仮面レーサーに向かってゾラは声を上げると、

「ウェイクアァップッ!

 ジェンダーチェンジャー」

と声を張り上げるなり、

ピィィィ!!!

高らかに笛を吹いてみせる。

すると、

ムバッ!

瞬く間に辺りは真っ暗になってしまうと、

『お任せくださいっ、

 ゾラ大佐ぁぁぁ』

の声と共に空に浮かぶ月の上にコウモリの姿をした怪人・ジェンダーチェンジャーが現れ、

『暴走レーサーよ、

 お前を可愛い女の子にしてやる。

 純情男子の底力っ、

 受けてみなさいっ

 ジェンダー・性転換光線っ!」

の声を張り上げるなり、

シュピーッ

ジェンダーチェンジャーの触角から光線が放たれたのであった。

だが、

仮面レーサーが間一髪で光線を避けると後ろにいた”下っぱ”に当たってしまうと、

みるみる”下っぱ”の胸が膨らみ始め、腰がくびれていくではないか。

全身黒タイツ姿の”下っぱ”のボディラインが瞬く間になめらかな曲線を描いていくのを見ながら、

「どうなっているんだよ」

と仮面レーサーは驚くと、

『ははは、これがジェンダー・性転換光線の威力だ』

とジェンダーチェンジャーは胸を張ってみせる。

「おい、自慢してないで元に戻してやれよ」

『人の事より自分の心配をしろ』

”下っぱ”を心配する仮面レーサーに対して

勝ち誇るジェンダーチェンジャーはまた性転換光線を放ったが、

「イヤーン」

「お、女になりたくねえ」

彼が放つ性転換光線は全て”下っぱ”に当たってしまい、

女になっただけならまだしも、

大泣きする者やオナニーに嵌る者ばかりで戦闘ができる状態ではなかった。

「このボケ、下っぱ達を女にしてどうする」

『す、すみましぇん』

怒るゾラに鞭で叩かれた弾みでジェンダーチェンジャーの触角がずれてしまうと、

『仮面レーサー、今度こそ女にしてやる』

触角がずれている事に気かずにジャンダーチェンジャーは性転換光線を発射してしまったのであった。

そして、モノの見事にその光線がゾラに当たってしまうと、

「い、嫌、お、男になりたくない」

「ゾラ大佐」

胸が空気が抜けた風船のようにゾラの胸が萎んでしまうと、

体は逆に膨張しはじめてしまう。

そして瞬く間に服が破れ、

腹筋が割れてさらに手足が筋肉質もなってしまうと、

「アアー、この姿をあの方に見られたら生きていけない」

ゾラは勃起するペニスを押さえながら瞬間移動をしてしまったのであった。

「あぁ待って下さい、ゾラ大佐ぁ」

「一人だけ瞬間移動なんてズルイですぅぅぅ」

「あぁぁん、

 こんな山の中で放置プレイだなんてぇぇ

 あたし、燃えちゃう…」

と置いて行かれた”下っぱ達”はみな女の子走りをしながらゾラを追いかけていく、

そして、

『あっあれ?』

置いてきぼりにされてしまったジェンダーチェンジャーが一人困惑していると、

「覚悟しろ、ジェンダーチェンジャー」

仮面レーサーはそう言うなり、

ジェンダーチェンジャーに向かってレーサーキックを放って見せた。



戦いが終わり、

すべてが終わった仮面レーサーは大きく息を継ぎながらヘルメットを脱いで見せると、

「今日も楽勝だったが、

 なぜだ、この空しさは…」

と仮面レーサーは戦いが持つ理不尽さに胸を痛ませてみせる。

すると突然、携帯電話の着信音が鳴り、

「勝也、どこにいるのよ」

「母さん」

「お前は父さんに似てすぐいなくなるんだから」

「はいはい、すぐ帰るよ」

と会話を始めたのであった。

仮面レーサーこと渡勝也は高校生として学業に勤しむ一方、

父親の遺した強化スーツを着てボッカーと日夜戦っているのだ。

一方、扇田邸では、

「アアー、勝也様にあんな姿を見られたら生きていけませんわ」

ゾル大佐こと知美は性転換光線の効果が切れて元に戻ったが、

彼女の受けた心の傷は思った以上に深かったのである。

そして、彼女が好意を抱く勝也こそ仮面レーサーだとは知る由もなかったのであった。



ところで、

ヒュォォォッ

雪がしんしんと降り続く湖畔にはTG液が詰め込まれているタンクが放置されているのだが、

一体これは誰が処分するのだろうか…



おわり



この作品はnaoさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。