風祭文庫・ヒーロー変身の館






「ウルトラウーマン・フロス」
(前話:フロス着任)



原作・風祭玲

Vol.673





銀河第3シュルム歴2005周期

惑星・トーキョー

プワン!!!

タタンタタン

タタンタタン

銀河連邦第二位の経済力を誇る・惑星トーキョーはいつもと変わらない朝を迎え、

トーキョーとその周辺を結ぶ交通機関はいつもと同じように通勤客で溢れ始めていた。

特に発展著しい人工惑星・サイタマーケンとトーキョーとを結ぶ

東銀河旅客鉄道(GR東銀河)・サイキョー線はトーキョーへ向かう

様々な異星人やモンスター達で超満員となり

その車内は腕を動かすことですら困難と言う有様であった。



『やっやめてください』

トーキョーの周囲を走る環状線・ムサシノー線とのジャンクション

ムサシウラワを発車したばかりのシンキバ行き通勤快速の車内に

若い女性の声が静かに響く。

『けっ警察を呼びますよ』

顔を赤らめ、困惑した表情で彼女はそう警告するが、

サワサワ

サワサワ

彼女の腰を撫でる手は止まらなかった。

『もぅ』

なかなか止まらない手に彼女は身体を捩り、

立ち位置を動かそうとするが、

しかし、満員の乗客に阻まれ思うように移動することが出来なかった。

サワサワ

サワサワ

そうしている間にも手の動きはどんどんエスカレートし、

彼女の秘所にまで忍び寄ってきた。

『(ビクッ!)

 いっいい加減に…』

クレパスまで撫で始めたことに、

ついにキレた彼女がその手を掴もうとしたとき、

ギュッ!

『!!!っ』

彼女の手とは違う細い手がその腕を掴み上げる。

『いてぇ!』

満員の車内に男の声が響き渡と、

即座に、

『警察よ、

 痴漢行為の現行犯で逮捕するわ』

と黄色の目を輝かせながら、

フロス・タガー惑星刑事は警察手帳を見せた。



『にゃろっ!』

警察手帳を見せつけられた男は怯むどころか、

深く被った帽子から覗く口をゆがませると、

『だぁぁぁ!』

と声を張り上げ、

ブンッ!

太く伸びる尻尾を振り回し始めた。

『うわぁぁぁ!!』

『きゃぁぁ!!』

突然、男が暴れ始めたために車内の乗客達から悲鳴が上がり、

キキキキーッ!

その騒ぎで車両は通過駅である人工衛星・キタトダ駅で緊急停車をしてしまった。

『無駄な抵抗は止めなさい!』

暴れ続ける男をフロスは押さえつけようとするが、

ガシャーン!!

停車したのを確認した男は窓を突き破り、

ホームへと飛び出してゆく。

『待ちなさい!』

男の後を追ってフロスも飛び出すと、

『ドケドケドケドケ!!!』

そう叫びながらホームにいる乗客を押し倒し、

逃走する男の後を追いかけていった。

『止まれ!

 止まりなさい』

逃げる男に向かってフロスは命令するが、

『けっ止まれと言われて、誰がとまるかよっ』

男からそれに応じる返事は返ってこなかった。

『むっ無視ですかっ』

完璧にシカトされたことにフロスはワナワナと震え、

そして、

『仕方がありません

 午前7:45分、容疑者、警察官の制止を振り切り逃走…

 連邦刑法第1359条の規定により、

 ただ今よりフロス・タガーは能力戦へ移行いたします』

とフロスは呟くと、

タンッ

フロスはその場に立ち止まり、

スッ

銀色に輝く腕を伸ばすと、

胸の前で静かに十字にクロスさせた。

そして一瞬の間をおいて、

「ヘァッ」

っとかけ声をかけた途端。

シュビィ!!

クロスさせた腕より光り輝くX型の光線・ティエシウム光線が発射された。

シャァ!

ドォォォン!

『うげぇぇぇ!』

光線を背中からまともに受けた男は巨大な尻尾、

身体を覆う不気味な鱗を浮かび上がらせながら、

悲鳴と共に煙を噴き上げる。

『げぇぇぇ…

 おのれっ
 
 背中から撃つとは卑怯者めっ!
 
 コレでも喰らえ!!』

振り向いた男は怒り心頭に怒鳴り散らすと、

スゥゥゥ!!!

大きく息を吸い込み、

カッ!

ボワァァァァァァ!!!!

フロスに向けて火炎を吹きかけた。

だが、

シュワッ!!

間一髪、

火炎が届く直前、

フロスは高く飛び上がると、

『痴漢行為に器物損壊、さらに公務執行妨害で逮捕する』

と叫びながら、

光るリングを男に見せつけた後、

シャッ!

と投げつけるが、

『おっと…』

リングを投げつけられた男は素早く身体を反らすと、

カーン!!

リングはホームに当たり大きく弾かれてしまった。

『へへっ

 外れぇ!

 俺にもまだ運があるな…』

間一髪、リングから逃れた男はにやけながらそう呟くと、

タッタッタッ

一目散に逃げ出して行く。



一方、その頃、

サイキョー線の横を走るトーホグシンカン線の軌道上を一本の列車が接近していた。

アンドロメダ行き銀河超特急・Maxトキ・999号である。

そして、その車内には1人の黒服姿の女性と

彼女に連れられた1人の少年の姿があった。

少年「橋を渡っているよ」

女性「アラカワよ、ここを過ぎればもぅトーキョーからでるわ」

少年「機械の身体をただでくれる星かどんな星なんだろうね」

女性「うふふ、地上の楽園よ」

少年「地上の楽園?」

女性「そう、慈悲深い将軍様が治める地上の楽園、

   そこでは人々は皆平等で平和に暮らす所よ」

少年「そっかぁ…楽しみだなぁ…

   惑星ニイガタで船に乗り換えるんだよね」

女性「そう、真っ白い船が迎えに来ているわ、

   それに乗ればいいのよ」

少年「うわぁぁ…」

女性のその言葉に少年は目を輝かせていると、

ザザザザッ

突然、女性と少年の周囲に完全武装の公安部隊が押しかけ、

「お前が工作員である事は把握している。

 拉致の現行犯で逮捕する」

と声を上げた。



『おのれっ

 逃がすかっ!!!』

逃げていく男に向かってフロスはさらに出力を上げた光線を発射しようとしたとき、

カーン!

ホームに弾かれたあのリングが

折しもキタトダ駅に差し掛かっていた

銀河超特急・Maxトキ・999号の運転席に当たってしまうと、

バシッ!

その運転席のガラス一面にひびが入り、

突然の事態にMaxトキはキタトダ駅にて緊急停車をしてしまった。

そして、その直後、Maxトキの車内で発生した、

女性工作員と公安部隊との激しい銃撃戦については

あえて割愛させていただく。



さて、Maxトキを止めたリングだが、

シュウルルルル…

Maxトキから再度弾かれたリングは回転をしながら

フロスへと向かってくると、

カシャッ!

光線を発射するべくクロスさせていたフロスの両腕に

見事、填ってしまったのであった。

『しまったぁ』

自分の両腕を束縛するリングにフロスは悔しそうな声を上げると、

『へっへっへーっ

 自爆してやんのっ
 
 ばっかじゃなーか!」

と男はフロスを小馬鹿にし、

さらに、

これみようがしにブンブンと尻尾を振って見せる。

だが、

彼のその行為がフロスの逆鱗に触れてしまったのであった。



『ふっ、

 あぁそう…
 
 確かに無様ね。
 
 でも…
 
 そんな状況にあたしを持って行ったあなたの罪状は…
 
 とても許されないわ』

ギンッ!

黄色に輝く目をさらにいっそう光らせてフロスはそう言うと、

『だからってなにが出来るんだよ、

 間抜けな女刑事さん』

と男はなおも嗾ける。

その直後、

ビュオッ!

男の頬の横を高速でホームに設置してあったベンチが通り過ぎ、

ドオォォォン!

男の後ろにあった駅看板が大きな物音をたて弾きとんだ。

『へ?』

通り過ぎていった際に頬を切ったのか、

男の頬から血が一筋、静かに流れ落ちていったとき、

ベンチを蹴り上げたのか、

フロスは高く上に伸びる脚を下に下ろすと、

ゴゴゴゴゴゴ!!!

その身体から猛烈なオーラが吹き上がり、

ギギギギギギ…

その両手を束縛するリングが見る見る変形し始めだした。

『へ?

 へ?
 
 へへ?』

ゴワァァァ!!!

オーラを炎のように噴き上げ、

まさに鬼神の如く姿になったフロスの姿に男は腰を抜かし、

そして、

『にっ逃げなきゃぁ』

アタフタと逃げ始めるが、

バキーン!!!

リングが弾き飛ぶ音が響き渡ると、

ガラガガラガラ!!!!

天空から吸い寄せられるようにして無数の稲妻がフロスの身体へ突き刺さっていく、

『あわわわ…』

無数の雷を集めフロスの身体が白熱化したのと同時に、

ジュワァァァァァァァ!!!!!

その叫び声が響き渡ると、

キュン!!!

男に向かって一筋の細い光線が走った。

だが、またしても光線は男から外れる。

しかし、

カッ!

キュドォォォン!!!

光線は男の背後から迫り上がってきた軌道衛星に当たるや否や

それを木っ端微塵に吹き飛す。

『うげぇぇぇ!

 なんじゃこりゃぁ!!!』

あまりにも強烈なその威力に男は悲鳴を上げた。

だが、それはこれから始まる悲劇へのほんの序章にしか過ぎなかった。

キュン!

キュン!

キュン!

立て続けにフロスから同じ光線が発射されると、

『うわぁぁぁ、

 はっ
 
 ほっ
 
 ひっ』

光線から男は逃れようとして飛び跳ねるが、

しかし、その姿はまるで滑稽な踊りを踊っているように見えた。

『あははは、

 そーだ、
 
 そーだ、
 
 踊れ、
 
 お前はあたしのマリオネットなんだよ』

そんな男に向かってフロスは声を上げると、

『ひぃぃぃぃ!!!』

男は大汗を掻きながら踊り続けた。

そうしている間にも

キュドーン!

ゴゴーン!

ゴワッ!

ズドォォン!

人工衛星・キタトダ駅周辺で発生する爆発は次第に広がり、

『おいっ

 なんだあれは?』

『警察だ、警察を呼べ』

その爆発気づいた周辺住民からの110番、119番通報が相次ぎ始める。

『ひぃぃぃ!!

 私が悪かったです。

 早く逮捕してください!!』

ついに力尽きてしまった男は頭を庇い、

そして、尻尾に白旗を掲げて許しを請うものの、

『この程度で許して貰えると思ったら大間違いだよ』

フロスのその一言が男への死刑宣告となった。

『そらそらそらそら!!!』

ズドドドドドドド!!!

そのかけ声と共にフロスは

自分が放つ光線をマシンガンの如く撃ち始め、

『うぎゃぁぁぁぁ!!!』

標的となった男の周囲を容赦なく焼き払いはじめた。

だが…

フロスが放った1発が大きく外れると、

パキン!

人工衛星・キタトダの横に姿を見せた軌道エレベータに取り付けてあった、

惑星ネットワークのケーブルを射抜いてしまったのであった。

普段、万全の対策を施してあるはずの惑星ネットワークであるが、

たまたま、そこで行われた工事の際、作業員がシールドをするのを忘れてしまい、

ケーブルには約5mmの隙間が開いていたのであった。

そして、そのケーブルが射抜かれ、

さらにその衝撃によって傍にあった中継器の基盤が割れてしまうと、

バチバチバチ!

中継器は激しくショートを起こし、

そして、

ボムッ!

ついに煙を噴き上げ沈黙してしまった。

この程度の故障なら直ぐに予備系へと切り替わるのだが、

だが”たまたま”前日夜から予備系システムの定期保守点検が行われおり、

故障した中継器の部分でネットワークは事実上切断されてしまったのであった。

無論、惑星ネットワークは優秀である。

予備系へは切り替えられないのを受けて、

ネットワーク監視システムは即座に別ルートの計算を始めたのだが、

”たまたま”1時間前、太陽にて発生した巨大爆発による、

高エネルギーの大津波が惑星トーキョーを襲いつつあったのだ。

迫り来る大自然の驚異に惑星トーキョーの惑星管理サーバは最善の対策を立てるため、

全リソースを当ててシミュレーションを行い始める。

だが、その最中での新たなる負荷はサーバに過度の負荷を掛け、

そのためにオーバーフローを起こすサーバが続出、

そしてついには、

バシュゥゥゥン!!

惑星ネットワークを統べる3台のコンピュータが全てシャットダウンしてしまうと言う

未曾有の事態へと発展してしまったのであった。



惑星管理サーバの停止。

それは惑星トーキョー・全域へのエネルギー供給の停止を意味し、

さらには気候制御システムの停止、

生命維持管理システムの停止。

金融ネットワークの停止等々

惑星トーキョーにおける諸々のシステム停止がドミノ倒しで発生し、

程なくして惑星トーキョーは静かに制止したのであった。

そして、その直後、

高エネルギー津波が惑星トーキョーへと襲いかかった。



『よぉ、

 今回はまたスゴイ事をしでかしたな』

『あはは、

 今度はトーキョーを再起不能にしたんだって?』

『署長が自殺未遂をしたの知っているか?

 俺たちが必死になって取り押さえたんだよ』

多大な犠牲を払って逮捕した容疑者を連行して

警察署に戻ってきたフロスに同僚達から一斉に声を掛けてきた。

”システムトラブル!

 惑星トーキョー沈黙!!!”

”阿鼻叫喚の地上!

 緊急シェルターは避難民であふれかえる”

”原因は惑星ネットワークの中継器の破壊か?”

”中継器の故障現場付近で連邦捜査官が発砲?”

”中継器破壊は発砲した捜査官の流れ弾”

”問われる、連邦警察の管理体制”

『別にあたしのせいじゃないのに…』

各新聞にデカデカと書かれているトーキョーの惨事を横目で見ながら

フロスはそう呟くと、

『容疑者逮捕、おめでとう』

と言う声と共に同僚の女刑事である惑星刑事のイシュがフロスの肩を叩いた。

『え?

 あっいえっ
 
 ただの痴漢です。

 大したこと無です』

イシュの言葉に少しホッとした表情でフロスはそう答えるが、

『…ただの痴漢逮捕で一つの惑星を潰した捜査官ってフロスなのか』

『…トーキョーの混乱によって、全銀河がパニック状態だよ

 株暴落で首を吊ったヤツがゴロゴロいるそうだ』

周囲からそんな声がひそひそ話で響くと、

その途端、フロスの表情はどこか冴えなくなってしまった。

『どうしたの?

 カラータイマーの具合でも悪いの?』

銀色の肌に朱のラインを浮き上がらせながらイシュが具合を尋ねると、

『はぁ…』

責任を感じてかフロスは目を弱々しく光らせながら返事をした。

『いやぁ大したものだな…』

彼女がそう訴えた途端、

いきなりいきなり笑い声が響き渡ると、

ヌッ

フロスの前にそびえる壁の上辺から

アイスラッガーを輝かせる惑星刑事・ゼダンが顔を出し、

『痴漢逮捕で、マフィアも退治。

 くくっ

 トーキョーの傍にある、惑星シャンハイは

 宇宙マフィア・ジャッドンの根城でもあったからな、

 マフィア退治専門の第四課のヤツに聞いたら、

 トーキョーの混乱がシャンハイにも飛び火して、

 マフィア組織も大打撃になったそうだ。

 連中、隠してあったご自慢の巨大宇宙戦艦で逃げだそうとしたそうだが、

 その宇宙戦艦が離陸した途端、

 シャンハイの気象・地象コントロール装置の停止で発生した暴風に煽られ地面に激突、

 さらに同時に発生した巨大地震による地割れの中に飲み込まれたとか…

 いやはや、フロスは我々が出来ないことをやってのけるからスゴイよ』

と秘肉めいたことを言う。

『ちょっと、その言い方はないでしょう!

 フロスの活躍で結果的に、

 連邦公安部が手を出したくても出せなかった

 マフィアの大ボスとそれを取り囲む12人の最高幹部、

 さらに、その幹部を取り巻く最高意志決定会議の全メンバー

 1024人をあの宇宙戦艦と共に一気に始末したんだから、

 コレは大手柄でしょう』

『まぁなっ

 実質上、マフィア・ジャッドンの頭は消滅。

 残るはクズだらけ…

 ふっこれからの掃除が大変だよ』

とゼダンに向かってイシュはフロスの成果を強調した。

『イシュ…もぅいいよ、

 イシュの話を聞いているとなんだか、
 
 ドンドン落ち込んでいくような気がするから』

とフロスはイシュの腕を引きながら言ったところで、

『フロス・タガー・惑星刑事は帰ってきているかっ』

と刑事課長が入って来るなり声を上げると、

『あっはいっ』

その声にフロスは立ち上がり課長の下へと向かっていく、

『あぁ、フロス、

 無事で何よりだ、

 トーキョーだが、

 システムはほぼ普及し、徐々に落ち着きを取り戻しているそうだ』

フロスが前に立つのと同時に刑事課長は席に着き、

そして、机の上に腕つくと、トーキョーの状況を話した。

『そっそうですか』

その言葉にフロスは少し安堵をしながら返事をすると、

『さて』

刑事課長は目をひときわ光らせ、

そして、

パサッ

数枚に綴じられた決定書を取り出すと、

『フロス・タガー・惑星刑事っ

 惑星トーキョーで発生した惑星管理システムの障害の引き金だが

 容疑者逮捕の際、君が必要以上に乱射したものである。という結果となった。

 惑星管理システムのシャットダウン…
 
 これはその惑星で暮らす住民達にとっては死を意味することだ。
 
 判っているね』

『はぁ』

『本来なら、

 この事件により君を処罰するところなれど、

 だが、同時に宇宙マフィア・ジャッドンに壊滅に近い大打撃を与え、
 
 さらに、捜索の際にジャッドンの最高幹部メンバーと

 連邦議会幹事長との癒着を示す資料が見つかった。

 それにより様々なことが相殺され。
 
 フロス・タガー・惑星刑事。
 
 君をオガサワラにある太陽系駐在所勤務とする』

と刑事課長はフロスに告げ、辞令を差し出した。

『あっあのぅ…それって…

 左遷ですか?』

課長のその言葉にフロスは思わず聞き返すと、

『ん?』

刑事課長は無言でフロスを見上げた。



『オガサワラってさ、

 銀河自然遺産に登録された所だろう?』

『あぁ、立ち入りが厳しく規制されて、

 シリウスの惑星ハハジマから出る

 宇宙クジラを見るための観光船がたまに通るだけ、

 それ以外近づく宇宙船もほとんど無いという絶海の孤島かか…』

『こりゃぁ…』

『あぁ…間違いなく、

 厄介払いだな』

『うん…』

このときばかりは皆から同情の視線が一斉に投げられ、

そして、その視線を感じながら、

『判りました』

フロスはシュンとしながら辞令を受け取ると、

『フロス…』

そんあフロスを心配してイシュが駆け寄ってきた。



『うーなんで、こんな事になっちゃたんだろう

 あたしはただ痴漢を逮捕しただけなのに』

昼休み、フロスが落ち込んでいると、

『運が悪かったのよね』

とイシュが慰め、

『でも、オガサワラって

 この間、TVでやっていたけど、

 連邦政府の決定を無視して、

 境界線を入り込む連中が後を絶たないそうよ、

 フロスが派遣される駐在所のエリアには、

 連邦政府が保護監視をしている惑星文明もあると言うし、

 フロスにはピッタリだと思うのよ』

そう続けた。

『そうかな?』

『ふふっ、

 知っている?
 
 その惑星文明って…
 
 まだ、他惑星との交流が無い、

 極めて純粋な文明で、

 連邦大学の教授達も注意して見守っているそうよ、

 これって、チャンスじゃないかな?

 フロスがその惑星を見事、

 守って見せれば、

 復帰も近いと思うわよ』

相変わらず不安そうな表情をするフロスにイシュは励ますと、

『そっそうねっ

 あたし頑張ってみる』

目を輝かせてフロスは答えた。

『ふふっ

 それでこそ、フロス。
 
 頑張ってね』

フロスの言葉にイシュは嬉しそうに返事をすると、

『任しておいて!』

フロスはドン!と胸を叩いた。



それから受け入れ先の駐在所の整備が終わるまでの間、

転勤の手続きや、様々な手続きを行い。

そして、新しい配属先である

銀河系・オガサワラにある太陽系駐在所へ向けて

旅立っていったのであった。

フロス・タガー・惑星刑事、25周期での出発であった。



さて、太陽系駐在所に到着したフロスは早速、

惑星文明のある第三惑星へと向かっていったのだが、

しかし、

『ゲホゲホ!

 クションクション

 なによ、これぇ…
 
 大気汚染が酷いじゃない!』

惑星で進んでいる大気汚染に早速閉口し、

そして、

『もぅ、

 この姿ではとても居られないわ、
 
 えーと、この場合は、
 
 現住生物を取り付くのが一番。
 
 うーん、
 
 手頃のが…』

とフロスは第三惑星の環境に早く順応するために、

贄となる者を探し始める。

するとその時、

ギャース!!

地上を闊歩する巨大怪獣の姿が目に入った。

『あっあれは…怪獣ですね。

 いけないわ、
 
 あの怪獣に暴れられてはあたしの本庁復帰の夢が潰えてしまう。

『うーん、
 
 誰に取り憑こうかしら』

と思ったとき、

ギュォォォン!!

ギュォォォン!!

ドガン!!

フロスの目の前で二機のファイターが空中衝突を起こし、

火を噴きながら落下していくのが見えた。

そして、1人の若者が燃える機体から放り出されるのを見たとき。

『そうだ、

 彼にしよう』

フロスは目標を定めると、落ちてゆく若者へと向かって行った。



「フロス!!」

燃え上がる街をバックにして、

TSF隊員・サイゴウが叫び声を上げると、

パァァァァァ!!

サイゴウの身体が光に包まれ、

シュワァァァ!!

瞬く間に着ていたTSF配給のスーツが消え去り、

サイゴウは日本男子の逞しい裸体を晒す。

だが、彼が男子で居られるのはほんの一瞬で、

ムクッ

ムクムクムク!!!

トレーニングで鍛え上げた胸板が溶けるように萎んでいくと、

取って代わるようにふっくらとした乳房が左右の両胸に膨らみ、

またゴツゴツと盛り上がった腹筋や、

太い腕や脚から筋肉が消え失せ、

両肩も見る見る下がっていくと、

ジュルッ!

股間から男のシンボルが消え、

ウェストは細くなり、

そして、ヒップが膨れると共に

股間に女性のワレメが大きく盛り上がった。

こうして、サイゴウの肉体は女性へ変身するが、

だが、それは変身の第一段階であり、

続いて、一度消えた筋肉が再び盛り上がり始めるが、

だがそれは女性としてのスタイルを崩さずに筋肉が盛り上がっていて、

また、赤黒く日焼けした男の肌から

白い女性の肌になっていた肌は銀色に染まっていくと、

それと同時に朱色のラインが引かれていく。

そして、胸にプロテクターとカラータイマーが出現し、

さらに、

メリッ

メリメリメリ

髪の毛が全て抜けたサイゴウの頭も銀色に染まってしまうと、

サイゴウの目は黄色に輝く大きな目となり、

また、全体に無機質な顔つきへと変わっていった。

ミシミシミシ!

メリメリメリ!

地球人の男性から女性へ、

そして、女性から銀色の肌に朱のラインを引いた姿の宇宙人へとサイゴウは変身し、

身長も街襲う怪獣と同じ高さへとなっていった。

『へぁっ!』

ズシーン!!

変身を終えたサイゴウ、

いや、ウルトラウーマン・フロスは大きくジャンプをすると、

怪獣の前に立ちはだかった。

頑張れフロス。

地球の平和と君の栄転は全てこれからの活躍に掛かっているのだ。



おわり