風祭文庫・ヒーロー変身の館






「ウルトラウーマン・フロス」
(第20話:脱獄囚)



原作・風祭玲

Vol.729





時は西暦20XX年、地球では怪獣や宇宙人の襲撃が多発し、

国連の外部機関たる地球防衛軍では対処しきれないと判断した人類は

専任の特殊科学戦隊TSFを結成し、迫り来る脅威に立ち向かっていた。



ファンファンファン!

惑星刑務所に警報音が響き渡る。

「脱獄だぁ!!」

「あっちに逃げたぞ!」

ドゴーン!

「ぐわっ」

「構わん、撃て!」

「怯むな!」

ドゴーン!

ドゴーン!

怒号と悲鳴、

さらに爆発音が連続して響いた後、

フォォン!!!

猛火に包まれてゆく惑星刑務所より銀色の飛行物体が飛び上がると、

漆黒の宇宙空間へと消え去っていった。



それから数ヶ月後、

惑星・地球

「先生、さよぉ〜ならぁ〜」

「気をつけて帰るのよ」

ごくありふれた街にある

ごく普通の高等学校。

黄昏色から漆黒色へと姿を変えていく空の下を、

部活を終えた生徒達が別れの挨拶をしながら

ここで教鞭をとるサカエ・ユキは笑顔で見送っていた。

「はぁ…

 今日も一日無事に終わったか」

最後まで残っていた生徒を見送った後、

ユキは肩をトントンと叩きなが安堵の表情を見せると、

「あら、サカエ先生、

 また残っていたんですか?」

同じこの学校の教員であり親友のナガタ・ユウカが声を掛けてきた。

「ユウカったら、

 やめてよ、

 その先生呼びは」

ユウカが発した先生という言葉にユキは身震いすると、

「そりゃぁねっ、

 ユキとは親友同士だし、

 呼び捨てでもいいけどさっ、

 でも、生徒の手前それはできないでしょう?」

軽くため息をつきながらユウカはそう指摘する。

すると、

「はいはい」

ユウカの指摘をユキは軽くあしらった。

と、その時、

「あっ電話だ」

震動する携帯電話に気づいたユキは

おもむろに取り出し画面を見ると、

「え?」

一瞬、驚いた顔を見せる。

「?」

そんなユキの表情を見てユウカは首を軽く傾けると、

ユキはキョロキョロと周囲を見始めた。

「どうしたのぉ?」

挙動不審者を思わせるの彼女の振る舞いに

ユウカは怪訝そうにその理由を尋ねると、

「え?

 あぁ…

 いえ、別に…」

ユウカに対してユキは慌てて取り繕い、

そして、

「!」

何かに気づくと、

「ねっねぇユウカ、

 これから時間がある?」

と尋ねてきた。

「いいけど、

 一体なんで?」

その理由をユウカが尋ねると、

「うふっ、

 ちょっと付き合って貰いたいことがあってね」

とユキは含み笑いをしながら返事をした。



「あっ、お月様」

「そうね、

 今夜は満月だもんね」

学校から並んで出てくる二人を銀色の月が照らし出す。

「ねぇ、

 なんで登ったばかりの月って大きく見えるのかな?」

硬貨を思わせる月を見つめながらユウカが尋ねると、

「さぁ、なんでしょうねぇ」

と隣を歩くユキは返事をした。

二人は校門を出ると、

スッ

ユウカを先導するようにしてユキは右に曲がった。

「?

 そう言えばさ、ユキ…

 付き合うって一体何処に行くの?」

そんなユキに向かってユウカが目的地を尋ねると、

「えぇ、

 別に遠くへ行こうって言う訳じゃないわ、

 あたしんちよ、

 うふっ

 ユキに見てもらいたいものがあるのよ」

とユキは笑みを浮かべ返事をした。

だが、

「でも…

 ユキの家ってこっちだっけ?」

ユウカは記憶している彼女の自宅とは違う方向へと

向かっていく彼女の姿を怪訝そうな目で見つめ、

「そう言えば、

 先週、失踪騒ぎがあってから、

 ユキってどこか変なのよね」

と先週発生したユキの失踪騒ぎについて思い出していた。

やがて二人は次第に人気のないところへと向かって行くと、

「ねぇユキ!

 本当にこっちで良いの?

 これ以上行ったら山の中へと入っていくわよ」

とユウカは間近に迫ってきた山を指さし尋ねた。

すると、

スッ!

突然ユキは立ち止まり、

ゆっくりとユウカの方を振り向くと、

「お待たせ、ユウカ。

 着いたわよ」

と返事をした。

「へ?

 着いたって、

 何処にも家なんて無いじゃない。

 あたしをからかっているの?」

そんなユキに向かってユウカが文句を言った途端。

カッ!

突然、辺りが光り輝くと、

「きゃぁぁ!」

ユウカは光の中へと消えていってしまった。



「ユウカ…

 ユウカ…」

「うっ」

幾度も呼ばれる自分の名前にユウカは目を開けると、

「もぅ、ユウカったら」

ユキは笑みを見せる。

「ここは…」

そんなユキを余所にユウカはキョロキョロと周囲を見ると、

何もない真っ白な空間にポツンと1つのドアがあって、

その前にユキがニコニコしながら立っていた。

「へ?」

あまりにも不自然なその様子にユウカは驚くと、

「どうしたの?

 ここはあたしんちよ」

悪戯っぽくユキはそう告げ、

そして、目の前のドアを開けると、

「さ、あがって、あがって」

とまるで親戚の叔母か叔父が来た子供のように

ユウカに上がるように告げた。

「うっうん」

ユキに誘われユウカがドアをくぐると、

真っ白な中に黒いラインで壁や家具が描かれたリビングが姿を見せ、

その中を先頭を切ってユキは入っていくと、

シュルッ!

突然、着ている服を脱ぎ始めた。

「え、ちょっとユキ、

 何してんの?」

ユキのその行為にユウカはその理由を問いただすと、

「ん?

 今日やることにはこれが必要なのよ。

 さ、ユウカさんも脱いで」

とユキはユウカに服を脱ぐ様に告げた。

「えぇ!」

ユキのその声にユウカは驚きの声を上げると、

クワッ!

「ふ・く・を・ぬ・い・で」

とユキは目をまん丸にしてユウカに命令をする。

その途端、

「え・・・うん」

ユウカはまるで暗示にかかったかのように

ユキの言うとおりに服を脱ぎ始めた。

やがて二人は全裸となると、

「さぁ、ユウカ

 こっちに来て」

と白い肌をさらしながらユキは招く、

「は・い」

その声にユウカは抵抗することなくユキの元へと向かうと、

二人は向かい合った。

「うふっ

 おいしそ〜う」

ユキはユウカの自分より大きな乳房を見ながらそう言うと、

ペロリと軽く舌なめずりをし、

「さぁ、ユウカ、

 あたしのこれを舐めて」

と言いながら、

キュッ!

自らの乳房を両手で盛り上げるように持ち上げ、

キラリと光る乳首をユウカへと向けた。

すると、

「は・い」

ユウカは自分の手をユキの乳房へと伸ばし、

自分に向けられている乳房を揉みはじめた。

「あっ

 あはっ
 
 いいわ…
 
 とっても感じちゃう」

自分の乳房が揉まれることにユキは身もだえ、

次第に上気してゆくと、

ジワッ…

充血し隆起したユキの乳首より白い液体が零れはじめた。

「はぁん…

 舐めて…
 
 あたしのミルクを舐めてぇ」

両乳首からミルクを染み出せながらユキはそう命じると、

「はぃ」

ユウカは言われたとおりにユキの乳首に口を付け、

滴り落ちるミルクを飲み始めたのだ。

チュゥチュゥ

チュゥチュゥ

吸い付けば吸い付くほど

絞れば絞るほどユウカの乳首からミルクがこぼれ落ち。

ユウカはまるで赤子の如くミルクを飲み込んで行く。

すると、

ミルクを飲み続けるユウカの乳房はどんどん膨らんでいき、

逆にユキの乳房はそのたびに縮みはじめた。

だが、

「あぁん…

 いぃ…

 もっと、もっと…」

喘ぐユキの乳房にしゃぶり付いているユウカの身体に変化が始まった。

ビクン!

一瞬、

ユウカの身体が小さく飛び上がると、

モコッ

モコモコモコ!!

彼女の白い手足から筋状に皮骨が盛り上がるようにして姿を見せると、

白い肌は暗緑色へと染まりはじめた。

肌の変化は背中にも広がり

背中全体を変化させてしまうと、

ニュッ!

お尻から突起物が突き出した。

突き出した突起物はさらに成長をして、

巨大な”尾”へと変化すると、

ユウカの顎を含む腹全体は蛇腹に覆われていった。

さらに

メキメキメキ!

ユウカの顎が伸びはじめると、

髪は抜け落ち、

瞳は黄色く染まっていく、

次第にに人間としてのスタイルが崩れ、

ある生き物を彷彿させる姿へと変わりかけたとき、

『はうっ、

 こ…これは?」

突然、ユウカは正気に戻ったらしく、

分厚い皮膚に覆われ、

太く短く退化してしまった自分の手を見ながら叫んでしまった。

「あら、気がついたの?

 うふふ、

 ユウカさん。

 とっても逞しくなったわよ、

 その姿ならフロスと存分に戦えるわね」

ユキはすっかりワニ人間になってしまったユウカを

愛おしそうに眺めながら笑みを見せた。

『フロス?

 何なのそれ?

 ユキちゃん。

 一体、あたしに何をしたの?』

ユキの告げた言葉の意味が判らずに、

自分の身体が醜く変身してしまった理由を問いただすと、

「知っているでしょう?

 ウルトラウーマンフロス…

 あたし達の敵よ…」

ユキは視線を鋭くしながらそう応えると

突如自分の胸を揉み始めた。

「はぁん、

 はぅ、

 はぅ〜」

教室の中にユキの艶めかしい声が響き渡ると、

モコッ!

今度はユキの身体に変化が起った。

メリメリメリ!

突如、尻から尻尾のような突起物が盛り上がると、

ユキの2本の足と融合しはじめていく。

「はぁぁん

 あんあんあん」

突起と足が融合していく中、

ユキはさらに身もだえると、

ジワ…

足の色は群青色へと変化し

さらにその表面はザラザラしたものへと変わっていった。

広がりはじめた群青は足から染み出し、

瞬く間に上半身から腕へと広がり、

覆い尽くしてしまう。

すると、

メキッ!

群青色に染まったはユキの指が潰れて広がりはじめると、

さらに指と指が融合し、

全ての指を飲み込んでしまうと、

彼女の両腕は鰭へと変化してしまった。

一方で顔は鼻が尖りながら伸びると

それに引っ張られるようにユキの顔は伸び。

髪は抜け、

歯が鋭くとがり、

ユキは獰猛そうな鮫へと変化をとげてしまった。

『うっうそぉ!

 ユキが…
 
 ユキがサメ人間になってしまった』

呆然とするユウカを余所に、

『うふふ、

 どうユウカさん。
 
 あたしの姿は…
 
 とっても恐ろしそうでしょう?』

ピタピタ

ピタピタ

足を失い床に這い伏すユキは

足が変化した尾びれと

腕が変化した胸ぴれで床を叩きなから

自慢そうに鮫となった姿をユウカに見せ付けた。

『ユキちゃん、おかしいよ!!

 なんで、

 なんでこんなことを!!』

ワニ女・ユウカはサメ女になったユキに再度理由を尋ねようとするが、

ほぼ同時に

『…さぁ、お前達』

とユキとは違う女性の声が鳴り響いた。

『え?

 誰?

 誰なの?』

その声にユウカは辺りを見回しながら声を張り上げるが、

『フロスを倒せ、

 フロスはいま日本海と呼ばれる海に浮かぶ島に居る。

 さぁ、昔年の恨みを晴らすとき来た』

と声は続けた。

『誰なのよっ

 答えて、

 あなたがあたし達をこんな姿にしたの?』

姿の見えぬ相手に向かってユキはそ怒鳴ると、

『さぁ、行きましょう…』

ギロッ!

ユキはまん丸になった目でユウカを見つめた。

その途端、

『あ…は・い』

再び暗示に掛かってしまったのか、

ユウカの黄色い目がキュッと締まり、

まるで操り人形の如く、

ユウカはユキに連れられて光の中へと消えて行き、

そして、

ムクムクムク!!!!

そのシルエットは全く間に巨大化していったのであった。



ザザーン…

日本海に浮かぶ国境の島・竹島

国防の最前線・竹島の地下深くに特殊科学戦隊・TSFの竹島基地がある。

ゴゥン!

ウィィィン!

スカイファイターの格納庫へと降りてゆくエレベータの中に

ゴウダ、サイゴウ、チシブキの姿があった。

「ゴウダ隊長、

 やっとこの島も静かになりましたね」

手持ちぶたさのチシブキがふと会話のネタを振ると、

「そうだな…

 一時期、この島の領有権があると言う妄想に駆られた不埒な連中が

 不法占拠していたことがあったが、

 国際機関の調停で我が国の固有の領土であることが確定され、

 不法占拠者は島から離れていったからな、

 まったく、

 政策運営のミスをナショナリズムで補おうとする手法は

 古来より愚かな独裁者の常套手段だと言うが、

 なぜ、歴史からそれを学ぼうとしないのか」

ゴウダは溜息混じりに返事をした。

「確かに、

 独裁者や独裁者を取り巻く者ほどその傾向が強いですね。

 かのナ●スにしろ、

 共●党にしろ、

 自分たちのことを棚に上げてナショナリズムを煽りますからね」

ゴウダの返事にチシブキは大きく頷いた。

「愛国。

 愛国。

 と騒ぐヤツほど愛国者ではなく、

 その言葉尻に乗って権力を握り、蓄財に励み、

 その不正さを指摘する者が現れればたちまち弾圧をする。

 ”我こそは正義の味方ナリ”

 と正義と博愛を叫びながら権力の座に着いた途端。

 ”オレ様に逆らう者は抹殺する”

 と悪の独裁者の顔を見せる。

 こっちは正義だ。

 そっちは悪だ。

 と色分けをしたがる輩は大勢居るが、

 この世に絶対的な正義。

 絶対的な悪。

 と言うのは何処にも存在はしない。

 ただ、自分の生活圏を脅かす者が悪である。と言うのがあるだけだ。

 そしてその主張がぶつかったときに争いが起きる」

「じゃぁTSFが掲げている正義もその様なものなのですか?」

ゴウダの言葉にサイゴウが尋ねると、

「まぁな…

 TSFはこの地球に害を及ぼす勢力は悪と定義しているが、

 でも、本当にそれで良いのか。

 となると”違う”とわたしは思う」

「えぇ、

 じゃぁ僕たちはどうすれば良いんですか?」

それを聞いたチシブキが声を張り上げると、

「自分たちの生活を脅かす者は悪である。

 最初からハッキリとそう言えば良いんだ。

 変に甘美な屁理屈をつけて、

 正義を主張しようとするからスグに破綻し、

 その破綻を隠そうとしてウソを付き、

 ウソを隠すために独裁へと走ってゆく。

 まぁ、自分にとっての平和とは何か、

 それをキチンと見つめ、

 考え、

 行動をすれば争いごとは無くなっていく。
 
 と私は思っているのだが、

 ふふっ、

 まぁ人間って誘惑に弱いからな、

 簡単には行かないし、

 この星から争いごとは永遠に無くならないだろう」

ゴウダは鼻で笑うと、

「チシブキ、

 この問題は地球人の永遠のテーマだよ」

と締めくくった。

『はぁ、地球人でも色々と大変なんですね』

ゴウダの話を聞いていたフロスがふと漏らすと、

「(まぁな…

  そんな地球に異星人が押しかけてくるから、

  余計厄介なことになるんだよ)」

サイゴウは言い聞かせる。

とその時、

ファンファンファン!

突然、警報が鳴り響くと、

『(ザザッ)

 竹島近くを警戒中の自衛艦より入電。

 本日11::00、対馬海盆付近のEEZにて怪獣反応を検出、

 竹島に上陸する可能性大』

と放送が入る。

「おっ、

 直接こっちに来るか、

 まぁ、大都市ではないし、

 上は警備しか居ないから思いっきり暴れられるな」

それを聞いたゴウダはニヤリと笑うと、

「この島を、そして地球の平和を守るために闘うのですね」

とチシブキが尋ねると、

「そうだ、

 TSF出撃!」

ゴウダの声が勢いよく響き渡った。



ギューン!

瞬く間に竹島上空に日本各地から出撃してきたスカイファイターが集結し、

怪獣の登場を待ち構える。

そして、

ザザザ

ドザァ!!

満を期すかのように海中より

巨大怪獣が姿を見せると、

ズシーン!

ズシーン!

竹島の絶壁をよじ登りはじめた。

「隊長!

 あれはワニでしょうか?」

怪獣の姿を確認したガクラが無線で尋ねると、

「うむっ、

 間違いなくワニだな…」

落ち着いた口調でゴウダは返答をした。

「海の中からワニ怪獣…

 ちょっと無理がないか?」

それを聞いたチシブキがふと呟くと、

「こういう場合、

 大方、何処ぞの異星人が後ろで糸を引いているのだろう」

とサイゴウがワニ怪獣を操って居るであろう異星人の存在を指摘した。

「(ザザッ)

 こちら本部、

 竹島周辺の時空間でUFOの存在を確認できません」

それを聞いたかすかさず本部より異星人の存在を否定する無線が入ると、

「ちっ何処だ?

(フロス、感じるか?)」

サイゴウはフロスに尋ねた。

すると、

『えぇ、

 ココではありませんが、
 
 遠くでUFOの存在を確認しました』

と返事をした。

「なるほど、

 この怪獣はただの足止め要員か」

それを聞いたサイゴウは怪獣を見下ろしながらそう言うと、

「どうする?

 フロスに変身した方がいいか?」

と尋ねた。

『えぇ、そうしてくれれば』

サイゴウの問いにフロスはそう返すと、

「よしっ、

 隊長!
 
 オレが攻撃をします!」

と言うなりサイゴウはワニ怪獣へとファイターを向けた、

そして、怪獣に接近しながら、

腕を構えフロスに変身しようとしたとき、

ザバッ!

突如海中より巨大なサメが姿を見せると、

一気にファイターへと飛びかかった。

「なに?

 サメ怪獣?」

突然現れたサメ怪獣にサイゴウは困惑するが、

チュドカーン!

サメ怪獣の噛みつき攻撃にサイゴウ機は火を吹き上げると、

そのまま島の絶壁に激突した。

「サイゴウ!」

その光景に隊員達は一斉に声を上げるが、

カッ!

ジュワッ!

サイゴウ機が爆発した後、

ウルトラウーマンフロスがその銀色の身体と共に姿を見せると、

竹島の上に立ち上がった。

「フロス!」

「フロスか」

フロスの出現に期待の声が上がり、

そして、その期待に応えるようにフロスは崖をよじ登ってきたワニ怪獣に飛びかかった。

だが、

ドカッ!

ワニ怪獣の強靱な尻尾がフロスを直撃すると、

バシャーン!

たちまちフロスは海に落ち、

そして、海に落ちたフロスを今度はサメ怪獣が襲いかかってきた。

ジュワッ!

シャァァーッ!

海の中でのフロスとサメ怪獣との死闘が始まる。

「くそぉ!!

 フロスを支援したいが、

 海の中では狙いだ定まらない」

スカイファイターの中で、

照準器を起こしながらガクラが臍をかんでいると、

「ガクラさん

 ガクラさん」

無緯線でチシブキが話しかけてきた。

「なんだ?

 チシブキ」

その呼びかけにガクラは返事をすると、

「サイゴウさんが言っていましたよね、

 怪獣のバックには宇宙人が居るってこと、

 本部では把握出来ませんでしたが、

 僕たちが探し出してみましょう」

とチシブキは提案をした。

「探すってどうやって…

 地球中を飛び回るのか?」

一見途方もないその提案に、

ガクラは怪訝そうに返事をすると、

「ふふっ、

 こんな事もあろうかとナリタ博士が持たせてくれた

 究極の発明品があるんですよ」

とチシブキは告げた。

一方、

ジュワッ!

シャァァァ!!

海の中でサメ怪獣と死闘を繰り広げているフロスは

すっかり劣勢に立たされていた。

『くっ、

 こいつ、手強い…』

幾度かチャンスを突いて必殺技を仕掛けようとするものの、

サメ怪獣は巧みに逃げ、

また、島に上陸して上から攻撃をしようにも、

待ち構えるワニ怪獣によって思い通りの攻撃態勢が取れないでいた。

と、その時、

『聞こえる?

 フロス…』

と女の声がフロスの脳裏に響いた。

『この声は…』

聞き覚えのあるその声にフロスはハッとすると、

『うふふ…

 あたしの声、忘れてないみたいね』

と声は告げる。

『お前は…

 確か惑星刑務所に収監されているはず』

声に向かってフロスは怒鳴ると、

『うふふ、

 あそこは地獄だったわ、

 でも、それは昔の話。

 いまは自由の身よ』

と声は返事をする。

『自由の身ですってぇ?

 5つの惑星と20を越えるコロニーを破壊したテロリストの貴方の刑期は

 10000周期のはずよ、

 こんなに早く出られるわけ無いわ。

 まさか…脱獄をしたの?』

『だったらどうだというの?

 ふふっ、

 あたしね。

 あたしを捕まえた貴方に復讐をしたくてね、

 その一心で地獄から出てきたのよ、

 でも、その際にあたしの身体は深く傷つき、

 機械無しでは生きられなくなったわ、

 さぁ、見せて貰うかしら、

 あなたの死に様を』

フロスに向かって声はそう言うと、

シャァァ!

サメ怪獣は口を大きく開け、

フロスに向かってくる。



ギュィィン!!

東シナ海をチシブキとガクラを乗せたファイター2機は飛行してゆく、

程無くしてファイターの眼下に大きく傾き沈みかけたプラットホーム群が姿を見せてきた。

「ふんっ

 かつてのガス田の跡か…

 全く、どっちが中国のだ、

 どっちが日本のだと散々争った挙げ句、

 瞬く間に資源を吸い尽くし、

 大規模な海底陥没を起こした夢の跡か…

 愚かなことをしたものだ」

海水に洗われ、

朽ちていこうとする施設を見ながらガクラは吐き捨てると、

「ガクラさん!

 UFOの反応が…

 ナリタ博士の発明品、

 思念波レーダーで追跡をしてきた甲斐がありました」

とチシブキが声を上げた。

「どこだ?」

その声にガクラが聞き返すと、

「正面、0時の方向、

 国境線上に3機の掘削用プラットホームが寄り合っている所に

 電磁・光学迷彩を施したUFOが隠されています」

とモニターを見ながらチシブキは説明をした。

「よーしっ、

 どうせとっくの昔に廃棄されたガス田の施設だ、

 盛大にぶっ壊すぞ!」

目視でプラットホームを確認したガクラは怒鳴ると、

「了解!」

生き生きとしたチシブキの返事が返ってきた。



ジュワッ!

ピコンピコンピコン

カラータイマーの音が響く中、

フロスは戦い続けていた。

『くくく…

 エネルギーが尽きかけ、

 苦しいでしょう?

 うふっ

 あたしが貴方に受けた苦しみはこの程度じゃないわ』

そんなフロスに声は話しかける。

『ふんっ、

 何を言うの?

 あなたは自分のことだけしか考えなかったから、

 仲間から見捨てられたのよ、

 ギャラクシーポリスが貴方を逮捕できたのは、

 貴方の右腕だった男から告発なのよ』

声に向かってフロスは言い返した。

『なっ…

 ウソだ!

 彼奴があたしを裏切るはずがない』

その途端、声が狼狽えはじめると、

『仲間を最初に裏切ったのはあなたよ…

 判る?

 追いつめられた貴方は仲間達に自爆テロをするように差し向けようとした。

 自分だけは安全なところで高みの見物を決め込んで…

 そんなあなたの姿にその男は愛想を尽かせたのよ。

 言わば身から出たサビよ』

フロスは言い切ると、

『黙れ

 黙れ

 黙れ

 サメ怪獣、ワニ怪獣、

 フロスを八つ裂きにしなさい!』

声をそう命じるが、

『え?

 なに?

 どうしたの?』

突然声の周囲に何か異変が起きたのか、

声の注意はフロスから離れ、

フロスを狙っていた二匹の怪獣の動きが鈍る。

『いまだ

 ジュワっ』

瞬時にフロスは構えると、

ティエシウム光線を怪獣目がけて発射した。



ズズーン!

ゴォォォ!!!

プラットホームから次々と炎が吹き上がると、

メキメキメキ!

ギギギ…

かつて海底からガスを吸い上げ大陸へと送り込んでいた施設は

悲鳴を上げながら波間へと崩れ落ちていく。

そして、施設の崩壊が始まるのと同時に

フォォォン!!

楕円の銀色を放つ物体が空中に姿を見せると、

空高く上昇をはじめだした。

「チシブキ!

 彼奴を撃墜しろ!!」

それを見たガクラが声を張り上げると、

「おっしゃぁ!

 逝ったれぇぇぇ!!」

チシブキの怒鳴り声と共に、

シュパ!!!

シュパ!!!

シュパ!!!

シュパ!!!

チシブキ機より数十発を超すミサイルが一斉に放たれると

数十本の航跡を棚引かせながら、

一斉にUFOへと襲いかかった。

その次の瞬間。

銀色のUFOは炎に包まれ、

ストン!

っと降下しはじめた。

そして、消えゆこうとするプラットフォームに接触したとき、

カッ!

ゴワッ!!

周囲の海面が瞬時に蒸発し、

巨大なキノコ雲がゆっくりと持ち上がっていった。



「フロス、聞こえるか?」

関係者以外立ち入り禁止の竹島の展望台でサイゴウが話しかけると、

『えぇ…

 彼女、UFOと共に消えたそうね』

彼の中のフロスは返事をする。

「UFOのエネルギー炉の崩壊と、

 ガス田に残っていたガスに反応して、

 海底を吹き飛ばしたそうだ。

 まったく無茶をしやがって、

 海図を一から作り直しだって海保やら、

 向こうの大使館などからクレームが来たそうだよ」

とサイゴウは呟いた。

『ふふっ

 でも、今回は彼に助けられたわね』

「なぁ、相当な悪人だったのか?」

ふと、サイゴウはフロスに尋ねると、

『革命とか言って、仲間を集め、

 そして、仲間から見捨てられた哀れな人』

フロスは呟く。

「あいつ、本当に知らなかったのかな?

 仲間に売られたこと…」

『…それはどうかなぁ…』

「ふーん、

 そう言えばさっき、

 この島の砂浜に二人の女性が打ち上げられていたそうだ、

 命には別状は無いみたいだけど…」

とサイゴウは告げると、

『きっとあの女に利用されたのね』

この二人があの怪獣にされたことをフロスは指摘する。

「はぁ、

 地球でも宇宙でも思いこみは怖いか…」

サイゴウはそう呟くと再び海を見つめていた。



おわり