風祭文庫・ヒーロー変身の館






「ウルトラウーマン・フロス」
(第10話:お面ヒーロー)



原作・風祭玲

Vol.704





時は西暦20XX年、地球では怪獣や宇宙人の襲撃が多発し、

国連の外部機関たる地球防衛軍では対処しきれないと判断した人類は

専任の特殊科学戦隊TSFを結成し、迫り来る脅威に立ち向かっていた。



「ママ、行って来まーす」

「行って来まーす」

「はいはい

 いってらっしゃい」

発車しようとする通園バスの中より

手を思いっきり振る子供達に向かって

アヤコは小さく手を振ると、

ブゥゥゥ…

通園バスは水蒸気混じりの白い煙を上げながら

初冬の朝の景色の中へと消えて行った。



2人の子供を見送った後、

アヤコはその場にいた近所の主婦達に軽く挨拶をすると、

突っかけの音を響かせながら自宅へと向かって行く、

某IT企業に勤める夫・二宮シンジと共に建てた木像2階建ての我が家、

ローンの支払いはまだ始まったばかりだが、

でも、この我が家がアヤコにとって守るべき城であった。

「さてと…」

悪戯盛りの子供2人が散らかした部屋を横目に見ながら

アヤコは気合いを入れると、

夫と子供達が残していった朝食の後片付け始め出す。

そして、朝食の後片付けが終わると

一家4人分の洗濯物。

布団干し、

掃除と日々の家事をそつなくこなし、

アヤコが”それ”を見つけたのは子供部屋の掃除をしている時であった。

カタン!

コロコロ…

掃除機の柄が壁にぶつかった反動で、

棚の上から”お面”が転がり落ちると、

コロン!

アヤコの目の前で静に止まった。

「あら?」

それを見たアヤコは掃除機を止めて手に取ると、

キラッ☆

お面は日の光を受けて虹色に輝く。

「まったく…

 結局、こうなるのよね」

とすっかり埃を被ってしまった子供達の人気ヒーロー

ティエフマンRXのお面を見ながら呆れたように呟くと、

濡れ雑巾で拭き始めた。



その頃、

東京・九段、某鎮守の杜の地下にあるTSF日本支部では

「ゴウダ隊長!!

 ちょっと来てください」

モニター画面を見ていたオペレータが隊長・ゴウダを呼びつけた。

「どうした?」

その声に隊服姿のゴウダがオペレータの所に行くと、

シュンッ!!

オペレータの目の前に立体映像が浮かび上がり、

そこにリズミカルに動く棒グラフが表示される。

「これは?」

画面の棒グラフを見ながらゴウダが質問をすると、

「さきほど…

 そうですね、午前11時ぐらいからですか、

 TSFの環境監視センサーに反応するようになったのですが、

 丁度、太陽の方向から特殊なエネルギー波が送られて来ています」

とオペレータは報告をする。

「特殊なエネルギー波?」

オペレータのその言葉を復唱すると、

「はいっ、

 詳しくは解析中ですが、

 人為的な規則性は見られないので、

 おそらく自然現象かと思われますが、

 ただ、このような現象に関してTSFのデータベースに事例がない場合、

 宇宙人の攻撃や怪獣の出現に繋がるケース多いので

 念のため警戒した方が良いかと」

オペレータはそう言うとゴウダを見た。

「うむ、

 そうだな…

 一応、警戒態勢に移行しておくか、

 あぁ、悪いが首相官邸に連絡をして

 戦略自衛隊にも警戒態勢に当たって貰うように依頼をしれくれ」

ズズ−ッ

コーヒーを一口啜りながらゴウダはそう指示をすると、

「はいっ」

オペレータは返事をした。



「あらあら、

 なかなか落ちないわね」

ティエフマンRXのお面についた埃を落とそうとするものの、

すっかり積もってしまった埃は簡単に落ちるはずもなく、

アヤコは悪戦苦闘をする。

そして、その作業をしながら、

このお面を買ってきたときのことを思い出していた。

それは、昨年の夏…

夫と子供達とで出かけた祭の見物、

「ママ、買ってよぉ」

息子が夜店にかけてあったティエフマンRXのお面を指さし、

駄々をこね始めるが、

「ダメです」

そんな息子をアヤコは厳しく叱りつけた。

だが、

「うわぁぁぁん!!」

アヤコの声に息子が泣き出してしまうと、

「まぁまぁ、

 折角のお祭りじゃないか」

見かねた夫がそのお面を息子に買い与えてしまったのであった。

「まったく…

 本当に甘いんだから…もぅ」

そのことをアヤコは思い出すと、

さらに不機嫌になり、

「結局買ってあげても

 このようにすっぽられちゃうんじゃないのっ

 シンジさんとは一度ちゃんとお話をした方がいいわね」

と言いながらゴシゴシと当てつけるようにお面を拭き、

そして、ある程度きれいになったところで

子供達が寝ている二段ベッドの柱にお面の紐を引っかけ、

掃除を再開しようとした。

ところが、

ポロッ

柱に引っかけたはずのお面が外れて落ちてしまうと、

運悪く通りがかった掃除機のノズルがお面を吸い上げてしまい、

グシャッ!

その力でお面を割ってしまったのだ。

「あら、行けないっ」

それを見たアヤコは慌てて掃除機を止めるが、

既に後の祭り。

掃除機のノズルから落ちたお面は無惨な姿になってしまっていた。

「あららら」

割れてしまったお面を拾い上げ、

アヤコは真昼の日にかざしながら、

破損の度合いを調べ始めた。

と、その時、

ドクンッ!

日にかざしたお面が微かに鼓動したように見えた。

「え?」

それを見た途端、

アヤコは慌ててお面を放り出そうとしたが、

ピタッ!

どういう訳かお面の表側がアヤコの右手に張り付いてしまい、

幾ら手を振っても離れなくなってしまったのだ。

「やだ、

 一体どういう事?」

手に張り付いてしまったお面を怪訝そうに見ながら、

アヤコは左手でお面を引っ張ってみるが、

グッググググググ…

ピタッ!

お面は完全に掌に接着してしまい、

幾ら引っ張っても取れることはなかった。

「え?

 えぇ?
 
 なっなんで?」

手に張り付くお面を見ながらアヤコは困惑し、

そして、

カプッ!

お面の端に噛み付くと、

「うーーーーーーーん!!!」

全身の力を込めて引っ張った。

だが、当然引っ張っただけでは外れず、

それどころが、

「あっ」

カポッ!

つい勢い余ってお面を裏側がアヤコの顔に張り付てしまったのだ。

『うわわわ』

顔に付いたお面は上手い具合に、

目の穴、口の穴が、

アヤコの目と口の位置とぴたりと合い、

スポッ!

鼻の部分の凹みにアヤコの鼻が収まる。

と同時に、

ペロッ!

表側に張り付いていまっていた手が離れてしまうと、

アヤコはティエフマンRXのお面を顔に付けた状態になってしまった。

『やだぁ!!

 なんなのよっ』

お面を付けた状態でアヤコは声を上げ、

お面を取ろうとするが、

ヒタッ!

アヤコの顔に張り付いたお面はアヤコの力では取れることなく、

ミシッ

ミシミシ…

アヤコの顔にさらに密着してきた。

『そんなぁ、

 どっどうしよう…』

自分の顔と一体化してくるティエフマンRXのお面に

アヤコは戸惑いながら座り込んでしまうと、

グィッ

グィッ

グィッ

何度も

何度も

何度も、

お面を外そうと試みるが、

だが、お面はアヤコの顔と一体化してしまうと

決して外れることはなかった。

『うぅっ、

 困ったわ…』

お面の目の穴を通して見える時計の針をアヤコが気にしていると、

ムクリッ!

ヒュンッ…

まるで呼吸をするかのようにお面が大きく膨らみ、

そして萎んだ。

『ひっ!』

動くはずのないセルロイドのお面が独りでに動いたことに

アヤコは悲鳴を上げるが、

無論、そのお面を外すことなど出来るはずもなく、

アヤコは腰を抜かすだけだった。

『なっなに?

 いまの…

 間違いなくこのお面が動いたよね…』

恐る恐るお面を触りながらアヤコは困惑していると、

ジワッ…

フライパンに落とした油が熱せられて広がっていくように、

お面の端の部分がゆっくりと広がり始め

アヤコの耳や顎の下、

そして、後頭部を包んでいく、

『やっやだぁ!!

 お面が…

 誰かっ!!』

頭や顎へと広がっていくお面の感覚に、

アヤコは悲鳴を上げるものの、

その声に駆けつけてくる者の姿はなく、

シュワシュワシュワ…

メリメリメリメリ!!

キュゥゥゥッ!!!

アヤコの頭はお面に包み込まれて一体化してしまうと、

ティエフマンRXの無機質な頭部と化してしまった。

『なっなんで…』

スルリ…

セルロイドの肌触りがする自分の顔を幾度もなで回しながら

アヤコは原因を探すが、

だが、姿見に映る自分の顔は、

ツヤツヤした光沢を放つティエフマンRXの顔そのものだった。



『どっどうしよう…』

首から下は普段着の自分の姿、

だが、首から上はティエフマンRXと言う、

あまりにもアンバランスな自分を見つめながら、

アヤコは呆然としていると、

トロッ!

ジワジワジワジワ!!

自分の顔を覆い尽くしたお面が首から下へと広がり始めた。

『やっやっやっ、

 やめてぇぇぇぇ!!!』

首回りを覆い尽くし、

そして、衣服の中に潜り込んできたお面は、

さらに服の下を通り、

肩から背中へと広がっていく。

そして、次第にお面に包まれていく感覚にアヤコは、

両手を交差させながら押さえるが、

ミシミシミシ…

お面は容赦なくアヤコの上半身を包み込んで行き、

ついに腕を伝って左右の袖から姿を見せると

そのままアヤコの手を飲み込んでしまった。



だが、

『あぁぁ…

 あぁぁん』

侵入してくる異物がゆっくりと乳房を包んでいく感覚に

アヤコは夫・信士とのセックスで感じていた以上の快感を感じてしまうと、

シャァァァ…

つい小水を漏らしてしまった。

『あぁ、

 しちゃった…
 
 こんなところで漏らしちゃった…』

ティエフマンRXと化してしまった顔を上げながら

『…アヤコがイク時って、必ず漏らすな…』

と絶頂に達したときに漏らし癖があることを

夫から指摘されているのを思い出した途端、

アヤコの身体が急に熱くなって来た。

『はぁはぁ…

 はぁはぁ
 
 あっあなた…
 
 あたし…
 
 どうしたら…
 
 こっこんな姿になっちゃった…』

まだ肌色の肌を晒す股間を

セルロイドの肌に覆われた手でまさぐりながらアヤコはそう呟くと、

小水と粘液が溢れるクレパスをいじり始める。

『はぁはぁ

 はぁはぁ』

クチュクチュ

クチュクチュ

もはや家事なんかどうでも良くなっていた、

全て放り出し、服をも脱ぎ捨てたアヤコは

上半身はツヤツヤした肌を晒すティエフマンRX、

一方、下半身は主婦・アヤコの姿でオナニーを始めだした。

『あぁん

 んあぁ…』

無機質ながらも艶めかしく、

そして、ティエフマンRXの模様が入る自分の腕を見ながら、

アヤコは激しく股間を責め、

そして、

『あぁ…

 あたし…
 
 あたし…
 
 んくぅぁ…
 
 こんな姿に…』

アヤコは人間以外の者へと変身してゆく自分の身体に興奮し、

さらに腕を激しく動かした。

すると、

ジワジワジワ…

アヤコの胸を覆い尽くしたところで止まっていたお面の素材が

再び広がり始めると、

アヤコの腹、腰、ヒップを覆い、

さらに両足へと広がっていく。

キュッ

キュゥゥゥゥ…

ミシッ!

セルロイドの光に覆われて行きながらも、

『ああんっ

 あぁっ
 
 あぁんっ』

股間を弄り続けるアヤコはそのことには気づかず、

無抵抗のまま

ジュルジュルジュル…

キュッ

キュキュキュ!!

身体全体がお面に包み込まれ、

その中で、

『あひっ!!』

ついに絶頂に達してしまうと、

シャァァァァ…

盛大に小水を漏らしてしまったのであった。



『はぁはぁ

 はぁはぁ』

どこから見てもティエフマンRXになってしまったアヤコが

絶頂の後のまどろみに身を委ねていると、

ピンポーン!

っとドアの呼び鈴が鳴る。

『!!』

部屋に響き渡ったその音にアヤコは我に返ると、

慌てて飛び起きるが、

キラッ☆、

姿見に映し出された自分の姿を見るなり凍り付いてしまった。

『そっそんなぁ…

 あたし…
 
 こんな姿に…』

頭のてっぺんから足の先までティエフマンRXをなってしまった自分の姿に、

アヤコは愕然とし、

『どっどうしたら…

 子供達だってそろそろ帰ってくるのに…』

セルロイドの輝きを放つ自分の身体に立ちつくしてしまった。

だが、その間にも、

ピンポーン…

呼び鈴は幾度か鳴り響き、

程なくして止まってしまった。



『どっどうしよう…』

メキッ

ムリッ

ムキッ!!

お面に包まれただけでなく、

女性体型から厳つい男性体型へとシルエットが変わっていくのを見ながら、

アヤコは立ちつくしていると、

ウゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!

サイレンの音が外から響いた。



「パターン・青っ

 異星人のUFOを確認しました!」

レーダーに異星人のUFOと思われる機影が映し出されると、

「TSF出動!!!」

「はいっ!」

ゴウダの号令と共に、

たちまちTSFは出撃態勢に入り、

ギュィーーーン!!

全国各地に散らばる基地からファイターが飛び立っていった。

『追加情報です。

 午後2時50分、

 午前中から観測されていた謎のエネルギー波が

 UFOより照射されてことを確認。

 同、51分。

 TSFは国防省に対しUFOへの攻撃を要請。

 午後3時5分。

 百里基地所属F119、2機によるN2航空爆雷攻撃により、

 UFOは沈黙、

 現在エネルギー波の照射は停止しています』

飛び立ったファイターに対し、

TSFから矢継ぎ早に報告が寄せられると、

『あちゃぁ、

 美味しいところを戦自にさらわれたか』

とチシブキ機から残念がる声が響いた。

『馬鹿者っ

 気を緩めるなっ、

 あのエネルギー波の照射がどうしても気になる。

 何が起こるか判らない。
 
 いいか、用心をしながらUFOを撃破するんだ』

操縦桿を握るゴウダはそう気を引き締めると、

『了解っ』

飛行するファイターから一斉に返事が返ってきた。

が、その時、

『緊急警報、

 都内に怪獣出現。

 至急急行してください』

と無線が入ると、

フッ!

ファイターのコクピットのモニターに怪獣の位置と、

その怪獣の姿が映し出された。

『うわっ、

 なんじゃこりゃぁ?』

『おっおもちゃ?ですか…』

遠目に見ると茨の蔦を身体に絡ませ、

巨大な花を一輪咲かせる植物怪獣の様に見えるが

だが、ズームアップされた途端、

その安物の造花を思わせる姿であることに皆が驚きの声を上げた。

『そうか、

 エネルギー波はおもちゃのような人造物を怪獣化させる作用があるのか』

急ごしらえで付けられたモニターを見ながらゴウダは頷くと、

『サイゴウとチシブキは怪獣に当たれ、

 他はUFOだ』

と指示をするなり、

ファイターは2方向へと別れていった。



『怪獣かっ

 そう来なくっちゃ』

怪獣出現と聞き、

チシブキは俄然ハッスルし出すと、

『おいっ、

 無茶はするなっ
 
 お前はいつもそうやって突っ走って

 自爆しているだろうが』

とサイゴウは注意をするが、

『うらぁぁぁぁぁ』

時、既に遅く、

チシブキ機は眼下に見えてきたバラ怪獣へ向かって突撃をした後だった。

『あんのバカが…』

降下していくチシブキ機を見据えながらサイゴウは臍をかむが、

シュルシュルシュル…

その先には相手はバラ怪獣が、

トゲのようなモノがいっぱいついた鞭を振り回しながら威嚇をしていた。

だが、その程度のことで物怖じするチシブキではない。

『往生せいや!!』

の一声とともに、

シュパァァァッ!!!

チシブキ機から一斉にミサイルが放たれると、

チュドォォォン!!!

ズゴォォォォン!!!

たちまちバラ怪獣は炎に包まれていった。

だが、

フォン!!

奇妙な音が響くと、

シュワッ!

バラ怪獣は中高く舞い上がり、

「うわぁぁぁ!!」

ズシン!!!

そのままチシブキ機を押しつぶすかのように着地をした。

「チシブキ!!!」

その様子を見たサイゴウは声を上げ、

そして、即座に腕をクロスさせると、

『フロス!!!』

と声を張り上げた。



ウゥゥゥゥゥ!!!

響き渡るサイレンの音にアヤコは構わずに顔を出すと、

シャァァァァ!!!

近所の工事現場から巨大な怪獣が姿を見せた。

『きゃぁぁぁ!!!

 かっ怪獣!!!』

聳え立つ怪獣の姿にアヤコは腰を抜かすと、

アタフタと家の奥へと戻り、

『そんな…

 怪獣だなんて…』

と震えながら布団を被った。

「特殊災害救助法が発令されました。

 住民の方は至急に決められた避難場所へ避難をお願いいたします」

公共無線から地域住民へ避難を呼びかける放送が入り、

「避難してくださーい」

「避難してくださーい」

と警察官の声が響き渡る。

だが、

『どっどうしよう…

 避難て言っても、
 
 あたしこんな姿だし』

響き渡る避難指示の声に

ティエフマンRXの姿になってしまっていたアヤコは1人悩んでいた。

そしてしばらくして、

ズドドドドドン!!!!

強烈な爆発音が鳴り響くと、

ブワッ!!!

家の窓ガラスが弾け飛び、

爆風がアヤコの家の中を吹き抜ける。

ト同時に、

『きゃぁぁぁぁ!!!』

吹き荒れる爆風にアヤコが被っていた布団ははぎ取られてしまうが、

だが、アヤコの身体には傷一つつかず、

キラ☆

すっかり逞しくなっしまった身体を覆うセルロイドの輝きが

いっそう輝いていた。

『あたし…

 何も傷ついてない』

爆風が止んだ後、

アヤコは無傷の自分の身体に驚きながら立ち上がると、

引き寄せられるようにして

割れたガラスを踏みつけ表へと出る。

すると、

『シュワッ!!!!』

光の輝きの中から姿を見せたウルトラウーマン・フロスの

巨大な姿が目に飛び込んだ。

『フロス…』

聳え立つフロスの勇姿を見上げながらアヤコは呟くと、

『ヘァ!!』

フロスはすっかり伸びてしまっている

チシブキを近くのビルの屋上に下ろすと、

踵を返し、

相変わらず威嚇するバラ怪獣に向かって突撃していった。



ズシン!!

ズドォォン!!

アヤコの前でフロスとバラ怪獣の死闘が繰り広げられるが、

だが、当初楽勝と思えたバラ怪獣は意外と手強く、

なかなかフロスの決め技・ティエシウム光線を決めることが出来なかった。

『あぁ…

 そこっ
 
 だめっ
 
 違うっ』

苦戦するフロスの姿にアヤコは次第にもどかしさを感じ始めていると、

ググッ

ムクムクムク…

アヤコの身体の中に言いようもない力がわき始め、

その身体が膨れていくように少しづつ大きくなっていた。

その時、

シャッ!

バラ怪獣が放った茨の鞭がフロスの顔面を直撃してしまうと、

ドドドーーーーン!!

その勢いに弾かれたフロスが真横に吹っ飛んでしまい、

市民の憩いの森である七刻山へ激突してしまった。

『あぁ

 フロス!!』

それを見たアヤコはフロスの名を叫び、

キッ!

バラ怪獣を見据えながら、

『こらぁ

 あの山はみんなのものよっ

 なんてコトしてくれるのよっ!!』

と指さし、声を張り上げるが、

フォン…

バラ怪獣はアヤコの声を無視し、

ある方向へと向かい始めだした。

『あぁ…

 そっちは…』

それを見たアヤコはバラ怪獣が向かった先には

アヤコの子供達が通う幼稚園があることを思い出すと、

ムンッ!

『お待ちなさぁーーぃ!!!』

アヤコは全身の力を込め、

怪獣に向かって怒鳴った。

すると、

ムクムクムクムク!!!!!!!

その声に合わせてかアヤコの身体が大きくなりはじめると、

『え?

 あら?
 
 あっあぁぁぁぁ…
 
 そっそんなぁ』

ズズズズズズズズッ!!!!

『しゅわっちっ!!!!』

アヤコはセルロイドの輝きを放ちながら巨大なティエフマンRXとなって

姿を見せてしまった。

『ってえぇ?

 なにこれぇぇぇ』

瞬く間に小さくなってしまった街と、

そして、自分と同じサイズになってしまったバラ怪獣の姿にアヤコは困惑するが、

だが、

バラ怪獣の向こう側に幼稚園の建物を見つけると、

『むっ

 あんたなんかにぃ、

 させないわよぉ!!!』

と怒鳴りながら、

ズンズンズン!!!

バラ怪獣目がけて突撃していった。



フォン…

シャッ!

近づいてくるアヤコにバラ怪獣はフロスをはじき飛ばした

茨の鞭で攻撃をするが、

『なんのっ』

アヤコは自分に向けて放たれた鞭を鷲づかみにしてしまうと、

それをたぐり寄せ、

『でやぁぁぁぁぁぁ!!!!!』

一本背負いの要領でバラ怪獣を上空高くなげ飛ばす。

フォン!

フォン!

アヤコに投げ飛ばされたバラ怪獣は不気味な声を上げながら宙を舞い、

重力に引かれるまま落ちてゆくが、

『うりゃぁぁぁぁ!!!

 日々の生活と格闘している主婦の底力を

 思い知れぇぇぇぇ!!』

そう怒鳴りながらアヤコはダッシュで飛び出しすと、

落下してくるバラ怪獣の真下に飛び込み、

『でやぁぁ!!!』

思いっきり気合を放った。

すると、

ドンッ!

アヤコの周囲に球形状のエネルギーバリアが張り巡らされ、

そして、そのバリアの上にバラ怪獣がのしかかった。

『くわぁぁぁぁぁ!!!』

バラ怪獣をバリアで支えながらアヤコは声を張り上げるが、

シュゥゥゥゥゥン…

その身体から急速に力が抜けていき、

ズズッ

ズズズズッ!

巨大化したアヤコの身体が萎み始めた。

『あぁ…

 だめっ』

徐々に大きくなってくるバラ怪獣を見上げながらアヤコは困惑するが、

『ジュワッ!』

フラフラと立ち上がったフロスを見つけるや否や、

『フロス!!

 さっさと、コイツをやっつけてぇ!!!』

と声を張り上げた。

『シュワッ!』

その声が届いたのか、

フロスは腕をエックス字に重ね合わせると、

シュピーッ!!!

エックス字型の光線・ティエシウム光線が放たれ

その光線がバラ怪獣を貫くと、

カッ!!!

ドゴォォォォォォン!!!

閃光と共に木っ端微塵に吹き飛んでしまった。

ゴォォォォ…

バラ怪獣が消え去ったのち、

そこにはアヤコが変身したティエフマンRXの姿もなく、

ただ、

若干離れたところの民家の屋根の上で、

全裸状態の女性が倒れているのが警察によって発見された。



「また今回もフロスに助けられてしまいましたね」

包帯まみれのチシブキが不服そうに文句を言うと、

「文句を言うなっ

 大体、チシブキは見境なく突っ走りすぎるんだよ」

とサイゴウが注意をする。

「まぁ、とにかく怪獣も退治したし、

 UFOも撃退できた。
 
 とりあえず、めでたしめでたしだったな」

ゴウダはUFOと怪獣の両方を撃退したことに満足そうに頷いた。

「でも…」

その時フルカワが口を挟むと、

「あの、ティエフマンは一体何だったのでしょうか?」

と尋ねた。

「うむっ」

彼女の言葉に皆が考え込むと、

「バラ怪獣が倒されるのと同時に消えてしまったんだよなぁ」

とサイゴウは呟く。

すると、

「幻だった。

 と結論付けるには無理があるか…」

とゴウダは言うと、

「そう報告書に書きます?」

それを聞いたフルカワが怪訝そうに聞き返した。



「行って来まーす」

「ママ、行って来ます」

復旧工事が行われる街に子供の声が響く。

「いってらっしゃい」

そんな子供にアヤコはほほえみを浮かべながら送り出した後、

「はぁっ、

 今日も忙しくなるわね」

と肌色の手を見上げながら呟くと、

「でも、

 あの時はスッキリしたわ…
 
 また変身出来ないかしら…」

そう言いながら真新しい一枚のお面を取り出した。



「うふっ、

 今度はライダーよっ」



おわり