風祭文庫・ヒーロー変身の館






「宇宙大戦争」
(第2話:ニャケンダーの恐怖)



原作・風祭玲

Vol.682





時は西暦20XX年、地球では怪獣や宇宙人の襲撃が多発し、

国連の外部機関たる地球防衛軍では対処しきれないと判断した人類は

専任の特殊科学戦隊TSFを結成し、迫り来る脅威に立ち向かっていた。



ワイワイ

ガヤガヤ

さて、都内で竜王・海人の拉致事件が起きたのも関わらず、

相模湾を望む高台に立つここ水無月高校では

平和の祭典・学園祭が盛大に催されようとしていたのであった。

「いらっしゃいませ

 ご主人様」

「はいっ、

 もぅ一度!」

「いらっしゃいませ

 ご主人様」

投票でメイド喫茶を出店することになった櫂のクラスだが、

”男女差別は良くないと思います。”

というクラス委員の一声で、

男子生徒・女子生徒全員がメイド衣装に身を包み、

開店間近の模擬店内では挨拶の練習の声が響き渡る。

「ふぅ」

練習終了後、

開店までのわずかの休憩時間。

メイド衣装を引きずりながら、

控え室に戻った真奈美がドカッと椅子に座ると、

「真奈美ぃ!」

と模擬店内から真奈美を呼ぶ声が響く。

「んなによぉ!」

その声に真奈美は仕方なく腰を上げ、

店内に行くと、

「よぉ」

となぜか客さんモードの櫂が片手を上げテーブル席で待っていた。

「なっ、

 かっ櫂ぃ

 アンタ、こんなところで何くつろいでいるのよ、

 まだ開店前よっ

 それに、クラスの人たちはみんな働いているのよ…」

そんな櫂に真奈美はドアップで迫ると、

「いやぁ、

 サッカー部だから…」

と櫂は笑ってごまかそうとするが、

「そうよっ

 水城さんっ

 あなたも早く着替えなさいよ」

「開店まで時間がないのよ」

の声と共に女装した男子生徒が寄ってくる。

「うわっ」

それを見た櫂が思わず悲鳴をあげると、

「なによっ

 高みの見物を決め込む気?」

「1人だけ抜け駆けだなんて許さないわよ」

とメイド姿の男子生徒達から一斉に非難の声が上がり、

「水城さん、あなた…

 この間、堂々と女装をしていたじゃない」

女子生徒の1人が先日、櫂が女子生徒になっていた指摘した途端、

「ほほぅ…

 それは面白い」

「なになになに?」

田所火魅華と金藤樹里の2人が首を突っ込んできた。

「ひっ、

 べっ別にお前達には関係ないだろう?」

メイド姿の2人から距離を置きつつ櫂がそう言うと、

「そう言うわけにはいかないよ」

と樹里が笑みを浮かべた途端、

「トキぃっ

 お連れしろ!」

火魅華が声を上げた。

すると、

ヌッ!

鍛え上げたマッチョな肉体に南洋のモアイ像を思わせるフェイスを持つ、

綾小路土岐恵(無論メイド姿)”が割って入り、

「不正、許さない…」

そう呟くや否や、

ガシッ!

櫂の両腕を握りしめると、

ズンズン

「えっ

 ちょちょっと待った!
 
 僕はサッカー部の模擬店に…」

土岐恵に連行され櫂は奥の更衣室へと連行されてしまった。



「はぁ…何をやっているんだか…」

そんな櫂の姿を見ながら真奈美はため息をつくと、

「色々大変なのですね」

と少女の声が響く。

「え?」

聞き覚えのある声に真奈美は驚きながら振り返ると、

「こんにちわ…」

櫂が座っていた席の隣で、

人魚達を統べる女王・乙姫が恥ずかしげに真奈美を見ていた。

「おっ乙姫さまっ、

 いつ、こっちに?」

人間の姿の乙姫を見て真奈美が驚くと、

「…お邪魔でしたでしょうか?」

と恐る恐る乙姫は真奈美に尋ねる。

「いっいえっ

 そんなことは…」

乙姫の言葉に真奈美は手を左右に振りながら慌てると、

「ふぅーん、

 あなたが乙姫ですか…」

と火魅華がのぞき込むようにして乙姫を見る。

ニコッ

そんな火魅華に乙姫は微笑むと、

「さぁーて、

 仕事仕事」

火魅華は挨拶もせずに背を向け、

「え?

 いいの?」

困惑する樹里をそのままに立ち去ってしまった。



「嫌われた見たいですね」

火魅華の素っ気ない行動に乙姫は小声で尋ねると、

「さぁ…

 天の邪鬼みたいですから、彼女…」

と真奈美は返事をする。

すると、

「あっ姫子ぉ」

「本当だ、湊さんだぁ」

「突然転校しちゃったから心配していたのよ」

乙姫の姿を見た女子生徒達がワラワラと周りに集まり、

昔話に花を咲かせ始めた。

そして、その数分後、

カツン!

真奈美の傍でヒールの音が響き渡ると、

「え?」

音の響いた方向へ真奈美が見た途端、

「ぶっ!」

思わず彼女は噴いてしまった。

「なっなんだよ」

真奈美のその態度に困惑する櫂の声が響くと、

「きゃははははははは!!!

 なにその格好!!!」

お腹を抱え真奈美が笑い転げる。

「かっ櫂さん?」

「うわぁぁぁ!

 見ないでぇぇぇ!」

呆気にとられる乙姫に視線に、

櫂は無理矢理着せられたバニーガールの衣装を

光り輝かせながら更衣室に逃げ込もうとするが、

「逃げること、

 許さない!」

そう言いながら綾小路かおるが櫂の腕を思いっきり掴んだ。

「うわぁぁ、

 離せ!!」

頭から伸びる2本のウサ耳を揺らしながら櫂は暴れると、

「何そんなに嫌がっているのよ」

立ち上がった真奈美がそう言うと、

「(ぽしょっ)

 なに恥ずかしがっているの、

 バニーガールなんて、

 成行博士と一緒にいるときになったでしょう?」

と誘拐された乙姫を取り戻すため、

バニーガール姿のパワードスーツを着たことを指摘した。

「あれとコレは違うっ!」

真奈美の指摘に櫂はそう言い返すと、

リーン…

突如、櫂や真奈美、そして乙姫の竜玉が微かに反応をし始め、

「うわっ」

「やだ」

顔と真奈美は竜玉を隠すように慌てて胸に手を置く。

そして、

「あれ?

 何かしらこの音?」

と他の者達がその音に気づくのと同時に、

ゴワァァァァ…

ザザザザザ!!!

水の音が窓の方から響くと、

ボボボボボッ!

晴れ渡る秋の空を映し出していた窓が突然破られ、

ドバシャーーン!

教室内に向かって大量の水が一斉に噴き出し流れ込んで来た。

「うわぁぁぁぁ

 津波だぁ!!」

「洪水だぁ!!」

「逃げろぉぉぉ!」

水が流れ込むのと同時に悲鳴と怒号が響き渡るが、

中にいたクラスメイトは逃げるまもなく、

開店直前の模擬店と一緒に押し流されていく、

「真奈美さん!!

 櫂さん」

「はいっ!」

シュルン!!

突然の事態に櫂・真奈美・乙姫の3人はたちまち人魚姿になると、

ポウ…

水術を駆使し流れ込む水をせき止めようとするが、

ズズズズ!!!

流れ込んでくる水量は強力で、

『くぅぅぅぅぅ…』

『んんんん…』

『うぉりゃぁぁぁ』

3人が束になっても押し戻すことはなかなか出来なかった。

その時、

シャッ!

カナの目前に火の帯が走ると、

ブワッ!

濛々たる水蒸気と共に水の流れが断ち切られ、

そして、間髪を入れずに

ドゴッぉ!!

土が降り注ぐと、

『出でよっ

 ブナっ!』

のかけ声が響き渡った。

すると、

ニョキニョキニョキ!!!

降り注いだ土の中から次々と若芽が芽吹き、

たちまち巨木となって天井を突き破ってしまうと

大きく葉を広げ漏れ落ちてくる水を全て吸収していった。



瞬く間に樹海と化してしまった教室に、

ボテッ!

人魚姿のカナ達が落ちると、

「はーぃ、植林終了でーす」

「ふぅ…手間を取らせて」

樹里と火魅華の声が響き、

ガサッ!

気の間から火魅華と樹里、そして土岐恵の3人が姿を見せる。

すると、

『あなた達に助けられてしまいましたね』

乙姫は礼を言いながら3人に向かって手をさしのべると、

「別に…」

その言葉に火魅華はそっぽを向き、背を向ける。

『おっおいっ、

 乙姫様に失礼だろっ』

火魅華の態度にカナが文句を言おうとするが、

『やめなさいよ

 助けて貰ったんでしょう』

とマナが注意をした。

『でも…』

なおも収まりがつかないカナがマナに向かって文句を言ったとき、

「あっ、あそこ、誰かが引っかかっている」

と木の上を指さし、樹里が声を上げた。



「ぜはぁ…」

「しっ死ぬかと思ったぁ」

『えへへへ

 ちょっと失敗』

それから10分後、

櫂達の前には照れ笑いをする人魚マイと、

三途の川を渡りかけた沙夜子に夜莉子と藤一郎。

そして、キョトンとしたままの水姫の姿がそこにあった。

「マイさん

 あなたの仕業だったのですか、

 ”水の道”を造るときは出口に気をつけるようにとあれほど」

そう乙姫が注意をすると、

『あっ一大事!

 海人がUFOにさらわれたの。

 あたし、それを言いに大急ぎで来たんだよ』

とマイは乙姫に海人が拉致されたことを報告した。

「海人がUFOに拉致された?」

マイのその言葉に、

櫂と真奈美が驚きながら声を上げると、

『うん』

マイは大きく頷いた。



ガロロロロロロ…

「こいつ、一体何処に行く気だぁ?

 多摩川を渡ったから川崎か横浜当たりだと思うけど」

都内を飛行するUFOの上によじ登り、

そこで胡座を掻いた海人は眼下に見える模型のような街を見下すが、

その向かっている先には次第に水無月高校が姿を現していた。

一方、UFOの中では

『マッチョ兄貴ぃ』

『えれー災難だったな、サブ』

マッチョとサブが巨大生物の湖からの脱出劇を思い出し、

胸を撫で下ろしていた。

『兄貴、

 このままトンズラしますか?』

身体を震わせながらサブがそう尋ねると、

『馬鹿野郎!

 これだけコケにされて引き下がれるかっ
 
 バンバ星人としての意地がねぇのか、
 
 こうなったら、連中に一泡吹かせてやる
 
 俺たちが遭ったのと同じ目に遭わせてやる』

サブに向かってマッチョ兄貴はそう怒鳴るなり、

カチッ!

操作卓横の釦を押した。

すると、

シュピーッ!

UFOから地上へ向けて一筋の怪光線が放たれ、

それが街を歩く一匹の猫を直撃した。

すると、

『ふにゃごぉぉぉぉぉぉぉぉ!』

UFOからの怪光線の直撃を受けたネコはのたうちながら、

メキメキメキ!

身体を巨大化させていくと、

ズシン!!!

『ぎゃぉぉぉぉぉぉんんん!!!

 ニャケンダー!!!』

巨大怪獣・ニャケンダーとなって街の中に聳え立った。



「にゃけんだぁ?」

「にゃけんだぁって?」

響き渡った声に櫂と真奈美が破れた窓へと向かうと、

ヌォォォォォッ!!!

校門の所から巨大なネコ怪獣・ニャケンダーが姿を現し、

ズシン!

ズシン!

と学校に向かって歩き始めた。

「ねっネコぉぉぉぉ」

「ひゃぁぁぁぁ」

ニャケンダーの出現に皆が肝を潰すのと同時に、

「うわぁぁぁぁ!!」

「きゃぁぁぁぁ!!」

校内はたちまちパニックに陥ってしまうが、

『ニャケンダー!!』

ガハァァァァァ!!!

ニャケンダーはそんな人間達の事情など気にすることなく、

口から怪光線を吐きながら校内に侵入してくると、

模擬店の裏に積み上げてあった食材を食べ始めだした。

「あぁっ

 こらぁ!」

それを見たラグビー部の男子達がニャケンダーに向かって猛然とタックルをし、

押しだそうとするが、

『ニャケンダー!!』

ガハァァァァ!

ニャケンダーはラグビー部員に向けて問答無用で怪光線を放つ。

すると、

「うわっ」

「いっいやぁぁん!」

「やだやだやだ」

突撃していった男臭い部員達は

たちまち、スカートをはためか女子すラクロス部員へと変身してしまい、

たわわに膨らんだ胸を隠しながら遁走していってしまった。

「男を女に…」

「なんて恐ろしい」

ニャケンダーの途方もない力に櫂と真奈美は驚いていると、

「樹里っ、

 土岐恵っ

 化け猫退治だ、行くよっ」

火魅華が声を張り上げると、

「行く行く行く!!!」

「うむ」

張り切る樹里と無口の土岐恵がその後に付いて行く。

そして、彼女たちを横目に見ながら、

「櫂さん
 
 真奈美さん」

と乙姫は声を掛けると、

「はいっ」

「彼奴らに負けられない」

と言いながら2人は手を取り、

「ディアル・オーロラウェーブ!」

と声を張り上げた。



『ニャケンダー』

模擬店の食材を食べ続けているニャケンダーの横で、

カサカサ

コソコソ

動き回る者の姿があった。

『ふっふっふっ

 この鈴を付けてしまえば、
 
 このネコ怪獣は我がゴーストバグの配下になる…
 
 さすがはブンブン総帥、
 
 その天才的な頭脳には感服しますわ』

と巨大な鈴をほこらしげに掲げ、

ゴーストバグの会員怪人のクモ女はほくそ笑む。

だが、

「そうはさせないわよっ!」

の声が響くのと同時に、

「レッドウィップ!!」

とかけ声が響くと、

バシッ!

クモ女が掲げていた鈴がはじき飛ばされてしまった。

『おのれっ

 バニーエンジェルっ
 
 またしても邪魔を…』

シュタッ!

クモ女の周囲に姿を見せたバニースーツ姿の少女達に向かって、

クモ女は声を上げると、

「うふっ、

 あなたの悪事はここまでよ」

「大人しくホイホイされちゃないなさい」

とバニーパープルとバニーイエローが叫んだ。

『ふっ言わせておけば…』

「行くよみんな」

ドカッ!

ニャケンダーそっちのけで乙女にと新たなる闘いが始まるが、

こっちの件については後日報告をすることになると思う。



『うむ、

 一匹じゃ心許ないな』

UFOの中からニャケンダーに翻弄される地上を見ていたマッチョは徐にそう呟くと、

『ほれっ』

『ほれっ』

と次々と釦を押し、

シュバァ

シュバァ

シュバァ

その光線を浴びた猫たちは次々とネコ怪獣・ニャケンダーとなり、

『ニャケンダー!!!』

ガハァァァァァッ!!!

「きゃぁぁぁぁ!」

ニャケンダーが放つ怪光線によって

街中の人たちが次々と性転換されてしまい、

「うわぁぁ、なっないっ!」

「きゃぁぁ、

 なにこれぇぇ!!」

突然、異性にされてしまった人たちで街中がパニックに陥っていってしまった。

そして、その時、

キーーーーン!!

ようやく我らがTSFのファイターが到着したのであった。



「たっ隊長!

 なんですかアレは」

「ネコ怪獣か…

 そんなの報告になかったぞ」

至る所から姿を見せ、怪光線を放っているネコ怪獣にゴウダは困惑する。

ピピーッ!

TSF支部から各ファイターに通信が入り、

『隊員各自に告ぐ、

 本日午前10時、

 政府は都内各所に出現したネコ怪獣を怪獣・ニャケンダーと命名。

 都内・23区並びに隣接する埼玉県、千葉県、

 並びに川崎市と横浜市に対し特殊災害救助法の適用を認め、

 同時にTSF日本支部に対し、ニャケンダーの駆除指示を発令。

 各自の判断にてニャケンダーを駆除されたし』

と告げた。

「よっしゃっ、

 お上から許可が出たぞ!」

それを聞いたチシブキが嬉々としながらガッツポーズをすると、

「こらっ、

 だからとバラバラに攻撃をしたのではダメだ、

 狙いを定めて一匹ずつ退治してゆくしかあるまい」

チシブキの独断を抑えながらゴウダは素早く方針を決めると、

一匹のニャケンダーに狙いを定め、

「全機、

 あのアイパッチをしたトラジマを狙え!」

と指示を出した。

『ラジャッ!』

その指示に返答が帰ってくるのと同時に、

シュバシュバシュバ!

全ファイターより一斉にミサイルが放たれると、

一直線にトラジマへと向かっていく、

そして、

カカッ!

チュドォンン!!!

ドドォォォン!!!

トラジマの周囲に閃光の華が一気に咲き誇ると、

瞬く間にトラジマの姿は濛々と立ち上る煙の中へと没してしまった。

「やったぁ!」

それを見ながらTSFの隊員達は一斉に喜ぶものの、

だが、

『ニャケンダー!!!!』

トラジマのモノと思われる雄叫びが響き渡ると、

ブンッ!

煙の中から強烈なアッパーカットが飛び出し、

ズガン!

ゴウダ機を一気に粉砕してしまった。

「隊長!!」

「隊長ぉぉぉ!!!」

それを見た隊員達から一斉に悲鳴が響き渡る。

が、

フワッ!

間一髪、ゴウダは脱出に成功し、

ニャケンダーから離れたところで落下傘の傘が開いた。

「ほっ

 良かったぁ」

ゴウダの無事な姿を見た隊員達から安堵の息が漏れるのと同時に、

「くぉの野郎!!!!」

案の定、頭に血が上ったチシブキが搭乗するファイターが単機、

トラジマ目がけて突っ込んでいくと、

クルリ

と回転しながら搭載しているミサイルを全騨一斉に放った。

シュバァァァァ!!

チシブキ機から放たれたミサイルは傘が開くように周囲に飛び散った後、

その進行方向を変えると、

絞り込むようにしてニャケンダーへと突き刺さっさっていく。

「仕留めた!」

その場にいた全員がそう思った。

だが、

『ニャンパラリ!!!!』

チシブキ機のターゲットにされたトラジマは華麗に宙に舞うと、

バレエを舞踊るバレリーナの如く

紙一重の神業で突き刺さってくるミサイル群をかわしていった。

ズドドドドドォンンンン!

「ちぃぃぃっ!

 バレリーナか、あいつは!!」

トラジマにかわされ虚しく散ってゆくミサイル達が咲かせる華を見つつ、

チシブキは臍をかむと、

「くぉのやろう!!!!」

と怒鳴りながらモード切替スィッチを押した。

すると、

ギュッィィィン!

ガチョン!!

飛行するファイターの下部に2本の脚が降り、

さらに

ガチョン!!

ファイターが真横に2つ折りされると、

ガチョン!

ビキーン!

その折り目からモノアイを光らせる頭部と、

携帯型ガトリング砲を装備した両腕が飛び出し、

そして、

グルンと一回転をすると、

ガチョン!!!

チシブキ機は飛行体型から、

格闘戦用バトロイド体型への変形を完了した。

「ふははははは!!!

 どうだ、ニャケンダーめっ!!

 おどろいたかっ

 TSFの潤沢な資金を投じて完成させた。

 バトロイド・ファイターVF−1Jだぁぁぁ!!!」

とある雑居ビルの屋上に着地したゴウダは声を上げながら胸を張る。

そして、そのコクピットでは、

キュィーン

キュィーン

キュィーン

電子音を上げながらチシブキの前に突きだした液晶ディスプレイに

次々と照準がセットされると、

ニヤッ

チシブキの顔が一瞬ほころび、

「うらぁぁぁぁぁぁ!!!!

 野良猫めっ

 往生せいやぁぁぁぁ!!!

 死にさらせぇぇぇぇぇ!!!!」

その怒鳴り声と共に、

ガチョン!!

チシブキ機はガトリング砲を構え、

ブォォォォォォォォォォォ!!!!

射撃を開始した。

だが、

『ニャケンダー!!!!』

ガトリング砲を放つチシブキ機に臆せずにトラジマは突撃してくると、

『ネコ手ぇぇぇぇ

 ぱぁぁぁぁぁぁぁんちぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!』

のかけ声と共に強烈なネコ手・張り手をチシブキ機目がけて放った。

刹那

ズガァァァァァァン!!

大音響が街中に響き渡り、

チシブキ機は空中へと放り出されると、

そのまま、水無月高校下で建設中の温泉ランド、

「じお風呂んと・神隠しの湯」

の敷地内へと落下して行った。



ドゴォォォォン!!!

「直撃か…」

神隠しの湯の地下深くに設けられた本部発令所。

ひな壇状にならんだその最上部で、

メガネを怪しく光らせながら五十里が呟くと、

「問題ありません、

 衝撃は第1装甲板までです」

とモニターをチェックしていた相沢が状況を報告する。

「竜宮の何かかと思ったが、

 どうも違うみたいだな…」

五十里の背後に立つ夏目が正面に映し出されるモニターを見ながら呟くと、

「竜宮だろうが、

 異星人だろうが、

 我々には関係はない

 侵入者は排除するのみだ」

と五十里は返事をする。

「で、どうする?

 アレをだすのか?

 ただ、パイロットのアトランの人魚達はいま出払っているが…」

と夏目はいま竜宮と穏やかに対立しているアトランティスの人魚である、

ミール達が不在であることを指摘した。

すると、

「問題はない、

 さっき代わりが届いた」

と五十里は返事をし、

パッ!

正面のモニター画面が切り替わる。

すると、

そこにプラグスーツを着た1人の少女の姿が映し出され、

「準備はいいか?」

と五十里は少女に尋ねた。

その途端、

「はーぃっ

 綾波…じゃなかった、
 
 真城華代っ
 
 いつでも準備オッケーよ!」

と少女はトレードマークである、

三つ編みの髪をぴょこんと揺らしながら、

元気に返事をした。

「なっなにかね?

 彼女は?」

予想外の展開に夏目は驚くと、

「あぁ…

 彼の紹介でな…4番目の適格者だよ」

と五十里は一緒にモニターに入ってきた、

髪を7・3に分けた顎長の男を指さす。

「彼は?」

「この計画の要であるユヴァンゲリオン建造にあたり、

 資材の提供と、技術のサポートをしてくれた。
 
 アトランティスの理解者だよ」

「そうですか」

「シンクロ率に問題はない。

 聞こえるか、

 零号機のセッティングを君に合わせた」

呆気にとられる夏目を尻目に五十里は華代に指示を出すと、

「ありがとう、指令さん」

華代はウィンクをして、

早速水色の機体から突きだしているエントリープラグへと向かっていく、

すると、

『五十里指令』

あの顎長の男が割って入り、

『すまないが、

 あと2人、適格者を連れてきた。

 初号機と弐号機に搭乗させたいのだが』

と提案をしてくると、

スッ!

カメラは白と黒のプラグスーツを着た2人の少女を映し出す。

「これは?」

『わたしの妹たちだ。

 シンクロ率は大丈夫だ』

と顎長の男は五十里に告げると、

「そうか、

 君がそう言うのなら信じよう」

顎長の男に説明に五十里は大きく頷くと、

「初号機と弐号機のエントリプラグを開けろ」

と相沢に指示を出した。



『で、何であたしがこんなのに乗らないと行けないのよ』

プラットホーム上で白いプラグスーツ姿の白蛇堂が文句を言うと、

『なにも言うな、

 いまは黙ってそれに乗れ』

と顎長の男は腕を組みながら返事をする。

一方で、

『あの…

 お店、大丈夫でしょうか?』

黒のプラグスーツを着た黒蛇堂が不在にしている店のことを心配すると、

『あんた、ばかぁ?

 こんなところでお店の心配しても始まらないのよっ』

といいながら白蛇堂は黒蛇堂の額を突っついた。

『店のことなら心配するな、

 お前の影が店番をしている』

顎長の男は落ち着いた口調で説明し、

『華代は既に零号機のエントリープラグに搭乗した。

 元とは言え華代付けの天使だったお前達は

 この事態を見過ごすわけには行くまい』

と続けると、

『はいはい、判りましたよ。

 乗ればいいんでしょう。
 
 お兄様っ』

議論の行き着く先を読み取った白蛇堂は額に右手を置き、

左手で呆れたポーズをしながら返事をした。

そして、

『いくわよ』

と一言黒蛇堂に向かって言うと、

それぞれ、

初号機と弐号機のエントリープラグに向かって歩き、

そして、

シュゥゥン!

エントリープラグが回転しながらユヴァンゲリオンに収まっていくと、

ギンッ!!

零号機・初号機・弐号機の目が光り輝く、



「シンクロ率…

 95%!!!

 84%!

 83%

 シシル達でも70%台に届くかどうかなのに、

 なっなんですか、彼女達は?」

華代や白蛇堂と黒蛇堂が出すユヴァンゲリオンとの驚異的なシンクロ率に

皆が驚くと、

「ふふっ

 まっあの子達は人にあらず…だろうかな」

と五十里は含み笑いする。



『ニャケンダー!!!』

一方、地上では、

さらにネコ怪獣・ニャケンダーの数が増え、

街中、

いや、東京隣県地域にまでニャケンダーが溢れている惨状になっていた。

そして、そのことは

リリリリリリ!!!

リリリリリリ!!!

「はいっ、もしもし、

 TSFです」

「あっはいっ

 千葉市の国道16号線にニャケンダーですね
 
 はいっ、
 
 ただいま駆除に向かいます」

「もしもし、

 え?

 世田谷の環八通りにニャケンダー?

 はっ?

 小田急線の高架に頭を突っ込んだまま動かない?

 直ぐに保護に参ります」

「え?

 ランドマークタワーで爪研ぎをしている?…」

TSFのコールセンターへ苦情が山のように殺到し、

対応の職員がぶっ倒れそうな勢いで鳴り続ける電話の海を飛び回っていた。

そして、彼らや彼女らが書き記した出動要請の書類が、

離席したままのゴウダの席に堆く積み上げられ、

ギシッ

メキッ!

次第にゴウダの席を押しつぶし始めていた。



ピピー

ピピー

「チシブキ!!

 大丈夫か」

建設中の神隠しの湯の敷地内に落下したチシブキ機に

安否を気遣うサイゴウの声が響き渡る。

「うぐっ、

 くくくく

 やりやがったなぁ」

幾度も響き渡るその声にチシブキは目を覚ますと、

グッ!

操縦桿を思いっきり引いた。

すると、

ギンッ!

沈黙をしていたはずのVF−1Jの目に灯りが戻り、

ギッギギギギギ…

ゆっくりと起きあがり始めた。

「おぉ…

 無事か…」

再起動を始めだしたチシブキ機を見てサイゴウは安堵するが、

だが、

『ニャケンダー!!!』

チシブキ機を吹っ飛ばしたトラジマはそのことに気づくと、

ゆっくりと近づき、

大きく息を吸い込んだ。

「いっいかん!!

 アレを浴びたら、

 チシブキといえども女子高校生にされてしまう!!」

ニャケンダーが出す怪光線の威力を見せつけられてきたサイゴウの脳裏に、

ムッチリと膨らんだフトモモが眩しいブルマ姿のチシブキが

ウィンクをしている姿がよぎると、

ゾワッ

その背筋に冷たいモノが走った。

そして、それはサイゴウの腕を素早く動かす原動力となり

両腕をクロスしたサイゴウは

「フロス!」

と叫び声をあげた。

その途端、

パァァァァ!!!

サイゴウの体は光に包まれ、

その光の中で、

サイゴウは全裸となり、

ムリッ

ムクムク!!

ムクムク!!

そのシルエットが急速に丸みをおびていくと、

胸から二つの膨らみが飛び出し、

ウェストはキュッと括れ、

また、ヒップは大きく膨らんでいった。

そして、鍛え上げた筋肉の影がなめらかな肌の下に没してゆくと、

シュルルルルルル!!

白い肌が銀色に染まり、

なめらかながらも立派な鎧へと変化してゆく、

それに合わせて、

ムリッ!

胸の真ん中にカラータイマーが姿を見せると、

ムクムクムク!!

膨らみを維持したまま胸板が盛り上がり、

また、リボンが巻き付くように身体に朱色の斜線が走ると

その先端が交差していった。

サイゴウ機から発せられる光はさらに強さを増すと、

ファイターさえも包んでしまい。

巨大な光の固まりと化した。

そして、

シュワッ!!

かけ声と共にその光の玉が弾け飛ぶと、

ズシーン!!!

弾け飛んだ光の中からウルトラウーマン・フロスが姿を現し、

チシブキ機を狙っているトラジマの顔面にキックをお見舞いする。

『ニャケンダーぁぁぁぁ!!!』

フロスのキックをまともに受けたトラジマは大きく飛ばされ、

ズシーーーン!!!

水無月高校の校庭に着地をした。

「うわぁぁぁぁ!!」

「ネコ怪獣がまたやってきたぁ!!!」

フロスにはじき飛ばされて落ちてきたニャケンダーに校内はパニックに陥る。

すると、

『ニャケンダー!!!!』

ニャケンダーは逃げまどう生徒達に狙いを定め、

スゥゥゥゥ!!

大きく息を吸い込み、

あの怪光線を放とうしたとき、

『ブラックサンダー!!!』

『ホワイトサンダー!!!』

と2人の少女の掛け声が鳴り響き、

そして、

『マーブルスクリュウ・マッックスゥゥゥ!!!』

と声が続くと、

ズバババババババ!!!!!

白と黒の螺旋状の稲妻が天空を駆け抜け、

トラジマの真下からアッパーカットの如く突き上げた。

『ふぎゃぁぁぁぁ!!!』

真下からの強烈な一発に

トラジマは悲鳴を上げながら再び高く飛び上がるが、

『にゃんと!!!

 どすこい!!!!』

直ぐに体勢を立て直すと、

自分を追ってくる螺旋の稲妻を見据え、

雲竜型の土俵入りを披露した後、

『どすこいっ

 どすこいっ』

バシッ!

バシッ!

ネコ手張り手で稲妻に応戦を始めだした。

「くぅぅぅ…

 強い」

「うそぉぉ!!」

これまでの敵とは違い、

マーブルスクリューと互角に対峙するニャケンダーのパワーに、

黒コスと白コスの少女戦士達は驚きの声を上げた。

そして、

『いけないっ』

それを見たフロスが慌てて駆け寄ろうとしたとき、

『ニャケンダー!!』

『ニャケンダー!!』

トラジマとは別のニャケンダーが水無月高校に接近を始めだしていた。



ガロロロロロロロロ…

ネコ怪獣・ニャケンダーによってパニックに陥ってしまった東京を眼下に望みながら、

バンバ星人のUFOはゆっくりと飛行してゆく。

『ふふふっ

 わはっはっはっ

 見よ、地上の混乱ぶりを、

 この星の人間共がゴミのようだ』

なみなみと注がれたグラスを片手にマッチョは悦に浸りながら、

ニャケンダーの怪光線によって性転換させられた人々が混乱していく様を眺めていた。

すると、

『さすがですっ

 マッチョ兄貴っ』

すかさずサブがマッチョを称えると、

『ふふっ(ひっく)

 おうよぉ

 こう見えても俺は銀河連邦大卒だからな、

 ジャッドンの他の連中とはここの出来が違うのよぉ』

顔を真っ赤にしながらマッチョは自分の頭を指で突く、

『(うわぁぁ、酔っぱらっているよぉ)

 でっでも兄貴ぃ

 あの、こういっちゃ何だですが、

 こんなに派手なことをしてしまったら

 ギャラクシーポリスが飛んできませんか?』

とサブが心配した途端。

パァァァァ!!!

街の一角が光り輝くと、

シュワッ!

その中から銀色の肌を晒す女性戦士が姿を見せた。

『ひっ!

 あっアレは…

 ぎゃっギャラクシーポリスの惑星刑事!!!!

 あっ兄貴っ

 一大事ですっ

 ギャラクシーポリスの惑星刑事は俺たちを追いかけてきましたよ』

姿を見せたフロスにサブは悲鳴を上げながらマッチョにすがりつくが、

『けけけけ…

 ギャラクシーポリスがなんでぃっ!

 俺様は宇宙マフィア・ジャッドンのマッチョ様だい!!

 脅しなら俺の方が一枚も二枚も上手でぃ』

勝利の美酒にすっかり呑まれてしまったマッチョは朦朧とした意識の中で、

ポチッ!

とUFOの操作卓で輝いている一つのスイッチを入れた。

すると、

カッ!

キラキラキラ☆

UFOに施されていた電飾が一斉に光り輝くと、

やがて真っ赤に染まり、

シュパァァァァ!!

ゴゴゴゴゴゴゴ!!!!

光り輝く巨大なリングがUFOの真上に姿を見せると、

スゥゥゥゥ!!!!

UFOの左右から巨大な羽が大きく見開いて行き、

「うわっ、

 なんじゃこりゃぁ!!」

このUFOの上に座り込んでいた海人は

自分の真上と真横で始まったショーに度肝を抜かされると、

「はぁ…なんか、

 ドンドンと凄いことになっていくな…」

とただ呆気にとられていた。



つづく