風祭文庫・ヒーロー変身の館






「ウルトラウーマン・フロス」
(第24話:フロスよ永遠に(前編))



原作・風祭玲

Vol.849





時は西暦20XX年

相次ぐ怪獣や宇宙人の襲撃を受けた人類は掛かる事態に対処するため、

各国単位の軍隊で賄われている国連軍とは別に、

それらの案件を専門に対処するスペシャリスト

「特殊科学戦隊TSF」

を結成し、

迫り来る脅威に勇敢に立ち向かっているのであった。



プワン…

ゴゴンゴゴ、ゴゴゴン

ゴゴンゴゴ、ゴゴゴン

とある初夏の朝、

TSFの隊員服姿のサイゴウはチシブキと共に

川越発りんかい線直通・通勤快速新木場行埼京線の車内にあった。

「ふわぁぁぁぁ

 あぁ、眠い…」

朝日が差し込む車内でチシブキは盛大にアクビをすると、

つり革につかまりながら眠そうに目を擦ってみせる。

「ガマンしろ、

 TSFの隊員だろう」

そんなチシブキを横目で見ながらサイゴウは注意をすると、

「そんな事言ったって、

 こっちは徹夜なんですよぉ、サイゴウさぁん。

 昨日の夕方に地磁気観測所に行ってぇ、

 夜通しデータの収集をしてぇ、

 で、夜が明けたらソッコーで本部に戻りなんて…

 ふわぁぁ〜」

チシブキはブツブツ文句を言いながら外の景色に視線を移す。

そして、

「はぁ、小田原行きの電車が大宮で運転打ち切りにさえしなければ、

 新宿まで寝てこられたのにぃ…」

と小山で水戸線より乗り換えた小田原行きの電車が

さいたま新都心駅付近で発生した架線障害のために大宮で運転打ち切りとなり、

都心に急ぐサラリーマンやOLで混雑する埼京線に振り返られたことを呪うと、

「まったく…」

サイゴウは呆れ半分に窓の外を見るが、

その表情はいまひとつ晴れなかった。

実は一つ月ほど前より地球周辺で奇妙な現象が発生していたのである。

突然のニュートリノの増加、

自然界のものとは異なる周期を持つ重力波の襲来、

そして、太陽風の流れの変化に伴う地磁気の乱れ。

最初、天文学者たちは超新星の出現かと沸き立ったが、

だが、そのような星はどこにも見当たらず、

結局この件はTSFに丸投げされてしまったのであった。

「ウルトラ・カミオカンデで検出された大量のニュートリノ、

 月面基地で観測された重力波、

 そして世界的な地磁気の乱れ、

 フロス、どう思う?」

引っかかるものを感じながらサイゴウは、

とある事情で自分の身体に同居している宇宙警察・ギャラクシーポリスの警察官。

フロス・タガー・惑星刑事に話を振った。

(え?

 うーん)

いきなり話をふられたフロスは困惑をしながら考え込むと、

(この間戻ったときは何も無かったし、

 もし銀河の中で何か大きな事があったら、

 本部から駐在所のほうに連絡が行くと思うわ)

と誤魔化すような返事をする。

「惑星刑事といえども判らない話か」

それを聞いたサイゴウはそうぼやくと、

(ちょっとぉ、

 あたしは神様なんかじゃないわよ)

それを聞いたフロスが抗議する。

そして程なくして

プシューッ!

電車は大宮と赤羽のほぼ中間点である武蔵浦和駅に到着すると同時に、

ドッ!

っと快速目当ての乗り換え客が車内に乗り込み、

瞬く間に立錐の余地が無いほどに混み合ってしまったのであった。

「うげっ、なんじゃこりゃぁ!…」

「さすがにきついな」

チシブキの悲鳴も途切れてしまうほどの乗客を詰め込んで電車は駅を出ると、

車窓が動き始める。

ゴゴン

ゴゴン

電車はいつもどおりに高架線を走り、

混み合った車内も次第に落ち着きを取り戻した頃、

「見つけたわよぉ!!」

突然、鼻に掛かったような男か女かわからない声が響くと、

「はっ離してください!!」

と女性の声が追って響いた。

「!っ」

「!!っ」

その声にサイゴウとチシブキは素早く反応すると、

「やっやめてください」

「けっ警察を呼びますよ」

さらに女性の声が静かにそして強く響いた。

「行くぞ」

「はいっ」

「ちょっとすみません」

「TSFです。

 通してください」

ただならぬ女性の声を聞いた二人は混雑する車内をかき分け、

女性の声が響いた方へと向かっていくと、

「手を離してください!!」

どこかのゲームキャラを連想させる黄色い電気鼠のヌイグルミを抱きかかえ、

困惑した表情で訴える少女と、

その少女の腕を掴んでいるビジュアル風の男性の姿があった。

「おいっ

 そこで何をしている」

少女の腕を掴む男に向かってサイゴウが声を上げると、

「なんだぁ?」

ビジュアル男は絡むようにサイゴウを睨みつけ、

「僕が何をしようと、

 僕の勝手だろう?」

と突っかかっかってきた。

すると、

「痴漢をしておきながら、

 何だ、その態度は!」

ビジュアル男の返事にキレかかったチシブキが少女を掴む腕をねじ上げると、

ギンッ!

いきなりビジュアル男の瞳が金色に輝き、

『ムシケラの分際でこの僕に抵抗をする気か!』

と声色を変えて怒鳴声をあげた途端、

ドォン!

猛烈な力がチシブキを襲い、

チシブキは満員の乗客を押しつぶすかのように車端方向へと飛ばされてしまった。

「うわぁぁ!」

「きゃぁぁ!」

「いてぇぇ!」

たちまち満員の車内に悲鳴が上がると、

『あはははは、

 面白い。

 人間共がゴミのようだ』

とビジュアル男は腹を抱えて笑い転げるが、

ドカッ!

『うげぇぇぇ!!』

突然ビジュアル男の腹を革靴が直撃すると、

「この朝っぱら何をしやがるんだ!

 こっちは振り替えで頭にきているんだ」

剥げ頭の中年のサラリーマンが怒鳴りながら、

ゲシゲシ!!

っとビジュアル男の腹を幾度も踏みつける。

『このぉ、

 ムシケラがぁ!!!

 父さんにも殴られたことが無いのに、

 よくもやったなぁ!』

サラリーマンの脚を掴み上げたビジュアル男は、

『消えて無くなれ!!!』

と怒鳴りながらサラリーマンの脚を振り回し、

満席の座席に向けて叩きつけようとするが、

「なんのっ」

咄嗟にサラリーマンはつり革につかまると、

ビジュアル男に蹴りを喰らわせる。

『やりやがったなっ』

「あははは、

 坊や、

 元○体大・体操部の私に勝てるかな、

 このつり革だらけの空間はまさに私の空間。

 くくく…久しぶりに腕が鳴るぞ」

睨みつけるビジュアル男を

見下ろしながらサラリーマンは

卒業以来眠っていた筋肉を起こすと、

メキメキメキ!

その肉体を大きく膨らませる。

だが、

サワッ!

彼の手が近くに立っていたOLのヒップに軽く触れた途端。

「きゃぁぁぁ!!

 痴漢!

 この人痴漢です」

とOLは騒ぎ始め、

「なっなんだとぉ!」

OLの騒ぎにサラリーマンは見る見る顔を真っ赤にし始めた。

ところが、

「警察に突き出されたくなければ、

 慰謝料10万円出しなさいよ」

とOLはサラリーマンに詰め寄たのであった。

「なんだとぉ!」

OLが持ちかけてきた取引にサラリーマンは驚くと、

「あぁ、この女だ!」

こんどは別の大学生風の男性がそのOLを指差し、

「皆さん、気をつけてください。

 この女は痴漢だと言いがかりをつけて金を騙し取る詐欺師です」

と声を張り上げたのであった。

「何を言い出すの?

 こっちはねぇ被害者なのよっ

 か弱き女性なのよ。

 その女性に楯突くなんてなんて根性が曲がっているの、

 訴えてやるわ、この女性の敵。

 あたしには人権派の弁護士が見方についているのよ、

 女性の敵は社会的に抹殺してやる」

大学生を指差してOLは怒鳴ると、

「やかましいわ、この犯罪者!!

 何ならこの場でぶちのめしたろうか、

 どうせ、俺はまだ未成年だし、

 お前一人あの世に送っても、

 未成年者の犯罪を軽くしてくれる人権派の弁護士に弁護してもらえば、

 犯罪なんて無かったことにしてくれるんだよ」

大学生も負けはしない。

「うるさいわね、女性を守る人権派はえらいのよっ!」

「うるせー、未成年者を未来を守る人権派の方がその上だ!」

「なんなんだ…この流れは…」

「さぁ?」

最初のきっかけなどすっかり忘れて

いがみ合う二人を見ながらサイゴウとチシブキは呆気に取られていると、

「やかましいわっ、

 ガキも女も俺たちサラリーマンが長時間労働・サービス残業をモノとせずに、

 働いているから食って行けているんだろうが!

 ガタガタ文句を言う暇があるなら、

 俺たちより3歩下がって歩きやがれ!」

この流れに頭にきた別のサラリーマンが怒鳴ると、

「言ったわね、

 男なんて女の奴隷で十分よ、

 お前達は文句言わずに働く人、

 あたしたちは優雅に食べて遊ぶ人よ!」

サラリーマンに向かってOLが怒鳴ると、

「おぉ、そうだそうだ!

 オヤジ共は黙って働けば良いんだよ」

と大学生は盛大に手を叩いた。

「んだとぉ」

それを聞いた車内のサラリーマン達が一斉に怒鳴りだすと、

椅子なし6ドアの車内はたちまち熱気溢れるリングと化し、

ンバッ!

バトルコスチュームに変身をしたOL、学生、サラリーマンたちによる

熾烈な戦いの場へと変わったのであった。

「やめろ、電車が壊れる!」

「だれか!

 電車を止めろ!」

騒然となった車内に悲鳴が上がり、

パシュンッ!

キキキキッ!

誰が押したのか緊急通報ボタンが押されてしまうと、

電車は通過するはずだった北戸田駅のホームを少し過ぎて停車してしまった。

「車内で緊急ボタンが押されたため、

 しばらく停車します…」

スピーカーを通して流れる車掌の声が響く中、

「てめー、やりやがったな」

「きゃぁぁっ」

「おっさんっ、暴れるなよ」

「おいっ、

 やめろ!

 やめるんだ」

そう怒鳴りながら戦いの場にサイゴウが割り込んだとき、

(あれ?)

フロスの脳裏にとあるシーンが再生された。

(これって、あのときの…)

そう、フロスが地球に左遷されるきっかけであり、

後に炎の七日日間と評される惑星トーキョーで起きた惨劇のきっかけであった。

(あのときは…確か)

時と場所を越えて起きた事件の相似性にフロスは困惑していると、

ガタン!

閉じられていたドアが開かれ、

「どうしたんですか」

と言う声と共に車掌と駅員が声をかけてきた。

すると、

『どけぇぇぇ!』

「きゃぁぁ!」

そもそもこの騒ぎの発端となったのあのビジュアル男が

ヌイグルミを抱く少女の腕を掴んで車内から飛び出そうとするが、

「TSFを舐めるなぁ!」

これまで見せ場が無かったチシブキがダッシュで飛び出し、

すかさずビジュアル男に飛び掛り引き倒してみせる。

すると、

『ゴミがぁ

 僕を舐めるなぁ』

飛び掛ったチシブキをビジュアル男は蹴り上げると、

再び少女を連れ出そうとするが、

しかし、少女は既にサイゴウが保護していたのであった。

『ちぃぃ!』

それを見たビジュアル男は歯軋りをしながらホームに出ると、

素早く横断し、

その勢いのままホームの端で飛び上がると、

『じゃまだぁ!』

と叫びながら埼京線と東北新幹線の間に張られているパテーションを一気に蹴り砕く。

だが、

プワァァァン!

丁度現場には東京行き上りあさま号と新潟行き下りMaxとき号が差し掛かっていて、

『うわぁぁぁぁ!』

ビジュアル男は悲鳴を上げながら、

ドカッ!

ベキッ!

見事あさま号ととき号に続けてクリーンヒットされてしまうと、

そのまま高架下へと消えていった。

「サイゴウさん、

 あいつ、凄いのかバカなのか判りませんね」

「そっそんなことよりも救急車だ!!」

ビジュアル男のあっけない顛末を眺めながら呟くチシブキに向かってサイゴウは怒鳴るが、

その直後、

パキーン!

高架下からまばゆい光が光り輝くと、

『ジュワッ!』

黒い肌の宇宙人が立ち上がる。

「なっなんだあれは?」

「真っ黒なフロス?」

一見、フロスに似ながらも全身漆黒・男性体の宇宙人の出現にチシブキ、サイゴウともに目を剥くと、

『我はブラック…ウルトラマン・ブラック。

 汝ら地球人よ、

 ムシケラの分際でよくもこの私に恥を掻かせたな。

 この行い、決して許さぬ』

と言いながらホーム上のサイゴウ達を指差した。

「フロス…

 何だアイツは…」

ブラックを見上げながらサイゴウはフロスに尋ねると、

(あれは…ダベッタじゃない。

 代わって下さい、

 あたしが出ます)

漆黒のウルトラマンを見上げながらフロスは心当たりがあるような台詞を言うと、

「わかった」

サイゴウはフロスと交代するために適全な場所へと移動しようとする。

すると、

「サイゴウさん。

 この場合どうすればいいんですか」

オロオロしながらそう訴えるチシブキに、

「とりあえず本部に連絡、

 現場対応でこの場をしのげ」

保護をしていた少女をチシブキに預けてサイゴウはそう命じると、

ホームから飛び降り線路上を走っていく、

そして、

「フロス!」

両腕をクロスさせて叫ぶと、

シュパァァァ!!!

ウルトラマン・ブラックの正面にウルトラウーマン・フロスが出現したのであった。

対峙する二体のウルトラマン…

だが、意外にも先に話しかけたのはフロスの方だった。

『お久しぶりね、ダベッタ。

 惑星小学校以来かしら、

 ところでこんなところで何をしているの?

 この星で勝手なことをされると困るんだけど!』

ブラックを指差しフロスは警告をすると、

『ふんっ

 誰がお出ましと思えばフロスじゃないか、

 ギャラクシーポリスの警官をしているんだって?

 大ヘマをやらかしてこの辺の星に飛ばされた。って聞いたけど。

 なぁるほど、

 フロスにはお誂え向きの星じゃないか』

とブラックは小さく笑ってみせる。

『あら、ありがとう。

 相変わらず小生意気な態度を取るじゃない、ダベッタ。

 言っておきますけど、

 いまのあなたは私の許可も無く勝手にこの星にもぐりこんだインベーダよ、

 逮捕されたくなかったら大人しく地球から去ることね。

 いまなら身柄確保まではしなくてよ』

ブラックに向かってフロスは警告をすると、

『おやおや、

 僕を身柄確保?

 ほほーぉ、

 銀河を統べる偉大なる首領様でいらっしゃる、

 ルイン銀河人民共和国総統閣下に遣えるこの僕を…

 たかが辺境駐在員の君がぁ?

 あはははは…

 僕も甘く見られたものだな』

その警告にブラックは盛大に笑って見せた。

『銀河人民共和国総統・ルインですってぇ?』

ブラックが話した人物の名前にフロスは少し驚くと、

(おいおい、フロス、

 コイツ、なんか随分と上の奴の名前を出してきたけど、

 大丈夫なのか?)

と困惑した口調でサイゴウは尋ねてきた。

『大丈夫よ、

 あてずっぽうで言っているんでしょう、

 ルインって言う名前の人は…

 あっ思い出した。

 そうそう、

 手鏡を使って女性をスカート裏を盗撮したとかで捕まって、

 銀河連合軍をクビになった軍人にそんな名前の人がいたわ』

サイゴウに向かってフロスはそう答えると、

『あはははははは!!!!』

ブラックの笑い声が響き渡り、

『誰と話をしているのか知らないけど

 いやぁフロスは何も知らないんだなぁ、

 まぁ、もっともこんな辺境では

 銀河の中心で起きている偉大なる革命に気がつかないのも仕方が無いか』

と呆れたように言う。

『偉大なる革命?』

『そうだよ、

 昨年、ルイン閣下は腐りきった銀河連邦体制に鉄槌を下すべく、

 大いなる志を持って立ち上がったのだよ。

 そして、ルイン閣下と志を同じくする僕達同士たちは力をあわせ、

 腐敗の温床である元老院に正義の鉄槌を下し、

 悪の権化、銀河連邦を滅亡させたのだ。

 そして、ルイン閣下は新たに銀河人民共和国を建国なさると銀河連合軍を銀河人民軍と改め、

 その全てを統べる総統閣下とお成りなされたのだ。

 さぁ、フロス。

 ともにルイン総統閣下を称えようではないか、

 ルイン総統、センマー!

 ルイン総統、センマー!』

とブラックはフロスに経緯を言うと、

胸を張り声を高らかに張り上げたのであった。

(フロス…いつの間に銀河系はこんなコピー大国のB級品を

 さらに劣化コピーしたみたいなものになってしまったんだ…)

それを聞いたサイゴウは呆気に取られる一方で、

『なっなんてこと…』

フロスはそのショックに言葉を失っていた。

『と、言うことだフロス。

 ギャラクシーポリスは現在、共和国人民治安省の配下となり、

 僕はその人民治安省の情報部の職員。

 わかるかなぁ?』

そんなフロスに向かってブラックはイヤらしく囁き、

『それで、あの少女は、

 我々が追っている重要参考人なのだよ』

と告げると、

スッ

ブラックは額に両手人指し指を当て、

『ジュワッ!』

の掛け声と共に

シュピーッ!

フロスに向けて光線を放った。

『!!っ』

幸いブラックから放たれた光線はフロスの頬をかすめていくが、

だが、

ドドーン!

フロスのはるか後方、筑波山の山頂に命中してしまうと

爆発音と共に小さなキノコ雲を湧き起こさせる。

『うっ!』

ブラックの素早い攻撃にフロスはなす術もなく立ち尽くしていると、

カッ!

またしても光が輝き、

今度は全身純白のウルトラマンが姿を見せたのであった。

(なっ、今度は白いウルトラマンかよ)

黒と白、二人のウルトラマンの出現にサイゴウは驚くと、

『何を暴れているんだ、ブラック。

 探し物は見つかったのか』

と白ウルトラマンはブラックに問い正す。

『おぉ、兄者。

 見つかったは見つかったのだが、

 だが、今日は日が悪いので引き上げることとしよう』

白ウルトラマンに向かってブラックはそう言うと、

『また来るよ、

 あの女を頂きにね…その時にはちゃんと渡して欲しいな。

 無論、君の辞表とともにだよ。

 それとダベッタと言う名前はとっくに捨てたよ。

 ダサくて僕には似合わない名前なのでね。

 いまの僕の名前はブラック。

 ウルトラマン・ブラック!

 そして、兄者はウルトラマン・ホワイトだ。

 今度、名前を間違えたらこの星を滅茶苦茶にしてやるからな』

姿を見せたTSFのファイターを横目に見ながら

ウルトラマン・ブラックとウルトラマン・ホワイトは声を合わせてフロスを指差し警告をすると、

『ジュワッ!』

『ジュワッ!』

の掛け声と共に黒と白、2体のウルトラマンは空の彼方へと消えて行ったのであった。



「ごめんなさい。

 実は私、この星の人間ではないのです」

「え?」

ところ変わってTSF本部。

しかし、先日のスーツ星人との戦いで崩壊して以降は、

都内の貸しビルに間借りしていて結構肩身のせまい思いをしてるのであった。

さて、埼京線北戸田駅で身柄を確保した少女の口から出た言葉に

TSFの隊員たちは驚きの声を上げると、

「地球人ではないの?」

「そうには見えないけど」

全く地球人と見分けがつかない彼女の姿にゴウダ達はキョトンとしてみせる。

その一方で、

「実は私も驚いているのです。

 こんなに私の星に似ていた星があっただなんて…」

と少女は呟いてみせると、

「とにかく事情を話してくださいませんか、

 あなたに関係があると言うあの黒と白のウルトラマンと

 そして、あなたのことを…」

少女を見つめながら隊長のゴウダは尋ねる。

「はい…」

ゴウダに促されポツリポツリと少女は話をし始めるが、

しかし、その内容は衝撃的なものであった。



少女の名前はシズカと言い、

地球から遠く離れた星・惑星サガミハラの住人であった。

惑星サガミハラは銀河系を統括しする銀河国家の構成星の一つであり、

非常に進んだ科学力と至近にある暗黒ガス星雲の豊富な資源量のお陰で

銀河系の中でも指折りの経済力を誇っていた。

だが、その惑星サガミハラは現在存在はしていない。

なぜなら、ひと月ほど前に銀河連合軍改めた銀河人民軍の猛爆を受けて

太陽もろとも消し飛んでしまったのであった。

突然の爆撃について銀河人民軍は惑星サガミハラの銀河人民共和国憲章違反を挙げるものの、

しかし、この憲章自体、

制定は構成星の意見を聞かずに秘密裏に行われ、

さらに詳しい理由についの説明は一切無かったのである。



「なるほど、

 一月前から地球で観測されている異常はそれが原因だったのか」

「それにしても随分と酷いことをしやがるな」

話を聞いたガクラは大きく頷くと、

チシブキは悔しそうに壁を殴り始める。

すると、

「怒るな、チシブキ!

 そう言う点では地球人も一緒だ」

とガクラは窘めると、

「で、シズカさんは、

 その銀河人民軍が惑星サガミハラを攻撃した真の理由を知っているのですか?」

シズカに向かってゴウダは改めて尋ねた。

「…ブラックホール爆弾です…」

ゴウダの質問にシズカは小さな声で呟くと、

「ブラックホールって、あのブラックホール?」

シズカの言葉にフルカワは驚いて聞き返す。

「はい、わたしの父はそのブラックホール爆弾の開発に携わっていました。

 先ほどサガミハラは暗黒ガス星雲の近くにあると説明しましたが、

 最近になってその暗黒ガスの一部がサガミハラに向かって動き始めたのです。

 もし、暗黒ガスに飲み込まれてしまったら、

 サガミハラに住む事が出来なくなってしまいます。

 そこで、ブラックホール人工的に作り出すブラックホール爆弾で

 サガミハラに向かって広がってきた暗黒ガスを処理するつもりだったのですが、

 どこで聞きつけたのかルインはその爆弾を銀河人民軍に差し出せ。

 と迫ってきたのです」

フルカワに向かってシズカは事情を話し始め、

「ブラックホール爆弾を差し出せ?」

「共同開発とか言うんじゃなくて?」

「めちゃくちゃな…」

その話にTSFの一同は驚きの表情を見せると、

「無論、サガミハラはこの爆弾は平和利用を前提にしているため、

 軍事利用は一切認めないことを訴えましたが

 しかし、革命と称する軍事クーデーターによる強権奪取で共和国並びに人民軍総統の座についたルインは

 一切耳を貸しませんでした。

 ルインは自分に逆らうものを惑星、いえ、恒星系もととも抹殺するために

 ブラックホール爆弾を欲していたのです

 全ては自分の権力のため、

 銀河の全ての生あるものは自分の道具。

 平和なんてあの男には何の価値も無かったのです」

とシズカは黒幕たるルインの野望について説明をする。

「では、ブラックホール爆弾は…」

生唾を飲み込みながらチシブキが尋ねると、

「はい、

 本来ならその様な危険な爆弾の開発は即刻停止して破棄するべきだったのですが、

 しかし、迫る暗黒ガスを止める術はそれしかなく、

 ブラックホール爆弾は1発だけ製造すことにしたのです。

 でも、爆弾の完成を知った人民軍はサガミハラに共和国憲章違反と言う言いがかりをつけて、

 攻撃を仕掛けてきたのです。
 
 5000億の宇宙艦隊からの一斉射撃にはサガミハラは持ちこたえられず、

 完成したブラックホール爆弾は奪われてしまったのです。

 だけど、父はブラックホール爆弾の設計図を封印したこのヌイグルミをあたしを託すと、

 開発途中だったマイクロワープ・空間転動装置を使ってこの星へと送ったのです」

シズカはブラックホール爆弾の設計図が収められている黄色い電気鼠のヌイグルミを抱きしめ涙ながらに訴えた。

「そうですか、

 お話をしてくださりありがとうございます」

話を聞き終えたゴウダはシズカに頭を下げると、

「その設計図はあなたが持っていてください。

 我々がそれを持つことは出来ませんから」

と言う。

「ありがとうございます」

ゴウダの言葉にシズカは頭を下げると、

「あっあの…質問いいですか」

と言いながらチシブキが手を揚げ、

「その、シズカさん、

 そのヌイグルミってなんていうんですか?

 これにそっくりだけど、

 まさか、ピ○チュウって言うんじゃぁ?」

TSFの備品になっているピ○チュウのヌイグルミを手に取り質問をした。

ところが、

「いいえ、そんなニセモノとは違います。

 これはバチモンのテカチュウって言います。

 可愛いでしょう?」

とシズカは答え笑みを見せる。

「どっちがニセモノだよぉ…」

それを聞いた隊員一同が心の中で突っ込みを入れるが、

ただ一人、

「なぁ、フロス、

 ルインっと言うのはどんな奴なんだ」

サイゴウはフロスに尋ねていた。

(盗撮事件の取調べをした人の話では

 ありとあらゆる欲が詰まった男と言っていました。

 何事も正義は自分であり、

 自分が疎まれているのは社会が悪い。

 だから、社会を正すために行動を起こした。

 と言っていましたが、

 まさかこんな事がをしでかすだなんて…)

信じられないようにフロスは答えると、

「それって、ただのワガママじゃないかよぉ

 じゃぁ、あの白・黒のウルトラマンもか?」

とサイゴウは聞き返す。

(いえ、ドベッタ、ダベッタ兄弟は…

 惑星小学校でいつもみんなに虐められていて、

 銀河連合軍に入って見返してやる。

 と泣きながらに言っていましたが、

 まさか、こっちもあんな風になっていたなんて…)

と困惑した口調で言う。

その時、

サイゴウの目が光ると、

「…まさか、君もその虐めの加担していた?」

と尋ねると、

(ギクッ!)

その途端、フロスの返事は止まってしまったのであった。

「さて、どうします?

 ゴウダ隊長」

シズカの話を聞き終えたフルカワは怪訝な顔でゴウダに話しかけ、

「下手をすると今度の敵は…銀河系ですよ、

 5000億の宇宙艦隊を相手にTSFは戦うのですか?」

と訴えると、

「きっと、ダース○イダーみたいな黒尽くめの奴が司令官ですよぉ

 どうするんですかぁ?」

「大至急ヨー○を探さないとぉ!」

「俺、フォースなんて使えないですよぉ!」

頭を抱えてTSFの隊員たちは皆はうろたえ始めた。

その途端、

「やかましい!!」

ゴウダの怒鳴り声が響き渡ると、

「俺たちがまず先にすることは、

 金ぴかの召使ロボットを作ることじゃないのか」

と訴える。

「隊長ぉぉ!、

 それ、真面目に言っているんですか?」

ゴウダの訴えにチシブキが涙ながらに訴えると、

「ん?

 召使ロボよりもちっちゃくて丸っこいのが先か?

 うん、確かにアイツをファイターに乗せられれば機体の操縦が楽になるな、

 よぉし、開発部にお願いしてアイツを作ってもらおう」

とゴウダは納得顔で返すと、

TSF開発部に電話をかけ始める。

「僕はそんなことを言っているんじゃありません」

泣き顔になりながらチシブキが迫ると、

「いまのは冗談だ。

 地球と帝国軍…もとい、銀河人民軍と戦争にならないようにするためにも、

 何か策を講じる必要があるな」

ゴウダは顎を摩りながら頷くが、

肝心要の地球の最高意思決定機関である国連はと言うと…

地球温暖化に伴うCO2削減枠を巡って会議は紛糾していて

機能不全に陥っていたのであった。



「まったく、明日のエコよりも、

 今晩の銀河人民軍への対応が最優先だというのに…」

投げやりになりつつもゴウダは事態の打開策を考えていると、

フォンフォンフォン!!!

「怪獣出現!!

 パターンA!!

 宇宙人と思えしき物体2体が都内・夢の島公園に出現しましたぁ!!」

警報音と共に隊員たちに第一報がもたらされた。

「夢の島公園かぁ、

 夕方のラッシュ時ですし、風に弱い京葉線が止まらなければいいですね」

詳細を聞いたガクラが囁くと、

「会社帰りのサラリーマンの足を守るのもTSFの大切役目だ。

 TSF出撃!!」

意を決したゴウダの声が響き渡った。

そして、

ギュォォン!!!

択捉・竹島・尖閣・沖ノ鳥島に設けられた秘密基地よりファイターが一斉に飛び立つと、

一路夢の島公園に急行していったのであった。



『ふっ、雑魚が来たよ兄者』

『あぁ、雑魚が来たな』

夕日が照らす夢の島公園に出現した黒と白、2体のウルトラマンは迫るファイターを見据えると、

『僕たちは無敵だよな、兄者』

とウルトラマン・ブラックはウルトラマン・ホワイトに話しかける。

『当たり前のことを聞くな』

その言葉にホワイト笑いながら返事をすると、

『そう、僕達は負けない』

ブラックはそう言いながら小さく頷き、

『当たり前だ、

 僕たちには無敵さ』

ホワイトもも同じように頷いた。

そして、俯いていた顔をゆっくりと起こすと、

ビシッ!

迫るファイターに向けて指差し、

『光の使者・ウルトラマン・ブラック!』

『同じく光の使者・ウルトラマン・ホワイト!』

と名乗り、

『ふたりはウルトラ!』

一旦、キメポーズを決めてみせる。

そして、

『闇の力の僕たちよ!!』

『とっととお家に帰りなさい!』

そう口上を言うと、

ギュッ

とブラックとホワイトは手を繋ぎ、

『ブラックサンダー!!』

『ホワイトサンダー!!』

と声を張り上げた。

すると、

ピシャァァン!!

天空より白と黒の稲妻が二体の掲げた腕に落ち、

二体のウルトラマンは光り輝き始めると、

『ウルトラの美しき魂が』

『邪悪くな心を打ち砕く』

『ウルトラ、マーブルスクリュー!!』

の掛け声と共に二体のウルトラマンより螺旋を描く稲妻が都心方向へと放ち、

放たれたマーブルスクリューはサイゴウが操縦するファイターに襲い掛かる。

「ちぃ、

 なにが美しき魂だ。

 邪悪な分際で!!」

それを聞いたサイゴウは咄嗟に腕をクロスさせると、

「フロス!」

と声を張り上げる。

その途端、

カカッ!!!

『ジュワッ』

まばゆい閃光とともにウルトラウーマンフロスがマーブルスクリューの前に立ちはだかると、

両手を差し出し、

『ジュワッ!』

ドォォォン!

押し寄せるマーブルスクリューを押し留めた。

ブバババババババ!!!!

襲い掛かる猛烈なパワーをフロスはせき止めて見せると、

『なかなかやるな、兄者』

『あぁ、そうだな』

そのフロスを見ながらブラックとホワイトはそう囁き、

グッ!

身体に力をいれると、

『スパーク!』

と声を揃えて声をかけた。

その途端、

ドォン!

フロスを押す力がさらに増し、

ズズズズ…

襲い掛かる力がフロスを飲み込み始めた。

『くぅぅぅぅ…

 何て力なのぉ』

力負けしてきたフロスはなおも抵抗をすると、

『これで決まりだな、兄者』

『あぁ…』

勝利を確信した二人はさらに

『マックス!』

と付け加えた途端、

ゴワァァァ!!!

フロスを殲滅せんと光が押し寄せ、

『もぅもうだめぇぇ』

ついに支えきれなくなりフロスが膝を着こうとしたとき、

フッ!

フロスの隣に一体の影が立つと、

『なにをやっている、

 加勢に来たよ』

その声と共になんとあのウルトラマン・クレスがマーブルスクリューを押し留め始めたのであった。

『クレス!!』

思いがけないクレスの登場にキョトンとしながらフロスは名前を呼ぶと、

『ボケッとしてないで

 こっちも反撃だ、フロス!』

とが言いながらクレスが手を差し出すと、

二人はがっちりと握り締めた。

その途端

パァァァ!!

フロスとクレスの身体の文様が変わり、

『でやぁ!』

の掛け声とともにマーブルスクリューを弾きと飛ばした。

『なにっ』

『何だ』

予想外の自体にブラックとホワイトは驚くと、

フロス、クレスのウルトラマンはブラックたちを睨みつけ、

『ふたりはウルトラ 2.0!!!

 そろそろ反撃いきますよぉ』

と声を張り上げた後、

ギュッ!

フロスとクレスは手をつなぎ、

『精霊の光よ!』

『命の輝きよ!』

声を張り上げた。

『なにぃ、

 あっ兄者、こっちも行くぞ!』

『おぉ!』

それを見たブラックたちも慌てて手を繋ぎ直すと、

『ブラックサンダー!』

『ホワイトサンダー!』

と声を張り上げ、

『ウルトラマーブルスクリュー!!!

 スパーク!

 マックスゥ!!』

の声をともに一足先に放たれるが、

『希望に導け二つの心!!』

『ウルトラ・スパイラルハート、

 スプラーッシュ!!!』

そう声を上げてフロスとクレスは目の前の出現した光を押し出すと、

ズバァァァンン!!!!

押し寄せるマーブルスクリューを包み込むようにして二つの光の球が

らせん状に舞いながらブラックとホワイトに襲い掛かってくる。

『あっ兄者ぁ!』

『うぉっ、

 マーブルスクリューを踏み台にしやがたぁ!!』

迫ってくる光に二体のウルトラマンはなす術もなく飲み込まれてしまうと、

『うわぁぁぁぁぁぁ!!!』

ハートに輝く光の中で悲鳴を上げ、

ズバァァン!!!

光のオタマジャクシを撒き散らしてしまったのであった。



つづく