風祭文庫・ヒーロー変身の館






「宇宙大戦争」
(最終話:必殺、モランの槍)



原作・風祭玲

Vol.683





時は西暦20XX年、地球では怪獣や宇宙人の襲撃が多発し、

国連の外部機関たる地球防衛軍では対処しきれないと判断した人類は

専任の特殊科学戦隊TSFを結成し、迫り来る脅威に立ち向かっていた。



「フロス…」

再起動したVF−1Jを操縦しながらチシブキは

姿を見せたフロスを見上げていると、

『ニャケンダー!!!』

フロスの背後から新たなニャケンダーが迫っていることに気がついた。

「ちっ、

 新手がウジャウジャと…

 させるかっ!」

それを見たチシブキが素早く操縦席に備え付けられている”あるボタン”を押すと、

キーン!!!

軽い電子音がVF−1Jの中に響き渡り、

シャッ!

機体が真っ赤に染まるのと同時に、

バコン!!

VF−1Jの胸に巨大な吸気口が開くと、

キュィィィン!!!

スーパーチャージャーの稼働音が響き渡る。

そして、

ガチン!!

モノアイが光輝く頭部に

一本の角が突き出すと、

『スーパーチャージャー起動。

 インタークーラー正常。

 全リミッター解除。

 スーパーチャージャー起動、

 インタークーラー正常。

 全リミッター解除』

とコクピット内にパワーアップが図られた旨の案内が

繰り返し放送された。

「ようしっ

 やいっニャケンダー!!

 このチシブキ様の”赤い彗星”…

 止められるものなら止めてみやがれ、ってんだ」

モニター画面を見ながらシチブキが威勢良く気勢を上げると、

ガシッ!

「とぅーっ!」

のかけ声と共に操縦桿を引いて見せるが、

グリンッ!

ガッ!

その初めの一歩でチシブキ機は足を蹴躓いてしまうと、

ガチャァァァン!!

そのまま地面に倒れ込んでしまった。

「痛ててて」

倒れた勢いで顔面を打ったチシブキが顔を押さえていると、

ドガン!

再び衝撃がチシブキ機を襲った。

「なに?」

予想外の衝撃にチシブキは驚いていると、

『ニャケンダー!!』

真上からニャケンダーの鳴き声が響き渡った。

「しまったぁ!!

 ニャケンダーが俺の後ろにも居たのか!」

ニャケンダーに背後を取られたことにチシブキは気づき、

慌てて離脱を試みるが、

だが、

ギシッ!

ニャケンダーの爪はチシブキ機を装甲を貫いていて、

容易に脱出をすることは不可能であった。

「くっそう!!」

後部画像に写るニャケンダーを見ながらチシブキは臍を噛む。

一方、フロスもまた

『あぁっ

 チシブキがぁ…』

のし掛かってきた3匹のニャケンダーの相手に手一杯で、

とても、チシブキ機救出に向かうことは出来ない状態であった。

そして、当の本人・チシブキは、

スゥゥゥゥゥ…

ニャケンダーが大きく息を吸い込むのを見たとき、

チシブキの脳裏にスカートをひらめかせながら走る女子高生となった自分の姿が写る。

「……女子高校生っていうのもいいかもなぁ…」

股間が急速に固くなっていくのを感じながらチシブキがそう呟くと、

『させませんわ!!!』

突然、少女の声が響くと、

ビーッ!

警戒音と共にチシブキ機の周辺で3箇所の地面が大きく開き、

ドォォォォォン!!

その中からリフトが滑り出してくると、

ハンガーに固定された蒸気を噴き上げる巨大ロボットが3機姿を現した。

「ユヴァンゲリオン・零号機、初号機、弐号機

 それぞれ射出しました」

地下発令室に相沢の声が響き渡るのを聞きながら、

「ふっ

 勝った…な」

机の前で腕を組む五十里の表情が綻む。

シュゥゥゥゥゥゥゥ…

「なっなんだこれは?」

突然姿を見せた3台のロボット・ユヴァンゲリオンに皆が一斉に固まる中、

シュゥゥゥゥゥゥ…

ジュン

ジュン

ジュン

ジュン

ボボボボボボボボ

ユヴァンゲリオンはさらに蒸気圧力を上げ、

ホォォォォンンーーーーッ!!!!

雄叫びの如く汽笛を鳴らした。

「ふふふふ…

 一級神二種非限定…

 真城華代ちゃん、ただいま参上!!!

 さぁて、君たちぃ、

 ちゃぁんと、ライセンスは取っているのかなぁ…

 TS作業従事者の免許証を持ってないで、

 華代ちゃんのお仕事を邪魔した不埒なヤツは…

 月に代わってお仕置きよ!!!」

エントリープラグ内の華代は決めポーズをしながらそう言うや否や

カシャン

握っていた操縦桿を大きく引いた。

すると、

ジャコン!!!

ユヴァンゲリオンは肩から巨大ハリセンを射出させると、

手際よくそれを手に取る。

「ふふっ、

 天空の女神特製のお仕置きハリセンよっ

 さぁ、これで引っぱたかれたい不埒者はどれかなぁ」」

パシッ!

パシッ!

ハリセンを手で叩きながら華代は一定の間を開けるニャケンダー達を見てゆく、

ところが、

「えーっ、

 なにあれぇ、まるでバカじゃない」

初号機内の白蛇堂は情けない声を上げると、

「あたし達も…」

と弐号機内の黒蛇堂は逆に素直にハリセンを取り出した。

「はぁ…

 相変わらず物分かりが良い妹で…」

それを見た白蛇堂はため息混じりに従うと、

ギラッ!

3本のハリセンを輝かせながら、

シュッシュッシュッ

3機のユヴァンゲリオンは蒸気を高らかに噴き上げ、

ズシーン!

ズシーン!

っと足音を響かせながら身近にいるニャケンダー達へと近づいていった。

そして、

華代の零号機がシジブキ機を押さえつけているニャケンダーに近づくと、

『ニャケンダー!!』

向かってくるユヴァンゲリオンに気づいたニャケンダーが

華代機に向かって牙を剥いたとき。

『はいっ、

 無免許!!!』

と華代の声が響くなり、

シュッ!

ユヴァンゲリオンの手が素早く動くと、

スパァァァァン!!!!

『ふぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!』

手に持ったハリセンがニャケンダーの額を直撃した。

すると、

ハリセンの直撃を食らったニャケンダーは

悲鳴を上げのたうち回りはじめると、

額には○に”不”の文字がくっきりと浮かび上がらせながら、

ズシーン!

その場に倒れてしまった。

押さえつけていたニャケンダーが倒されれてしまうと、

フッ!

チシブキ機を押さえつけていた力が消え、

「いまだ!」

それを感じ取ったチシブキは大急ぎで機体を立て直して立ち上がると、

「いくぜっ!

 野良猫共!!!」

の声を上げながら

周辺から向かってくるニャケンダーに向かって突撃していった。



『ニャケンダー!!』

「沙夜ちゃんいくよっ」

「おっけーっ」

「喰らえっ

 ハイパー翠玉波ぁぁぁぁぁっ!!」

飛びかかってくるニャケンダー目がけて、

沙夜子がツルカメ彗星に向けてはなったのと同じ規模の翠玉波を放つと、

「うらららららら!!!」

チシブキが操縦する赤い彗星も連邦軍、もといニャケンダーを蹴散らしてゆく、

さらに、

「しゅわっ!」

「マーブルスクリュー!!!」

「はいっ、

 無免許!!
 
 お前も無免許!
 
 お前も、
 
 お前も、
 
 お前も」

都内中、いや関東中から駆けつけてくる無数のニャケンダーを相手に、

TSF部隊、

チシブキが操縦するVF−1J、

フロス、

マーメイドきゅあ、

バニーエンジェル、

ジャパレンジャー

華代ちゃんと白蛇堂・黒蛇堂が操縦するユヴァンゲリオンらが果敢に戦い、

まさに大乱闘の様相を呈してしまっていた。

無論この事態を座視してみている者はほとんどおらず、

「よしっ

 出撃だぁ

 行けっウルトラマミ!!」

コントローラーを手にしたサトシが威勢良く叫ぶと、

「えぇ、何であたしが!!!」

嫌がりながらサカキ・マミはウルトラマミに変身すると、

そのリモコンでコントロールされるがまま

闘いへと参戦し、

「ユキコ!!

 ウルトラナイン、出撃だ!」

TSFのファイターの機内からフジタの声が響くと、

「はいっ

 いま行きますっ
 
 あなた!!」

の声と共に、

シュワッ!

ウルトラナインが大空から姿を見せると、

混沌と化した地上へと降り立ち、

同じくニャケンダーへ立ち向かっていった。

また、

「犬塚私設戦略軍出撃!!」

「犬塚に後れを取るなっ、

 猿島軍出撃!」

「えぇいっ、

 猫柳防衛軍発進!!

 猫一匹も敷地内に入れるな!!」

と言う案配で文字通りの総力戦が展開されている中、

「いけませんなぁ…

 折角の学園祭なのに…」

水無月高校の校長室より

この戦いの有様を観戦していた

水無月高校校長・水上健太郎の声が漏れると、

スッ…

その彼の後ろに2人の人影が迫っていった。



さて、この大混戦模倣の地上より、

シュワッ!

フロスは大きくジャンプし、

ズシンッ!!

そのまま水無月高校の屋上へと飛び乗ると、

『駐在所!

 聞こえる?』

と土星空域で待機している駐在所を呼びかけた。

【はいはい、

 何でしょう?】

フロスの呼びかけに駐在所は直ぐに返答すると、

『本庁のイシュに緊急連絡、

 現在、わたしが戦っている相手のデータをよこすように、

 とね』

とフロスは本庁勤務のイシュにいま戦っている異星人の資料請求をした。

すると、

【フロス…】

その声が届いたのか直ぐにイシュの声が響くと、

『あぁ、イシュ、

 仕事中悪いけど、

 あたしが戦っている相手のデータってある?』

とフロスは尋ねた。

【データ?

 そうねぇ…

 あぁ出てきたわ、
 
 フロス、
 
 いまあなたが戦っているのは、
 
 バンバ星人のマッチョとサブの2人組ね、

 以前はジャッドンの構成員だったそうだけど、
 
 誰かさんの働きでジャッドンが壊滅した後は、
 
 宇宙ホームレスってところかしら、
 
 得意技は…
 
 現住生物を巨大化させるのと、
 
 その生物を使っての社会混乱かしら?
 
 なんでも、男性を女性に女性を男性する
 
 性転換技を手を下した生物に与えることができるそうよ、

 あっいまDNAデータをそっちに送ったわ】

イシュはそう説明をすると、

ピピッ…

フロスに探査用のマッチョとサブのDNAデータが転送されてきた。

『了解っ

 いまデータを受け取ったわ
 
 やっぱり持つべきものは友達よね』

フロスはそう返事をすると、

グンッ!

黄色の目をさらに輝かせ、

グルリ…

大空を見渡した。

そして、大空に浮かぶ巨大な羽と輪が目にはいると、

シャシャシャ!

フロスの視界に”確認”の二文字が浮かび上がった。

『ふふっ、

 みーつけた。

 しかもあんな大きな印まで付けてくれるなんて、

 なんて判りやすいのかしら…』

と左右に開く羽の真ん中、

輪ろ真下の所にある真ん中の赤い光の中で

せわしく動き回る2人の異星人の姿を見抜くと、

ゆっくりと腕を胸の前でクロスさせた。

そして、その両肘から手首離すように回転させていき

腕の形が]の形になった時、

シュピーッ!

フロスの必殺技・]の形の必殺光線「ティエシウム光線」が発射された。

だが、

バキーン!!

フロスから放たれたティエシウム光線はその手前で無惨に打ち砕かれ、

傷一つ付けることも敵わなかった。

『ばかなっ

 直撃のはず…』

思いがけない事態にフロスは困惑をした。




「こっ校長、

 避難した方が…」

なかなか避難しない水無月高校校長・水上健太郎に向かって

教頭が避難することを勧めるが、

「いや、

 それには及びません。
 
 さて、さて、
 
 ニャケンダーは目の前のものをただ倒すだけではいけません。
 
 その大元を見つけたのはいいのですが、
 
 ふむ、ATフィールドですか、
 
 なかなかやりますね」

健太郎は上空に浮かぶ巨大な羽と輪を見上げると、

「乙姫様、この事態如何致しましょうか?」

と声をかけながら振り返ると、

「そうですね…」

と声と元に健太郎の後ろに人間姿の乙姫と、

もぅ1人、あの成行博士が立っていたのであった。

「ん?

 君は転校していった湊姫子ではないか?
 
 この非常事態に何の用があって…」

と言いながら教頭が乙姫を指さすと、

「教頭先生…

 細かいことは良いじゃないですか?」

と健太郎は窘める。

そして、

「ティエシウム光線がダメとなると…

 他の手ですか?」

と乙姫の言葉に健太郎が聞き返すと、

「そうですな、

 バンバ星人には光線系の攻撃は効かないと聞いていたけど

 いやぁ、見事なバリアだ…」

と成行博士は感心しながらウンウンと幾度も首を縦に振り、

「この場合はもっと物理的な攻撃委、

 そう槍…なら届くでしょうな」

と意味深に校長に尋ねる。

「槍ですか?」

「えぇ、槍です…

 ふふっ
 
 校長先生…
 
 もって居るのでしょう?
 
 あそこまでに届く槍を…」

うそぶく健太郎に成行はそう尋ねると、

「ふむ…」

健太郎は大きく頷き、

「新城教頭…」

と教頭の名前を呼んだ。

「はっはいっ」

健太郎の呼びかけに教頭は一歩前に出ると、

チャラッ

健太郎は一つのカギを教頭に差し出し、

「封印された部屋を開けたまえ、

 そして、あそこに地下で封印されている槍をここへ」

と静かに命じた。

「はっはいっ」

健太郎のその命令に教頭は身を固くすると、

カギを受け取り、

大急ぎで飛び出していく。

そして、

教頭が去った後、

「いいのですか?

 あそこには、あなた様の…
 
 その竜王殿が囚われて居るみたいですが?」

と恐る恐る乙姫に尋ねると、

「えぇ、知っています。

 でも、彼のコトなら大丈夫でしょう」

乙姫はキッパリ言い切った。



棟続きの旧校舎の奥、

前校長が趣味で集めた世界各地の秘宝が収納されていると言う

通称”封印されている部屋”へと教頭は向かっていった。

この部屋は時折興味本位から侵入する不心得者が行方不明になると言う。

いわば曰く付きの部屋だったが、

ゴクリ…

その部屋のドアを前にして教頭は生唾を飲み込むと、

震える手で厳重にかけられているカギを外し、

カラッ…

閉ざされてきたドアを開けた。

「しかし、校長はこの部屋の地下なんて言っていたけど、

 この部屋に地下室なんてあったっけ?」

と健太郎から言われた”地下”と言う言葉に、

教頭は首を捻りながら懐中電灯のスイッチを入れると、

コツリ

コツリ

それを片手に教頭が部屋に入ってゆく。



ギラッ

部屋の至る所に所狭しと置かれた奇っ怪な所蔵品が見守る中、

教頭は歩いていくと、

その行く手に下へと降りてゆく階段が姿を見せた。

「んーっ

 確かに階段がありますね…」

メガネの縁に指をかけながら教頭は階段を見ると、

地下へ向かっていく階段を降りて行った。

階段は螺旋状にとぐろを巻くようにして下り、

やがて、一つの部屋が教頭の目の前に姿を見せた、

「ここですかな?」

懐中電灯の明かりを周囲に向けながら教頭が部屋にはいると、

ドォォォン!!

教頭の目の前に巨大な十字架に貼り付けられ、

不気味なマスクを被せられている怪物が姿を見せた。

「うひゃぁぁぁ!!!」

それを見た教頭は悲鳴を上げると、

ギラッ!!!

その怪物を突き刺している一本の槍が懐中電灯に光に輝いた。



「こっこれですか?

 校長の言われた槍というのは…」

槍の姿に気を取り直した教頭は改めて近寄っていくと、

ギラッ

怪物を突き刺している槍は

刃先は二本の槍でそれが螺旋状に絡まりながら手元で一本の姿になっていた。

「それにしても…

 これはすごい…」

メガネを幾度も掛け替えながら教頭は槍を見据えると、

「とっとにかく、

 校長の言うとおりに…」

と恐る恐る槍に手を触れると

それを一気に引き抜こうとするが、

「え?

 あれ?」

幾ら引っ張ってもモランの槍は簡単には抜けなかった。

その時、

ズシーーーン!!!

大音響と共に部屋の天井が抜け、

「うわっ」

「きゃぁっ」

白いコスチュームと黒いコスチュームに身を固めた、

マーメイドきゅあの2人が教頭の後ろに落ちてきた。

「なっ、

 なんですかね?
 
 君たちは?」

突然降ってきた少女戦士達に向かって、

教頭は声を荒げると、

「あれ?

 ここどこ?」

「さぁ?」

2人はキョロキョロを周囲を見回し、

そして、目の前に立つ教頭を見つけるやいなや、

「うわっ、

 教頭先生だ!」

と声をそろえた。

「ん?

 わたしを教頭と判ると言うことは、

 君たちは我が校の生徒だね。

 丁度いい、
 
 済まないがこれを抜くのを手伝ってくれないか」

と突き刺さったままのモランの槍を指さした。

「これをどうするのですか?」

黒コスの少女戦士が理由を尋ねると、

「つべこべ言わずに、

 この槍を引き抜いて校長の元に届けるのです」

と教頭はそう命令をした。

「どうする?」

「何に使うのか判らないけど、

 校長先生が居ると言うのなら…」

マメきゅあの2人は話し合い、

そして、改めてモランの槍を見上げたとき、

「うひゃぁぁぁ!!」

「すごいねぇ」

槍が突き刺している怪物の姿に唖然とする。

「ほらっ

 何をしているっ
 
 早くしないか、
 
 校長がお待ちかねなんだよ」

見上げたまま固まっている2人に教頭は声を上げると、

「あっはいっ」

2人は槍に取り付き、

「よいしょっ」

「よいしょっ」

と引き抜き始めだした。

すると、

ググググッ

教頭が引っ張ってもびくともしなかった槍が急に動き出し、

そして、

ズボッ!

そのまま抜かれてしまうと、

「あら…」

「意外と簡単に抜けたのね」

と2人は顔を見合わせる。

ところが、

「急げ、

 急ぐのだ!」

と教頭は2人を急かしながら我先にと階段を上って行ってしまうと、

「なによっ」

「もぅ」

そんな教頭を見送りながら2人はふくれっ面をして、

引き抜いた槍を担ぎながら階段を登ろうとしたとき、

『ごわぁぁぁぁぁ!!!!』

2人の後ろからライオンを思わせるの鳴き声が響き渡った。

「え?」

その声に2人が振り返ると、

ブワァァァァァ!!!

磔られていた怪物の周囲が青白く光り始めると、

ゴボゴボゴボ!!!

断ち切られている切断面より下から、

泡のような膨らみが次々とわき出し、

瞬く間に獣を思わせる下半身が作られて行く、

「うっうっそぉ!」

「コイツ、生きていたのか」

スラリと伸びた爪を輝かせ、

尻尾を動かし始めた下半身に2人が悲鳴を上げていると、

ドクンッ

ドクンッ

周囲に心臓の鼓動音が響き始める。

そして、

十分力を蓄えたのか、

パァァァン!

バリバリバリバリ!!

つけられていた仮面を吹き飛ばし、

さらには十字架からも飛び出してしまうと、

ズドォォン!

磔られていた化け物は碧く輝くライオンとなって

一直線に天空へと駈上って行ってしまった。

「はぁ…」

「なっ何があったんだ?」

槍を抱えたまま2人は唖然としていると、

ブワッ!!

天空に駆け上がったライオンはその上空で一旦立ち止まり、

『ゴワォォォォォン!!!』

と大声を張り上げる。



「ん?

 なんだ今度は?」

「ライオン?」

「えぇいっ、

 ニャケンダーで手一杯なのに…」

突如大空に出現した青い炎を伴うライオンの姿に

TSFはもとより戦っていたもの皆が頭を抱える。

だが、

『ゴワォォォォォン!!』

事態が急変したのはライオンが2度目に吠えたときだった。

ライオンの鳴き声が響き渡るのと同時に、

『ニャケンダー!!!』

周囲に来ていたニャケンダー達が一斉に飛び上がると、

ライオンの元へと飛んで行く。

そして、

一体、

また一体と、

ニャケンダー達が次々とライオンと融合してゆくと、

ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!

『ゴワォン!!』

ズズーーーーン!!

ライオンは巨大怪獣となって皆の前に立ちはだかった。



「ほぅ…、

 あれだけ居たネコ怪獣達が一匹に纏まりましたな…

 これも、乙姫様のシナリオのウチですかな?」

ネコ怪獣・ニャケンダーが融合し、

凶暴なラオイン怪獣へと進化したにもかかわらず、

健太郎は慌てる素振りを見せずに尋ねると、

「いかがですか?

 かつてあなたが倒したライオンを再び見た感想は?」

と乙姫は意地悪そうに聞き返した。

「ふふっ

 そうですなっ

 かつてサバンナの大地で暴れ回った凶悪な碧いライオン・シンバ…

 そのシンバを倒すために

 マサイ族とディンガ族の聖なる槍が螺旋状に絡み合せて作られた神聖な槍…

 ”モランの槍”を手にした1人の勇敢なマサイ戦士と死闘を繰り広げたのです。

 しかし、下半身を切断されてもなおも戦い続けたシンバの姿は

 ただの凶悪な獣ではなく、まさに神そのものであった。

 いやぁ、熱く吹き抜けるサバンナの風、

 舞い上がる土の臭い…

 勝利と共に前校長…あぁいや、仲間と共に舞い踊ったこと…

 何もかも皆懐かしいですな」

乙姫の言葉に健太郎は目を細めると、

「行かれますか?」

と乙姫は尋ねた。

「あはは…

 確かに血は滾ってきましたが」

健太郎はそう言いながら、

漆黒色に染まり始めた腕を乙姫に見せると、

再び袖の中にしまい、

「歳には勝てません

 いま私が出来ることはこうして戦いを見守るだけです」

とそう答えた。

その言葉に

「それはわたくしも同じです」

乙姫もそう言うと、

「これで、散らばっていた目標は2つに絞られましたな」

と成行博士が口を挟んだ。

「えぇ、

 碧いライオンに纏まった元・ネコ怪獣達と、

 そして、その張本人達」

乙姫が空を見上げると、

「さて、
 
 マーメイドきゅあにあの槍・モランの槍を

 フロスさんに手渡すように言わないと行けませんな

 それと、アトランティスに一仕事して貰いましょう」

そう言いながら成行は携帯電話を取り出した。



ザバー!!!

ヒュゥゥゥゥゥゥンンン…

同じ頃、

伊豆東方沖の太平洋上に一隻の艦船が浮かび上がっていた。

「現在地点、

 伊豆・石廊崎東方40km地点…」

「対消滅炉、出力正常…」

「時空間遮断バリア・正常…

 竜宮からのアクティブソナー回避中」

シルルやサルサたちからの報告が飛び交う中、

「ようしっ」

パシッ!

艦長席のミールは意気込みを込めるかのように、

右手に握り拳を作り、

そのまま左手に向かって打ち込むと、

「ふふっ

 帰ってきたわよ、日本に!!!

 火星オリンポス山の遺跡に収められしオーパーツ…

 そしてそれを使えるものにしたアトランティスの技術力を

 とくと見せつけて上げるわ」

とミールは気合を入れながら独り言を言っていると、

ツツー

ツツー

通信の呼び出し音が響き渡った。

「ん?

 誰よ、こんなところで…」

その音にミールは面倒くさそうにスイッチを入れると、

『ミール、聞こえる?

 ちょっと一仕事して欲しいんだけど…』

と言う言葉と共にリムルの姿がメインパネルに表示された。

「一仕事?」

『そう…

 その船に装備した重力波動砲の試射もかねてなんだけど、

 現在、東京にライオンの怪獣が暴れているようなの、
 
 それを、その船の重力波動砲で仕留めて、
 
 これは、五十里からの要望でもあるわ』

とリムルは簡潔に伝えると、

「怪獣ですって?

 まぁ、良いけどさ、

 でも、大丈夫なの?

 重力波動砲って結構強力よ、

 こんな場所で使ったら、
 
 竜宮に気づかれるわよ」

リムルに向かってミールは懸念を言う。

ところが、

『その辺は大丈夫、

 時空間遮断バリアは大丈夫なんでしょう?』

とリムルは聞き返すと、

「まぁそこは…抜かりないけど」

その問にミールが鼻の頭を掻きながら返事をした。

『わかったわ、

 じゃぁ、チャッチャとやっちゃって』

リムルは伝えるだけのことを伝えると、

フッ!

直ぐに通信を切ってしまった。

「まったく、人魚使いが荒いんだから…

 シルルっ

 と言うわけで時空間遮断バリアーそのままで海面上に浮上した後、

 主砲・重力波動砲を出力そうーねぇ50%にて発射。

 目標は東京上空・ライオン怪獣!!!

 アトランティスの底力を見せてあげなさい」

とミールは指示を出した。

ザザザザザザ…

ブワァァァッ!

ミールの指示の後、海面に浮かび上がった艦船はさらに空中へと躍り出ると、

シュゥゥゥゥゥン…

艦体の左右から2本突き出した舳先の間に

幾筋もの光の線が往復し始めた。

「重力波動砲、

 エネルギー充填開始」

頭をすっぽりと覆うヘルメット型照準器をかぶってサルサが声を上げると、

ミミミミミミミミ…

舳先の光の筋が次第に太さを増してゆくと、

舳先が光の中に没してゆく、

「目標、

 東京上空・ライオン怪獣

 誤差修正…

 エネルギー充填、90%

 92%
 
 94%
 
 96%

 総員、

 対ショック、
 
 対閃光防御!」

てきぱきと重力波動砲の発射準備をサルサは行い、

双胴船を思わせる艦首に強力な光が集まっていく。

そして、照準器のマーカーが全て青色になった時、

「重力波動砲!!

 発射!!!」

サルサの声が艦橋に響き渡ると、

カチッ!

サルサの手のトリガーが引かれた。

刹那…

ブワッ!!!

宙に浮かぶ艦首部分の海面が大きく波打つと、

シャァァァァァァァ!!!!

遙か遠方にいるライオン怪獣目がけて衝撃波が駆け抜ける。

「!!!!

 来ます!!」

当時に乙姫はそれを察知して声を張り上げたとき、

フワッ

フロス達の前に立ちはだかっていたライオン怪獣の身体が宙に浮いたと思った途端、

ドォッ!

その姿が一瞬のうちにかき消えてしまった。

「ふっ、

 重力波動砲か、

 アトランティスめ…モノにしたな」

それをみた成行博士が小さく笑うと、

「ほぉ…

 あの碧いライオンを一撃でですか…」

瞬時に消し飛ばされ、

バラバラとライオンを構成していた野良猫が降り注ぐのを見ながら、

健太郎が感心する。

「まずは一つ…」

その光景に乙姫は瞬きもせずに呟くと、

「マーメイドきゅあ、

 そのモランの槍をフロスに渡すのです」

と胸の龍玉に向かって声を張り上げた。

「はっはいっ」

龍玉から突然響いた乙姫の声に、

マメきゅあの2人は槍を抱えたまま飛び上がり、

さらに空中高く飛ぶと、

屋上に居るフロスに接近し、

「フロスさん!!

 これを使って!」

と声をそろえて言いながら、

手にしていたモランの槍をフロス目がけて放り投げた。



その少し前、

『え?、

 いまなんっていったの?』

イシュからの通信にフロスは聞き返すと、

【あのね、フロス

 バンバ星人のUFOはATフィールドと言うバリアで守られているわ、

 そのバリアは特殊なもので、

 あなたの光線でも通用しないわ、

 でも、安心して、

 さっき”モランの槍”と言う武器が提供されることになったから、

 それを使って!】

とイシュはフロスに指示をする。

『モランの槍って…』

イシュの言葉にフロスが困惑していると、

『フロスさん、これを使って!!!』

と言う少女達の声が響くと、

一本の槍がフロスに目がけて放られた。



『シュワッ!!』

フロスはマーメイドきゅあからモランの槍を受け取ると、

ブンッ!

モランの槍からオーラが立ち上り、

瞬く間にウン十メートルもある巨大な槍を姿を変える。

そして、

それを確認したフロスは

『シャァッ!!!』

と声を張り上げながら、

ドンッ!

屋上から校庭に飛び降りると、

ダンダンダンダン

やり投げの要領で校庭を走り、

ズザァァァァ!!

そのまま手にした槍を空に浮かぶ羽目がけて放り投げた。



「ふわはっはっはっ、

 ギャラクシーポリスがなんでぃっ
 
 俺たちは強力なバリアーがあるんでぃ」

ティエシウム光線をはね除けたコトで自信を持ったのか、

マッチョは真っ赤な酒を呷る。

だが、彼が見るモニターの中で、

フロスがモランの槍を構えると、

ザザザザッ

ブンッ!

自分たちに向かってモランの槍を放り投げた。

『へ?

 なんだなんだ?
 
 うっわぁぁぁ…
 
 あっマッチョ兄貴ぃぃぃぃぃ
 
 槍がぁ』

シャァァァァ!!!

UFO目がけて飛んできた槍に気づいたサブは悲鳴を上げるが、

『大丈夫でぃ!!』

マッチョのその声と同時に、

ズボッ!

モランの槍は羽の中央部を貫通し、

それと同時にUFOを防護してきたバリア

ATフィールドが崩壊してしまうと、

ボムッ!

プスンプスン!!!

UFOは煙を噴き上げながら落下していったのであった。



この撃墜によって一連の騒ぎは安寧のウチに収まっていった。

モランの槍で射抜かれ墜落したUFOは駆けつけたTSFによって回収され、

搭乗していた2人の宇宙人・マッチョとサブは

国家鎮守の杜深くのTSF極東本部に連行されると、

強面の刑事達の監視下で事情聴取を受けている。

また、ニャケンダーによって性転換された人たちは、

『そうれっ!』

真城華代がかけ声一つかけた途端、

皆、元の性へと戻り、

事件前と同じように市民生活を送っている。

一方、騒ぎで学園祭を中断された水無月高校では、

後日改めて学園祭を開催することになったのだが、

「いやだぁ!!!」

櫂は相変わらずバニー衣装を着ることを拒んでいた。

さて、神隠しの湯では…

「ないっ

 ないっ
 
 何処にもユヴァンゲリオンを操縦した女の子の達のデータがない。
 
 指令これは一体…」

「ふっ、

 まぁいいではないか…」

3機のユヴァンゲリオンを操縦した華代・白蛇堂・黒蛇堂のデータが、

メインコンピュータから綺麗に消されていたコトに皆が困惑をするものの、

五十里はどこか涼しい顔であったが、

「ユヴァンゲリオンの起動に成功…

 ふっ

 我々にとって大きなだ一歩が記されたのだ」

とその心の内では来る竜宮との闘いに自信を深めていた。

そしてTSF…

「ごくろうだったな」

帰投してきた隊員達を隊長のゴウダがねぎらうと、

「いえっ

 今回の敵は強敵でしたが、
 
 我々は立派に職務を果たしました」

とサイゴウ以下隊員達は一斉に敬礼をしていたのであった。

だが、1人忘れられた者の存在があった…

「おーぃっ、

 誰も助けに来ないのかよっ!

 俺が一番の被害者なんだぞ」

月に突き刺さったモランの槍の傍で、

竜王・海人はむくれながら漆黒の海に浮かぶ地球を見上げていたのであった。



【お疲れ様、フロス…】

『大変だったわよイシュ…』

【ジャドンの残党はまだ結構居るみたいだから、

 例え辺境でも気を引き締めないとダメね】

『うん、そうね…

 でも、ひょっとしたら、

 わたしが本庁に復帰できる日も早いかもね…』

その夜、

同僚のイシュに電話をしたフロスはそう言うと、

希望に目を輝かせたのであった。



おわり