風祭文庫・ヒーロー変身の館






「古墳の地下」



原作・inspire(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-250





とある地球の…

とある大陸の…

その東のはずれにある”とある島”のちょうど中心部。

そこには島を東西に分けるようにして大地が切り裂かれた

フォッサマグナとよばれる大地溝帯があり、

さらにちょうど真上に当たる地域にひとつの古墳があった。

誰が名づけたか知らない”大塚”と呼ばれる古墳があるのは、

そのフォッサマグナのさらなる中心部であり、

まさにその古墳はこの島の中心であった。



さて、紹介はこれくらいにして

その古墳に一人の少女が迷い込んだところから物語は始まる。

「はあ、大塚に潜入してみたのはいいけれど…」

薄暗く湿った横穴の中でそうぼやいてみせるのは高校生の少女・山野美紀である。



彼女は夏休みの歴史の宿題の題材にとこの大塚を選んだのであった。

無論、宿題であるから、

市立の考古資料館で資料を読んだり、

大塚の外側にある札を読めば大体のことは事は足りるが、

だが、美紀はそれだけに飽き足らず、

こともあろうか「立ち入り禁止」となっている古墳の入り口より

奥へと伸びる横穴に入ってしまったのであった。

実はこの古墳の内部は外的の侵入を備えるためか複雑な構造となっており、

一旦入ってしまうと熟練の盗賊であっても出口を見つけるのも容易ではない。

「あぁん、本当にどうしよう…

 道に迷っちゃったみたい」

そうぼやいてみせる彼女は道に迷っていた。

しかも、地上へ出るための階段を上っているような感覚は無く、

逆に奥深くに入っているような感じさえした。

「さっきっからもう何時間歩いているのかしら…

 もし、こんなところでのたれ死んだら…」

最悪の事態を考えながら歩く彼女の足取りは重く、

少々よろめきながら歩いていたのである。

と、そのとき、
 
「あっ…」

美紀は足元にあった石に躓いてしまうと、

大きく前にのめり込んでしまった。

そして、次の瞬間――――

ズゴッ!

「きゃああああああ」

いきなり足元の床が抜けてしまうと、

美紀はそのまま地下深くへと落ちてしまったのであった。


美紀が躓いたものは石ではなく、

大塚の床を落とすための大掛かりな装置のトリガーだったのだ。
 
更なる闇の中へと落ちて行った美紀は、

ドスンッ!

ドスンッ!

ドザザザザ!!!

何かに数回当たった後、

さらに転げて行くが、

だが、地面が柔らかかったためか擦り傷と軽い捻挫程度で済んだ。

「あぁん、

 もぅなんでこんな目に遭わないとならないのよっ」

まさに弱り目に祟り目の三乗を食らった美紀は泣きながら文句を言うが、

「ってあれ?

 こんなところに扉が…」

そんな美紀の目の前には暗闇の中で淡く光る大きな扉があった。

「なんなの?

 これ?」

古びてはいるが、あまり汚れのない扉を前にして美紀は気味悪がるが、

「もぅ…ここまできたら進んでみるしかないわね…

 それに扉はあけるもの。

 と言うし」

暗闇の中を落ちてきたために

後戻りが出来ないことを認識した美紀はそっとその扉に手を触れてみる。
 
すると、

ゴソッ!

その扉は触れただけであまりにもあっさりと開いてしまったのであった。

「開いちゃった…」

予想外の展開に美紀は顔を引きつつ覗き込むと、

開いた扉の先は暗く、

何かの小部屋のようになっていることは明らかだった。

と、そのとき、

−我の眠りを妨げるものは誰だ―

どこからとも無く厳かな声が聞こえる。

「な…何?

 誰かいるの?」

いきなり響き渡った声に美紀は驚きながらも扉の向こうへと飛び込み、

自分の周りを見渡すが、

だが、薄暗い部屋の中には美紀以外の人影を見ることはできなかった。

すると、

―我はこの島を守る存在…いわば島の守護者だ…―

とまた声が響く、

「だから何なのよぉ!

 どこにいるのよぉ!」

姿が見えない声の主に向かって美紀が怒鳴ると、

ヌッ!

怒鳴る美紀の目の前に一人の人物が姿を見せる。

身長は2メートルはあるであろうか、

がっしりとした筋肉ムキムキの男で、

体の色はなぜか群青色だった。

さらに姿も兜にブーツと手袋にマント、

そして黒いビキニパンツをもっこりさせていて、

まるで変態男のいでたちであった。



「あんた…

 一体誰?

 警察呼ぶわよ」

変体男に向かって美紀はそう話しかけると、

−我は守護者なり、

 お前は侵入者なのか?

 この島を破壊するものは容赦はしない…−
 
美紀を指差し変体男はそういうと武器を手に取り襲い掛かってきた。

「いやぁぁぁ!!!

 (どうしよう…)」

迫ってくる変体男の姿に美紀は悲鳴を上げながら逃げ出すが、

だが、薄暗く勝手知らない部屋の中は危険であり、

「きゃっ!」

瞬く間に毛躓いて転んでしまうと、

その場に大きく倒れこんでしまった。

そして、

ズンッ!

倒れた美紀の正面に変体男が迫ってくると、

−覚悟はいいか?−

の声と共に大きく武器を振りかぶって見せた。

「ひぃぃ!!

 こんなところで死にたくない。

 あたしはまだ未経験だし、

 恋なんて夢物語なのよぉ」

人生の終着点を真横に見ながら

美紀は自分が持ってきたもののを手当たり次第に変体男にぶつけ始める。

しかし、変体男の屈強な肉体に対してはまったく効果はなく、

ググググッ!

男の腕がさらに上がっていくと、

その目は美紀の頭上へと照準を合わせる。

「あんなもので殴られたら頭がつぶれてしまう。

 (そうだわ…)」

頭を殴り潰され哀れな死体となった自分の姿を想像しつつ、

美紀は最後の希望を掛けてポケットの中から最後の1枚を取り出した。

「保健の先生からもしものときにって貰ったお札だけど、

 でも、なにか効果があるはずよ…」

と呟いてみせるそのお札は

彼女が通っている高校の保健医を努める巫女から貰ったものであり、

古来より使われた妖怪や鬼を封印するための札だった。

そして、

「でぇぇぇいっ!

 悪鬼退散!」

の声と共に、

ペタンッ!

美紀は無防備な状態で晒されていた変態男のお腹に貼り付けると、

−ぐわあぁぁぁぁ!!!

 みっ見事な攻撃だ、タケちゃんマン!!−

札を貼りつけられた変態男はそう悲鳴を上げながら足を崩してうずくまると、

苦しそうな声を上げる。



「やったわっ、

 観念しなさいブラックデビル!!

 …ってあれ?

 タケちゃんマンってなに?

 ブラックデビルって?

 え?

 え?」

先制攻撃を仕掛け、

さらに大ダメージを与えることができた美紀は胸をなでおろしつつも、

変態男と交わした会話について小首をひねる。

しかし、次の瞬間、

スゴゴゴゴゴ!!!

美紀の周囲の壁が大きく揺れだしたのであった。

「な…なに、これ?

 じっ地震…」

突然の地震に美紀は驚き、

さらに壁が破れてそこから大量の水が吹き出すと、

地下から溶岩も湧き出しはじめる。

「ちょっとぉ!

 何なのよっこれっ!

 いきなりクライマックスって?

 そんな、まだ心の準備がぁ!」

まさに突然振って沸いたピンチに美紀はどうしたらいいか判らずその場に立ち尽す。

「…どういうことなの…?

 あの変態男を倒したから…?」

刻々と迫るジエンドに震え上がりながら美紀はそう呟くと、

−さよう。我はこの島を守る守護者だ −

美紀に倒された変態男は最後のひと踏ん張りをするかのように声を上げる。

「守護者?

 守護者って守り神ってこと?」

男に向かって美紀は尋ねると、

−はるか昔、この島を創造神であるおつくりになった際、

 創造神の前に立ちはだかり、戦いを挑んだ者がいた。

 それが我だ。

 我は創造神と戦い、

 かの者が作ろうとした島を我が物にしようとしたが、

 だが、我は創造神に負けた −

と古代に起きた戦いについて話し始める。

「ふぅぅん、

 創造主ねぇ

 それがあなたがさっき言っていたタケちゃんマン?」

−ちがうっ!−

「あっそうなの?」

−創造神との戦いに破れ傷つき潰えた我に対して創造神は情けを掛け、

 我が躯を土台にしてこの島を作ったのだ。

 そう我は創造神によってこの島の守護者となったのだ。

 だが、月日が経つうちに我は徐々に風化し形を失って行ったが、

 しかし、我はこのまま消えるわけにはいかないのだ。

 創造神との戦いを胸に気持ちを奮い立たせたとき、

 汝が我の肉体、そして精神を傷つけたのだ。

 我はまもなく死んでしまうであろう…

 今地上では、ここでおこっている事態よりも著しい災害が降り注いでいる…

 守護者はそういうと力尽きたようにうなだれ見せる−

「あらまぁ、

 それは一大事!

 でも…なんで…いったいどうしたらいいのかしら?」

変態男と思っていた守護者からの話を聞いて美紀は困惑すると、

−もはや地上に戻ることは不可能だ。

 このままではこの島は滅んでしまう−

と守護者はダメ押しをしてみせる。

「あぁんもぅっ

 仕方がない!!」

その言葉に美紀は一大決心をすると、

守護者にそっとあることを耳打ちしたのであった。



それから数ヵ月が過ぎ、

その島は数ヶ月前に突然襲ってきた謎の災難のことはすっかり忘れ平和な日々が続いていた。

一方、島の重心にある古墳の地下には、

2メートルはある身長。

がっしりとした筋肉ムキムキの体を誇らしげに掲げ、

群青色の体。

姿も兜にブーツと手袋、マント、そして黒いビキニパンツの変態男、

もとい守護者が立っていて、

「あぁ…今日も地上は平和みたいね…」

と上を見上げながらそっと呟く。

あの日、

美紀は守護者の消え行く肉体の中に自分を取り込んでしまえないかと相談したのであった。

もはやそれ以外に選択の余地は無かった。

その結果守護者の肉体は新たな肉体の持ち主のもと復活したのだ。

「さぁて、…今日もあたしのやることはないわね…」

島を地下深くで守るという作業のほかは何もすることが無かった。

「…でも、この体も案外悪くないかも」

そう呟きながら守護者は自分のパンツを下ろすと、

これまでにはないほどの巨大なペニスが顔を現し、

そして守護者は自分の手で勢いよくペニスをしごきはじめるのであった。

島の平和な日常の下。

古墳の地下深くには厳かな喘ぎ声が響き渡って行く。



おわり



この作品はinspireさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。