風祭文庫・ヒーロー変身の館






「ウルトラウーマン・フロス」
(最終話:フロスよ永遠に(後編))



原作・風祭玲

Vol.858





時は西暦20XX年

相次ぐ怪獣や宇宙人の襲撃を受けた人類は掛かる事態に対処するため、

各国単位の軍隊で賄われている国連軍とは別にそれらの案件を専門に対処するスペシャリスト

「特殊科学戦隊TSF」

を結成し、

迫り来る脅威に勇敢に立ち向かっているのであった。



プワァン…

ゴゴンゴゴン

ゴゴンゴゴン

夕焼けをバックに勤め帰りのサラリーマンで満員の武蔵野線直通府中本町行きの電車が

定刻どおりに新木場駅を発車していくと、

『勝負ありね』

倒れて動けないウルトラマンブラックとホワイトを見下ろしながらフロスはそう告げる。

しかし、

『くっくそぉ…

 認めないぞぉ

 僕がお前に負けるなんて…』

倒されてもなおもウルトラマン・ブラックは闘志を燃やし立ち上がろうとする。

『もぅ勝負は決まったんだ。

 大人しく縛につけ』

そんなブラックに向かってクレスはそう諭すが、

『まだだ、

 まだまだ、

 るっルイン閣下っ!

 僕に力を!!』

夕焼けの空に向かってブラックは手を伸ばしたとき、

フッ!

その手の先にいかにも時代劇に出てくる悪徳商人と言った面持ちの老人が姿を見せ、

『おんやぁ、

 ウルトラマン・ブラックさんに、

 ウルトラマン・ホワイトさん。

 その様なところでなにを寝ていらっしゃるんですかぁ?

 ブラックホール爆弾の設計図を持った少女は捕まえたのですかぁ?

 ルイン閣下は首を長くしてお待ちかねですぞぉ』

と手をすりながら声をかけてきた。

『ハッ!』

『ごっ業屋様っ!』

その声を聞いた途端、

ウルトラマンブラックとホワイトは慌ててひれ伏し、

『もっ申し訳ありません、

 この者達が我々の邪魔しまして…』

と二人はフロスたちを指差す。

『ほほーぉ』

チラリ、

それを聞いた男はフロスたちを見るなり、

『おぉ、これは初めまして、

 わたくし、ルイン閣下のお傍に仕えております業屋と申します。

 お見知りおきを』

と恭しく頭を下げた。

『業屋さまぁ、

 何で頭を下げられるんですかぁ?

 あの者たちは我々の邪魔をしたんですよぉ!』

頭を下げる業屋に向かってブラックとホワイトは無念そうに訴えると、

『おぉ、そういえば、

 ルイン閣下からこれをお預かりしていました。

 辞令と新しい指令書だそうで』

そう言いながら業屋はブラックとホワイトに辞令を差し出した。

そして、その辞令を二人が受け取った途端、

カッ!

ブラックとホワイトの体が光り輝くと、

ある紋章がその身体に浮かび上がったのであった。

『そっそれは…』

二人の身体に燦然と輝く紋章を見たフロスは驚きながら下がると、

『くくっ

 くくく…』

苦笑をしながら二人はフロスを見つめ、

『フロス君?

 君ぃ、

 フロス君だよねぇ』

とまるでフロスの上役のような口調で話しかて来た。

『うっ、

 はっはいっ、

 ウルトラマン・ブラック警備課長!』

その言葉に悔しそうにフロスは直立の姿勢でそう返事をすると、

『ふふふっ、

 ちゃぁんと、ご飯食べている?』

とホワイトが話しかける。

『ほほほっ

 では、わたくしはこれにて失礼』

一点立場が逆転したブラック達とフロス達を見届けると、

業屋は姿を消すが、

『フロス君っ

 惑星サガミハラから逃れてきたあの女の子、

 僕たちに渡しなさい』

それに構わずブラックが指示をする。

『それは…』

その指示にフロスは戸惑うと、

『いい訳はいいわけよ。

 それとも、僕の命令が聞けないの?

 フロス惑星刑事?』

『そうですよ、

 上官の命令は絶対なのよ』

ブラックとホワイトは口を揃えてネチネチとパワハラをかけるが、

ギュッ!

フロスは両手の握りこぶしを握り締めると、

『出来ません!』

と言い切った。

(フロス…)

フロスのその言葉にサイゴウは驚くと、

『欲奴のルインの下僕になんて誰がなるものですかっ』

肩を震わせながらフロスはそう続け、

そして、

『こんなことをして、

 あなたたちはなんとも思わないの?』

と二人に言い返した。

だが、

『はっ、

 何を言い出すのかと思えば』

『フロス惑星刑事、

 君は自分の立場を弁えているのか?』

と二人は呆れたように言い、

パチン!

と指を鳴らす。

その途端、

ブワッ!

夢の島公園の上空いっぱいに巨大なパノラマスクリーンが姿を現し、

宇宙を埋め尽くす大艦隊が太陽系に侵攻している様子が映し出された。

『これは…』

その様子を見たフロスとクレスは驚くと、

『くくっ、

 ルイン閣下が差し向けてくれた銀河人民軍の大艦隊よ』

『惑星サガミハラを攻撃したときよりもさらに上乗せした7845億9800万の大艦隊。

 全銀河の戦力がここ太陽系に集まっているの』

と二人は勝ち誇るかのように言う。

「たっ隊長!!!

 どうします?」

「宇宙怪獣どころじゃないですよ!」

予想もしない展開にTSFは大混乱に陥り、

隊長のゴウダも判断に困った。

「どうする?

 フロス、君はどうするつもりなんだ」

ファイターを操縦しながら

立ち尽くしているフロスを見つめてゴウダは気を揉んでいると、

「大変です、

 保護していましたシズカの姿が消えました!」

と本部から緊急連絡が入った。

「なんだとぉ!

 探すんだ、

 警察も自衛隊も米軍も使ってシズカを捜すんだ。

 これは地球の命運が掛かっているんだぞ!!」

それを聞いたゴウダはマイクに向かって怒鳴り声を上げると、

ゴワァァァァァ!!!!

キュラキュラュラ!!!

瞬く間に都内はもとりより、

日本中、

いや、世界中で惑星サガミから来た少女シズカの捜索が始まったのであった。



『フロス、

 さっきから何をしているんだね、

 このちっぽけな星を救いたければさっさと少女を渡すんだ』

腕を組みながらブラックとホワイトが声を揃えると、

「フロスを虐めるのはやめて!」

とフロスの足元で少女の声が響いた。

『なに?』

「え?」

響き渡った声に皆が一斉に下を向くと、

黄色い電気鼠のヌイグルミを持ったシズカがフロスの足元に立ち、

「あなた方が欲しいのはブラックホール爆弾の設計図でしょう。

 欲しければこれをあけるわ」

と叫びながら持っていたテカチュウのヌイグルミを差し出してみせる。

『なにをするの?

 ダメよ、そんなことをしては』

それを見たフロスはスグに止めよとすると、

『おやおや、

 やっと出て来てくれましたね、

 惑星サガミハラの生き残りが…』

とブラックは言い、

『さて、フロス君、

 その娘を始末してくれないかね』

そう命令をしたのであった。

『何ですってぇ?』

思わぬ命令にフロスは驚くと、

『何を躊躇っているフロス君。

 さっさとその娘を始末するのだよ。

 辞令とともに入っていたルイン閣下からの指令で、

 ブラックホール爆弾の設計図はもういらないそうだ』

『既にオリジナルをベースに大量に量産しているからね』 

『だけど、彼女はルイン閣下に逆らったのだ。

 これは上司命令。

 ギャラクシーポリス心得・第一条・第一項・その1

 ギャラクシーポリスは何事であっても上司の命令に従う。

 ちゃぁんと書いてあるよね』

フロスを指差しブラックはそう指示をすると、

クッ

フロスは眼下のシズカに向けてティエフシウム光線を放つ素振りを見せる。

すると、

(止めるんだ、

 フロス!

 なんでこんなことをするんだ)

サイゴウが怒鳴ると、

ピタッ

フロスの動きが止まり、

シズカとフロスは対峙したまま時が止まったかのように佇ずむ。

『フロス!』

(フロス!)

皆の注目を一身に浴びてフロスは立ちつくすと、

『えぇいっ、

 フロスっ

 貴様、上官の命令が聞けないのか』

痺れを切らしたかのようにブラックは怒鳴るが、

フロスはティエフシウム光線を放つことは出来なかった。

(フロス?)

なおも動かないフロスにサイゴウが話しかけると、

『ふっ』

一瞬、フロスの口から声が漏れ、

『ばーかばかしい!!』

とフロスは声を張り上げた。

『なに?

 バカとは何だ、フロス君っ』

『フロス君、きみぃ!

 上司へ侮辱はルイン閣下の侮辱でもあるんだぞ』

それを聞いた二人はフロスを指差し怒鳴ると、

クッ!

フロスは顎を挙げてブラックたちを見据えると、

『はぁ?

 あんた達、頭の中は大丈夫?

 口を開けばルイン閣下、ルイン閣下。

 あんた達の頭の中はルイン閣下しかないのか?

 そう言うのをルイン・バカって言うのよ』

と吹っ切れたのかフロスは悪態をついて見せる。

すると、

『けっけしからんっ

 それ以上のルイン閣下への侮辱は僕が許さないからな』

拳を振り上げてブラックは詰め寄るが、

ドンッ!

フロスはブラックを突き飛ばし、

『悪いですが、

 無抵抗の民間人を殺すような命令をする警察にはいられません。

 フロス惑星刑事はたった今を持ちまして、

 ギャラクシーポリスを依願退職をいたします。

 元々これが欲しかったんですよね、ブラック!』

と言い切ると、

バシッ!

ブラックに顔に辞表を叩きつけたのであった。

『よくやったフロス!』

フロスの決断を聞いたクレスはその勇気を湛えてフロスの肩を叩くと、

『あはっ

 言っちゃった

 言っちゃった』

とフロスはスッキリした表情で言う。

『そうだな、

 人民ナントカってアホな組織の下の警察になんている必要はない。

 わたしもギャラクシーポリスを辞めさせていただきます』

クレスもまた同じ決断をすると、

ドカッ!

辞表と共にブラックの顔に拳を喰らわせたのであった。

『ほぉ、

 いい心がけだ。

 でも、この一発の代償は高いよぉ

 では、この惑星。

 いや、太陽系もろとも消えてもらおうか!』

フロスとクレスの決断を聞いたウルトラマン・ブラックはそう告げると、

『銀河人民艦隊に告ぐ、

 直ちに太陽系を攻撃せよ、

 チリも一つも残すなっ』

と声を張り上げて命令をしたのであった。

『あっ!』

それを聞いたフロスは声を上げると、

『ふふっ

 すべては君が悪いのだよ、フロス。

 地球ともども銀河のチリとなって消えたまえ、

 では、さらばだまた会おう。

 と言いたいところだが、

 もぅ君とは会うことは出来ないんだよね。

 くはははは!!』

ブンッ!

笑いながらブラックは自分達の周りの空間を遮断して、

マイクロワープで脱出を図った。

だが、

キュゥゥゥン!!!

作動しかけたマイクロワープシステムが突然急停止してしまうと、

ブラック達の周りに張られていた遮断空間も元に戻ってしまったのであった。

『あっ兄者っ』

『なっ何が起きたんだ?』

思いがけない事態にブラックたちが驚くと、

『ふーん、

 7845億9800万の宇宙艦隊?』

と言う声と共に

フワリと一人の女性が空中に浮かび上がった。

『だれ?』

地球人と姿が変わらない女性を見ながらフロスは驚くと、

『誰の許可を得てオリオン腕に艦隊を進めているの?

 責任者はどこにいるの?』

長く伸びた髪を揺らし十二単を纏う女性はブラックに尋ねた。

『なっなんだっ

 貴様は!』

『別に怪しい者じゃないんだけどね。

 と言うかこの星の大家かなぁ?

 ねぇ、責任者は誰?』

気安く質問をする女性はホワイトを睨みつけると、

『偉大なる銀河の指導者・ルイン閣下だ』

とブラックが言い切った。

『ルイン?

 知らないわねぇ…そんな奴。

 で、それが銀河の王様気取りで居るの?

 わたくしの所には全然挨拶に来ないで、

 よくまぁぬけぬけと』

それを聞いた女性は手にした扇で優雅に扇ぎながらそう呟くと、

『貴様っ

 ルイン閣下に対してなんてことを言うのだ、

 この非国民がぁ!』

とホワイトが声を張り上げる。

『非国民?

 これだから身上がりは困る。

 銀河オリオン腕はわたくしの別荘地。

 勝手に他人の敷地に入り込んでどういうつもりなの』

鼻息荒い二人を見据えて女性は不機嫌そうに言うと、

チラリ

一瞬、フロスに視線を動かした後、

開いた扇を口に当てると、

『私です。

 領域侵犯者の持ち物は全て取り上げなさい。

 無論、宇宙戦艦であってもです』

とどこかに向かって命じる。

その途端、

バキンッ!

宇宙艦隊もろとも太陽系の空間が閉じられてしまうと、

スクリーンに映し出されていた無数の戦艦から一斉に白旗が揚がってしまったのであった。

『なっなんだこりゃぁぁぁ!!!!』

それを見たブラックとホワイトは頭を抱えて悲鳴を上げると、

『すべての船の動力源を押さえました。

 わたくしの許可無く船を動かすことは出来ません。

 なお、宇宙艦隊の管理・指揮権はこの惑星の警邏機構であるTSFに委託しましたので、

 隊長さん。

 どうぞご自由にお使いください。

 では、乙姫様とのお茶会の約束があるのでここで失礼します』

ゴウダに向かって女性はそう告げると

フッ!

姿を消してしまったのであった。

その一方で、

『何が…

 何が起きたのだ』

『ダメだ兄者っ

 7845億9800万艦隊は全て差し押さえられちゃった。

 僕たちの言うことを聞いてくれる船は一隻も無いよ』

唖然とするホワイトに向かってブラックは泣き顔になりながら訴えると、

「たっ隊長!

 どうします?」

さらに輪をかけてパニクっているのはゴウダの方であった。

「そっそんなことを言われても、

 いきなり7845億9800万宇宙艦隊の司令官だなんて、

 どうすれば…」

ゴウダは一人ファイターの中で頭を抱えるが、

『さぁて…』

ボキボキボキ!!

攻守が入れ替わり、

攻めに立場になったフロスは指を鳴らしながらブラック達に向かっていくと、

『覚悟はいーぃ?』

と尋ねる。

そして、

『散々弄んだお礼はしっかりとしなくっちゃね。

 特に銀河の偉大なる指導者・ルイン閣下様の犬にはね』

クレスもまた指を鳴らしながら迫っていくと、

『ひぃ!』

ドタタタタッ!

鬼と化して迫るフロスとクレスから逃れるようと

ブラックとホワイトは逃げ出してしまうが、

『逃がすかぁ!』

スグにクレスが追いかける。

すると、

『あたしにやらせて!』

一足早くフロスが飛び出し、

『大地を揺るがす乙女の怒りっ!

 受けてみなさい!!

 ウルトラ・ミント・プロテクション!!』

と叫ぶと、

ズバァン!

夢の島公園に緑色の結界が張り巡らされ、

走り出していたブラックたちは目の前に出現した壁に激突してしまうと、

弾き返されてしまったのであった。

『げっ』

『くっそぉ!

 出られない!!

 シュワッ!』

ズバババババ!!!

立ちはだかる壁に向かってブラック・ホワイトはあらん限りの力で攻撃をかけるが、

ビシッ!

行く手をさえぎる緑の壁を壊すことが出来なかった。

『往生際が悪いですね…』

その背後で一歩一歩ブラックたちに迫りながらフロスはそう囁き、

スッ

小さく構えてみせる。

『くっ!

 このぉ!!』

それを見たブラックは足元の土を掬い上げると、

フロスに向かって投げつけるが、

『なぁに?

 これ?

 ウルトラマンとあろうものが、

 まさか、目潰しを狙っているの?』

濛々と立ち込める砂煙をものともせずにフロスは囁くと、

『輝く乙女のはじける力、受けて見なさい!

 ウルトラ・レモネード・フラッシュ!』

と声を張り上げると

『ぐわぁぁぁぁぁ』

フロスの体から沸き起こった光が一斉にブラックたちを襲い、徹底的に痛めつける。

だが、それで終わるフロスではなかった。

スーッ!

フロスは腕を交差させ、

『まだまだ地獄はこれからよ、

 純情乙女の炎の怒り…

 岩をも砕く乙女の激流…

 共に受けてみなさいっ。

 ウルトラ、

 ルージュ・ファイヤー!!!

 アクア・ストリーム!!』

二つの技を同時に掛けると、

ゴワァァァァァ!!!

ズゴゴゴゴゴゴ!!!

灼熱の火炎と激しい濁流がスパイラルを描いてブラックたちに牙を剥いたのであった。



『しっ死ぬぅぅぅぅ!!』

『悪かった…

 僕たちが悪かった。

 だから、許して…』

ズタボロにされた二人はフロスに向かって土下座して謝ると、

『ふふーん、

 ごめん。で済めばギャラクシーポリスは要らないわよねぇ』

ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…

真っ赤に燃え上がるオーラを背負ってフロスは囁くと、

大きく腕を構え、

『これが最後よっ

 夢見る乙女の底力!

 受けてみなさいっ

 ウルトラ・ドリーム・アターック!』

の声をともにフロスは渾身の力を込めて強烈な一発を放った。

そして次の瞬間。

ウルトラマン・ブラック、ホワイトの姿が掻き消えてしまうと、

『うげぇぇぇぇぇぇ!!!!』

『はぎゃぁぁぁぁぁ!!!!』

二人は宇宙空間に打ち上げられてしまい、

ズガァァァン!

月面に激突すると、

方向を変えて太陽へと向かってく、

そして太陽の傍を回る水星に激突すると、

二発目は金星、

火星、

ガニメデ、

トリトン、

冥王星、

とピンボールの如くぶつかりながら太陽系を幾度か回り、

最後に土星の衛星タイタンを満たす液体メタンの海へと落下し、

ピキーン!!

極寒のタイタンの海に触れた途端、

その場で二人は氷付けになってしまうと

ゆっくりと液体メタンの海の底深くへと沈んでいったのであった。



『ふぅ…』

全てが終わりフロスは息を継ぎながらホッとした表情でシズカを見下ろすと、

「フロス…ありがとう」

シズカはフロスを見上げ、

ペコリと頭を下げた。

こうし誰の目で見ても全ては収まるかに見えた。

だが、

ユラリ…

突然、地球の傍の空間が大きくゆがむと、

ズドォォォン!!

直径3000kmはあろうかと思える巨大構造物がワープアウトし、

地球にその巨大な影を落としたのであった。

「なんだあれは?

 てっテカチ…ゥ?」

シズカのヌイグルミそっくりな構造物を見上げチシブキは驚くと、

ブンッ!

大空に巨大な人影が姿を見せた。

そして、

『余はルイン』

闇の底から響くような声を響かせると、

「ルイン?」

「あれがルイン?」

聳え立つルインを見上げながらゴウダ達は声を上げ、

『くっ』

フロスは逆に身構える。

すると、

「ぶっブラックホール爆弾!!」

構造物を見たシズカは声を張り上げた。

「なにぃ!」

その声に皆は一斉に驚くと、

『余はルイン…

 余に歯向かう者は死を与える。

 このブラックホール爆弾の餌食になるがよい』

聳え立つルイン閣下はそう言い放つと、

ギュィィン!!!

巨大構造物が稼動を開始したのか、

一斉に光を明滅し始めた。

『いけない!!』

それを見たフロスとクレスは、

『ジュワッ』

地球から飛び立とうとすると、

「待って、あたしも連れて行ってください」

シズカはそう訴えた。

だが、

『ダメよ、

 これはあたし達の仕事なの』

シズカに向かってフロスはそう告げると、

クレスと向かい合い、

互いに頷き合うと、

『ジュワッ!』

『ジュワッ!』

二人とも地球を飛び立ち、

巨大構造物・ブラックホール爆弾へと向かっていく、

そして、手分けして稼動を止めようとするが、

『ダメだわ、

 間に合いそうもない!』

フロスはそう判断をすると、

『駐在所!!!』

土星近くで待機している駐在所を呼んだ。

『お待たせしました。

 何事ですかフロスさん』

人口音声の声を響かせてフロスの真上に駐在所が姿を見せると、

『コレと連結、牽引して欲しいの!』

と用件を伝える。

『えぇ!

 こんなにでかいのを牽引するんですかぁ!!』

ブラックホール爆弾の巨大さに駐在所は悲鳴を上げると、

『駐機違反を取り締まるのも駐在所の役目でしょうっ、

 さっさと作業をするっ』

フロスはしり込みをする駐在所の尻を叩いて見せる。

そして、

ガシャンッ!!!

ブラックホール爆弾と駐在所を連結させると、

『えーと、

 どの辺が良いかなぁ…』

とフロスは地図を広げた。

『どうする気だ、フロス』

それを見たクレスはフロスに爆弾の処理方法を尋ねると、

『クレス…

 ちょっとの間、地球のことをお願い。

 わたしはこれを銀河から離れた遠いところに捨ててきます』

とクレスに向かってそう告げると、

駐在所のワープシステムを稼動させた。

『バカなことをするなっフロス!!』

それを見たクレスは怒鳴り声を上げるが、

シュンッ!

そんなクレスを押し出すように駐在所のドアが閉まってしまうと、

ギュィィィンンン…

駐在所のワープシステムが発動し、

ウォォォォォンンンン…

巨大ブラックホールを牽引して駐在所はワープして行く。

『フロス、

 無茶をして…

 ちょっとの間だぞ。

 ちょっとの間しか地球の面倒を見ないからな。

 ちゃんと帰って来いよ。

 お帰りなさい。って出迎えてやるから!』

銀河から遠く離れたところへと旅立って行ったフロスに向かってクレスはそういうと、

地球を背にしてジッと立っていたのであった。



『ルイン総統、センマー!』

『ルイン総統、センマー!』

『ルイン総統、センマー!』

銀河中心部にあり、

”この星を制する者こそ銀河を制する”

そう呼ばれている王者の星・大王星。

革命後、ルインの出身地にあやかったヤンピョンと名前を変えた人民共和国首都では

銀河を統べるルイン・ヨジムキ銀河人民共和国総統の誕生日を祝い、

人民政府・人民軍主要閣僚列席の元、

盛大にマスゲームや軍事パレードが行われていたのであった。

パレードには歩調を揃えて歩く歩兵のほかに

遠くアンドロメダ銀河まで届く星雲間ミサイルのンドポテ2号や、

ルインに敵対する勢力を容赦なく攻撃するンドノ・ミサイルなどが賑々しく行進していくが、

だが、肝心の銀河人民軍の宇宙艦隊は太陽系付近にてすべて鹵獲され、

ルインの力はまさに張子の虎であった。

『ルイン閣下…

 これは一大事ですぞぉ』

玉座に座るルインに向かって業屋は冷や汗を掻きながらことの一大事を伝えるが、

『くだらんっ

 捨て置け』

ルインは顔色一つ変えずに返事をし、

『ふんっ、

 織姫ごときにしてやられおって…

 役立たずなどはいらぬ。

 必要であるなら新しく作ればよい。

 それに余にはあのブラックホール爆弾がある。

 あの爆弾の前には何人もひれ伏し、

 そして、爆弾を持つ余には逆らわん』

と豪語しながら大王星宙域にずらりと並ぶブラックホール爆弾を指さした。

『そうでございますかぁ?』

ルインの言葉に業屋は眉を寄せると、

『業屋よ』

ルインは業屋の名を呼び、

『皆に追われ、失意の底であった余に力を与え、

 この玉座に座らせてもらったことを感謝するぞ』

とねぎらいはじめると、

『おぉ、

 何というもったいないお言葉、

 この業屋、感激ひとしおでございます』

業屋は取り出したハンカチで涙を拭い始めた。

ところが、

『ご苦労だったな業屋。

 もはや業屋に力を借りることはない。

 後の事を内藤夢屋に任せるが良い』

と業屋に告げたのであった。

『はぁ?』

予想もしないその言葉に業屋は呆気に取られると、

『そういうことですよ、業屋さん』

その声と共に髪をオールバックにしたスーツ姿の男が姿を見せた。

『ん?

 誰だ?』

男を見据えながら業屋は手に魔光弾を作り上げると、

『ははは、時代は変わったのです。

 これからは我々内藤夢屋がルイン閣下を支えますので、

 どうぞ、ご退席ください』

と言うや否や。

パチン!

と指を鳴した。

その途端、

フッ!

業屋の足元がいきなり口を開け、

『ルイン閣下ぁぁぁぁ!』

の声を残して業屋は消えてしまったのであった。



『ルイン閣下、

 無駄を一つ省きました。

 閣下なら、

 この銀河をのみならず、

 アンドロメダ銀河、

 さらにもっと数多くの銀河を統治なさるべきです』

と内藤夢屋の文尾は腕を広げて甘言を言うと、

『ふはははははは…

 内藤夢屋、お前は良いことを言う』

ルイン閣下は上機嫌で返事をすると、

目の前に聳え立つ巨大な柱、

銀河系を支える大黒柱”銀河柱”を見上げ、

そして、徐に立ち上がると、

『ふふっ、

 そうなのだ、

 この柱の主こそが銀河の支配者。

 もっと多くの

 もっと多くの柱を余が手中に収めるのだ、

 内藤夢屋っ

 もっと励め、

 そして、多くの柱を余に差し出すのだ』

と声を上げると、

『はっ、誠にその通りでございます』

文尾は深々と頭を下げ、

『さて、そろそろ、

 太陽系に仕掛けたブラックホール爆弾が爆発する頃でございますなぁ』

と囁く。

『うむ、そうであるな。

 余に逆らうものの末路をとくと見ようぞ、

 映像を回せ!』

それを聞いたルインは脇に控える者達に命じると、

ブンッ!

ルインの目前にブラックホール爆弾からの映像が映し出された。

『おぉ…

 これが地球という星か…

 ふふっ

 壊してしまうにはもったいない星だな…』

文尾が差し出した杯を煽りながら感想を言うと、

『まさにその通りで』

と文尾はニヤリと笑ってみせる。

『起爆まであと10分!!』

部下の声が響くと、

グーンと映像が動き、

正面に見えていた惑星が小さくなっていくと2つの衛星が姿を見せた。

『ん?

 地球は衛星が一つではないのか?』

それを見たルインはその事を指摘すると、

『さて?

 なぜ二つあるのでしょうか?』

と文尾も首を捻って見せる。



一方、

『ってここは、どこ?』

フロスはワープアウトした地点の傍に巨大な柱が立っていることに首を捻っていた。

『おっかしいなぁ…

 銀河系のはるか彼方に向かってワープしたはずなんだけど、

 何でこんなのがあるのかしら?』

グォォォォンンンン…

稼動を続けるブラックホール爆弾と連結をしている駐在所のコンピュータを立ち上げて

フロスは位置を再確認するが、

それに示された地点はマイナスの座標を示していたのであった。

『座標値が全部マイナス?

 うーん、

 おっかしいなぁ

 コンピュータが壊れたのかしら?

 でも、地球から遠くに来ている見たいだからいいか』

パンパンとコンピュータを叩いても再計算をさせても

同じ結果が出てくることにフロスは諦め、

この場にブラックホール爆弾を捨てることを決めると、

駐在所とブラックホール爆弾を繋いでいる連結器を切るボタンを押した。

その途端、

ガシャンッ!

機械音を残してブラックホール爆弾が駐在所から離れていくと、

吸い寄せられていくように柱へと向っていく、

『もぅここは危ないから、

 さっさとワープしましょ』

ブラックホール爆弾を見送りながら、

フロスは駐在所をワープさせようとしたとき、

『そこで何をしている、

 ここは立ち入り禁止区域だぞ!!』

赤灯を回しながら無数の警備艇が接近してきたのであった。



『おかしいですなぁ』

ブラックホール爆弾からの映像を見ながら文尾は小首を捻っていると、

その前に小スクリーンが開き、

『文尾様っ、

 銀河柱にて怪しげな者を捕まえました』

とこの宙域の警備をしている警備部部長・霧間からの報告が入る。

『霧間君、いちいちそんなことを報告しなくてよろしい』

画面に向かって文尾は怒鳴ると、

『はっ

 ただ、

 身元を確認したところ、

 この者が太陽系に派遣されていたフロス・タガー惑星刑事だったため、

 ギャラクシーポリスに連行いたしました。

 以上のことをご報告した次第です』

そう返事をして霧間が画面から消えようとしたとき、

『内藤夢屋!!

 何だこれは!』

とルインの叫び声が響き渡った。

『なっなんでしょうか、

 ルイン閣下っ』

その声に文尾は慌てて向かうと、

『こっココに映し出されている星は、

 余のこの星ではないかっ!』

ルイン閣下は夢屋を指差すと、

そして同時に巨大スクリーンに上から見下ろした構図のルインも同じ仕草をして見せたのであった。

『え?

 ってことは…

 あっ!!!!!!』

文尾の声が響くのと同時に、

カカカカッ!!!!!

銀河系を支える銀河柱のほぼ真ん中で鋭い閃光が光り輝くと、

フロスが置いてきたブラックホール爆弾が炸裂し、

ズォォォォ!!!

その場から広がり始めたロッシュ限界が瞬く間に銀河柱に取り付いてしまうと、

巨大な柱を歪め飲み込み始める。

『おいっ、なんだあれは!』

『ぎっ銀河柱がぁ』

『砕けていく…』

『うわぁぁぁぁぁ!!!』

『にげろぉぉぉぉ!!!』

銀河柱で起きた異変はたちまち皆に知れ渡り、

パレード会場は逃げ惑う人たちで大混乱に陥るが、

程なくして、

ゴワァァァァァン!!!

爆心地から広がってきたM9級の巨大時空震が大王星に襲い掛かってきた。

『なっ何ということだ!!』

惑星を激しく揺さぶる時空震の中、

ルインは立ち尽くすが、

だが、次の瞬間。

ルインが作り置きしていた他のブラックホール爆弾が一斉に誘爆を起こすと

ルインの姿は陽炎のように揺らめき、

大王星もろとも口を開けたブラックホールの中へと消えて行った。



ゴゴゴゴゴ…

銀河中心で発生した異変は怒涛の津波となって外に向かって広がり、

ルインが打ち立てた銀河人民政府と銀河人民軍は主要閣僚全員の消息が途絶えてしまうと

銀河は強いものだけが生き残ることが許される世界と化してしまったのであった。

広がっていくブラックホールに触発されて数多くの太陽が超新星として光り輝き、

同時に数多くの文明がその光の中によって蒸発していく。

一人の独裁者が招いたこの未曾有の災害はそれだけでは終わらなかった。

『RX78銀河系にて大規模な重力崩壊発生!!』

『なんだ、このブラックホールは!!』

『ダメだ、その銀河を捨てろ!』

『早すぎる。空間切断、間に合いません!』

『泡構造の過重臨界点を突破ぁぁぁ!!』

『空間がつぶれていきます!!』

『崩壊域は現在直径1000万光年、さらに急速拡大中!』

『あっ泡が…

 泡が潰れ始めましたぁ!!』

『いかん、他の泡も巻き込み始めたぞ!!』

そのころ天界のコントロールルームでは

銀河崩壊をきっかけに始まった宇宙を支える巨大泡構造の崩壊により、

上へ下への大騒ぎになっていた。

『仕方があるまい、

 Dブロックを切り離すのだ』

『え?

 Dブロックをですか?』

決断を迫られた神様は数億光年にも及ぶ巨大な連接空間の放棄を決断すと、

『空間は破棄するが、

 Dブロックからの避難民はすべて救出せよ』

と命じるとそのまま寝込んでしまったのであった。



ゴゴゴゴゴゴゴ…

漆黒の宇宙空間を7845億9800万の宇宙艦隊が進んでいく。

宇宙艦隊の一隻一隻からは牽引ロープが伸ばされ、

そのロープは巨大な束となって特殊な結界で封印された空間を引っ張っていた。

「ふぅ…

 銀河崩壊前に脱出出来てよかったなぁ…」

混沌とした宇宙情勢に対応するために建造された巨大人工惑星・ウルトラスター。

一撃で大艦隊を撃破できる巨大ビーム砲を1門備えた白亜の人工星内部に居を構えたTSF新本部で

隊長のゴウダはノンビリと湯気が立つコーヒーに口をつけると、

「7845億9800万の宇宙艦隊に太陽系を牽引させてのお引越しとは…

 スケールが大きいぜ」

とチシブキは肩をすぼめ呆れたポーズをしてみせる。

「何を言っているんだ、

 いま余々がいつもと変わらない生活をしていられるのも、

 手を貸してくれた織姫さんたちのお陰だろう。

 それに落ち着き先を探さなくてはならないんだから、

 それまでTSFが背負う責務は重大なんだぞ」

そんなチシブキに向かってサイゴウはそう指摘すと、

「まったく、

 なーんでこんなことになっちゃたんだろうなぁ。

 きっかけはただの痴漢騒ぎだったのに…」

とチシブキはしきりにぼやいていた。



そう、銀河崩壊とそれに続く泡構造の崩壊によって、

宇宙は難民で溢れかえっていた。

無論、人類もその難民となってしまったが、

織姫からの提案により、

人民宇宙軍の拿捕する際に作った太陽系の結界を解かず、

逆に鹵獲した人民宇宙軍の艦船を使って太陽系もろとも沈みゆく銀河から脱出したのであった。



「なぁ、フロス…

 やっとの思いで地球に帰ってきたけど、

 銀河系もギャラクシーポリスもなくっちゃって、

 これからどうするつもりだ?」

休憩室の窓に両肘を突いてサイゴウがフロスに尋ねると、

(………)

フロスからの返事は返ってこなかった。

「そうか、フロスにとっては帰るところも無くなったのも同然だよなぁ」

少しフロスに同情しながら、

サイゴウは窓の下で地平線を丸く見せる地球を見下ろし、

「はぁ…銀河は無くなり、

 人類は太陽系と一緒に宇宙の放浪者かぁ…

 一体、いつになったら落ち着けるのやら」

とぼやくと、

(大丈夫!

 なんとかなるなぁる)

フロスの元気な声で励ますが、

その心の中では

(あーぁ、

 またやっちゃったぁ…

 どーしようこれから)

としきりに後悔をしていたのであった。



フォォォォン…!

タタンタタンタタンタタン!!

時の狭間を時を駆け列車が驀進していく。

『業屋、これで判っただろう、

 あのような男にあまり深入りすべきでないと』

列車の車内で顎長の男は間一髪脱出し

ぐったりとしている業屋に注意をすると、

『いやはや、

 まったく…もって』

その注意に業屋は幾度もハンカチで顔の汗を拭い、

『はぁ…

 あぁ言う御仁はもぅこりごりですなぁ…』

と反省の言葉をしきりに言う。

『ふん、まぁいい、

 さて、次はどこに行くか…』

顎長の男のその言葉とともに、

フォォン!!

時を駆ける列車は何処へと消えて行く。

彼らが向かう先は過去か、未来か…



おわり