風祭文庫・ヒーロー変身の館






「宇宙大戦争」
(第1話:バンバ星人襲来!)



原作・風祭玲

Vol.680





時は西暦20XX年、地球では怪獣や宇宙人の襲撃が多発し、

国連の外部機関たる地球防衛軍では対処しきれないと判断した人類は

専任の特殊科学戦隊TSFを結成し、迫り来る脅威に立ち向かっていた。



ツツー

ツツー

『はい。

 あら、フロス。

 久しぶりね。

 調子はどう?

 そっちの水にはもぅ慣れた?』

銀河系の治安を預かるギャラクシーポリス。

そのギャラクシーポリスの本庁舎内に

イシュ・アスター惑星刑事の楽しげな声が響く。

【うっうん、

 まぁまぁかなぁ…】

『うふっ

 それは良かったわ…』

開いた携帯電話の画面に写るフロス・タガー惑星刑事に向かって

イシュは笑みを浮かべると、

『今月の報告書、読んだわよ、

 平和だと思っていたオガサワラでも色々あるみたいね』

彼女が提出した月例報告書の内容へと話題を移した。

【それはもぅ大変よ、

 それにここの第三惑星って、

 私の経験がまるで通じないし、

 はぁ…

 とっても疲れるわぁ…】

黄色の目の輝きを落としながらフロスは思わず愚痴ってしまうと、

『あら、フロスが愚痴だなんて…

 痴漢逮捕で銀河経済を大混乱させた敏腕女刑事の台詞とは思えないわね。

 いつからそんなに愚痴っぽくなったのよ』

とイシュは皮肉を込めて言う。

【イシュぅぅぅ…

 そんな言い方をしなくても…】

イシュの言葉にフロスはジト目で抗議をすると、

『あはは…

 冗談よ冗談』

とイシュは笑って答え、

『あっそろそろ会議の時間だわ、

 じゃ、報告書はカガミ刑事課長の方へ提出しておくから、

 一日も早い栄転を待っているわよ、フロス』

と言うや否や電話を切ってしまった。



『あっ

 イシュッ…

 はぁ…

 会議かぁ…

 それに引き替えあたしときたら、

 こんな最果ての駐在所勤務…

 トホホ…

 早く本庁に帰りたい…
 
 ロッポンギで遊びたいよぉ』

イシュの姿が消え、

通話記録と料金が表示されている携帯電話の画面を見ながら、

フロスはがっくりとうなだれると、

『あーっ、

 フロス様っ
 
 よろしいでしょうか』

とやや渋みを感じられる男性の声が響いた。

『なに?』

その声にフロスが返事をすると、

『そろそろ戻らられた方が…

 いくら憑依先の地球人・サイゴウツヨシの就寝中とはいえ、

 あまり長時間での行動は双方にとってよからぬ影響を与えますので』

と声はフロスとフロスが憑依しているサイゴウツヨシの体調を心配する。

『ありがとう、

 判ったわ、

 じゃぁ、また監視の方よろしくね、
 
 ゲートを開いて』

その声に頷きながらフロスが指示をすると、

ブンッ!

フロスの真後ろに黒い穴が開き、

スッ

きびすを返したフロスはその中へと消えていった。



ピコーン

ピコーン

フロスが去った後

巨大な輪を持つ土星を背景にして、

無人となった駐在所にレーダーの動作音が響き渡る。

『ふぅ…監視って言ってもなぁ…

 こんな辺境地帯に来る異星人なんて滅多にはいないぞ』

スィーッ!

そんな文句と共にこの駐在所を管理するメインコンピュータに接続されている

巨大な眼球が天井から降りてくると、

スルスル

眼球の周囲から無数の触手が伸び、

火が入っているモニターの一つ一つをチェックしはじめた。



さて、その駐在所からほど近い、

太陽と土星との重力が釣り合うとされるラグランジュポイントに

淡いガスを噴き上げる無数の氷の破片が漂っていた。

かつてツルカメ彗星と呼ばれた巨大彗星の残骸である。

ツルカメ彗星はほぼ同時に太陽系に侵入してきた謎の水惑星によって粉々に砕かれ、

その大半は水惑星へと落下していったのだが、

水惑星からはじき飛ばされた一部の破片は

こうして土星軌道上のラグランジュポイントへと集まっていたのであった。

そして、その中にギャラクシーポリスの追跡から逃れてきた

一隻の小型UFOが隠れ潜んでいたのだが、

その存在はまだ駐在所のレーダーには捕らえられていなかったのである。

『キヒヒ…

 マッチョ兄貴ィ…

 どうやらギャラクシーポリスは俺たちの存在に気づいてないみたいですぜ』

UFOから伸びる潜望鏡で前後左右を確認しながら

小柄で小太りのバンバ星人の男がそう報告すると、

『そうか、サブ!

 どうやらこの星系で落ち着けそうだな』

入れ墨を入った腕を振り上げながら、

背が高くマッチョ気味のバンバ星人が返事をする。

『でも、マッチョ兄貴ぃ、

 これからどうするんッスか?

 宇宙マフィア・ジャッドンは壊滅状態、

 俺たちをこれから何処を頼っていけばいいんッスか?』

『ガタガタ騒ぐなっ、

 そもそもどこかに頼ろうという考えがいけねぇんだよ』

『でも…』

『いいかサブ、

 良く聞け、

 ジャッドンの創始者・グレートジャッドンは豆腐屋から身を起こし、

 一代で銀河の裏世界を支配する巨大マフィアを作り上げたのだ。

 豆腐屋のジャッドンが出来て、
 
 俺に出来ないわけではないだろう』

『マッチョ兄貴…じゃぁ…』

『ふっ、

 なにも言うな、サブ。

 俺は豆腐は作れないが、

 俺には…いや、俺たちにはこのUFOがあるじゃないか、

 始めるのさ、運送屋を…

 そして、その運送屋を足がかりにして、

 この銀河の流通を俺の手中に収めるのさ』

ドドーンを背景に波しぶきを巻き上げながらマッチョはそう訴えると、

『まっマッチョ兄貴っ

 俺はものすごく感動しやした。
 
 ついていきます。
 
 地獄の底までも兄貴についていきやすよぉ』

滝のような涙を噴き上げ、

サブはマッチョの足下に縋り寄る。

マッチョとサブ、

男と男のとても汗くさい友情が結ばれた瞬間であった。



『さて、とは言っても

 こんなところで旗揚げをしても意味はないか…』

マッチョはそう呟くと、

UFOのコンピュータを操作し始めた。

『マッチョ兄貴…

 なにを?』

『馬鹿野郎!

 運送屋を始めるにはまず拠点となる星が要るだろうが、

 こんな氷に囲まれたところで看板建てても客なんて来ねぇんだよ』

『なるほど、

 さすがはマッチョ兄貴だ』

コンピュータを操作する意味を知り、

サブと呼ばれたバンバ星人は大きく頷くと、

『おーしっ

 出た。

 この近所に手頃な星があるようだ』

『本当ですか?

 マッチョ兄貴?』

『あぁ、その星では空飛ぶホウキと

 黒猫が一匹いれば運送屋を開けるらしいぞ』

『はぁ…なんすっか?それ』

『よしっ、

 とりあえずそこに行ってみるか、
 
 おいっ
 
 サブ!
 
 全速前進だ!!』

ディスプレイに浮かび上がった青い惑星を見ながら

マッチョが声を上げると、

『へいっ!』

サブが運転席に座るなり、

キーを捻る。

すると、

キュルルルル!!!

ガロン!

ガロガロガロ!

響き渡るエンジン音と共にUFOは大きく身震いをすると、

バフォッ!

ガロロロロロ…

”銀河一番星”と派手に電飾をされたUFOは

濛々と黒煙を噴き上げながら星の海へと消えていった。



「レーダーは今のところオールグリーンです」

東京九段・国家鎮守の杜の地下深くに居を構える

特殊科学戦隊・TSF日本支部は

いつもと変わらない平和な朝を迎えていた。

「そうか」

交代制で監視していた隊員からの報告を受けながら

出勤してきた隊長のゴウダ・テツタロウは湯気が上がるコーヒーを口にする。

「ふぅ…

 長閑な日曜日の朝…

 このひととき一番心が落ち着くな…」

沸き立つコーヒーの匂いを嗜みながらゴウダはリラックスをしていると、

「ゴウダ隊長っ

 本部のフジタ課長が見えられましたが」

と受付から連絡が入った。

「ん?

 本部のフジタ課長?」

それを聞いたゴウダは徐に立ち上がると、

入り口近くの応接室へと向かっていく、

「おぉ、ゴウダ。

 久しぶりだなぁ」

「(ビシッ)たっ隊長っ

 お久しぶりです」

応接室でフジタの顔を見た途端、

ゴウダは彼を隊長と呼びながら直立不動の姿勢になる。

「おいおい

 いまの隊長はお前だろうが」

そんなゴウダの姿にフジタは笑うと、

「いえっ

 隊長が尽力を尽くされたからこそ、
 
 今日のTSFはあるのです」

とゴウダは返事をする。

そんなやりとりがTSF本部内で繰り広げられているころ、



キラッ☆

ドンッ!

宇宙空間より飛来した物体が大気圏に突入し、

夜が明けたばかりの大空に小さな航跡を描きはじめた。

そして、

しゅるるるるるる…

物体は朝日が差し込む東京へと近づき、

バフォッ!

そのまま東京近郊の森の中へと落ちていった。

シュゥゥゥゥゥゥ…

『へっへっへっ

 さすが、マッチョ兄貴ぃ

 兄貴のハンドルさばき、いつも見事ですぜ』

『はっはっはっ

 褒めるな褒めるな、

 A級ライセンスを持つ俺にとっては、
 
 まっお茶の子さいさいだがな』

『巨大な森がある星なんですね』

フロントガラスをのぞき込みサブが周囲の感想を言うと、

『うむっ

 ここなら俺たちの再出発に相応しいな。

 サブっ

 早速地ならしだ!!

 この森に俺たちの旗を立てるのだ』

とマッチョは気勢をあげ、

『へいっ!』

サブのその返事と同時に2人は宇宙服に身を固めると、

UFOから地上へと降り立った。

『重力はちょっと強いみたいですね、

 マッチョ兄貴』

『あぁ…

 大気成分は…

 どうやら宇宙服なしでも生きて行けるみたいだが、

 細菌の検査が終わらないと判らないか』

ピピッ

ピピッ

測定器を持った2人は森の中の大気成分・湿度・気温、

そして、有害細菌の有無を調べながら

キョロキョロと周囲を見回していた。

その時、

キラ☆

『ん?』

マッチョが日の光を受けて光り輝くあるものを見つけると、

『サブっ

 アレを見ろ!』

と指をさした。

『え?、なんです?

 兄貴…
 
 ってあれは…』

光るそれを見たサブは一瞬キョトンするが、

『!!』

その光具合から何かに気づくと慌てて駆け出し、

そして、汗だくになってそのところに到着するや否や、

『こっこれは…』

と目をまん丸にして声を上げた。

『うむ…

 間違いない、

 これはアルミニウムだ…

 しかも、高純度のアルミニウムだな』

目の前に実を横たえる身の丈以上の円柱を前にして

あとからやってきたマッチョはそう呟くと、

『スゴイっすっ

 兄貴!!

 アルミニウムと言えば銀河いや、

 宇宙中の者達が血眼になって探しまくっている究極のレアメタル…

 60周期前に勃発し銀河総質量の約1割が蒸散したと言う

 第2次銀河大戦のそのそもそもの引き金は、

 惑星ジッポーで発見されたアルミ鉱床を巡って枢軸側と連合側の争奪戦というのは

 小学校で必ず教えますし、

 それに、人間と同じ重さのアルミニウムのインゴットがあれば、

 恒星系一つが丸ごと買うコトが出来る…
 
 そんなとてつもないモノがここに…

 すっスゴイです。

 あっ兄貴っ
 
 これを手に入れれば俺たち億万長者、
 
 いや、銀河長者ですよぉぉ!』

と興奮気味にサブは声を張り上げた。

『(随分と詳しいじゃねぇか)

 あぁ、これほどのレアメタルがこんな所に…
 
 しかも、捨ててあるが如く存在しているなんて』

マッチョは身を震わせながら見上げていると、

ブワッ

突如巨大な影が2人を覆い、

フンフン

フンフン

生臭い匂いを伴う風が吹き抜ける。

『え?』

『へ?』

その音と風に2人が振り返ると、

ヌォォォ!

直ぐ背後に巨大な2つの目と白と茶色の毛に覆われた巨大生物が迫り、

2人の匂いを盛んに嗅いでいたのであった。

『ひっ

 うわぁぁぁぁ!!』

『ぎゃぁぁぁぁ!!

 怪物がでたぁ』

身の丈以上の巨大生物の登場に2人は悲鳴を上げ、

一目散に逃げ出す。

だが、

『うわんっ!』

逃げ出した2人を見た巨大生物は一鳴きをするなり、

ズシンッ

ズシンッ

炎のような赤い舌を出し、

漆黒の爪を立てると、

駆け足で2人の後を追いかけ始めた。

『ひぃぃ!!!』

『助けてくれぇ』

涙を流しながらサブとマッチョは逃げ回り、

そして、2人の視界に広大な湖が姿を見せてくると、

『サブッ

 あの中に飛び込め!!』

『はいっ』

マッチョのその指示と共に、

『とぅ!』

ザブン!!

湖の中へと2人はダイブした。



バシャーン!

サボーン!!

ほぼ同時に湖面に2本の水柱が伸び、

水面下で2人は息を殺して生き物が立ち去っていくのを待つ。

ところが、

ズズズズズ…

いきなりその水が動き始めると、

ヌォォォォ!!!

2人の真横を肌色の物体が通り過ぎ、

それによって巻き起こった水流に2人は翻弄される。

『流されるぅぅ』

『なっなんだ?』

命からがら2人は水面に浮き出ると、

ドォォォン!

2人の直ぐ横に天に届いてしまいそうな巨大生物が姿を見せ。

翠色に輝く髪を整えながらキョロキョロと周囲を見回していた。

『かはっ

 なんなんだ…』

水面近くで光る巨大な鱗をみながらマッチョは肝を潰していると、

「ハニーじゃない…

 そんなところで何をしているの?」

と巨大生物は湖の岸で盛んに尻尾を振るシーズー犬に向かって声を掛けた。

すると、

「わんっ!」

ハニーと呼ばれたシーズー犬は一鳴きすると、

ハッハッハッ!

さらに盛大に尻尾を振り始めた。

その時、

「ハニーっ

 何処ぉ」

と巫女装束姿の巫女神夜莉子が姿を見せると、

「あっ、

 夜莉子ぉ、
 
 ハニーならここにいるよぉ」

と人魚のマイは手を上げ、声を掛けた。

「あっ

 ハニー、
 
 ダメじゃない、勝手に出て行っては」

マイの声に呼ばれて夜莉子がマイの住居を兼ねる池に来た途端、

自宅から逃げ出した愛犬・ハニーを見つけ声を掛ける。



『きょっ巨人だ、

 この星は巨人の住む星なのか?』

『あっ兄貴ぃ〜』

シーズー犬を抱き上げる夜莉子と、

正面にそびえるマイの姿に2人は抱き合って震え上がっていた。

すると、

「おーぃ、

 これって、夜莉子のか?」

その声と共に箒を肩に掛け、

巫女装束姿の巫女神沙夜子が姿を見せると、

直径30cmほどの大きさのUFOを掲げて見せる。

『あ〜っ!!!!』

それを見た2人は思わず悲鳴を上げると、

「え?」

「ん?」

「なに?」

沙夜子・夜莉子・マイの三人が周囲をキョロキョロを見回し始めた。

「なんか声が…」

「したわよね」

「です」

姿の見えない声に皆が見回していると、

「くおらっ

 今日という今日はゆるさん!!!」

「ははははーっ

 鬼さんこちらぁ」

「もぅ、海人ったら、

 嗾けるのやめなさい」

と言う声が参道の方から響き、

スタタタタッ!

一直線に走ってくる海人と刀を抜きそれを追いかける藤一郎の姿を現した。

「また…」

「やっているのか」

そんな2人の姿に沙夜子・夜莉子は呆れながら見ていると、

スパッ!

夜莉子が持っていたUFOがいきなり消え、

「かくごぉ」

「うおりゃぁぁ」

ガキーン!!

藤一郎が振り下ろした刀を海人は収奪したUFOで受け止める。

ギリギリギリ!!

メキメキメキ!!

「ふっ

 悪趣味な柄のUFOでわたしの刀を受け止めるとは

 つくづく非常識なヤツ…」

「うっうるせーっ

 使えるものは何でも使うのが俺の流儀だぁ」

目から火花を散らしていがみ合う2人の姿に

『あっマッチョ兄貴ぃ

 UFOが、
 
 俺たちのUFOがぁ…』

と水面に浮くサブが泣き叫ぶと、

『わっ判っているっ

 いまリモートで動かす』

そんなサブをなだめながらマッチョはリモコンボタンを押した。

すると、

キュルルル!!!

ガロン!!!

ブロロロォォォォォ!!!

UFOはエンジンが掛かかると黒煙を噴き上げながら

フワッ

フワフワ

海人もろとも宙に浮いてしまった。

「ゲホッ!

 わっ

 なっなんだこれは…」

UFOが噴き上げる黒煙員噎せながら

海人は足をばたつかせていると、

「ふんっ、

 器用なヤツめ」

それを見上げながら藤一郎は呟く、

やがて、海人をぶら下げたまま、

UFOは人魚マイの居る池の上に向かうと、

シャッ

その下部から光の柱が伸び、

『とぅっ!!』

『いよっ!』

水面に浮かんでいたマッチョとサブの2人を吸い上げ収容をすると、

「うわぁぁぁぁ!!」

悲鳴をあげる海人をぶら下げたまま、

ブロロロロロロ!!!!

さらに上空へと向けてUFOは上昇しはじめた。

「海人ぉ!

 さっさと飛び降りなさーぃ」

「おーぃ、

 このまま帰ってくるんじゃないぞぉ」

地上に取り残された水姫や藤一郎が海人に向かって声を上げるが、

もはやその声も聞こえないほどにまでUFOは急上昇してまうと、

大空の中に浮かぶ小さな点になってしまった。

「ねぇ…水姫さん」

「はい?」

遠ざかっていくUFOを見上げながら沙夜子が声を掛けると、

「あれって、また竜宮のオーバーテクノジーなの?」

と尋ねるが、

「さぁ、あたしには…」

オロオロしながら水姫は返事をする。

「え?

 じゃぁ、竜宮のものじゃないとすると?」

水姫のその返事に皆の顔が一斉に青くなると、

「きゃぁぁぁぁ!!!

 竜王様がぁぁ!」

突然、水姫は悲鳴を上げ、

「どっどうしよう、

 沙夜ちゃんっ!」

夜莉子はオロオロしながら沙夜子に詰め寄る。

「もぅ、

 落ち着いて!!!」

狼狽える夜莉子の肩を押さえながら沙夜子が怒鳴りはじめると、

「取りあえずこういう場合は、

 TSFに通報しておくか…」

ピッ!

落ち着いた口調で藤一郎は携帯電話を開き

TSFへ電話をはじめだした。

それから程なくして、

「そっそうだわ、乙姫様の所へ行きましょう。

 乙姫様にこのことを知らせないと」

ようやく落ち着きを取り戻した水姫が声を上げると、

『わかりましたぁー

 じゃぁ、マイちゃんが”水の道”を作りますね、

 えっと、向かう先は乙姫様っと』

話を聞いたマイは早速池の水面に手を付け、

『・・・・・・』

人魚達の2点間高速移動手段である、

”水の道”のインターを造る呪歌を歌い始めた。



フォンフォンフォン!

「パターン・青。

 異星人襲来です。

 TSF緊急出動!

 都内にて民間人がUFOに拉致された模様!

 繰り返します。

 都内にて民間人がUFOに拉致された模様!」

TSF本部に緊急出動のサイレンが鳴り響き、

詳細情報が繰り返し放送された。

「ゴウダ君」

「はいっ」

流れる放送に談笑をしていたゴウダとフジタの表情が強ばり、

「折角来ていただいたのに申し訳ありません、

 わたしはこれで」

と断りを入れると、ゴウダは席を立った。

そして、ゴウダが立ち去った後、

フジタはコーヒーを一口すすると、

徐に携帯電話を取り出し、

「あぁユキコか、

 わたしだ…」

懈怠電話に向かって話し始めた。



異星人襲来の通報があって5分後、

ゴガガガガガガ!!!!

日本海に浮かぶ島根県竹島…

海から突き出る断崖絶壁の島影が突如縦に真っ二つに割れ、

それぞれが大きく傾くと、

バタバタバタバタ!

周辺の岩もなぎ払うように倒れ空間を作っていく。

そして、その直後、

ドォッ!

割れた島の中から巨大な水蒸気が吹き上がると、

ブワァァァァン!

TSFを図案化したマークと国連旗、そして日の丸を誇らしげに掲げ、

TSFファイター1号がなめらかに飛び出していった。

また同様に択捉島占冠湾、尖閣諸島、沖ノ鳥島からも次々とファイターが離陸すると、

一路、民間人拉致事件が発生した都内へと急行していく。

ピッ

「あのー、隊長…」

ゴウダが操るファイター1号の通信モニターに

副隊長のフルカワの映像が表示されると、

「なんだ?」

操縦桿を握るゴウダは返事をする。

「あのー、

 謎のUFOによる拉致事件が発生したのって、

 都内なんでしょう?」

「それがどうした」

「いや、毎度毎度思うんですが、

 なんで、都内からこんな遠くへ一旦、出向いて、

 また、戻るという面倒なことをするのかなと…」

フルカワは素朴な質問をゴウダに向けると、

「お約束だ…」

たった一言、ゴウダは返事をした。

「はぁ?」

その返事にフルカワは呆気にとられると、

「地球を守ると言うことは、

 すなわち、祖国を守ると言うことだ、

 祖国を守る我々は率先して範を示さなければならない。

 故に我々はこれら島々が…」

とゴウダは胸を張って蕩々と話し始める。

「んな、ジャパレンジャーじゃぁあるまいし、

 こんなコトをいちいちしていたら面倒じゃないですかっ

 隊長、上に掛け合って

 せめて特急で行けて、

 温泉がある箱根あたりから出撃するようにしてくださいよ
 
 あっ予算がなければ鬼怒川でもいいッスよ」

ゴウダの話を遮ってフルカワは近所からの出撃を訴えるが、

「(ピクッ)フルカワっ!

 貴様には愛国心がないのかっ

 国を愛するという気持ちがないのかっ、

 えぇいっ、

 そのような隊員は修正をしてくれる!」

そんなフルカワに向かってゴウダは怒鳴ると、

「隊長!!」

今度はチシブキがゴウダに向かって話しかけてきた。

「なんだ?」

チシブキからの問いかけにゴウダは返事をすると、

「僕の機体がいつもと違うのですが」

とチシブキは自分が搭乗する機体がいつもと違うことを指摘する。

「あぁ、その機体は今後導入される新・ファイターの試作機だ、

 いつもフロスに頼ってばかりいられないのでな、

 あっと驚く新機軸が満載だぞ、

 詳しくは備え付けのマニュアルを読め」

とゴウダはチシブキに言うと、

「出撃をしてからマニュアルを読めって…」

その話を聞いていた他の隊員達の背筋に冷たいモノが走った。

その時、

「あのーっ

 話の途中ですみませんが、

 拉致事件のあったところって都内のどの辺なんですか?」

と今度はガクラが割って入ってきた。

「ん?

 良い質問だ。

 それはだな…

 えっと、どこだっけ?」

ガクラの質問にゴウダはあわてて道路マップを開き

ページを捲り始めだすが

だがその間にもTSFのファイターは

刻々と日本本土へと迫っていたのであった。



つづく