風祭文庫・ヒーロー変身の館






「ウルトラウーマン・フロス」
(第5話:ニセフロス現る)



原作・風祭玲

Vol.681





時は西暦20XX年、地球では怪獣や宇宙人の襲撃が多発し、

国連の外部機関たる地球防衛軍では対処しきれないと判断した人類は

専任の特殊科学戦隊TSFを結成し、迫り来る脅威に立ち向かっていた。



惑星・シャポー…

銀河辺境で輝く三重恒星系を周回するこの惑星は

三重恒星から降り注ぐ放射線など

生命体にとってとても過酷な環境であり、

そのためにギャラクシーポリスの監視も緩く、

いわゆるお尋ね者の巣窟と化していたのであった。

カチリ…

キンコンカーン!

正午の時報が鳴り響く中、

朝日と夕日を両側に受けながら1人の男が

銀河系の西側を営業エリアにもつ空間鉄道の駅前に立つ。

『ふむ…』

髪を7・3に分け、

鍛え上げた肉体を漆黒のスーツに押し込めた男は

長い顎をさすりながら荒廃した駅前広場を眺めたあと、

『こっちか…』

と呟くなり

ザッ

アタッシュケースを手にある方向へと歩いていった。



ダァン!

『どうするんだ!』

場末の居酒屋に男の怒鳴り声が響き渡る。

『どうすって言ってもなぁ…』

その声にビビリながらテーブルを囲む男達が顔を見合わせると、

『なんだっ

 てめーらっ
 
 それでも、この銀河を所狭しと暴れ回ったジャッドンの構成員かよっ!』

意気消沈気味のテーブルに、

最初に大声を張り上げたガタイの大きな男がハッパを掛けるが、

『でもよぉ、

 ギャラクシーポリスのガサ入れで、

 ジャッドンは壊滅。

 命からがらこのシャポーに逃げ込んだ仲間も

 ここにいる五人のみじゃぁ
 
 盛り上がりたくても盛り上がれないッスよ』

と男達の1人が愚痴に近い台詞を言う。

『だぁぁぁぁ!!

 例え五人といえども、

 ギャラクシーポリスに一泡吹かせてやろうとは思わないのか?

 フロスとか言うにっくき惑星刑事を懲らしめてやろうとは思わないのか?』

テーブルを何度も叩きいて大男は怒鳴り散らしたとき、

スッ!

いきなり男の目の前に一枚の名刺が差し出された。

『なんでぃ?

 これは』

その名刺を目で追いながら大男は視線を動かしていくと、

ニヤッ

その先にはあの顎長の7・3男が笑みを浮かべて立ち、

『わたしは黒蛇堂商事のものだが、

 君たちの話に一枚加わらせて貰えないかな?

 悪くはないと思うが』

アタッシュケースを店の照明に光らせ囁いた。



それから時がちょっとだけ流れ、

ここは銀河系オガサワラ群オガサワラ村大字太陽系三番地に浮かぶ

惑星・地球…

チャポン…

「ふぅ…」

歳は17、元気活発な女子高校生である三宅フブキは

湯船の中で大きくため息をついていた。

「困ったなぁ…」

鼻先までお湯に浸かり、

フブキは湯船の中で身体を丸め、

両足を抱きしめる。

「どぅしよう…」

深刻な表情をしながらフブキはそう呟くが、

のぼせてきたのか次第に顔が真っ赤になり、

「ぷはぁ!」

サバーン!

大きく息を息を吸い込みながら勢いよく立ち上がった。

と同時に

桜色に赤らんだフブキの肢体が大きく伸びるが、

だが、

キラッ!

そのフブキの小さく膨らんだ胸の膨らみの間で、

紫色を光らせながら半円球をした宝石のようなものが光輝く。

「うーっ

 一体これって何かな…」

まるで皮膚の下から突き上げてきたようなその物体を見下ろし、

フブキは呟くと、

グイッ!

と片手でそれを引っ張ってみるが、

だが、

ミシッ!

半円球の物体はフブキの肌と同化しているらしく、

引っ張った程度の力では外れることがなかった。

「はぁ…

 これって確か、

 流れ星を見た日から出てきたのよね…」

物体を幾度も引っ張りながらフブキは呟き、

そして、これが肌に現れた時のコトを思いだす。

それは、1週間前のことだった。

シューン!

シューン!

良く晴れた秋の夕方、

学校からの帰りにフブキは夕焼けの空を駆け抜けていく流星群に気がつくと、

「あっ流れ星…」

と呟きながら空を見上げる。

そして、

「そうだ…」

慌てて手を合わせると、

「どうか、今度の試合に勝てますように…

 それから、先輩とお付き合いできますように…」

と願い事を唱え始めるが、

パキィーーーン!

ひときわ大きく飛んできた流星から小さな固まりが分離すると、

真っ直ぐフブキに向かって飛んできたのであった。

シュルルルルル…

「え?

 え?

 えぇーーっ!!

 きゃぁぁぁぁ!!」

流星のカケラの接近にフブキは気づき、

慌てて逃げ出したものの、

しかし時遅く、

流星落下による爆発にフブキは巻き込まれ、

そのまま道脇の草むらの中へと放り出された。

そして、

「痛たたたた…」

打ち付けた腰をさするフブキの胸に、

この半球状の石が付いていたのであった。

「いったい、何なんだろう?」

風呂上がり、

居間に置かれている父親のパソコンを使って

フブキはネットなどを駆使して自分の胸に付いてしまった物体について調べるが、

だが、出てくる情報のほとんどが、

地球防衛に活躍するフロスのカラータイマー関するものばかり、

「まったく…

 なんであたしにカラータイマーが付いてなくっちゃならないのよっ」

怪獣と戦うフロスの写真を画面で見ながら、

フブキは文句を言うが、

「でも、

 最近フロスどうしちゃったんだろう…」
 
と、強い調子でフロスの行動を非難するゴシックが踊る、

テーブルの上に置かれている新聞の紙面を見る。

そう、ここ数日、

姿を見せるフロスはまるで宇宙怪獣のごとく、

街や工業地帯を破壊し続け、

それを止められないTSFに非難が集まっていたのであった。

『あっ…』

その時、

すぅ…

視界がフブキの急速に暗くなっていくと、

『また、あの時と同じだ…』

と記憶をなくす前に起きる症状がいま起きていることを思い出していた。



国家鎮守の杜の地下に居を構えるTSF日本支部では、

深刻そうな面持ちの隊員達が集まり会議が開かれていた。

無論、議題は最近報告されているフロスの奇行である。

「さて…

 君たちも知っていると思うが、

 フロスのことだ…

 最近宇宙怪獣が現れないことに苛立っているせいか知れないが、
 
 最近の行動には目に余るものがある」

隊長のゴウダが重そうに口を開くと、

「所詮は宇宙人でしたね、

 僕にはがっかりだなぁ」

頭の後ろに手を回しながらチシブキが早速発言をする。

「いや、そう決めつけるのは早い、

 フロスにも何か理由があるのかも知れない」

とチシブキの発言を否定するように、

副隊長のフルカワが口を挟んだ。

「副隊長は甘過ぎですよ、

 フロスは退治しなくてはならない宇宙人!
 
 それで良いじゃないんですか?」

ピストルを撃つ仕草をしながらチシブキはそう言うと、

「でも、だからといって、

 これまで一緒に戦ってきたフロスを攻撃する。
 
 というのか?」

とガクラが尋ねると、

「我々TSFの仕事は凶悪な宇宙怪獣や、

 悪辣な宇宙人からこの緑の地球を守ることですよぉ
 
 フロスが敵となれば戦うに決まっているでしょう?」

とチシブキはあっさりと言ってのける。

「チシブキっ

 いくら何でも、その発言は聞き捨てならないな」

それを聞いたガクラがチシブキに迫ると、

「僕が何か変なことを言いましたか?

 ガクラさんっ」

チシブキは物怖じせずにガクラをにらみ返す。

「なんだとぉ!」

「なんなら、ここでヤリますか?」

互いに胸ぐらをつかみ合いながら、

ガクラとチシブキがいがみ合いを始めたとき、

プシュッ!

閉じていたドアが開き、

「いよう!」

と軽いノリでサイゴウが部屋に入ってきた。

「サイゴウ!」

「あれ?

 サイゴウさん?」

入ってきたサイゴウの姿に皆が一斉に振り返ると、

「ん?

 なんだなんだ?」

雰囲気がまだ読めていなかったサイゴウは軽く首を傾けていた。



「えぇ?

 フロスが暴れている。ですってぇ!?」

説明を聞いたサイゴウが驚きの声を上げると、

「そうなのだよ、

 君が休暇を取って居る間に世間は大きく動いているのだよ」

と隊長・ゴウダはテーブルに肘をつけ、

顎の下で手の指を組む仕草で返事をした。

「そんな…

 フロスが単独でそんなこと出来るわけでしょう?

 大体俺がここにいるのに…」

なおも信じられない表情でサイゴウは呟くと、

「俺がって…サイゴウさん、

 サイゴウさんとフロスって何か関係があるのですか」

サイゴウの言葉を聞いたガクラが聞き返してきた。

「え?

 あっいや」

ガクラの指摘にサイゴウが慌てたとき、



フォンフォンフォン!

突然、サイレンが鳴り響くと、

「パターン・青。

 城西地区にフロスが出現しました。

 TSF緊急出動!

 繰り返します。

 TSF緊急出動」

とフロス出現とTSFの緊急出動を促す放送が流れた。

「えぇ!」

それを聞いたサイゴウは自分の手や足を見ながら呆気に取られるが、

「おいっ

 何をやって居るんだ」

そんなサイゴウを見たフルカワがその方を叩くと、

「あっはい…」

サイゴウは慌てて出撃に向かっていった。



さて、話は少し遡る。

ドサッ!

自宅で意識を失ったフブキは床の上に倒れたが、

だが、

ムクリ…

まるで操られるかのように起きあがると、

パァァァァ…

その胸に付いていた半球状の物体が青い光を放っていた。

トタッ

トタッ

胸の物体を光らせながら

フブキは閉じられている窓へと向っていくと

カラララ…

彼女の行く手を遮っていた窓は独りでに開く。

ヌッ!

開かれた窓からフブキは自宅の屋根の上に登ると、

サァ…

満月がフブキの身体を照らし出した。

すると、

ハラリ…

彼女の身体に撒かれたタオルがはだけ落ちると、

月の光にその裸体を晒す。

シャァァァ…

月の光を受けたためか、

さらに胸の物体が鋭い光を放つと、

ミシッ!

ミシミシミシ!!

フブキの肌の上に朱色の帯が走り、

肌も銀色に染まっていく。

ドクンッ!

『うっうぅぅぅぅぅ…

 ぐぐぅぅぅぅぅぅっ
 
 うわぁぁぁぁ!』

ムキムキムキ!!!

体中の筋肉を盛り上げながら、

フブキは唸り声を張り上げると、

ドクンッ

メリ!

ドクンッ!

メリ!

ドクンッ!

メリ!

身体全体が鼓動するかのように膨張し始め

グッグググググググ!!!

膨張に合わせて頭から髪の毛が消え、

また、顔そのものが無機質なものへと変化していった。

そして、

その直後、

グググググーーーーーーーーーンン!!!

『ジュワッ!!!!』

夜の街に銀の肌を持つ巨大な女戦士が姿を見せたのであった。



キィィィィン!!!

「あれか…」

遠路はるばるTSFのファイターが駆けつけたとき、

ズズーン!

ドゴォォン!

炎を上げる街の中で、

ゆっくりと動くものの姿があるのをサイゴウは見つけると、

グッ!

操縦桿を大きく倒した。

「おっおいっ

 サイゴウ、
 
 なに、降下して居るんだ。
 
 さっき、地上部隊からN2地雷を使うと通告があったぞ」

降下するサイゴウ機に向かってフルカワ機から警告が来るが、

「大丈夫です」

サイゴウはそう返事をしただけで、

さらに降下していった。

「確かに…

 フロスだが…」

背後から見た銀色の肌と、

その肌に浮かび上がる朱色の帯模様にサイゴウは

目の前を行く巨人がフロスである。と思うが、

「いや、

 俺が変身しないでフロスが存在するはずはない」

とその考えを否定すると、

「よしっ」

サイゴウは変身する覚悟を決め、

両腕をクロスしたサイゴウは

「フロス!」

と叫び声をあげた。

その途端、

パァァァァ!!!

サイゴウの体は光に包まれ、

その光はファイターをも覆い尽くしたとき、

シュワッ!

サイゴウ機が飛んでいたところにフロスが出現した。

「なに?

 フロスが2人だと?」

「一体どういう事だ?」

「あれぇぇぇ?」

街の中に現れた2人のフロスに皆が困惑するが、

ダンダンダン!

あとから現れたフロスがすかさず走ると、

ムンズッ!

前を行くもぅ1人のフロスの腕を掴み上げた。

だが、

ジュワッ!

もぅ1人のフロスは振り向くのと同時に、

腕を掴み上げるフロスを振り払おうとする。

「くっ

 一体どういう事になって居るんだ」

地上でN2地雷を仕掛けた戦略自衛隊は、

突然変わった状況に困惑の色を隠しきれず、

「もしもしっ」

市ヶ谷の統合司令部へ判断を仰いだ。

ところが、

「えぇ?

 使用許可が出ていない?

 ちょっと待ってください。

 N2地雷の使用命令書がこっちにありますが
 
 どういうことですか?」

と戦自に出された命令書についてのやりとりが始まった。

その間にも2人のフロスはN2地雷が仕掛けられてポイントへと近づいていく。



『くくくっ』

『そうだ、もっと進め』

『そこで、どっかーんだ!』

そのころ、東京上空数万メートルの宇宙空間には、

一隻のUFOが浮かんでいて、

地上から送られてくる映像を見ながら、

5人の宇宙人達がほくそ笑んでいた。

『しかし、あの顎長の男…

 信用するには危なっかしかったけど

 でも、大したヤツですね』

と画面を見ながら1人がそう言うと、

『あぁ…

 俺も悩んだが、
 
 ふんっ
 
 まぁ、ここまで出来れば上出来だ。
 
 くくっ
 
 もぅすぐ、あの忌々しいギャラクシーポリスが吹っ飛んでしまうんだからな』

と惑星・シャッポーの飲み屋で気炎を上げていた大男が大きく頷いた。

そんな中、

『でも、

 適当なヤツに変身ボールを無理矢理付けさせて
 
 そいつを偽物を仕立てて、
 
 本物をおびき寄せるだなんて、
 
 親分でも思いつきませんでしたね』

と1人が指摘すると、

『んだとぉ?

 俺があのインチキ臭いヤツに劣るって言うのか?』

機嫌を損ねた大男はその男の胸ぐらを掴み上げる。

『あぁいえっ

 こんな作戦、親分ならとっくに思いついていたのではと』

大男の剣幕に押されながらその男は言い訳すると、

『ったりめーだ、

 ただ、機材が無かっただけだ』

と大男はそう言うと、

掴み上げていた男を放り投げる。

『ふんっ

 黒蛇堂とか言ったが、

 信用できるかどうかまだ判らねぇーよ』

放り投げたあと、

大男はあの顎長の男から貰った名刺を二つ折りにすると、

ポイッ!

っと捨て去った。



ジュワッ!

(くっそう、どうすれば…

 このままだと爆死よ)

偽物のフロスの腕を掴んだまま話さないフロスは、

必死で偽物の動きを封じようとするが、

だが、

ズルズル

ズルズル

偽物は見えないロープで引っ張られているかの如く、

N2地雷が待ち受けている前へと進もうとしていた。

シュワッ!

(誰かにコントロールされているのかしら?)

偽物の動きからフロスは何者かに誘導されているのでは、

と察すると、

ジュワッ!

偽物に送られている思念波をたどり始めた。

そして、

シュワッ!

遙か上空で滞留しているUFOを見つけると、

ジュワッ!

(見つけた、

 あそこからコントロールしているわ!)

そのUFOがコントロールしているコトに気づくが、

カチッ!

その時、

偽物の足先がN2地雷に1次起動スイッチを踏み抜いてしまった。

シュワッ!

(行けない!!)

起爆まで20秒以内であることをサイゴウを通じて知っていたフロスは、

ドォォン!

腕を掴んでいた偽物を思いっきり突き飛ばしすと、

ドドッ!

地下に埋められていた地雷を瞬時に取り出し、

ジュワッ!

ブンッ!!

それを上空へと放り投げた。



『おっ親分っ

 何かが近づいて…』

モニター画面一杯に迫ってくるN2地雷の映像を見ながら、

男達が指摘すると、

『逃げるんだ!!!!』

つばを飛ばしながら大男が悲鳴を上げる。

刹那

カッ!

キュドォォォォォォォン!!!

『うわぁぁぁぁぁぁ!!!!』

強烈な閃光が東京上空で光り、

その直後、

巨大爆発が東京の空を大きく揺るがせる。

ズズンンンンン…

長くもそして短い時間が過ぎると、

さっきまで滞留していたUFOは姿を消し、

何事もなかったの様に満月が優しく天空から東京を照らしていた。

ピコンピコンピコン

カラータイマーを鳴らしながらフロスがゆっくりと立ち上がると、

「うっうんっ」

その手の中には人間の姿に戻ったフブキの姿があり、

フロスは彼女を地上に降ろすと、

ジュワッ!

夜空に向かって飛び去っていった。



『ふんっ

 惑星刑事と言うのもバカには出来ないみたいだな…』

フロスが飛び去った後、

とあるビルの屋上でビジネスコートをはためかせながら

あの顎長の男が感心しながら呟き、

そして、徐に腕時計を見ると、

『さぁて、

 そろそろ、ギャラクシーポリスが導入する機器の入札時間だな』

と言うなり、

フッ!

その姿をかき消した。



おわり