風祭文庫・ヒーロー変身の館






「神託戦士イシュタル」
(第6話:イシュタル降臨)



作・風祭玲


Vol.536





「クレア!!」

「クレアっ

 何処にいるのっ」

天界・女神クレアの神殿に彼女の名前を呼ぶ声が響き渡る。

「おっかしぃわねぇ…

 確かこっちに居たはずなんだけど」

クレアの姿を探しながら

サラッ…

銀の衣装を軽く靡かせる女性の姿は女神クレアと瓜二つであり、

馴れていない者にとっては女性とクレアを一目で識別することは非常に困難であった。

しかし、ただ一つ違う点として、

胸に垂らしている飾り立てた髪の房が

クレアは左側で垂らしているのに対して、

彼女は右側に垂らしているのが唯一の違いであった。



「モーリアっ

 モーリアは居ないのぉ?」

なかなかクレアは見つからないことに苛立ちを隠しながら、

女性は執事モーリアの名を叫ぶが、

しかし、そのモーリアの姿も見えず、

クレアの神殿にはもぬけの殻と化していたのであった。

「全く…

 モーリアまで居ないだなんて、
 
 一体、どうなっているのかしら?

 もうすぐイズモ総会が始まるって言うのに」

無人の室内を眺めながら、

彼女はため息混じりにそう呟くと、

「ん?

 書き置き?」

部屋に置かれた丸テーブルの上に一枚の書き置きが置かれているコトに気づいた。

そして、その書き置きを拾い上げると、

”ちょっと、下界に行ってきます。

 時間までには帰ってきますので
 
 探さないでください。

 クレア”

と文面を読み上げた。

「ふーん、

 下界ねぇ…
 
 モーリアまで引き連れて、
 
 一体何を考えているのかしら…
 
 それに”探さないで”ってわざわざ書くなんて」

と呟きながら少し首をひねるが、

すぐに、

「ふふーん、

 あの子がこういうことをする時って
 
 必ず何か面い事を始めた時なのよねぇ」

そう言いながら彼女の顔がいたずらっぽく緩むと、

「そーいえば、

 わたしも久しくご無沙汰だったわね…
 
 下界に行ったのって」

と呟いた。

そして、

バッ!

女性は衣装を翻すとそのまま部屋から出て行くと、

ヒラリ…

女性の姿が消えたクレアの部屋には書き置きが一枚

静に舞い落ちていった。



「いらっしゃいませぇ」

「ありがとうございました」

周囲と部内者に一抹の不安を残して開店した柔道部の甘味所”柔”だったが、

しかし、隣の飛翔との相乗効果もあってか、

なかなかの客の入りで店の中はフル回転という

嬉しい悲鳴を上げていた。

「はひぃ…

 しっしんどい…」

望の態度にショックを受けた翼であったが、

しかし、そのような事情を周囲は配慮してくれるはずも無く

翼は注文を取りに出されていたのであった。

そして、その翼が厨房に戻ってくるなり、

つい椅子の上にぐったりとうなだれていると、

「なんだ、情けないなっ

 日ごろ、稽古に出てこないからだろうが」

そんな翼に向かって華麗な女装を施した部員からのキツイ一言が浴びされる。

その言葉に

「そんな…

 だっ大体…

 幽霊部員まで総動員するほうが…」

と翼は愚痴を言いかけるものの、

しかし、

ジロッ

「なにか言ったか?」

その場に居合わせたレギュラーメンバー一同が醸し出す圧力に

翼は慌てて口をつぐみ、

そして、

「いっいえっ

 あっ、そのおしるこ持っていきまーす」

の声を残して店内へと飛び出していった。

そのとき、

キラッ☆

ギュォォォォン…

『いけぇぇぇっ

 目標、敵戦艦っ!!

 トラトラトラよぉ!!』

大空に声を響き渡らせて女神クレアがインコ・ジャックと共に

眼下に見える校舎目掛けて急降下を開始していた。

『なぁ…やっぱりあの映画、

 クレア様に見せなければ良かったなぁ』

『仕方が無いだろう、

 映画を見たい。といって言う事を聞かなかったんだから』

『はぁ、こんなことになるなら、

 戦争映画じゃなくて
 
 恋愛物にでもすればよかったよ』

『今から言っても遅いわ!!』

クレアの後ろで響くスケ・カクの嘆きをも乗せ、

『ワレ、

 キシュウ

 セイコウセリ』

の声を張り上げながらジャックは校舎内へと突撃を敢行する。

そして、

バサバサバサ!!!

開け放たれていた窓より大きな羽音を立てながら突入すると、

「うわっ」

「なっなんだぁ?」

「鳥だぁ!!」

驚く人々の上をジャックは悠々と飛び越して行った。



「いっインコだぁ!!」

「大きいぞぉ」

「そっちいったぁ」

「この間のインコか?」

ジャックの来襲にたちまち校内は大騒ぎとなり、

廊下の天井を飛ぶ鳥をただ見つめる者、

網を持ち捕獲を試みる者、

逃げ惑う者とで半ば混乱状態へと陥ってしまった。

そして、彼らの頭の上を飛行するジャックの上では

『あはははは!!!

 見て見て、
 
 下界人どもがわたくしにひれ伏していますよ』

すっかり目的を忘れてしまったクレアが一人、悦に浸っていた。



「捕まえろっ」

「あっちに行ったぞ!!」

「なっなんだ?」

響き渡る怒号を聞き女装姿のまま翼が廊下に飛び出すと、

「おーぃ、

 そこの君っ

 そのインコを捕まえてくれ!!」

飛び出してきた翼に向かって教師が声をあげ、

廊下の天井を飛ぶインコを指差した。

「え?

 じゃっジャックぅ?」

自分に向かって飛んでくる鳥がジャックである事に翼が気がつくと、

そのジャックの上では

『あっ!!

 目標発見!!』

翼を指差してクレアが叫び、

そして、

『目標!!

 敵戦艦!!

 攻撃開始!!』

すぐさま号令を下した。

すると、

『はっ!!』

弓を構えたカクがジャックの上に姿を見せ

キリキリキリ

大きく弓を引き、

力を貯めきったところで

カシュッ!!

迫る翼の顔に向け矢を放つ。

シャッ!!

ジャックの背中より放たれた矢は一直線に翼へと突き進み、

キラッ

「え?

 うわっ!!!」

それが翼の目に飛び込んできたときには、

ピコンッ!!

「うわっ」

翼の額に直撃するのと同時にぺったりと張り付てしまった。

「なっなんだ?」

額に張り付く違和感を感じつつ翼は矢を引っ張り剥がすと、

それは先に吸盤がついた鏃であった。

「はぁ?」

あまりにもベタな展開に翼の目が思わず点になる。

そして、その隙に、

バサバサバサ

ジャックは一気に翼の上を一気に飛び越えようとしたが、

フワッ!

翼の身体が浮き上がると、

すばやく腕が動き、

飛行するジャックの身体を取り押さえてしまった。



「くれあさ〜ん、

 一体何をしているんですかぁ?」

”くわぁ〜”

『いやーん』

ジャックとクレアに迫りながら翼が着地すると、

「おぉ…

 すげー」

「飛んでいる鳥を素手で捕まえるとは」

「う〜む、

 やはり柔道部、恐るべし」

翼のその早業にたちまち周りには人垣が出来、

パチパチパチ!!!

一斉に拍手が沸き起こる。

「え?

 いやっ
 
 あっその」

沸き起こる拍手に翼が顔を赤くしているとき、

シャラン…

『ここね…

 クレアがいま居るところって』

鈴の音と共に校内に銀色のドレスをなびかせながら

あの女性が翼の学校内に姿を見せると、

ゆっくりと校内を歩き始めた。

「おっ

 すげー」

「外人か?」

「結構好みかも…」

模擬店が立ち並ぶ通りを歩く女性の姿に周囲の生徒達は皆一斉に振り返り、

そして、歩く女性に一斉に視線を送る。

『なっなに?

 この違和感は…
 
 下界ってこんな感じでしたっけ?』

一身に注目を浴びている事に女性は不快感を覚えたとき、

カシャッ!!

シャッターが響き渡る。

『ん?』

その音に女性が振り返ると、

「あっ

 やっ
 
 どっどうも…」

カメラを片手に諏訪梓は女性に向かって軽く会釈をする。

シュンッ!!

『それは…なんですか?』

梓が持つカメラに興味を持った女性は

まるで瞬間移動したかのように梓に近づくと、

興味深そうに彼女が持つカメラを見る。

「みっ見たか」

「いっいま…彼女、瞬間移動したよな」

「あっあぁ」

一瞬のうちに梓に迫った女性の姿に、

取り巻いていた男子達は一斉に引くが、

「え?

 あっあの、
 
 かっカメラですが…」

肝心の梓は女性に臆したのか

そう答えるだけで精一杯だった。

『ふぅぅん…

 これがカメラというものですか…
 
 以前、わたくしが見たものとはだいぶ形が違うみたいですね』

女性は興味津々にカメラを見た後、そう感想をいうと、

「あぁ…これは、デジカメって言って、
 
 こうすればこれまでに撮影した画像が見られるんですよ」

興味深そうにカメラを見る女性に向かって、

梓は一眼レフのデジタルカメラを操作してみせる。

すると、

パッ

パッ

パッ

デジカメの後部に据えられた液晶画面に梓が撮影した画像が次々と現れ、

『へぇぇぇ…』

女性は目を丸くしながらそれに見入った。

「(この人…

  デジカメしらないのかな?)」

自分が操作するデジカメに見入る女性を見ながら

カメラを操作する梓はそう思っていると、

パッ!

デジカメの液晶画面にモンスターと対峙するイシュタルの写真が映し出された。

『あっ』

それを見た途端、女性は梓からカメラをひったくると、

『クレアっ!』

と液晶画面を見つめながら声をあげた。

「え?」

女性の声に今度は梓が驚くと、

「ねぇ、あなた。

 この人、知っているの?」

と聞き返す。

『はいっ

 この大きく写っている女の子は知りませんが、
 
 でも、ここにわたしの妹・クレアがいますわ。
 
 ってことは、
 
 クレアははやりここにいるのですね』

女性はそういうとグルリと周囲を見渡し、

そして、

『クレアっ

 どこに居るの?』

と声を張り上げた。



パチパチパチ!!

「え?

 あっ
 
 いっいや
 
 その」

沸き起こる拍手に翼は気恥ずかしい思いをしながら、

会釈しまくっていると、

「いやー

 なかなかの人気者ぶりだね、

 新庄君っ」

との声と共にお下げ髪にセーラー服姿のゴツイ先輩達が翼を取り囲む、

「あっ
 
 ちょっちょっと失礼します」

取り囲まれた翼はそう言いながら大慌てで飛び出すと、

ジャックを抱きかかえたまま一気に屋上へと向かい、

そして、周囲に誰も居ない事を確認した後、

「クレアさんっ

 困ります」

と声を張り上げた。

ぽひゅんっ

『そのような事を言われましても…』

翼の怒鳴り声に後、

スケ・カクと共に姿を見せたミニサイズのクレアは少し不満そうな声を上げると、

「大体、

 あなたは邪悪なザ・ケルナー追われている身なんでしょう?

 それなのにこんなに飛び回っては
 
 みすみすザ・ケルナーに襲ってください。

 言っている様なものでしょう」

と翼は指摘する。

『え?

 あぁ、
 
 そっそんな設定でしたわね』

翼の指摘にクレアは焦りながらそう返事をすると、

「はぁ?」

それを聞いた翼の目が再び点になった。

『え?

 あっいやっ
 
 そーじゃなくて、
 
 うん、確かにそうですわ、

 気をつけなくてはね。
 
 おほほほほほほ』

思わず口が滑った事にクレアは慌てて繕うと、

『!!』

クレアの後ろで何かに気づいたカクがすかさずスケの方を見る。

『カク…』

『この感じ…』

『あぁ…

 間違いないっ
 
 天界の誰かがここに降臨したぞ』

額より一筋の汗を流しながらスケがそう呟くと、

降臨した人物の特定をするものの

『ダメだ、

 下界人の念によるノイズが強すぎて判らない。

 厄介な事にならなければいいが』

『あぁ…』

暢気にお弁当を食べているハチベエを他所に

スケとカクは迫る天界より降臨した人物の影に恐怖を感じていた。



「あっどこに」

銀の衣装を翻しながら歩き始めた女性に向かって梓が声をかけると、

『決まっています。

 妹を探しに行くのです』

と女性は返事をする。

「妹って…」

『この近くに居ます。

 まったく…
 
 面倒を掛けさせて』

女性はそう呟くと、

ジロッ!

ややキツイ視線を放ち周囲の気配を探り始めた。

しかし、

『うーーん、

 下界人が放つ雑音が大きすぎて読めないか』

と残念そうに言うと、再び歩き始めだした。

「あっちょっと、

 ねっ
 
 少し話を聞かせて」

歩いてゆく女性に梓はすかさず食い下がると、

「ねっねっ

 こっちの女の子だけど、
 
 水着の化け物のような物と戦ったのよっ
 
 これって、あなたの妹と関係があるの?」

と先日イシュタルと戦った水着モンスターのことを尋ねた。

『……

 恐らく…』

梓の質問に女性はそう返事をすると、

ピタッ

梓は立ち止まり、

「ねっ

 あなたって一体誰?
 
 人間ではないでしょう?」

と質問した。

その質問に

『そうねぇ…

 ’女神’

 あなた達は私たちをそう呼んでいますわ』

振り返らずに女性は返事をすると、

フワッ

一瞬の身体が浮かび上がり、

ヒタッ!!

梓の額に手を乗せ、

『でも、あなたがそれを知るにはちょっと早すぎたかな?』

つ囁くと、

パチンっ!

小さな音が響いた。

そして、

シャランッ

鈴の音を残して女性がその姿を消すと、

「うわっ」

「すげぇ!!」

「なっなんのトリック?」

「引田●功よりもすげーぞ」

まるでかき消すかのように消えた女性の姿に、

追いかけてきていた男子達からどよめきが上がり、

そして、女性の消失点にワラワラと集まる中、

「え?

 あっあれ?
 
 あたし…なにを…」

と慌てながら周囲を見回した。



ヒュォォォォッ…

シャラン…

校舎上空に姿を現した女性は腰掛けるポーズをしながら

眼下に望む校舎を見下ろすと、

『まったく…

 クレアったら

 どこに居るのかしら?』

と呟きつつ、ジッと校舎を見つめ、

その一つ一つからクレアの気配を探し始めた。

一方、クレアは上空より彼女の姉に当たる女性が見下ろしていることに気づかずに

『ふぅ…わかりました

 じゃぁ、わたくしは戻ったほうがよろしいみたいですね』

と言いながら翼が抱きしめるジャックに戻ろうとしたとき、

「さっきから一人で何を喋っているの?

 新庄君?」

と女性の声が響き渡った。

『あっ』

ぽひゅっ!

「え?」

思いがけないその声にクレア達は姿を消し、

また翼は慌てて振り返ると、

翼のスグ真後ろにウェイター姿の望が覗き込んでいたのであった。

「のっ

 …じゃなっかた…
 
 しっ東海林さんっ
 
 どっどうして?」

望の登場というまったく想定していない事態に翼は慌てて立ち上がると、

「ふーん、

 何かのパフォーマンスの練習?
 
 誰か、他に女の人の声もしていたけど、
 
 ふふっ
 
 君の彼女でも居るの?」

望は探るように尋ねながら

目で翼の周囲を探りはじめると、

「べっ別に…

 誰も居ませんが…」

”くわっ!!”

口をあけるジャックを抱きしめ翼はそう言い訳をする。

「ふーん、

 そうなの?

 ねっそれ、

 新庄君のインコ?

 この間も学校に来たよね、

 結構賢いんだ」

「え?

 あっ
 
 そっそうなんです。
 
 いっ悪戯が大好きで困っているんですよ」

望の質問に翼は緊張感からかジャックの羽毛を毟りながら返事をすると、

”あっあぁ!!”

羽毛を毟られるジャックは悲鳴を上げ、

ガブリ!!!

羽毛を毟る翼の手の甲を囓り始めた。

「こっこらっ」

手から血を流しながら翼はさらにジャックを押さえつけると、

「あらあら…

 そんなに押さえつけたらインコがかわいそうよ」

と望は笑いを堪える。

ぽひゅっ!

『どちら様で?』

翼の首筋、ちょうど望から見て影になるところに現れたクレアが翼に尋ねると、

「しっクレアっ

 東海林望さんだよ」

その声に翼は小声で目の前の女性が望である事をクレアに告げた。

すると、

キラーン☆

その言葉にクレアの目が光り、

『ふーん、

 この人が翼の想い人…
 
 新体操部の望さんか…

 ふふっ
 
 そういうことね
 
 じゃぁ』

と呟くと、

ジャックの羽の中で待機しているスケ・カクに向けて

『スケ・カクっ

 仕掛けますよ。
 
 支度をなさい』

とスケとカクに指示をだした。

『はっ』

クレアの命令にスケ・カクは慌ててジャックから飛び降り、

シュパ!

翼から離れたところへと瞬時に移動すると、

『えーと、

 今度の目標は何にするか?』

とモンスターをなるものの物色をし始めた。

『なぁスケ

 さっきの感じ…

 誰が降りてきたんだろう』

『さぁなぁ…

 出来ればあまり目立つ事はしたくないんだが、

 クレア様の命令となれば仕方あるまい』

物色をしながらスケとカクは降臨してきた人物について推測をしていると、

『あっ

 スケさん、
 
 カクさん、

 アレが良いですよっ
 
 なにかおいしそうな匂いがしますから…』

とハチベエが口をさしはさみ、

校庭で暖簾を揺らせている1軒のタコ焼きの屋台を指差した。

『あれかぁ…?』

『うーん、

 ちょっと、派手だけど
 
 まぁ仕方が無いか…』

『そうだなぁ…

 少し派手目な方がクレア様も喜ばれるし』

屋台を見下ろしながらスケとカクは狙いをタコ焼き屋台へと定めると、

互いに相手の手を取り、

ムンッ!!

気合を込め、全身の筋肉を盛り上げる。



「どうしたの?

 新庄君っ
 
 さっきから怖い顔をして」

「いっいやっ

 そっそのぅ…」

迫る望に翼は冷や汗をかきながら引き下がったとき、

ぽひゅんっ!

破裂音と共にいきなり望の前に彼女と等身大のクレアが姿を見せた。

「うわっ

 びっびっくりした!!
 
 おっ女の人?」

突然姿を見せたクレアの姿に望が驚くと、

「くっクレアさんっ」

翼も声を上げる。

すると、

『驚かせてしまって申し訳ありません。

 わたくしはクレアと申しまして、

 天上界の神々に名を連ねているものです』

そんな翼を余所にクレアは望に向かって事情の説明を始めだしてしまった。

「クレア?

 神々?」

クレアの説明に望は首をかしげると、

『あっ

 いきなりそう申しましてもに
 
 わかには信じられないと思いますが、
 
 はいっ
 
 わたくしは神として天界にて君臨している者です。
 
 でも、その天界を邪悪なザ・ケルナー達に追われ、
 
 私たちの間で語り継がれています伝説の勇者を探しに
 
 この人間界に降臨してきたのです』

とクレアは望に説明をする。



「へーぇ、

 で、この新庄がその伝説の勇者なのか?」

クレアから事情を聞いた望は感心しながら翼を見ると、

『はいっ』

クレアは笑みを浮かべる。

「しっかし、

 新庄がねぇ…」

そう言いながら関心と疑念の表情で望は翼を見ると、

「べっ別に東海林さんには関係ないですけど…」

と翼はそっぽを向くが、

しかし、その心の内はこれまでヒタ隠しにしてきた秘密が

望にバレ掛けている現実への不安と緊張でいっぱいになっていた。

そして、少しの沈黙の時間の後、

「判ったっ

 あまり深くは突っ込まないよっ
 
 新庄っ
 
 しっかりこの女神様を守ってあげな」

一通り話を聞いた望はそう結論づけると腰を上げ、

パンパンとお尻をはたきはじめる。

「そっそう?(ホッ)」

望がこれ以上深入りしないと宣言した事に翼は安堵するが、

その一方で

『(チッ!)』

クレアは同時に小さく舌打ちをした後、振り返ると、

ガーディアン・スケ・カクがいつもと同じ様にマーブルサンダーを放とうとしているの確認する。

そして、

『あっ!、

 勇者様っ

 来ますっ
 
 ザ・ケルナーです』

と青い空を指さし声をあげた。

「え?

 うっうそぉ!!!」

クレアのその声に翼は抱きしめていたジャックを放り出すと、

思わず頭を抱えてしまった。



『!!!っ

 見つけた!!』

校舎の上空よりクレアを探していた女性は屋上より放たれた気配を確実に捉えると、

即座に姿を消し、

シャラン!!

マーブルサンダーを放とうとするスケ・カクの前に姿を見せた。

『うわっ!!』

突然自分達の前に女性の姿にスケとカクは腰を抜かすと、

『見つけましたよ、

 スケさん
 
 カクさん』

と女性は嬉しそうに告げる。

『いっいっ』

『いっ、

 イシュタル様!!』

目の前に立つ女性が女神クレアとは双子の姉であるイシュタルである事に驚き

そしてその名を叫ぶと、

『ふふっ』

スケ・カクからイシュタルと呼ばれた女性は手で軽く髪を梳き、

『で、クレアはどこ?』

と妹の居場所を尋ねる。

『いっいつご降臨さなれたので』

『あっ

 くっクレア様なら

 あそこに…』

イシュタルの質問にスケ・カクは望の前で立ち尽くす翼を指差した。

『ふぅぅん、

 あの下界人と一緒に居るの?
 
(なんか冴えなさそうな男ね)』

指差された翼を見ながらイシュタルは翼を見ると、

『で、

 クレアはここで何をしているの?』

とクレアが人間界で行っている事を尋ねる。

『そっそれは…』

イシュタルの質問にスケとカクは声を詰まらせると、

ぽひゅん!

『それは、このわたくしがお答えしましょう』

の声と共に執事姿のモーリアが姿を見せた。

『モーリア…

 やはり、あなたもここに来ていましたか』

『ご挨拶が遅くなり申し訳ございません、

 イシュタル様

 お妹君のクレア様を下界にお誘いをしたのはこのわたくしです』

『あら、そうなの?

 またなんで?』

『はいっ

 我々神々のイズモ総会までのお時間の間、
 
 クレア様があまりにも退屈なされていたので

 気晴らしに、と思いまして』

『まぁ、

 でも、わたくしは資料作成などでてんてこ舞いでしたが…』

『それは、

 イシュタル様がクレア様よりも聡明でございますから
 
 皆の信頼も厚いですし』

『うふ、言ってくれるわね。

 要するにクレアはわたくしよりも劣っているということかしら』

『いえっ

 決して、そのような事は…
 
 ただ、イシュタル様よりかは少々’弱い’と言っているわけでして』

『うふふふふふ…』

『ははははは…』

緊張が支配する屋上にまた新たな火種が撒かれた一瞬であった。



つづく